第二話 やらかした後の査定
冒険者ギルドに攻め込んできた魔族の討伐。
その功によりアベナルは勇者パーティー入りが認められた。冒険者ギルドの中にいた人達が、アベナルを持ち上げ、流れるままに話が進んだのだ。
とはいえ、魔法使いからの疑念は晴れていない。むしろ、得体のしれない化け物と、アベナルへの警戒は上がり続ける一方だった。
魔族かもしれない、そんな警戒が別のところに移っただけだ。アベナルへの彼女の不満は、大きくなっていき、
ただ眇めた目で睨む。
人類では到底説明できないような実力。まさにそれを表したような、アベナルの実力に、魔法使いはより一層アベナルを見ていた。
実際に、アベナルの実力は東の帝国にいる『麗花三英』や大魔族でも上澄みの存在、歴代魔王と比べられるようにも思える実力。
現在の勇者達とて弱くはない。そんな彼らから見ても、異常な実力をアベナルは持っている。
勇者帯は上位魔族ならば三人で勝てるほど、大魔族でも相性次第ならば勝機はある。それ程の自負はあったのだが、魔法使いから見てアベナルは、勝てる気がまるでしなかった。
その後の調査で分かったことだが、あの魔族は下級魔族ではない。正体を偽っていた事が、死体の検分で分かった。
冒険者ギルド長に呼び出され、大事にはしないようにと私達にだけ伝えられた。その事実に、ギルド長は険しい表情をしていた。
驚くべき事に、この魔族の正体は、大魔族の一人『灼熱』のローサス。
魔王軍の幹部の一人であり、本体から派遣された干害のイフルの援軍であった。
彼女は一体、何者なのか?恐怖さえ覚えてきた魔法使いは、アベナルを監視することを決めるのだった。
■ ■
そんな状況とはつゆ知らず、アベナルは人気のないギルド近くの山にいた。
ギルドからは少し離れた、人があまり寄り付かない場所。生い茂る木々は、姿を隠すにはうってつけだ。
魔物もいなく、葉が揺れる音しか聞こえない。ただ静寂がその場を支配していた。
静かなそこで、アベナルはとある女と話をしている。うなだれ様子で、アベナルは女の話しを聞いていた。
一方の女は憤った顔を見せていた。アベナルに対して、赤い目で睨んでいる。
「あんた馬鹿なの?もう少し実力は隠しなさいよ、アビス様も怒ってたよ」
「だって!あの魔族が彼を殺そうとしたから、つい勢い余って」
「もう少し抑制しなさいよ!これで魔王側も異変に気づくわよ。倒される筈の無い大魔族が死んだんだから」
私に説教をしている女、彼女の名はアーライ・エーア。彼女は宵闇NO.6『破滅』の称号を持つ。
金色の髪に、明るい赤の瞳。怒っているが、どこか情愛を感じる彼女に、アベナルは許しを請うように見ていた。その怯えた目に、アーライは勢いを落としていく。
たやすいなと、密かにアベナルが微笑めば、アーライがにっこりと笑った。悪寒が奔るアベナルに、アーライの勢いは増していくのだった。
今回、シャドウナイツのメンバーで彼女が派遣されてきたのは十中八九私がやらかしたからだ。大魔族討伐、それが悪かったのだろう。
魔王軍も馬鹿じゃない。大魔族が即座に倒されたともなれば敵は警戒する。当然だ、幹部がやられたのに、何の対策も疑問も無い事は絶対に無い。
そして今代魔王には智謀に長けた参謀がいる。これが問題だった。その参謀は曲者、大陸の各地に網を張っている。情報の重要性を誰よりも理解している。
奴ならば必ずシャドウナイツを知っているし、今回の事に感づくだろう。
そうなると、これは勿論干害のイフルにも伝わる。
勇者の新たな仲間である私は疑われれるだろうな。この時期に入れば、私はどうしてもマークされてしまう。シャドウナイツとして活動している時は、フードを被り、口を布で覆っているのでアベナルの見た目を正確に分かることはない。だとしても、シャドウナイツだとは勘付かれるだろう。
大魔族討伐と同時期に現れた勇者の仲間なんて疑われる要素しかない。その事にアベナルは頭を掻きむしった。
これは少し対策を練らないといけない。警戒がされ、調査がされてしまえば、アベナルが宵闇という事がバレかねないのだ。
