表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/56

44話 ダルガン子爵


 俺がグールたちを焼き尽くしても、ラファ達とマッシュとの決着は着いていないようだった。


 激しく武器を打ち合わせる音が聞こえて来る。


 一方で俺の魔眼は魔法を使い過ぎて冷却期間に入っていた。これ以上、グールは出て来るなよと祈りながら三人の戦闘を見守る。



「フム、それは緋王眼かね。ダンピールが持つには珍しい魔眼だ。しかし今は使えないようだな」

「誰だ!?」



 三人の戦闘に注目していたら、後ろから声を掛けられた。完全に油断をしていた自分を恥じながらも振り向くと、そこには今のマッシュと同じ格好をした吸血鬼が一体、薄笑いを浮かべながら俺の方を見ていた。



「もしや……ダルガン子爵、か?」

「察しが良いな、その通りだ。先日は部下が世話になった。いや、今もと言うべきかな?」



 そう言いながら吸血鬼ダルガンは手にした槍を突き出してくる。俺はその槍を紙一重で避けながら質問を重ねる。



「ダルガン子爵、アンタの目的はなんだ? どうして王都の民を襲うようなことをする?」

「何をバカな事を聞く。人間が家畜を食べるように、吸血鬼も人間の血を吸う。そこに理由はあるまい。そして、王都には多くの人間がいる。縄張りにするには十分な理由だ」

「なるほど、アンタ達、吸血鬼とは相いれないってのがよく分かったぜ!」



 次々と繰り出してくる槍を避けたり、弾いたりしながら、俺はダルガン子爵の槍の腕に驚いていた。力を頼りにしない、真っ当な槍術使いだ。


 元の世界の槍使いであっても届かぬ技量を持っており、コレはダルガンが実戦で磨いた腕なのだなと理解させられる。今、俺が何とか槍を捌き続けられているのは単に身体能力の差であろう。



「なかなかちょこまかと動くな。しかし、それで緋王眼が使えるまで逃げられては厄介だ。こちらも切り札を使わせて貰おう。燃えろ、ダンピール!」



 ダルガンがそう言うと、俺の左腕が燃え上がった。


 これは……魔法か! 子爵級であればまず使えない魔法を、このダルガン子爵は切り札として用意していたようである。


 これには俺も驚いた。ほぼ炭と化した左腕に感覚はなく、肩ほどから崩れ落ちる。



「ぐあっ……くッ、アンタも緋王眼を使うのか!?」

「いいや、私のは単なる魔法さ。しかし、使いようによってはそれに勝ることもある。例えばこのような事も出来るぞ」



 ダルガンは自分の槍に手を向けると、再び燃えろと告げる。すると、槍の一部が炎に包まれた。それで以って、槍を突き出してくる。


 言うならば火炎槍とでもいう技で、何とか槍を避けようとした俺の腕を掠り、皮膚を焦がした。


 このままではジリ貧だ。なんとか反撃しないと殺されるだろう。


 俺は攻撃を避けながら、その辺に落ちていた拳大の石を拾うとダルガンに向けて投げつけた。が、ダルガンはその石を炎に包まれた槍でいとも簡単に切り裂いた。これには俺も瞠目した。



「くっ、アンタ、本当に子爵級の吸血鬼なのか?」

「はは。私にとって爵位など如何でもよい称号にしかすぎぬ。伯爵以上となれば登城して魔王に謁見せねばならぬ煩わしさもあるしな。わざと爵位を上げずに辺境で好きに過ごす吸血鬼も居る。それが私と言う事だ」

「……であるなら、アンタの本当の爵位は」

「そうさな、伯爵級は確実だ……いや、もしかしたら侯爵級はあるのではないか? ハハハ」



 確かに、俺が幻界で戦った事のある子爵級の吸血鬼とは段違いの強さだ。しかも今の俺は緋王眼を使い過ぎて使えない状態にある。


 ダルガンもそれを分かって速攻で俺を殺しに来ているのだ。油断も無ければ、実力も申し分ない。文句なしの一級の相手だろう。


 しかし負けるわけにはいかない。


 ここで負けたらその牙はあのダンピールコンビに向けられるだろうし、王都の民にどれだけの犠牲が生じるか分からない。


 なによりカーミラの子として、プライドが許さない。


 ならば此処から先は余力を残すという愚策は捨てて、真剣にダルガンと向き合おう。久々に命の危機を思い出させてくれたアンタに感謝を。



「……雰囲気が変わったな。本気になったと言う事かな?」

「さて、どうかな」



 ダルガンが火炎槍を繰り出してくる。それを皮膚が焦げるのを承知で紙一重で避ける。


 ダルガンが炎の魔法を使ってくるが、その視線を読んでギリギリで避ける。


 ――見切れた、ということなのだろう。若しくは、ようやく体の動きに目が慣れて来たというべきか。



「お、おおおおおぉ!」



 ダルガンが遮二無二、攻撃を繰り出してくるが、その全てが見えていた。



「終わりだ、ダルガン子爵」



 俺は残った右手の指を揃えて貫き手を作ると、ダルガンが突き出してきた槍を避けると同時にその心臓へ向けて貫き手を繰り出した。


 貫き手はその分厚い筋肉の鎧を突き破り、脈打つ心臓を確かに抉った。



「かはっ、ば、ばかな、この私が、一介のダンピール如きに敗れるとは……」



 それだけを言い残してダルガン子爵は灰となって崩れた。残ったのは丸くて赤い力の結晶だけだった。


評価等頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