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双星の守護者  作者: 天羽
第一章 勇者と共に!
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プロローグ 勇者とアベナル

 その日は勇者が指名される日だった。

 街は祝福の空気に包まれ、人々は笑っていた。

 大陸に君臨する魔王。

 それに対抗する勇者が生まれるのだから。

 そしてその勇者に任命されるのが、私の幼馴染だ。

 彼は自分が勇者に任命された事に驚きつつも、その責任を背負おうと覚悟決めていた。

 勇者になるとはいっても、彼の場合はまだ幼い少年ゆえに、先に王都の教育機関で育てられてからになる。

 そして今日は、彼が王都にいってしまう日なのだ。

 少し寂しいが、彼が勇者に選ばれた事による喜びが大きかった。

 任命される今日、私は彼に呼び出されていた。

 もしかして愛の告白だったりして。

 心の中ではそう浮き足立っていながら、多分しばらく会えないから、今のうちに挨拶するんだろう。

 私は家を出て、早朝の誰もいない通りを歩いた。

 人がいない道は知らない光景で、怖かったが、彼に会えると思って走って抜けた。

 待ち合わせ場所には、先に彼がいた。

 随分と疲れているようだった。

 勇者の任命式の関係もあるし、忙しかっただろう。

 わざわざ私に別れを告げる為に時間をとってくれた、それを感じてとても嬉しかった。

 待った?なんて笑いながら言って、彼としばらく会えない未来に恐怖している自分を押し隠した。

 そんな私に彼は「僕もいま来たところだよ」なんて嘘をついて、そして。

 話を切り出した。

 最初は私の想像どおり、しばらく会えなくなるって話だった。王都の学園に通って、勇者に相応しい人になるんだって、彼は恥ずかしそうにしながら話していた。

 これはもう知っていたから、嫌だったけれど、了承した。拗ねたように唇を噛みながら、足元を睨む私に、彼は苦笑いをして、私の顔を見ていた。

 彼は緊張した様子で、何かを言おうと息を吸う。ぎこちない動きをして、彼の心臓の鼓動が聞こえてくるようだった。

 彼が意を決して、思いを言葉に紡いだ。ゆっくりと、自分の気持を確かめるように。

 それは、告白。

 もし魔王を倒して帰ってきたら、結婚してくれないかって。怯えたように、必死で勇気を振り絞りながら。彼の目は、いつもの怯えた目とは違った。

 体か熱くなっていくのがわかった。頭の中で、彼の言葉が反芻する。

 視線があちこちに向いて、彼を直視できない。

 小動物みたいに弱々しくなって、小さな声でうんと返すのが精一杯だった。

 私の返事に彼も恥ずかしそうにしながら、とても喜んでくれた。弱々しい表情に、満面の笑みが浮かんで。

 それが嬉しくて。私の頬に涙がつたった。濡れた頬を拭うことも忘れて、彼を抱きしめた。互いの鼓動が伝わって、恥ずかしそうに赤くなる顔を逸らしながら。

 その後に彼はもう行かなきゃと行って、急いで走っていった。見えなくなるまで、こちらに顔を向けて手を振りながら。

 私も彼が見えなくなるまで手を振って、彼を送り出した。

 来た道を戻る私の足取りはいつもより軽かった。鼻歌交じりに歩きながら、妄想を膨らませて。

 最初に来た時と違って何人かの大人が店の準備か何かをしている。いつもより活気のある表情を人々は

 浮かべていた。

 私はウキウキしながら家に帰った。

 家について部屋で私は洋服を出す。

 彼の晴れ舞台にどんな服装がいいかなって、選んでいた。

 今日は最高の日だって、想いながら。

 上機嫌で、私が部屋で準備をしていると、けたたましい音がなった。

 窓は震えて、家の家具は倒れる。タンスや棚が倒れ、部屋にホコリが舞った。

 私も揺れた拍子に倒れてしまって、なんとか下敷きにはならなかったが何が起こったのか。

 腰に手をあてながら、窓を開けて外を見ると、街の人達が悲鳴を上げて逃げている。

 何が起こったのか。

 状況が掴めていない私に、街の人達の声が聞こえた。同時に、大勢の人たちが逃げるように走っている。

 彼らは口々に魔王軍が来たと叫び、逃げていた。恐怖を顔にはりつけながら。

 そしてそれを証明するように、魔物や魔族の魔法が、人々を殺していた。街は血に染まり、死体の山が積み重なる様子は、惨たらしい光景だった。

 私は必死に逃げた。周りの死体に悄然としながら、辛いのを我慢して、細い足を動かした。

 子供の小さな体格を利用して、建物の隙間を通って。

 魔法が飛んでくる中、ただ生き残る為に。

 けれど、現実は非情で私に狙いを定めた魔族が魔法を放って。

 私を追いかけてきて、ついには追い詰められた。

 そして…………



 ■ ■ ■


 「その後私は貴女に助けられた。感謝しているわアビス」

 「そうだね、でも私もあそこで君を助けて良かったと思うよ。君がここまで成長するなんて思ってなかったから」


 とある森。

 木々はいくつも倒れており、地面は大きく抉れているのは見て取れる。激しい戦闘があったことを察せられた。

 近くにあるのは龍の死骸。人の何倍はあろうか、緑の鱗に体が覆われ、恐怖を駆り立てるような、金色の瞳は生気を失っていた。

 龍とは竜と違い、古くから生きる上古の化物。現れれば、国すら滅ぶ事もある。伝説級の怪物。

 圧倒的な存在であり、国がいくつも滅ぶかもしれないその力が、ものを言わない肉塊になっていた。

 側にいるのは二人の少女。

 一人は幼い少女。青みがかった黒髪に虹色の目は視線を吸い込むように美しい。

 もう一人は黒髪のモノクルをかけた少女。大人しそうでどこかミステリアス。不意に惹きつけられる様な少女は、冷ややかな目をしていた。

 