しばらくアーライからのお話は続いた。最初の方は説教が続いた。気だるげにしながら、膨れ面で怒るアーライにただ終わらないかなと待っていた。
(先輩は強いし、優しいんだけどたまに話が長いのが傷なんだよな。)
言う事を言って満足した先輩は帰っていった。解放されたアベナルは、唸り声を上げて、腕を伸ばす。
取り敢えず誤魔化しますか。アベナルは、どう誤魔化すかを考えながら、ギルドへと戻っていく。
■ ■ ■
ギルドの近くの宿に戻ったアベナルは、彼の仲間の魔法使い、フィーアにじっと見られていた。
値踏みするような目。じろじろと、フィーアの視線がアベナルにつきまとう。アベナルはうんざりとした様子で、ため息を吐いた。
正直苦手だ。フィーアに対するアベナルの感想は、それだけだった。
彼女は私をしばらく見続けた。そんな事まで見るのかと、思わず張り叫びそうになるくらい、執念深く。
復興の手伝いや、ケイルとの何気ない会話から独り言まで。
ちょっと私が怖じけるレベルだ。おかげで今日はずっと、顔をひきつらせている。
しかも彼女の目は鋭い。下手に動けば色々ばれるだろう故に、行動も起こせない。
なんやかんやでそれが夕方まで続いた。不快感に、アベナルはずっと余計な動きをして、気を紛らわせていた。
日が沈んで、辺りが暗くなってくると、もう彼女は見ていなくて、アベナルは安心して宿の自室に戻った。安堵したように息を吐く。
扉を開けると、ベッドの上に彼女がいた。フィーアが、さも自分の部屋かのように、堂々と椅子に腰掛けていた。
私は一瞬固まった後、すぐに部屋から出た。勢いよく扉を締めて、息を整える。自身を落ち着かせる為に、胸に手をおいた。
(なんでいるの、へ?あの人、どういう神経をしているの?)
驚いて、息が荒くなる。
そうしていると扉が開いて手が伸びてきた。手は扉の前を探るように動かす。
反応が遅れた、その手に掴まれ私は部屋に連れ込まれるのだった。
(いや、助けてよー。 絶対やばいって、あの子ほんとに。)
彼女に部屋の椅子に座らせられると、ベッドに座った彼女。
赤い瞳は私を射抜くように覗き込んだ。アベナルは、肩を震わせて、チラリと彼女を見る。
「何も取って食おうってわけじゃないわよ」
「え、違うの?鬼婆じゃないの?」
沸々と込み上げる怒りに肩を震わせながらフィーアは握る拳を下ろす。鈍い音が響いて、アベナルが堪えるような顔で、頭を抑えた。
「本当失礼な女ね。折角仲間として認めようと思ったのに」
「え、本当!」
私は口を小さく開ける。意外とばかりに。
正直、認められるとは思っていなかった。一番疑り深く、私を睨んでいたのは彼女だったから。
彼女は絶対反対すると思っていたのに。これは思いも寄らない収穫だ。
心のなかでガッツポーズが出ている。アベナルの表情が、口角が上がり緩んだ。
フィーアはあからさまに喜んでいる私を見てどこか拍子の抜けたような呆れた顔をする。
そんな顔から一転、フィーアの顔が真剣なものになった。
私を射抜くような目。威圧も少し混じった、その鋭い視線はアベナルを包み込む。
並の人間なら怖気づくだろう。だが私はその目を受け止める。
「さて、それで一体貴女は何者かしら?今日一日見ていて、悪い子では無いのは分かったわ。けれど疑いはまだ晴れない。命を預ける仲間に疑念があったら困るわ」
それは私を試す言葉。
フィーアは私の出方を見ているという事だ。
フィーアはどうせ仲間に入れるしかないと思った。ケイルの幼馴染で実力も申し分無いなら断る理由が薄いから。
ならば早い段階で引き入れて、その秘密を知って信頼関係を築く魂胆だろう。そう考えたフィーアはアベナルを試すように覗いた。
「貴女は何者?アベナルさん」
ただのケイルの幼馴染、そう押し通すのは簡単だろう。
けど、それはずっと彼女に疑いをもたせることになる。それは今後の任務でも都合が悪い。
素性の知れない少女。それが今の私だ。
