第一話 幼馴染再会
大陸西南部で最も中央部に近い街、そこの冒険者ギルドに私はいた。ギルド内に置いてあるベンチに黒髪のモノクルをかけた少女、アベナルは黙って座っていた。
今このギルドは多くの人がいる。アベナルは周りを観察しながら、今か今かと待ち切れないとばかりに、指で太ももを叩いていた。
名うての冒険者や、夢見る駆け出し冒険者。今アベナルから見えるのはそれだけ。誰もがアベナルの待つ人とは違うので、立ち上がっては座り、周りを何度も見ていた。
落ち着きのないようにしていても、アベナルは周囲の人物への観察も怠っていなかった。どこか後ろめたい様子の男、腰を曲げてゆっくり歩く老年の魔法使いに、目を輝かせている若い冒険者たち。アベナルは彼らをしっかりと見ていて、定期的に首を振っていた。
今ここに多くの冒険者がいるのは、勇者パーティーが来るとの情報からだ。多くの冒険者は、勇者のお眼鏡にかなうのを望んでいる。一応アベナルもその一人であり、彼女は騒がしい他とは違い、至って冷静に、足を組んで座っていた。
アベナルはケイルの仲間になるため、ここにいる。アベナルは鏡を取り出して、ケイルが来たら良く見られるように、髪の毛を整えていた。
お茶を飲みながら、ギルドにいる冒険者達を再度見る。ティーカップで口を隠して、目を細めると、アベナルは瞳を左右に動かす。
周りには人がいないのでよく観察しやすかった。誰にも気づかれないまま、アベナルは他の冒険者の観察を終え、ゆっくりとティーカップを置いた。
アベナルが観察を終えて、首を倒しながら、座っていると、入口付近にいる人達が騒がしくなった。
その影響はどんどん内部に広まっていき、ギルド中の空気が変わる。アベナルは首を曲げて、そちらに視線を向けた。
首を上げて見えたのは三人。
赤い髪の魔法使いに、黒髪の聖職者、そしてやはり一番目立つのは金髪の青年。
笑顔で周囲に手を振りながら、優雅な立ち振舞をしている。その姿は、幼い頃のまるで、まるで、彼のようだ。
アベナルの手が一瞬止まった。驚きで立ち尽くしていたアベナルは、すぐに平静に表情を保った。
こんな近くにいるなんて。アベナルは、唇を優しく噛んで、恥ずかしそうにした。冷静に、激しく鳴るをアベナルは抑制しようとする。
すぐに抱きつきそうになるのを必死にこらえ、息をゆっくりと吐いた。
どうせ久しぶりの再開なら驚かせてやろう。そんな風にアベナルは考える。顎と唇に指を当てて、アベナルは思案した。
彼がここにしばらくいて、馴染んできた頃に私が行くんだ。頭の中で、様々な計画を並べていって、アベナルはどれがいいか、頭皮を優しく掻きながら悩んでいた。
今は変装しているから、バレることは無い。
きたる時に姿を見せて、泣いて喜ばせてやる。
そう思っていたら、何やら周りの視線がこちらに向いている。
不思議に思っていると、ゆっくりと足音が近づいてきた。
入口から、彼が目を見開いてそしてこちらに歩いてきていた。
そして私の前まで来る。
「あ、何かしら」
心臓の鼓動が直接聞こえてくる。
すごい音がなって、体が熱くて。
彼は私を見ると口を開いて。
「アベナル?」
その時に、アベナルの頭の中は真っ白になって、呆然と立ち尽くした。今の状況を理解した私は、正気に戻って、目をハッと見開いた。
そして私はすぐに変装を解いて、周りの目も気にせずに抱きついた。
彼も、涙をながしながらも優しく抱きしめてくれた。
彼の手はとても優しくて、それでいてとても強く離さないという風に私に腕をまわして。
「ほんとに、君がいてくれて、よかった」
「あり、がとう」
泣いてかすれた声で、彼は私を喜んでくれた。
本当、変わらないんだから。
あの時から君の好意は変わって無くて。彼の腕や体を見ると、鍛えられている肉体が覗けて、戦場での傷も彼の苦労を想像するには十分だった。
何やら後ろからすごい殺意の目が向けられている気がするが気のせいだろう。アベナルは刺さるような視線を無視して、小声で話しかける。彼は静かに笑うと、アベナルにしか聞こえない声で、何かを話した。
