56話 帰途と出立
そんなこんなで俺達はアダマンタイトを手に入れ、帰途に就いた。後はこれを元に品評会で出す武具とやらを作るだけだ。
そこから先は俺の範疇ではないが、護衛は帰るまでが仕事である。モノがモノだけに盗まれないように気を付けないと……場合によっては強盗、盗賊とやり合う事になるかもだ。
しかし、そんな俺の心配はよそに、無事にアマルガムの町から王都へ、そしてメリーが営む鍛冶商店へと到着した。
「ようやっと着いたな、兄さん。護衛ご苦労さんやで」
「てっきり何らかの妨害が入るものと思って覚悟はしていたんだがな……本当に何もなかったな」
「所詮は個人の鍛冶屋と思うて舐めとるんよ。ケド、追い詰められた鼠がどれだけの事ができるか、見せたろやないかい! 絶対にギャフンといわしたるでっ」
そうやってメリーが気勢を上げていると、俺達に近づく影があった。
「誰が誰にギャフンと言わせると? 貴女が一方的に屈辱にまみれるだけではありませんか?」
「アンタは……」
「ベナメル商会の若頭! 何の用や、またいやがらせにでもしに来たんかいな」
「これはこれは人聞きの悪い……貴方がずっと商店を閉めていたから心配になって様子を見に来ただけですよ。てっきりこの王都から逃げ出したモノかと思っておりましたが……」
「舐めんなや! 次の武具評論会、その出展作品を作るための材料探しに、ムぐ!?」
俺は余計な事を言おうとするメリーの口を無理矢理に押さえつけると、メリーの前に立ってベナメル商会の若頭と対峙する。
「貴方は?」
「彼女の護衛でゲンヤと言う。以後、お見知りおきを。彼女の店に嫌がらせをすると言うのなら、そんな輩は問答無用で叩きのめすので覚悟をして頂きたい」
「フン、見た所、貴方はダンピールですね? ドワーフの鍛冶師にダンピールが付くとは珍しいこともあったものだ……ま、いいでしょう。今日は単に様子を見に来ただけ。まだ私たちの傘下に入らないと言うのなら徹底的に身の程を知らしめてやるだけです」
そんな負け惜しみとも聞こえるような言葉を吐いて、ベナメル商会の若頭とやらは去って行った。
「なんや兄さん、邪魔しよってからに!」
「まあ勘弁してくれ。ここで君がアダマンタイトを持ってるなんて口走ったら、ヤツら本気になって君を潰しに来るぞ。分かりやすい嫌がらせなら俺でも対処できるが、鍛冶に必要な炭の供給を止められたり、質の悪い炭しか仕入れが出来なくなったりなんて事になったら、品評会に出る前に計画が破綻する」
「ええー、そらそうやけど、一介の商店にそこまでするか?」
「兵糧攻めは兵法の基本だぞ。というか、いままでの嫌がらせは、あの若頭とやらが嫌味を言いに来るぐらいだったのか? ……もしかしてあの若旦那、メリーに気があるんじゃないか?」
「そんなわけあるかいな! 作った品物の難癖から始まって――」
どうやら彼女の地雷を踏んでしまったようだ。俺はそれから路上で延々と彼らの悪口を聞かされ続けたのであった。
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その後の品評会結果やらを語るのは蛇足なので割愛する。
結果から言えばメリーの目論見通り事は進み、彼女の商店は発展を遂げた。そこまで行けば、護衛がダンピールと言うのは風評的によろしくない。
俺は適当なところで彼女の護衛を切り上げて、王都を発つことにした。
なにせ俺の目的は主であるカーミラを殺す事。そのためにはヒトを害する吸血鬼を斃し続け、力を得ないといけない。
結局のところ、ラファとミカのように吸血鬼を求めて流浪の生活をするしかないのだ。
さて、俺の旅は始まったばかりだし、この世界の事はまだまだ知らないことが多い。
いつものように俺は懐に白猫を抱いて見知らぬ世界に旅立った。
- 第一部 完 -
取り敢えず、一旦ここで終わりとします。お付き合い頂きありがとうございました。
評価等頂ければ幸いです。




