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双星の守護者  作者: 天羽
第二章 魔法使いと大魔族
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第八話 感謝はいつか巡るもの

 月が空に輝きを放つ頃、アベナルは起き上がり、忍び足でテントの中から出た。

 ゆっくりとした足取りで歩いていく。暗闇の中を確かな足取りで進んでいた。


 「困るのよ、こんな夜更けに来られるとさ」

 「ほう、我に気づくとは、中々にやるではないか。探知の対策はしていたのだがな」

 

 アベナルの前には、一人の男が佇んでいる。顔に嘲笑を浮かべながら、彼女のを注視していた。

 紫色の髪に、中背の男だ。人を見下す様な態度は、他人の神経を逆立てるよう。

 アベナルはこの男が只者では無いことを把握していた。男は突っ立っているように見えながらも、アベナルの動きを常に観察し、いつでも動けるようにしている。


 「敵のフリをするなら殺すよ?アルフレッド」

 「冗談だよ、それくらい付き合ってくれ」


 アベナルが黙ってただ睨みつければ、アルフレッドと呼ばれた男は、駄目だとこれと両手を横にやる。

 それにも反応しないアベナルに、アルフレッドは面白くないとばかりにそっぽを向く。


 「アビスより伝言だ『随分馴染んでいるようね?本分を忘れていないかしら?』」

 「忘れていないわよ」

 「なら良いんだが。もし忘れているようなら俺が丁度いい塩梅で襲撃しろと言われてね。気づいているなら必要ないみたいだ」


 アベナルが無警戒なら、アルフレッドの襲撃には気づけなかった。気付いた時点で、余計な心配といったところだ。

 それでもアルフレッドは、アベナルと戦ってみたいというのが本音で、退屈そうにしていた。


 「あら、別に気にしなくてもいいのよ?襲撃に紛れて始末してあげるから、いつでも試しに来なさい」

 「それは怖い怖い、僕は死にたくないのでね。私は引き上げるとするよ」


 アルフレッドは怖がるどころか、軽い笑みを浮かべている。完全に人を食った態度で話す。

 背を向けて、アベナルに手を振りながら、アルフレッドは森の闇へと姿を消すのだった。


 「寄越すならアーライを送って欲しいわね」


 アルフレッド・ハーマイン。宵闇No.5『停滞の識者』で、アベナルの同僚の一人。

 シャドウナイツで最も嫌われ、嫉妬されている男と言っても過言が無いクズである。

 口を開けば他人の粗や批判に自慢。人を見下す視線や態度も相まり、全く人望がない。

 それだけでは飽き足らず、この大陸で怒った歴史上の事件。魔王と並ぶような事象を幾つも起こしている。大陸で最も人を殺し、多くの不幸を創っていると言っても過言は無い。

 本人は間接的だからセーフと言うが、何もセーフでは無いのである。一時期は本当に暗殺の話も出ていた程。

 そんな男に、勿論アベナルも良い印象は持っていなかった。


 「こんな夜更けによくも来てくれて、早く寝ないと」


 アベナルは行きよりも疲弊した様子で、前かがみに地面を見て、フラフラと歩いた。

 野営のテントへと戻り、また皆を起こさないように、静かに入るのだった。


 ■ ■ ■


 魔物を倒しながら進んでいき、都市へと辿り着いたのは昼過ぎの頃だった。彼らはレイミー伯爵領の都市に来ていた。

 レイミー伯爵と面会を済ませ、都市の滞在の許可が出た彼らは、伯爵は用意してくれた宿に泊っていた。

 この都市で彼らは武具の手入れや食料の補充など、旅に必要な物を補充している。

 市場へ買い出しに出ているアベナルとフィーアは、二人で必要な物を大方揃えていた。

 