全く過去も情報も無いのに背中を預けるのは無理、彼女の言う通りだ。仲間にするとフィーアは妥協はしたが、受け入れる条件がこれだろう。
彼女は妥協したとはいえ、私を仲間と認めてくれた。
懸念があっても仕方がないとして。
なら私も妥協すべきだろうな。こればかりは仕方ない。それに、シャドウナイツに関しては、勇者パーティーなら知っている筈だ。
いい仲間をもってるな彼は。ゆっくりと息を吸い、アベナルは彼女を見る。
「シャドウナイツ、この名を知ってる?」
間違いなく知っているはずだ。確信があった。
勇者は旅立ちの際、出立の国の王に謁見する。
シャドウナイツは各国への牽制として、各国の王にのみ存在を明かしている。
あまり勝手な行動をすると消すという意味と、大陸で動きやすくするため。
東の大帝国のみは連携していないが、シャドウナイツは情報の秘匿と自由に国を行き来する代わりに各国の依頼をある程度受け付けている。
そしてシャドウナイツの存在は王から勇者たちに伝えられるのだ。
勇者の援護に入ったシャドウナイツが余計疑念や問題を起こさない為に。
「大陸を牛耳る裏組織、知っているわ。王からも聞いたし、こちらでも調べた。貴女がそれなの?」
「ええ、私はシャドウナイツよ」
フィーアはそれを聞いても落ち着いている。
冷静に振る舞っていた。特に動揺も無く、平然とフィーアは振る舞う。
「ちなみにどの立ち位置なの?噂でしか聞かない宵闇?」
私は目を見開く。アベナルの表情が、一番変化した事に、フィーアは悪戯に微笑んだ。
宵闇を知っているなんて。その事は少なからずアベナルに衝撃を与えた。
秘匿中の秘匿の情報のはずなんだが。
少し慌てている私を彼女はたしなめる。
「落ち着きなさい、別に言いふらすつもりもないわよ。消されたくないし」
最後の言葉、それは正しい。
もし彼女が宵闇やシャドウナイツについて言いふらせば本体から暗殺者が派遣されるだろう。
それは彼女だけで無く、周りの人、つまり勇者にまで波及する。
そうなれば私は彼につくので、アビスが来るだろう。私を倒す為にだ。
流石の私もアビスは分が悪い。
勝てないとは言わないが、彼女には負けている部分が多くある。
さらに言えば恩もあるし、宵闇全軍は絶対無理。
本当アイツラ強すぎるんだから。
さっき来たアーライちゃん、彼女は序列は6位と低めだけれどそれでも今代以外の魔王は彼女の相手にもならない。
歴史上の大陸で強さのランク付けをするならば宵闇のメンバーは確実に最上位しかいない。
正直彼女が宵闇について話回ったらケイルだけ連れて逃げなければいけなかったので有り難いことだ。
この際なんで知っているかは深堀りするのはやめておこう。余計な仕事を増やすのは面倒なのだ。勝手に心のなかでアベナルは納得する。
アビスからは情報の漏れたルートを探るために聞き出せと言われるだろうが知ったことではない。
「宵闇NO.3よ。NO.1と2は指揮やまとめ役でもあるから実質実働員ではトップね」
フィーアは呆れた顔でそれを聞いていた。
アベナルの方はなぜそんな反応なのか、頬を膨らせている。
「組織の詳細な情報を軽々しくしゃべっていいの?」
「あ」
気の抜けたその声にフィーアはがっくりとうなだれた。
強いは強いんだが、絶妙に何か足りてない。冷ややかに、乾いた笑いをフィーアは浮かべていた。
ケイルもそうで、普段から見慣れている分フィーアは慣れた対応だがそれでも間抜けを見る目をしていたのだ。
アベナルは赤らめた顔で必死になっている。
幼馴染というのもなんとなく分かった。こいつもケイルも、フィーアは似た者同士だなと呆れて息を吐く。
「まあいいわよ。仲間として認めてあげる。他の二人には上手いこと濁して伝えておくわ。特にケイルには。私も乙女だからね、好きな人に自分が化物って知られるのは嫌でしょ?」
「さっすがフィーアちゃん、分かってる〜」
大魔族を瞬殺してまだ実力を隠せてると思ってる思考回路には驚きつつも、そこに突っ込むのはもう諦めていた。
フィーアはひとまずアベナルを仲間と認めたのだった。




