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人生の続きはトラックから
虎之介が約三十年勤務した某電力会社で、最後に所属したのは経理課だった。経理課の前は営業所の倉庫で、その時フォークリフトの免許を取得した。経理課の事務作業は、虎之介にとってやりがいのあるものではなかった。学生時代に野球に取り組んだ経験は、体を動かす仕事の方が性に合っていると言って良い。倉庫でのフォークリフト作業は、セカンドキャリアへの布石だったと思う。虎之介は躊躇なく会社を辞めた。さしあたり、人生の続きはトラックに乗ることから始めよう。都筑虎之介の誕生である。
会社を辞めるにあたり、妻に相談はしなかった。妻は世間体よりも虎之介の気持ちの方を優先してくれる。そんな信頼感があった。そのかわり、生活費は稼がなくてはならない。
市内の自動車学校に行き、大型1種免許のコースを申し込んだ。学科はなく、カリキュラムを履修し、最後に卒検をクリアすればよいのだ。学校には、自転車で通うことにした。もう夏が近く、日差しが眩しい。市内の中央を流れる川の土手を、48歳のおじさんが一生懸命自転車をこいでいた。