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双星の守護者  作者: 天羽
第一章 勇者と共に!
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第三話 宵闇のオシゴト

 彼の護衛の仕事、それがあっても他の仕事が無いわけではない。シャドウナイツが組織で

 ある以上、当然通常の任務も発生する。

 晴れて勇者の仲間となったアベナルは、出立までの期間およそ一週間で、余らせていた仕事を始めた。リストを確認して、アベナルは頭を悩ませていた。

 『帝国への潜入』『シャドウナイツを嗅ぎ回る人間の抹殺』『大陸南部の魔族討伐』

 どれもこれも難関なものだ。1つ1つに時間がある程度かかってしまうし、何より各地を飛び回らなければいけない。

 宵闇であるアベナルにとって一切の問題は無かったが、一つ一つに気が抜けない。何より、帝国への潜入はあまり気が乗らない。アベナルは半眼でハアと大きくうなだれる。

 アベナルはリストの最後を見て、力なく肩を落とした。またかと、顔を引き攣らせて。

 最後の任務、これが一番意味不明で厄介だ。内容はいつも通りだが、一応アベナルは目を通す。読むに連れて表情が緩み、目を細めていった。

 大陸から絶品、物珍しい菓子を買って大陸北部のとある地域の入口とされる場所に納めろ。

 これが任務の内容だ。まず菓子というのも謎だ。大陸最高最悪の裏組織がお使いなど、周囲に知られたら笑いものだろう。

 しかもこれのせいでわざわざ各地をめぐらなければいけない。一週間〜一ヶ月で再度繰り返す癖に、被りは禁止なのだ。同じところでは買えない、シャドウナイツのメンバー達はこのお使いで、互いに牽制し合う事が良くある。同じのを持ってきたのだの、自身のを横取りしたなど問題ばかり起きる。

 正直面倒くさいし、メンバーからも不評だ。宵闇会議では、大体この任務について議題に上がる。ただどうしてなのか、アビスは強硬姿勢を見せて、拗ねた子供のように頑固なのだ。

 その所為でいつまでも大陸を巡らなければいけないし、仕事が確定で増えてしまう。

 この依頼している奴は随分と好みが激しく手当たり次第にものを買う奴だ。こちらの仕事を増やして、事情も知らずに何度も何度も依頼してくる。きっと金があるが外に出たくない、面倒臭がりの人物だろう。それか……

 しかもこれがさらに厄介なのは大陸北部のとある地域。納品場所についてだ。

 そこは『夜の都』と呼ばれアードラスと呼ばれる禁忌の魔族が支配する地域。

 その魔族は今代魔王でさえ迂闊に手を出せない化物。その一体は彼が支配して、誰一人も寄せ付けていない。

 禁域とされ、東の帝国や魔王軍、シャドウナイツでさえも手を出さない領域。

 毎回そんなところに行かされるので、緊迫してるのがほとんどだ。濃い魔力に、禁忌の魔族からの視線。なぜか襲っては来ないが、毎回強い視線を感じる。それも恐らく禁忌の魔族の。

 そんな任務だが面白い話がある。実はこの任務はアビスが受け取ってくるのだが、シャドウナイツ内ではそれが元にある噂が流れているのだ。

 その原因でこの任務の時のアビスの顔、それがまあまた多彩で。普段は冷静沈着、高嶺の花といったアビスが、あからさまにモジモジしてしどろもどろになっている。

 同じお菓子が欲しいと言ってくる時は、物凄く笑顔で恍惚としているし、二度と同じのはやめろという時は目も死んでいるし、雰囲気も暗い。

 シャドウナイツメンバーではアビス様って禁忌の魔族に恋してるなんてとんでもない予測がたつ程だ。この予測にアビスは毎回否定しているが、その様子も慌てふためいている。

 だが流石にそんな事はないだろうし、この噂も依頼者がアードラスの前提なのだ。禁忌の魔族が人間と恋仲で、菓子が好き。アビスに使いっ走りをさせているなんて、本当なら空いた口が塞がらない。

 そもそもアードラスではないだろうし、アビスが恋してるなんて驚きを超えてひっくり返る。こんな任務を禁忌の魔族が出していたら、イメージ崩壊なんてものじゃない。禁忌の魔族の名は返上させて、怠惰の魔族にでも、甘党の魔族とでも改名させるべきであろう。

 ただ私の推測では、意外にこの説はあると思ってる。というか、無いとも思っているが、これ以外の説が出てこないのだ。アビスの様子もそうだが、あの領域は禁忌の魔族だけのものなので、あそこに運ぶ以上依頼者は禁忌の魔族が妥当。

 そういえば、夜の都と宵闇とかシャドウナイツとか、どこか関連もあるし宵闇のトップは長らく不在。もしかしたら禁忌の魔族がNo.1なのかも、なんてアベナルは突飛に想像をするが、すぐに笑って無い無いと首を振る。

 

 

