東北旅行①
転職につまずいた虎之介は、東北に一人旅に出掛けることにした。人生80年とすれば、もう折り返しはとっくに過ぎている。足腰の元気な内に、自分の生まれた日本という国をざっくりでも見ておきたかった。物流の仕事で地名と位置が理解できなかったということも、旅行するきっかけのひとつだった。
もっとも、ただ仕事もせずにぶらぶらしているわけではなく、次の就職先はもう決まっていた。遠江鉄道といって、虎之介の地元のバス会社だった。年齢的に、48歳の虎之介はぎりぎり採用にセーフだった。今回はハローワークの就職説明会を利用した。年が明けたら、今度は大型2種免許を取得する予定も決まっていた。取得費用は会社負担で、後日給料から天引きされるとのことだった。
一人旅の始めは、会津若松に行くことにした。司馬遼太郎さんの小説が好きな虎之介は、日本の幕末が大好きだった。中でも会津若松にある白虎隊記念館は少年の頃見たテレビドラマの思い出もあり、ぜひ見ておきたいところだった。初めて乗車した東北新幹線で、会津若松に行くには郡山で降りた。物流の仕事でわからなかった郡山という地を、虎之介は肌で知ることができた。
郡山から白虎隊記念館へは、タクシーを利用した。時間にして小一時間の距離だ。運転手のおじいさんと車中雑談すると、このおじいさんも以前は名古屋で物流トラックに乗っていたとのことだった。ちなみにこの時、後日虎之介もタクシードライバーになるとは夢にも思っていない。