赤い髪の魔法使いが女の子がしちゃいけない表情でこちらを睨んでいるのに気づきながらも、二人は無視して抱きしめあった。
そうしていると、魔法使いの子がこっちに来た。鋭い目が、アベナルを忌々しげに睨みながら。
「ケイル、突然で何しているかわからないのだけれど、その子は?」
「そうだね、紹介しないと。彼女はアベナル・ルシア僕の幼馴染さ」
「あれ、でも君の故郷の街の人は魔王軍の襲撃で全員死んだんじゃないの?」
「でも生きてたんだよ」
それを聞いた彼女は、アベナルを見て、より一層その鋭さを増しながら見ている。
それはどこか疑っている様子だった。アベナルの事を、信じられないと。
「何かしら」
「いや、勇者の幼馴染だけ生き残るなんて都合の良い話もあるものだなって」
「魔物が成り代わってるとでも疑ってるのかしら」
「そう思われても不思議じゃないってことよ」
確かに、都合のいい話ではある。
どうやって証明しようか。アベナルも流石に頭を悩ませた。
目を瞑って考え、なんとか証明しようと頭を巡らせる。
何が良いか、深く考えると良いものが浮かんできた。
「じゃあさ、証明するから一つ条件いい?」
「条件?人と証明するのは当然のことでしょ」
「じゃあ人を魔物って疑うのは当然なの?失礼じゃない?」
目を細め、歪んだ口の形。
私の言葉にイラッときたのだろう。
それでも彼女は気持ちを抑えた。
文句は言わなく、ただ黙っている。
「良いみたいね、そしたら私の示す条件は一つ。勇者パーティーにいれてよ」
「はぁ!?いいわけ無いでしょ?そもそも貴女それだけの実力はあるの?」
「あるよ」
私は魔法を展開する。
勇者パーティーに入るほどの魔法使いなら見ただけで分かるだろう。
私の魔法に、彼女は目を見開いてそして体が震えている。
「あんた本当に人間!?魔物どころか魔族、いや大魔族じゃないの!?」
「驚かせちゃったかしら?でも私はただの人間よ」
信じられない、そんな目で彼女は私を見ている。
周囲の人間は立っているのがやっとの人や、恐怖で気絶するものこちらを直視できないものまで。
彼の仲間の聖職者の方はなんとかこちらを見ているし、恐怖も抑えているようだが。それでも、表情は険しい。
この場の人間が、正常にいるのがやっとと言ったところで、アベナルは力を抑えた。
ちなみに彼は私が対象から外したので威圧も何も感じていない。
一人だけ私の髪をなでたり体を触って興奮している。
興奮している、へ、何してんのよ。アベナルは情けない声を上げて、頬を赤らめた。彼は残念そうに、口を開けている。
幸せそうな表情で私を触っている彼、それを見ると一気に責める気力が消えた。
久しぶりにあったからか、何をされても嬉しく感じてしまう。同郷の幼馴染というのは、他とは違うのだとアベナルは身にしみて感じた。
とはいえ、これ以上彼に好きにさせていると周囲の目が私の力にも怖気づかない強者じゃなくてただの変態に思われてしまう。
何人かは、彼の好意を見て何やら囁いている。
彼の腕を掴むと、笑って止める。目を細めて、少しだけアベナルは口角を上げた。
何やら嫌な予感がしたのか、彼は手を止めた。ゆっくりと彼は手をアベナルから離す。
圧に押されたのか、冷や汗をかいて手をはなして、彼は縮こまった。
ひとまずは良いので、私は魔法使いに人間であることを証明しないと。
強さを見せたのが仇になったかもしれない。魔法使いを見れば、警戒心丸出しの様子でアベナルを見ていた。
何とかしようと考えていると、激しい衝撃音がなる。こんな時に何なのか、アベナルは不愉快そうに手を頭に当てる。
何が起こったかを見ると、近くにいた冒険者達が悲鳴をあげている。ギルドの壁が大きく崩れ、崩壊していた。
何人かは瓦礫の下敷きに、そして瓦礫の前に倒れている冒険者も。
観察すると、倒れている彼らは衝撃ではなく、魔法で貫かれている。その事が、アベナルの警戒を引き上げた。すぐに魔法の準備をし、瓦礫の方を睨みつける。