 与太話はほどほどに、任務だ。

 今、私は東の帝国に来ている。息を荒げて、アベナルは膝に手をつく。相当の時間、ここまで走ってきたのだ。

 大陸西南部から何キロあったことか。ほぼ大陸横断をさせられたと、悪態をつくアベナル。

 来るだけで一苦労、落ち着いた息を取り戻すと、アベナルは今回の任務に戻る。

 帝都、人の流れが止まらない都。上空から見れば、人の往来が良く分かる。アベナルは注意深く観察し、不審な動きやこちらを覗いているものがいないかを確認していた。

 都は魔道具によって常に明かりが保たれていて、商人の馬車が行きかい貴族の屋敷も多く並んでいる。

 魔王軍が存在する現在、これほどの栄華を極めているのは理由がある。

 単純明快、強いからだ。このソルダート帝国が魔王軍にも負けず劣らずのほど。

 大陸東部は帝国の領域である。帝国はその巨大な領土を魔王軍に囲まれているのにも関わらず、帝国はその繁栄を守ってきた。

 魔王という脅威が常に隣合わせでも、獅子身中の帝国、そんな風にも呼ばれる。

 それは軍事だけにならず。研究、商業、政治ありとあらゆるものが長けている。さらには、文化に種族にも寛容で、帝国では魔族すらも共生している。

 だが帝国は、シャドウナイツとは敵対関係にある。過去にシャドウナイツの関与を拒み、宵闇の一人を傷だらけにして追い返した。

 シャドウナイツと帝国はその件以来常に牽制をしあい、互いに犬猿の仲となっている。

 今回の任務は西南部での勇者の動きに対して、帝国がどう動くかの調査だった。魔王軍幹部の大魔族が死んだことで、帝国が動きを見せていた。要するに自分の尻拭い、アベナルは顔をひきつらせて不貞腐れながら、渋々この仕事を引き受けている。

 私が派手に暴れたことでこの仕事が回ってきたので仕方がないが、正直帝国の潜入は気が重い。

 理由は単純、帝国は表の軍事より裏の軍事が整っているからだ。シャドウナイツといえども、帝国では裏の戦場で幅を利かせる事は出来ない。

 帝国は密偵や他国の介入を許さない、見せしめに他国の諜報員を殺し、遺体を相手の城の中に放棄したりする。

 それは国民意識や伝統からくるもので、絶対の概念。帝国という国の性質なのだ。

 そして帝国は暗部に力を入れて、それを可能にしている。

 三つの暗部組織、それぞれが大魔族級やシャドウナイツ級が一人はいる。

 しかも表にいるとある三人の英雄が、裏にもいるということだ。彼らは宵闇と同格、それどころか圧倒できる者までいる。

 それはというと……

 潜入調査の中で城の廊下で隠れているアベナル。息を潜め、城の中を移動していたが、ふと動きを止めた。息を殺して、鼓動の音すら抑える。

 そこに一人の少女がやってきた。少女は笑みを浮かべて、何かを探しているのか周囲を見回している。

 幼く小さな少女。

 まだ未成年の幼気な幼女のような風貌。どこかの貴族の娘が城で迷ったのか、周囲をしきりに見回していた。

 それに私は顔をしかめる。奴だ、おそらく気づいている。アベナルは苦渋の表情で噛みしめる。

 こうなれば仕方がない、大人しく出るしか無いだろう。

 顔を隠して廊下に出る。少女の後ろにひっそりと立った。気配も無く背後に立ったアベナルを、少女は微笑みを浮かべて、ゆっくりと振り返った。

 隠れていた私を見抜いていたとばかりに驚きもせずに、ただ私を見つめている。

 彼女の名前はラブ・アンホープ。宵闇を追い返した帝国の英雄。

 帝国英雄でも最上位に君臨する『麗花三栄』の一人。宵闇No.4『飢渇の魔女』アイル・ロロを追い返したのは、他でも無い彼女だ。

 その幼女の様な振る舞いや発言から騙されるが、彼女は多くの宵闇と同じように古強者の一人だ。潜ってきた戦場は、私よりも遥かに多い。

 幾度か帝国との衝突で戦った事があるが、正直毎回驚かされている。強者という簡単な言葉で言い表してはいけない、それ程の実力者。

 少なくとも彼女に隠れ続けて攻撃されるよりも、大人しく出て交渉した方がマシと思わせる程には強い。

 というかやりたくない。

 この人ほんとに強いから。

(幼い見た目の少女は強い決まりでもあるのかしらね、アビスもそうだけど)

