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5話 逃走


 森を抜けるとそこは完全に異世界だった。


 空に浮かぶ明るい二つの満月、淡くグリーンに輝く夜空、そして浮かんでいる雲には何やら大きな生物が潜んでいる。地上に目を向ければ、森から流れる小川は青く、広がる原っぱには見覚えのない植物が群生しており、見間違いでなければ自走している植物もいる。


 目の前の光景が信じられず、少しだけ頬を抓ってみるとかなり痛い。どうやら俺は禁足地の森を通り抜けて本物の異世界に来てしまったらしい。


 なるほど、だから吸血鬼なんてのも居たんだなと、妙に納得してしまっている自分が居た。


 おっとそうだった、俺はまだあの美しい吸血鬼から逃げている途中だった。逃げ切るためにもっと距離を稼がないと……しかし、どちらに向かったものか。


 吸血鬼化したおかげか、夜なのにえらく視界が良好で遠くまで見通せる。遠くまで見通せるということは彼女も同じかそれ以上だということだ。少なくともここから地平線まで逃げなければ、すぐに位置を掴まれて捕まってしまうだろう。その後どうなるかは想像に難くない。


 とりあえず、あの青い小川に沿って逃げてみるか? たしか、吸血鬼は流れる水を渡れないとかいう弱点があると聞いたことがある。彼女がどうかは分からないが、少なくとも今の俺に忌避感はない。もし追いつかれた時に防波堤となってくれるかもしれないし、これを辿って行けば人里に出られるかもしれない。


 そうと決まればすぐに行動を起こさないと。なにやら背後であの凄まじい覇気が復活しそうな気配が伝わってきている。


 俺は目標を定めると本気で走り出した。




---




 いや、吸血鬼の力とは凄いものだ。


 本気で走ろうとしたらその力で思い切り跳んでしまった。勢い余って小川を跳び越すほどだ。こりゃあ、力の使い方を覚えないとヒトとして生活する事すら難しいだろう。


 俺は不本意に得てしまった吸血鬼の力に戸惑いながら、まるでバッタのようにぴょんぴょんと飛び跳ねながら逃走していた。


 何せ力を手加減して不器用に走るよりは、筋力を最大限利用して跳ぶ方がずっと速い。間違いなく時速百kmを超えているだろう……まるで自分自身がバイクか車にでもなったような感覚だ。


 そういえば跳躍している中、もしかして羽が生えていたら飛ぶことも出来るんじゃないかと背中を探ってみたが、どうやら俺には羽は生えていないようだった。


 よくよく思い出せば親である彼女には蝙蝠のような羽が生えていたから、この辺り、中途半端に吸血鬼の特性が遺伝したのかもしれない。なにせ血を吸っている途中で目を回して倒れたからなぁ……何処までその特性を受け継いだか逃亡できたら試してみないと。


 そんな事を考えながらも俺は必死に跳躍を繰り返す。


 背後からは覇気に加えて、凄まじい怒気も伝わってきている。それによって寝ていた鳥や獣が起き出してぎゃあぎゃあと鳴き声を上げているくらいだ。


 幸いなのは距離を取った事で此方の位置を掴めていないことか。どうやらあのモニュメントのある付近から動こうとせず、うろうろとしているようだ。


 なぜそんな事が分かるかと言うと、俺にも分からない。何故か感覚的に分かってしまうのだ。


 そういえば……吸血鬼と人間の混血である半吸血鬼ダンピールは、吸血鬼を探知する力を持つとか聞いた覚えがある。もしかしたら俺は彼女に中途半端に血を吸われたことで、そのダンピールに近い特性を得たのかもしれなかった。


 それにしても彼女が完全復活したというのなら、これ以上は派手に逃げていると却って見つかる恐れがある。種類によっては千里眼を持つ吸血鬼も居たような気がするし、あのモニュメント付近から動かないのは、それを使って俺を探しているとも受け取れる。


 俺は彼女の千里眼に見つからないよう、近くの小さな林に逃げ込んだ。そこには日本で見る杉の木が乱雑に生えており、身を隠すに相応しい太い木もある。


 しかし、念には念を入れて隠れないと。


 俺は隠し持っていた収納式のシャベルを展開すると、土を掘りだした。そして、人一人が入れるような穴を掘るとそこに身を収めて、掘った土を身に被る。無論、空気を取り入れる孔としてストローを咥えて土の中から出す。


 いわゆる土遁の術である。


 これであれば彼女が千里眼を持っていたとしても容易に見つける事はできないだろう。しかも、眠っている間に獣に喰われるという心配はなくなるし、吸血鬼の最大の弱点である日光からも身を隠すことができる。


 半吸血鬼ダンピールの特性を得たらしい俺であれば日光を浴びても大丈夫な気がするが、検証している暇はない。今はともかく身を隠すと共に休まねば。


 何せ今日は行方不明者の探索から始まって、色々な事が一遍に起こりすぎた。


 半吸血鬼化したおかげか、体力面については何の問題もなくなったが、とにかく頭が一杯で爆発しそうになっている。


 寝ている間に頭の整理が終わっている事を願って、俺は目を閉じて眠りに就いた。


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