 「我らがシャドウナイツの宵闇、それもNO.3までなるなんて、驚きよ」

 「そうね」


 彼女らの言葉に出てくるシャドウナイツ、それは大陸の初期から存続する組織。

 目的は不明、数千年と活動を続け、暗躍してきた。歴史の影には常に彼らが潜み、動かしてきたと言っても良い。

 構成員一人が世界でも上位の猛者、そんな中でも別格と称されるのが宵闇と呼ばれる八人。彼らは、一人一人が龍など赤子に見えてしまうような、恐ろしい実力者である。

 そしてここにいる二人。

 幼い少女の名はアビス・ゴール。

 宵闇NO.2 にして、事実上のシャドウナイツトップ。

 シャドウナイツの設立者でもあり、世界最強と言っても過言でない。彼女とNo.1のみが、組織の目的を知り、各々を動かしている。

 そして、もう一人。

 彼女の名はアベナル・ルシア。

 組織に入り十年もせずに宵闇入りし、NO.3まで上り詰めた天才。

 宵闇でも二強と呼ばれていたアビスとNO.1と並び、三強と呼ばれる程の実力者。

 そして、強い恨みと怒りをその目に宿している。底しれない、沸々と煮えたぎる憎悪が彼女の中にはある。


 「私はあの日街を襲った魔王軍を許さない。だから、私がケイルの代わりに魔王を討つ」


 彼女の名前は、勇者の幼馴染の少女、アベナル・ルシア。あの日、無力にも逃げ回っていた幼い少女だ。

 勇者に告白された幼い少女は、数年で世界最強の一角になっていた。

 そんな彼女だが、あまりに強くなることに時間を注ぎ込んだせいで今の情勢を全く知らなかった。

 ゆえに。


 「その口ぶり、君の幼馴染が死んでいるみたいな言葉だけど生きてるよ?ほら、つい最近に活動の情報が流れてるし」

 「え!?」


 驚いて柄にもなく声が出た。

 まさか生きていたなんて。

 あの日、間違いなく殺されたと思っていたのに。

 頬に涙がつたる。

 手で擦っても、溢れるみたいに流れ続けた。濡れたまぶたが、赤く染まっていた。


 「今は大陸西南部に向かうみたいね、大魔族の討伐に入るみたいよ」

 「西南部って、あの魔族がいるところじゃ!?」


 彼が向かっている場所に案じてしまう。

 大陸西南部といえばそこは小国が集まり連合を組んでいる地域。

 彼らは団結する事で魔族から身を守っている。

 その地には古くからの強大な魔族がいるから。

 干害のイフル。

 最古の魔族の一人であり、現魔王軍の最高幹部の一人。

 そして大魔族としてある裏の顔も持っている存在。

 間違いなく現魔王軍の中でも上位の一人だ。

 今のケイルが行って勝てる見込みは無いだろう。

 ケイルがどれくらい強くなっているかは知らないが、奴はシャドウナイツの構成員でも討伐が困難な大魔族。

 きっと相手にならない可能性の方が高いだろう。旅立ったばかりの勇者など、相手になるかどうか以前の問題だ。

 もしケイルが行って死んだら、悲惨な想像。アベナルのケイルの死に顔が頭によぎった。

 その想像を振り払うように、首を振る。そんなのは嫌だ。売るんだ目を拭って、立ち上がる。

 アベナルは真剣な表情で、まっすぐと、一歩一歩に重みをのせて歩き出した。

 そんな私をアビスは止めた。何をするのかお見通しと、額に手を当てている。


 「心配するつもりは分かるけど、それは優しさではなく甘やかしよ」

 「何言ってるの?ここで彼が死んだら!」

 「今代魔王」


 その言葉に私は押し黙る。アビスが口にした最悪の存在。

 今代魔王、歴代最悪最強の魔王であり、ケイルが挑まなければいけない存在。