 多分宵闇でこの人ってか麗花三栄に勝てるのは私からだと思う。アベナルはそれをひしひしと感じていた。

 それはつまり実質アビスと私だけ。気軽に相手をしてはいけないのだ。

 相手をしても無傷では絶対無理、アベナルとて覚悟をしなければいけない。

 廊下に出てきた私に、満足したように快活な笑みを浮かべる彼女。ラブは微笑みから殺意を向けてアベナルを睨むが、すぐに元の表情に戻す。

 それにうんざりとしたように肩を落とす私だったが、彼女はアベナルを一瞥した後、廊下を歩き出した。

 黙って動かないアベナルに、ラブは手招きすると、ここではなく部屋まで案内する。

 防音結界まで貼ってある部屋、気を使ってくれたのだろう。


 「それで、『未知の新星』さんが来たってことは大事な案件なの?」


 未知の新星、それは私の称号だ。

 シャドウナイツ、それも宵闇には常に二つ名として称号がつく。


 「ええ、今回勇者のところで大魔族が死んだのは耳にしてるでしょ?」

 「うん知ってるよ!灼熱のローサスだっけ?勇者が殺したって聞いたけど、きな臭いなって思ってたよ」


 元気な子供のように話すラブだがその内心はどうやら。表情の裏に何が隠されているのか、少女の態度から読み取ることは出来ない。

 すで情報も持っているし、疑ってもいた。つまりだ、彼女はもうシャドウナイツが関連してると、察しているだろう。


 「その件だけど、こちらとしてはあまり深堀りしないで欲しいのよ」

 「へぇ?でもなぁ、勇者の援護の為にも周囲の調査はやらなくちゃ、それが人類の大国である帝国の務めだしね」


 いたずらめいた笑みを浮かべるラブ。常に笑みを貼り付けているが、瞳からは敵意と圧力を感じる。

 アベナルの出方を伺うようにその目を外さない。少女はじっと睨む。

 アベナルも困ったような表情をしている。どうしようかと、目を瞑って悩ましていた。

 人類として勇者を助けるために調査と言われれば何も言えない。

 でも調べられると困るのが本音だった。

 出された茶菓子を口にいれ、一気に茶を流し込む。この菓子、ほんのりと甘くモチモチした弾力がある。これは使えるな、後で買っておこうとアベナルは密かに決めた。

 カップを静かにおくと、ゆっくりと息を吐く。


 「何が欲しいの?」

 「え、まだ何も言ってないよ」


 白々しい態度、幼い見た目とは裏腹にイタズラどころか悪どい事を平気でするのがラブという女だ。

 笑っているラブは急かすこともなく、ただ私の出方を待っている。


 「いいから何が欲しいか教えて」

 「言えば何でも答えるのかな?そうだな〜そしたら君かな。帝国に引き込みたいな。そうだな、今皇帝の婚約者が決まってないのだけど、その席にどう?」


 ラブは途中までは意地の悪い顔で言っていたが言い終わる前にそれを喋るのをやめた。

 明確な殺意をアベナルが出しているのに気づいたからだ。


 「それならこの話は終わりよ、勇者の調査でも何でもすれば?」


 冷たい声。

 冬の吹雪よりも寒く、龍の睨みよりも恐ろしい声にラブも思わず身震いした。

 地雷を踏んだかと、ラブはその発言を悔いる。流石に引き込むのには無理があったか、ラブは額に手をおいて、顔を顰めた。


 「貴女を愚弄するようなことを言って悪かったわ。だからもう少し話を聞いてくれないかしら?」

 「何で?勝手にすれば?」


 あからさまに機嫌の悪いアベナル。

 フードを深く被って顔は分からないが、怒っているのだけは明白だった。

 今ここで言う通り勝手にしたらそれを口実に何をされるかたまったもんじゃない。

 ラブは何とか彼女の怒りを収めようする。


 「嘘だって、ね?絶対に貴女を皇帝に売ったりしないし、仕向けもしない。だからさ」

 「あっそ。で?そもそもそう仕向けられても私はシャドウナイツを抜けるだけ。それが例え政治的な出来事やシャドウナイツと帝国の契約でもね」


 何言っても怒りで返されるこの状況、ラブは頭を悩ませる。

 しくった、この子の地雷踏んじゃった。

 部屋から出ようとするアベナルの手を、ラブはその小さな手で掴んだ。

 潤んだ目でアベナルを覗く。

 子供の姿を活かして情に訴えたのだ。

 中身は数千歳の女がそれをやるのに呆れたのか根負けしたのか、アベナルは席についた。


 「こちらは勇者の調査をやめるわ、それで今回は引いてちょうだい」

 「それと追加で、今みたいな人の心情も考えない条件を出すのは今後一切やめて。シャドウナイツは勿論、勇者パーティーにも」

 「分かったわ、けどその代わり今日の件は無かった事にして。今回の件で私的に帝国を襲うのはやめてちょうだい」


 真剣な目でラブは話す。

 帝国にとって『未知』と『深淵』のアビスのどちらかが暴れまわるのは最悪のシナリオ。

 それの原因が少しでも取り除けるのなら安いものだった。

 約束がなされ、魔法による契約がなされる。

 それが終わると、アベナルは城から出ていった。

 そのまま帝都に入る。

 そして帝都でお菓子探しを始めるのだった。

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