まだ死んではいないようだが、まずい。アベナルは、彼の前で冒険者が死ぬ事を危惧していた。きっと、彼はこの事件を、自分のせいだと考えるから。アベナルにとって、それは防ぎたいことだった。
そしてこの騒動の正体は、煙が晴れると人影が見えてきた。
その影には人とは違う、頭に角が見える。
あの角は下級魔族特有の角。
魔物に近いが、知能を持った魔人に分類される人と同じ姿の存在。
下級と言われようと、魔族は魔族。
並の魔物や、各地のボスモンスター、上位種に匹敵もしくは同格クラスはある。
ここの冒険者ギルドはお世辞にもレベルが高いとはいえない。
煙が晴れるとやはりそこには魔族がいた。
魔族は笑みを浮かべながら、近くの冒険者に魔法を放っている。
魔法がどんどん冒険者に向かっていく。炎の魔法は、瓦礫を燃やし尽くす。冒険者に当たれば、悲鳴を上げながら彼らは倒れていった。
炎が迫る中、勇者たちが援護に入る。彼が魔族へと踏み込んで、剣を振り上げる。魔族はそんな彼に魔法を放ち、距離を取った。
彼は迫る魔法を、剣を振り下ろして両断する。
魔法使いは魔族の魔法を相殺、それどころか貫通して自分の魔法が魔族へと放たれた。
彼女の炎は、魔族の魔法を焼き貫く。同じ魔法でも、相性の良いものだった。
魔族は迫る炎からその場を避けて回避した。
炎は魔族がいた瓦礫の山を焼き尽くし灰に変えてしまう。
その光景に周囲の冒険者は驚き、魔族すら目を見開いている。
聖職者の方は、倒れている冒険者を癒やしていく。
傷が塞がり、痛みが止まる。
そして瓦礫の下敷きになっていたものや、魔法で貫かれ死にかけていたものまで蘇った。
それには流石の私も驚いた。
回復魔法でも高度なんてレベルじゃない。
おそらく大陸で見ても有数の聖職者なんじゃないか。
そしてケイルは、魔族に剣を振る。
魔族は剣を避けるが、ケイルは剣を振り上げる。
その斬撃も避ける魔族に、一歩ケイルは踏み込む。
低い体勢から、電光石火の勢いで斬り込む。
それは流石に想定外だったのか、魔族は何とか避けるがその胸には斬撃が刻まれていた。
強い、流石は勇者と呼ばれるだけはある。
魔法使いも威力、技術共に優秀だし聖職者の方は類を見ないほど。
ただおかしい、このメンバーなら上級魔族にも勝機はあると思うのに。
あの魔族、下級かと思ったが違う。
あの角は飾り、文字通りの飾りだ。
下級魔族と侮るものを殺すために。
下卑た笑いを浮かべるのを私は見逃さなかった。
奴は手を前にだし、魔法を放つ。
さっきまでとは比較にならない速さと威力。
炎の魔弾がケイルに放たれた。
ケイルはそれに反応できない。
やれる、そう思ったはずだ。
魔族のそんな期待とは別に彼の前には、その魔法を黒い手の具現で止めた私が立っていた。
「誰の前で誰を襲っている?」
「我の魔法を止めるとは、何者だ?」
「さあね」
黒い手は形を変える。
大きさも、すべてが変化する。
黒いものが、周囲に人間を避けて埋め尽くす。
不定形なそれは魔法だった。
一斉に、殺意をもって魔族に襲いかかる。
魔族はそれに対応しようとするが、魔法も何も通用しない。
それを見た魔族は顔を歪める。
「何だこれは。一体何なんだ!」
「未知だよ」
これは私の魔法、未知魔法。
能力は未知の力の具現化。
だれも知らない、すべてを貫通し壊す魔法。
決まった形をしないそれは強大な力を持つ。
宵闇NO.3、『未知』のアベナルの代名詞なのだから。
その上位魔族は、魔法によって死んだのだった。
皆さんこんにちは、作者の天羽です。今回、作品を作る上で大きな間違いを犯してしまい、プロローグから書き直す事になってしまいました。
現在まで投稿した八話までの作品を読んでいただいた方には本当に申し訳ありません。
今後は決してこのような事はないように、より一層創作活動に取り組んでいくので、ぜひとも見ていただけると幸いです!
今後とも、双星の守護者の連載は続きます!次回更新は明後日までに!