 アビスがいうには、宵闇の私やNO.1 が挑んでもあっさりと返り討ちに遭うレベルだそうだ。

 間違いなく、魔族の突然変異であり魔族の勇者的存在。人類の最も大きな壁だ。

 そしてそれに挑むのが、勇者である彼、ケイル・ダイフ。魔王を倒す為に選ばれた、伝説の勇者だ。

 そして私の幼馴染でもある。

 そしてそんな奴に挑むには、ケイルは干害のイフル程度に負けてはいけない。

 だからこそ、私がイフルを倒してしまってはケイルの乗り越えるべき壁が消えるだろう。

 それは今だけを見た短絡的なもので、先を見れば悪手。

 それは分かっている、けれど。不満そうに、アベナルは目を細める。


 「確かに高すぎる壁っていうのは分かるわ、だから」

 「何を?」


 アビスはいたずらめいた笑顔を見せる。

 何を言うのか、待っていると。アビスは思わぬことを口にした。


 「君がケイル・ダイフを好きなのは知っているわ。だから、貴女が彼の仲間になりなさい。そして傍で支えればいいでしょう」

 「え、いいの?宵闇が表の人物と接点を持つのは禁止って」


 そう、宵闇はあまりの力とその秘匿性から表に出ることを許されない。表の世界に与える影響や技術が大きすぎるのだ。

 そしてこの世界にはもう一つの厄介な特性があり、それは、ある一定以上の実力を持つと肉体が不老と化すもの。表の世界では、そんな実力者達は暗殺されるか、影に潜むか。中には国の中枢や表舞台でも活躍するものもいるが、この事実は公にはなっていない。

 不老というのは、余計な争いの火種になってしまう。権力者達は喉から手が出る程に欲しがるだろう。

 その事情から、世間に不老という神秘を広まらないよう、宵闇は闇に潜む。

 私が本当にいいのか迷っていると、アビスは首を縦に振る。


 「これは貴女が望んだり契約で組織に入ったわけでも無いのと、その人望と実力からよ」

 「いい、の?」


 嬉しくて、また泣いてしまった私を優しくアビスは抱きしめてくれた。

 あの日から離れ離れになって、死んだと思っていた彼といられるなんて。

 ずっと育ててくれた彼女の腕は温かい。

 私は提案を了承して出立の準備をするのだった。

 私が準備の為に離れたそこで、アビスの顔から表情が消えた。

 アビスは静かに息を吐く。先程までの微笑みを消して、虫でも見るかのような表情に。


 「この2つの理由もそうだけどさ、一番大きいのは彼の抑え役だよ。『あの勇者』、彼は才能の原石だ。それこそ磨けばどこまでも光る」


 アビスは一人懸念していた。

 彼を一目見た時に分かったから。

 ケイル・ダイフは今代魔王を超える逸材、人類の最高傑作とも呼べる才能。そしてその周りにも、彼と近しい才能があった。

 あの日、アビスがその才能を◇◇◇する為に、あの街に訪れていた。そこで見つけた、アベナルという少女。

 彼女もまたケイルに匹敵する才能を持っていた。

 あまりの才能、大陸に災いをもたらす可能性がある。

 だからアビスはアベナルを宵闇に引き入れたし、次は彼を監視するためにアベナルを派遣した。

 アベナルがいなくなり、龍の死体が残される。流石にそのままにしておくわけにはいかないので、アベナルは口を歪ませながら、片付けを始めた。

 龍の服が汚れるのに、思わず叫んでいながら、淡々と進めていく。気だるげに、龍の亡骸を処分していくのだった。

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