46話 ダンジョン
ラファ達と別れ、王都の図書館で調べ物をすること、一週間が経過した。俺の左腕は順調に再生し、問題なく使えるまでになった。
ギルドには腕が再生するまで仕事は請けないと伝えていたが、そろそろ何らかの仕事を受けるべきだろう。ダルガン子爵を討伐した報奨金は大きかったが、何もしなければ半年ほどでなくなってしまう。
それに、元の世界では重度のワーカーホリックであったので、何かしていないと落ち着かないのだ。
『お主ら異世界人は本当に勤勉じゃのう。この世界のギルド構成員であれば、カネが尽きるまで豪遊して、それから仕事にかかるのが一般的なのじゃが。まあこうして毎日お好み焼きが食えると言うのは幸わいではある』
――とは、白猫の談である。
因みにお金はギルドに預ける事ができるようで、多少なりとも利子が付くらしい。しかも自身のタグを見せればどの支部においても引き出しも預け入れもが出来るようであり、まるで銀行だ。
変なところで現代的だなと感心したものである。
さて、何はともあれ仕事である。
とはいっても、いつもの一角兎や二角熊を狩るのは少々飽きてきている。ここは一つ、『調達』の仕事を受けてみようかと思い立った。
そんな訳で、ギルドにて『調達』の仕事の掲示板に貼られた依頼票を見やると、これまた結構な数の依頼があった。
主に薬草系、鉱物系、魔獣の部位系に別れており……俺が目を付けたのは『鉱物系』の依頼票だった。
今の俺は自身の怪力に振り回されている状態で、武器をまともに使えていない。使おうとしても鋼鉄製の武器であれば、力を込めるとぐんにゃりと折り曲げてしまうような状況だ。
であれば、鋼鉄を超える強度を持つ武具を使えばいいじゃない。
どうやらこの世界には鋼鉄製を超える材質で作った、ミスリル製、アダマンタイト製という武器が存在するようで、武具店にも並んでいるのだがかなり高額で手が出ない(何せ家一軒が建つような値段だ)。
で、あるならばその材料を自分で調達して、それでもって武具を作って貰えば良いのではないか……と考えたワケだ。
改めて依頼票を見るとだ、
『ミスリル鉱山に魔獣が住み着いて鉱石が取れない。住み着いた魔獣の討伐とミスリル鉱石の調達をお願いする』
『アダマンタイト鉱石を見つけてきて欲しい。アマルガム地方の迷宮の奥底にあるらしい』
等々の依頼票が見受けられた。
――迷宮だと!?
この世界にはダンジョンという存在があるらしいということは、図書館で調べ物をしていた時に知り得ていたが……。
まず迷宮とは、この世界では超巨大な生き物らしい。
巨大すぎて自分では動けないことから、自分の体の中に価値あるものを作り出して冒険者や野生動物を誘い込んで殺し、それを糧として生きる的な生命活動をしているらしい。
例えば冒険者にとっては価値ある財宝、野生動物にとっては寝床や狩りやすい獲物と言った感じだ。
ダンジョンか……その存在に少しワクワクしている自分がいる。
何せ危険な場所にもぐりこんで財宝を頂くってのは、シノビとしての本能をいたく刺激されると言うか……いや、それは怪盗じゃないかという突っ込みを受けそうだが、怪盗もシノビも割と近しい存在だ(異論は認める)。
とにかくダンジョンと言う存在にいたく好奇心を刺激された俺は、この『アマルガム地方のダンジョンでアダマンタイト鉱石を見つけよ』という依頼を受ける事にした。
俺はその依頼票を掲示板から剥がすと、内容を詳しく聞くために受付の人に依頼票を持って行った。
「ああ、ゲンヤさん。この依頼を請けるんですか」
「ええまあ……このダンジョンと言う言葉に惹かれまして……ただ、この依頼票、必要な数量とか、期限が書いていなかったので詳しく教えて頂ければと思いまして」
「そうですね、ちょっとお待ちください。えーと……ああこの依頼、期限は無期限ですし、必要量は10gからとなっていますよ。まあ、アダマンタイト鉱石は貴重ですから見つかったらめっけもん的な意図で出された依頼らしいですね」
「そうですか……その割には報酬額がかなりな物になっていますが……」
「なにせ少しでも鉄に混ぜれば飛躍的に強度が上がる鉱物ですからね、アダマンタイトは。100gもあれば小さな家が建つほどの価値はありますよ」
「なるほど……」
「それでこの依頼、受けますか? アマルガム地方のダンジョンは王都から北西に50kmの場所にあります。ダンジョンの近くには町もありますからサポート体制も十分ですよ」
「わかりました。この依頼、受けてみる事にします。書類の処理をお願いしますよ」
「はい、承りました……って、そうそう、ゲンヤさん。アナタ、先日の吸血鬼討伐の件でランクが上がって、『E』から『D』になりましたから、タグを交換していってください」
「あ、はい……もうランクアップですか」
そんな訳で、俺は新しくダンジョンへ挑む事となった。そこでまた新しい出会いが待っている事を俺はまだ知らない。




