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9話 侵入


 半吸血鬼となって力が増した所為か、簡単に城壁を掴んで登れた。なんなら強力な握力に任せて凹凸のない所でも指をめり込ませて登る事ができる。


 いやぁ、便利な体になったものだと思いながら、俺は素早く城塞都市の中へ潜入した。


 できれば城壁の上から町を眺めて、何処に何が在るかを頭に叩き込みたかったのだが、いかんせん見張りの兵士たちが松明を持って巡回していたから厳しかったのだ。


 それでも一瞬の間を利用して、大体の構造は見て取れた。


 どうやら町の中心に向かうにつれて住居が豪勢になっていっており、壁の近くはあばら家が多い。ちょうどそれらの中間くらいの位置に大きな建築物があって、恐らくあれが役所などの公的施設だと思われる。


 まず、俺が向かうべきは図書館かな? ……今はとにかくこの世界に対する知識が圧倒的に足りていない。常識や習慣、文化というヤツを学び直さないと。


 ただ、その前に本当に言葉が通じるかとか、文字が読めるかを確かめるのが先か。


 幸いな事に黄昏時となっても人通りは多く、大通りには屋台と思わしきものが出ており、そこには何かを書いた看板が立てかけられている。


 しばらくこの人ごみに紛れて散策すれば、言葉が分かるかとか、文字が読めるかとかは分かるだろう。


 それにしても……思いの他、綺麗な街並みだ。


 変な匂いは漂ってこないし、道には汚物が落ちていない。俺が想定していた文明レベルである中世ヨーロッパは暗黒時代で、とにかく衛生面が最悪だったと知識にあったから、ある程度は覚悟していたのだが……要らぬ心配だったようだ。


 これは思ったよりも過ごし易い環境かもしれない。


 とにかくそんな事も含めて情報収集しないと……フフフ、ようやくシノビとしての本領を発揮できる時が来たか。


 俺は人外となった目を隠すためにハンカチをバンダナ状にして目の部分を覆うと、人ごみの中に紛れていった。




---




 ――数時間後。


 俺は宿屋のベッドの上で寝転がり、今後どうするかについて検討を重ねていた。


 因みに、心配していた言葉や文字は問題はなく分かる事が判明した。女吸血鬼様様である。


 そして、カネも無いのにどうやって宿屋に泊まれたのかというと、着ていた服を目立たないモノに換えて下取りによる差額を得たり(元から来ていた服は随分と高く売れた)、いらない所持品を雑貨屋に売ったりして当面の生活費を手に入れたのである。


 例えば此処に来るまでに使った収納式の遠眼鏡だ。


 どうやら半吸血鬼となった事で千里眼の能力が使えるようになったらしく、また、サバイバルをする上で点火にも使える一品だったが、漫画忍術が使えるようになった俺にとっては必要なモノではない。


 これを見た雑貨屋の主人はえらく驚いて結構な額を提示してくれた。どうやらこれ一つで個室の宿屋に一か月間は泊まれるくらいになるらしく、元が三千円くらいのモノだから、随分と高レートで取引できたものだと思う。


 なお、カネの単位は『オンス』というらしい。地球では主にアメリカが使っている重量単位の名で、妙なところで繋がりがあるなと感心したモノだ。もしかしたら、俺と同じようにこの世界に迷い込んだ人間が広めたのかもしれない。


 そんな事も含めて明日からは図書館に通って可能な限り、知識を得ないと。


 いや、それより先に正門からちゃんとこの城塞都市に入り直すのが先か? 俺のこの目隠し姿は随分と目立つ。先ほど取引した雑貨屋や古着屋の店主、そして宿屋の主人にも随分と胡散臭い目で見られた。不法侵入で捕まえられたら堪らない。


 あと、仕事探しもしなければな……。


 売れるものはまだ残っているが、それがどんな価値になるか分からないし、それが切っ掛けとなってあの女吸血鬼に居場所を知られるかもしれない。


 そう考えると宿屋に泊まれるこの一か月という時間は貴重だ。それまでに拠点と収入源を確保しなければならない。


 身分証の作成も必須かな……いや、就労したり、公的機関を利用したりするなら地球では不可欠であったが、この世界における身分証がどこまで有効なものか分からない。


 むぅ……駄目だな、基本的知識が無い状態でどんな検討をしても空回るだけだ。とにかく、図書館通いをして知識を溜め込まねば。


 ヨシ、そうと決まれば今日はもう寝てしまおう。


 俺は枕元にあったランプの灯を消すと、薄いシーツに包まった。下は薄く敷いた藁の上にシーツをかぶせたものだけで正直な話、体が痛いが……昨日の土の中と比べれば天と地ほどの違いがある。やはりシノビとはいっても現代日本で育った身としては快適な事に越したことはないのだ。


 腹は多少空いているが……今日の朝の飢餓状態よりは随分とマシだ。この宿では夕飯は出ないが朝食は出るらしいから、それを楽しみにしておこう。


 そんなことをつらつらと考えながら、俺の意識は闇に堕ちて行った。


 

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