43話 グール2
100体近く居たグールも、緋王眼にかかればものの三分ほどで全てを焼き尽くす事が出来た。
ラファ達も頑張ってはいたが、何せメイスで一体一体を倒して行くのと、視界に映る限り燃やせるのとでは攻撃範囲が違い過ぎる。
「あらゲンヤ、貴方、目の色が黒くなっているわよ、大丈夫?」
「ん? ああ、魔眼の力を使い過ぎだな。これは、しばらくは緋王眼が使えない状態である事を示している。まぁ、五分も休めば元通りだ」
「ははぁ……無敵と思われた緋王眼にも冷却期間という弱点があったんですね。もしかすると、魔眼全てには冷却期間が必要なんでしょうか?」
「さてなぁ……魔眼使いに知り合いは多く居ないから良く分からないよ。ただ、魔王カーミラは少なくとも俺より長く魔眼が使えるようではあったかな」
実はこれ、幻界で訓練を行ったときに発覚した弱点である。
威力は高いのだけれども、その分、エネルギー消費が激しく、使用した時間に対して冷却期間が必要なのだ。カーミラはこのことを『貧弱じゃのう』と嘲っていたが、こちとら半吸血鬼に転生してまだ1か月も経っていないひよっこなのだ。これから成長していくつもりなので大目に見て欲しい。
「さて、魔眼の力は使ってしまったが、この場に居たグールは全て倒せたな。ラファ、ミカ、ケガは無いか?」
「ええ、おかげさまでね」
「これで伏兵は全て倒せたと信じたいところですが、油断はなりませんよ。追加が出て来てもおかしくはない状況です」
「それじゃあ、マッシュが言っていた場所へ急ぐとしよう。アイツと戦う前に、これ以上消耗させられるのは勘弁願いたいからな」
俺達は駆け足でマッシュの居るだろう西の方向へ向かった。途中、やはりグールが湧いて出たが、そこはラファとミカのダンピールコンビが奮戦して殲滅してくれた。どうやら、先ほどの戦闘では消化不良だったらしく、改めてそのメイスを振う姿には力がこもっているように見えた。
魔眼の力も徐々に回復しているみたいで、マッシュのいる場所へ辿り着くまでには使えるようになりそうである。
「それにしてもゲンヤさん。貴方は武器を使わないのですか? 徒手空拳では、戦い方に限りがあると思いますが?」
「そう言えば気になってはいたわね。今まで使ったのは投石くらいじゃない。なにか理由でもあるの?」
駆け足で走り、グールたちを殴り倒しながらラファ達が聞いて来る。
「ああ、ぶっちゃけ俺の力が強すぎるんだよ。どんなに硬い武器を使ったとしても、ちょっと力を込めたら折れ曲がっちまうんでね。力加減を覚えるまでは徒手空拳で行こうと思っている。それにシノビは古来から素手で戦うモノと相場が決まっているんでね。その訓練もしているし、不自由に思ったことはないかな」
実は、当初、一角兎と戦う時に使っていた収納式シャベルはとうにオシャカになってしまっている。土遁の術を使うのにとても便利だったので悲しくは思うが、壊れてしまったのなら仕方がない。泣く泣く解体して、今は影縫いの術用のナイフとして転用している。
「素手、ねぇ……まあ、その怪力に緋王眼も使えるなら、武器は却って制約になりかねないか」
「そうですわね。ゲンヤさんに合った戦う方法を模索していけばいいと思います」
「ありがとう。さあ、そろそろ終着点だ。マッシュのヤツが見えて来たぞ」
吸血鬼は、此方が思ったよりも消耗していない事に驚いた様子を見せていた。しかし、冷静になると再び槍を一振りして、グールを地中から出現させた。
またしても100体近い数がおり、どれだけ用心深いんだと思わされる。
その上で、この二百体近いグールはどうやって調達したのかが気になった。もしかして、王都に住む人たちの血を吸って転化したのではないか? もしそうであるなら絶対に吸血鬼とは相容れない。
「ラファ、ミカ、グールは俺に任せてお前たちはマッシュを倒せ。今からまた緋王眼を使って血路を開く、そこを通ってマッシュに辿り着くんだ!」
俺はラファとミカの返答を聞く前に、緋王眼を再発動させた。そして、マッシュを守るかのように展開していたグール共をマッチのように燃やしていく。
「なっ、まさか魔法だと! ダンピールが魔法など、貴様は一体何者だ!?」
「あら、余裕じゃない。私達二人を相手にして、生き残れるとでも思っているの?」
「滅殺ですわ」
開いた血路を通り、二人がマッシュに辿り着く。俺も負けていられない。挟撃されないよう、グール共を殲滅しなければ。
俺は緋王眼を全開にして、グール共を焼いていく。
彼らが何処から来てどうしてグールになったかは分からない。しかし、今の吸血鬼にいいように操られる状態は決して良い状態とは思えない。せめて焼いて解放してやる事だけが今の俺に出来る事だろう。
評価等頂ければ幸いです。




