39話 苦戦
結局のところ、俺達はチームを組んで大草原や大森林にて狩りを行い、それによって相手の吸血鬼の出方を待つと言う作戦を採用する事にした。相手の本拠地が分からない現在、それしか方法がないと言うのが正しいか?
なお、ラファとミカが知り合いのダンピールに声を掛けていたようであるが、相手が子爵級の吸血鬼と知ると皆遠慮して参加せず、結局は俺達三人のみとなった。
ああ、因みにカーミラが緋王眼を使える事については、しれっと『無論、我も使えるぞ。なにせ魔王じゃからな』と宣っていた。
『あと、我の言葉に嘘はない。昔はダンピールも魔法や魔眼を使っておったのじゃ。しかし、強力なダンピールは吸血鬼種族の強大な敵となるでな。丁度100年ほど前に、子爵級以上の吸血鬼と人間との交配を禁じたのじゃ。その頃から魔法や魔眼を使えるダンピールは居なくなったのだ』
――とのこと。
どうやら長命種にありがちなジェネレーションギャップが、情報が錯綜した原因だったらしい。それを聞いて何とか理解ができた。
そんな訳で無事に疑問が解消された事で、作戦に邁進することができる。とにかくやる事は昨日と同じだ。
リビングデッドには生命力が無いので、俺の探知には引っかからない。
故に、探知に引っかかるゴブリンやオーガ、一角兎や二角熊などを倒し続けていたら、いつの間にか夕暮れ時に差し掛かっていた。
「ピエールのような子爵の配下が出て来るとなれば、この時間帯だけれど」
「昨日の今日だからな。相手も配下を失って慎重になっているかもしれない」
「あと一時間だけ粘ってみますか? それで出て来なければ今日は帰る事にしましょう」
「その心配はありませんよ。貴方達ですか……我が同僚を滅したのは」
突如として俺達の会話に割り込んできた男の声に、俺達は振り返った。
そこには昨日のピエールと同じく、インバネスコートを着込み、かっちりと髪型をオールバックに決めて、口元からは長い牙が生えている吸血鬼が居た。いや、恐らくは幻影か。
「私の名はマッシュ。ピエールとは仲の良い同僚でした。貴方達がピエールを滅したという事で間違いありませんね?」
「ああ、その通りだ。俺達の事をドブネズミだのなんだの罵ってきたからな……逆に駆られる側がどちらかを教えてやったまでだ」
「なによ、また幻影? 意外と臆病なのね、吸血鬼って」
「ワタクシ達がそれほど怖いですか」
「ええ、コワいですね。ピエールはアレでも剣の腕前は同期の中でピカ一でした。それを難なく倒せる貴方達は、どのような力を秘めているのか、とても興味があります」
そう言うと、マッシュはパチンと指を鳴らした。
それが合図だったのか、複数体のリビングデッドが地中から這い上がって来た。
「皆さんにはこ奴らを相手に手の内を晒して貰います。よもや逃げるという事はありますまい」
「フン、この程度の数のリビングデッドを相手に、逃げるも手の内を晒すも無いわ。殲滅してあげる!」
そう言ってラファがメイスを構えて殴りかかって行く。
あの怪力で振るわれるメイスにかかれば一撃で倒せるだろう。そう思って見ていたら、なんと、リビングデッドはその一撃に耐えてみせた。
「なにっ!?」
「おっと言い忘れておりました。そ奴らはリビングデッドよりも一段階階位が上の屍食鬼です。耐久力は単なるリビングデッドとは桁違いですので、気を付けた方が良いですよ?」
「クッ、屍食鬼ですって!?」
屍食鬼とは、その名の通り死体を食らう鬼で、単に蠢くリビングデッドとは在り方自体が全く異なる鬼だ。鬼の名を関するだけあってその力も耐久力も桁違い。それが十数体もいるこの状況は、まさしくピンチと言えるだろう。
「ラファ、ミカ、ここは一旦退散を……」
「冗談っ、グールもダンピールの獲物に違いはないわ!」
「ええ、そのとおりですわ。多少数が多くてもこの程度、切り抜けてみせます」
ああ、もう……敵の目的は此方の戦力を分析する事だっていうのに、何を馬鹿正直に戦おうとしているのか。
こうなったら仕方がない。俺も緋王眼を使ってグールを撃退しないと無傷とはいかないだろう。
なぜ無傷でないといけないかと言うと、グールはその爪や牙に毒を持っている事が多いからだ。屍肉を食らうためにその爪や牙に酵素を持っていて、それが生者に対しては毒となる。
いうなれば毒を持ったゴブリンかオーガを相手にするようなものだと考えて貰えばいい。
「ラファ、ミカ、此方へ来い! 俺の緋王眼で一気に殲滅する。そいつらには毒があるんだから接触はなるべく避けるんだ」
「そんなの分かっているわっ、アンタこそ、なに切り札を使おうとしているのよ。敵の目的は私たちの戦力分析なのでしょう?」
「対グールの装備くらい、備えておりますわ。ワタクシ達の事は気にせず、貴方は戦力を温存することを考えてください」
どうやらここにきて、チームワークの無さが露呈したようだ。昨日今日で組んだばかりだからチームワークも何もあるわけがないのだが、こうも不測の事態に弱いとは思わなかった。
俺達は大量のグールを相手に、わずかではあるが追い詰められつつあった。
評価等頂ければ幸いです。




