オーバーハング
大型トラックは、言うまでもないが左足でクラッチを踏み込んで、左手でギアを操作する。虎之介は30年前に普通自動車の免許を取得しており、中型自動車までは運転可能だった。しかしながら、大型トラックは車幅があり、縦も長い。初日に横乗りしてくれた若い教官が「都筑さん、なかなか無謀ですね。」と言ったのは、その後の虎之介の苦難を予言していたのかもしれない。
構内教習を終え、路上教習に出る2回目ぐらいだったろうか。朝一の構内には、教習車がふだんよりも多く止まっていた。その日の教官はまだ経験の浅い方だったようで、ふだん止まっていない建物脇に教習車が止まっているのを見落としたようだ。構内から路上に向かう際、「はい、ハンドルを右に切って。」と教官の指示通り虎之介が操作すると、鈍い音が左後に響いた。オーバーハングにより、建物脇の教習車の横側に、トラックの左後が突っ込んでいた。
建物から職員が出て来て、その日の教習は改めて別の日に行うと指示された。事務所の奥では、ベテランの教官らしき人が「そりゃあ振るわな!」と声高に、虎之介と同乗していた教官に話し掛けていた。