 「後は何が必要?」

 「そうね、もう少し探知阻害の魔道具は欲しいわね」


 二人が魔道具屋へ向かおうとした時、二人の目の前に一人の男が立ち塞がった。


 「えっと、何の用かしら?私達用事があるのだけれど」


 明らかな不審者にも物怖じしないフィーアは、目の前の男を真っ直ぐ見据える。

 一方のアベナルは、その男に頬をひきつらせ、軽蔑の視線を向ける。


 「お嬢様方、道を阻んで申し訳ありません。聞きたいことがありまして」


 紫色の髪をした男は、二人の前に立ったまま、丁寧な口調で話を進める。

 眉を顰める二人を気にせずに、胸に手を当てると、片手を広げた。


 「実は私、旅行でこの都市まで来たのです。それでいて、お土産とやらを同僚、そして妻に買わなければならないのです」

 「それと私達に何の関係が?」

 「どうやらお金を使い果たしてしまったのです。ですから、金貨を一枚でも恵んでください」


 とんでもない物言いである。さも恵んでもらって当然とばかりの態度で、男は両手を差し出してきた。

 フィーアは男の態度に頭が追いついていないのか、一瞬固まっている。

 手を差し出した男はフィーアの方を覗きながら、両手をさらに前に出す。


 「まぁ金貨一枚くらいなら」

 「そこをもう一枚!」


 厚かましいにも程がある男に、アベナルは腕をつかんで、乱暴に引き寄せる。


 「アルフレッド、随分と厚かましいわね」

 「アベナル?どうしてお前がここに」


 お互いにしか聞こえないよう、小声で話をする二人。心底不思議とばかりの態度に、アベナルは驚きのあまりに目を見開く。

 同僚がいると知って、嫌がらせをしている訳ではなく、ただお金が欲しいから話しかけた事に気づいた時には、呆れを通りこしていた。


 「じゃあ何かしら、私達以外にもお金を無心していたわけ?」

 「ええ、少々お金を使いすぎてしまってね。余としても困ったわけなのだよ」


 ころころ一人称が変化するのをやめて欲しいな。聞くだけでイライラする。

 アルフレッドを睨みつけながら、首を傾げて怪しげに私達を見ているフィーアに、アベナルは笑顔を見せる。


 「大丈夫みたいよ、この人ちょっとふざけてたみたいで」

 「そう?でも別にもう少しくらいなら渡していいわよ」


 アベナルが驚いて声を出すのを尻目に、アルフレッドの元へフィーアは近づくと、懐から金貨を数枚取り出した。


 「次は使いすぎないようにね。少し多めに渡しておいたから、遊びの分もあると思う」

 

 渡された金貨に、アルフレッドも目を瞬きさせて驚いている。口元をゆるませて、フィーアは優しくアルフレッドを見ていた。

 無表情で瞬きさせていたアルフレッドの表情が、どんどん口角が上がっていき、目が見開かれている。

 それを見たアベナルは、嫌な予感がしていた。何か既視感というか、それはアルフレッドだけでなく、フィーアが主に関係していた。

 過剰な優しさに、駄目な男にも慈しむ心。アベナルにはそんな心の持ち主に一人心当たりがあった。

 そしてそれは、アルフレッドが感じているものと同じである事が確信できた。

 つまりこれからするアルフレッドの行為も、その結末も予想できるものだった。


 「失礼、レディ。お名前は?」

 「え、フィーア・レースです」


 唐突にかしこまった態度をすれば、服を着直してしわの伸ばし整えるアルフレッド。膝をついて、フィーアの顔を伺っている。

 膝をついて自分の手を取っている男に困惑しているのか、フィーアも動けずにいた。


 「私の名前はアルフレッド・ハーマインと申します。どうか、私とこんやくをっ……」


 アルフレッドが言い終わるよりも先、一帯に衝撃が奔った。土煙が道を覆い、周囲は何も見えない。

 フィーアが周囲を確認し、首を回せばアルフレッドがいた場所が大きく穴になっていた。

 穴の下では少女がアルフレッドの頭を手で掴み、背中を踏み台にしている。何やら怒っているのか、表情は笑っているのだが、全然目が笑っていなかった。

 アルフレッドの上に立っているのは、後ろに紙を束ねたポニーテールの少女。薄い輝きを見せる金髪に、白い肌。女性にしては背が高くスラリとした鼻の少女は、男女両方の目を引き付ける美貌を持っている。

 この少女をアベナルは知っていた。よく知っていた。


 「アーライ、アルフレッドを連れて行ってくれる?」

 「ええ、勿論よアベナル。妻がいるのに他の女に手を出す男は、しっかり教育しておくから」

 「待ってくれアーライ。俺はそんなつもりじゃなくて」


 弁明するアルフレッドに、視線を向けてアーライは睥睨し一喝する。有無を言わせないその視線に、アルフレッドも身を引き締めて静かにする。

 様子を見てまた口を開こうとすれば、鋭い視線がアルフレッドを襲い、また縮こまる。

 同情も無しに、同じ冷たい視線を向けながら、アベナルは砂煙を払うように手をふっていた。


 「言い訳は二人の家で聞くわ、覚悟してね?」

 「待って、違う、助けて、アベナル、お願いだ」

 「地獄に落ちてこい」


 アーライさんなんて最高な妻がいるのに浮気しようとするお前が悪い。

 人一倍の優しさに、誰もを見捨てない面倒見の良さ。クズであろうと許す懐の深さは、正直彼女以外にはいない。

 しかも格好良さも可愛さも美しさも兼ね備えた、容姿においても欠点の無い完璧超人だ。

 冷たくアルフレッドに言い放った後、アベナルはとっととフィーアと共にこの場から離れていた。

 アルフレッドは、悲痛な叫びを上げながらアーライに連れていかれるのだった。


 「彼どうなったの?」

 「どうもなってないわよ。多分さっき頭を掴んだので罰はおしまいだと思うわ」

 「それじゃあ何であの男助けを求めてたの?」

 「鈍感だから」


 アルフレッドは未だにアーライの好意に気づいていない。婚約はしているのだが、宵闇同士の計略か何かだと思いこんでいるのだ。

 ただ、アーライはアルフレッドに好意を抱いているし、逆のアルフレッドもアーライに好意を抱いている。

 両片思い結婚をしているのが二人なのだ。

 二人の現状を聞いたフィーアは、目を細めて声を出す。


 「それはもはや普通の婚約でしょ」


 最もなツッコミなのであった。

 訳の分からない身内争いに巻き込まれた二人は、日が暮れる前に急いで買い出しを終わらせるのだった。

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