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41話 幻界


 気が付くと闇の中に居た。

 

 上下左右真っ暗で俺の他は誰も居ない……これは夢か? 不思議な事に自分自身の体だけははっきりと視認できるため、そう思っていたら、後ろから肩を叩かれた。


 誰かと思って振り返れば……なんと人間体に戻ったカーミラが居た。


 俺は慌ててその場に膝を突いて首を垂れた。



「我が君! 相変わらずのお美しいお姿で、嬉しく思います!」

『よすがよい。この身はこの場では幻影なれば、そう畏まる事もない。しかし、その心意気やよし! 従僕から侍従に格上げしてやっても良いぞ』

「ははー、ありがたき幸せ!」



 ……などと、またも三文芝居を繰り返してしまったが、ここがどういう場所であるか少し思い出した。先ほど額に頭をぶつけられた時、彼女は『幻界』と言っていた。


 恐らくは、その幻界とやらがこの空間なのだろう。しかし、彼女と俺以外、真っ暗で何もなく、少し落ち着かない。



『フム、それもそうか……ならば我らが出会った場所でも用意するか』



 カーミラが手を振ると、闇は一変し、逆さ十字と森に囲まれた広場が現れた。そして中天には二つの満月がある。まさしく、俺が彼女と初めて会った時と同じ場所だ。



『この幻界は、我とお主が共有する精神世界のようなものと思えばよい。此処であればどのように暴れようと気にすることはない。力試しにはうってつけの場所であろうよ』

「それは、なんと……素晴らしい! ありがとうございます」



 俺が暴れるとどうあっても目立つし、それを敵情視察される懸念があって、どうにも訓練ができなかったのだ。それがこの幻界であれば気にせず訓練が出来ると言う事。


 俺は膝まづいたままカーミラに謝意を示した。



『カカカ、礼を言うには少し早いぞ。どれ、我が言っておった男爵級の吸血鬼、そして子爵級の吸血鬼がどのようなものかを教えてやろう。ほれ、立つが良い。多少、スパルタ式で行くからな、しかとその身に戦い方を刻むがよい』



 俺が驚いて立ち上がると、其処には十を超える吸血鬼が迫っていた。俺は目隠しをまくり上げると、精霊眼を全開にして立ち向かっていった。




---




『どうだ、少しは吸血鬼との戦い方を覚えたか? 子爵級までならば、そう気張るものではないと判ったであろう。明日、相手をする男爵級なぞ、それ以下じゃ。後れを取ることなど、あり得ないと分かったじゃろうが』

「ふー、ふー……、た、確かに我が君の言う通りでした。この程度であれば、ラファやミカを守りながら立ち回れるでしょう。我が君には感謝しかありません」

『うむ、良きかな。謝礼はアレよ、お好み焼きを二枚で手を打とうではないか。朝起きたらすぐにでも献上せよ』

「承知いたしました……ところで、この幻界は何時まで維持されるのでしょうか?」

『心配するでない、もうそろそろ朝じゃ。さすれば自然と幻界は解けるようになっておる』

「そうですか……」

『なんじゃ? まだ何か懸念すべきことがあるというのか? 本当にお主ら異界人は心配性じゃのう』



 カーミラが呆れたように溜息を吐くが、俺は慌ててそれを否定した。



「いえ、折角ですのでカーミラ殿の姿を目に焼き付けておこうかと思いまして……その、決して白猫の姿も悪くないのですが、やはりそのお姿の方がお美しい。侍従として仕えるなら今のお姿の方が嬉しく思います」

『な……こ、この、女誑しめが! 誰にでもそう言っておるのではなかろうな!? もしそうであれば目玉をくりぬいて、舌を引き抜いてくれようぞ!』

「と、とんでもない。私が尊敬する主様だからこそ、言わせて頂いているのです。貴女様ほどの強く、美しい女性に仕えられる栄誉、それは元の世界に在っては絶対に得られなかったもの。それを今、幸せを噛みしめているのですよ」

『ぬぅ……実はこ奴、野に放ってはならぬ女誑しではないか?』

「えっと、何かおっしゃられましたか?」

『なんでもない! その忠誠心、我以外に向ける事は無きよう覚えておけ、絶対じゃぞ!?』

「はっ、それは勿論の事。我が忠誠は永遠に貴方様のモノです」

『くっ、ええいもういい! そろそろ幻界が解ける頃合いじゃ。お好み焼き二枚、いや、三枚を所望する、此方も忘れる出ないぞ!』

「ははー!!」


(うーむ、アレくらい美辞麗句を並べないと怒り出すクライアントが居たからつい使ってみてしまったが、カーミラはそうではないようだ。今度からは抑えよう)」



 そして目が覚める。


 アレが現実であったことは、自分の体に起こった内部変化によって分かっている。それに――


 

『おい、侍従よ。お好み焼き三枚、忘れてはおるまいな?』

「もちろんですよ、我が君。ちょっと早いですが起きて町に買いに行きましょう。さ、いつも通り懐に入ってください」

『そ、それは少し……今日の所は遠慮する! 自分で歩きたい気分なのじゃ』

「そうですか」

『あっ、こら、撫でるのも……くぅ、これだけは堪えられん。もそっと耳のほうを……ああ、よい心持じゃ。お主は本当に猫を撫でるのが上手いの』



 それから十分ほど撫でて主が満足するのを待ってから、出かけるのであった。


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