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35話 宣戦布告


「おやおや……鼠の匂いが強いと思ったら。これはいけませんねぇ……私の縄張りに三体ものダンピールが。いけません、いけません。こうも臭ければ安心して眠る事さえ難しい。貴方達には早急にご退場頂きますよ」



 インバネスコートに、かっちりとオールバックに決めた髪型。そしてなによりも口から覗く鋭い牙。



「まさか、昼を歩く吸血鬼(デイウォーカー)!?」

「そんな大物が王都の近くに!」

「いや……恐らくは使い魔による幻影だ。自身の探知能力を試してみろ、目の前の吸血鬼からは何の反応も得られない」



 そう言うと、感心したかのように吸血鬼は目を見開いた。



「どうやら、少しは頭の回る者がいるようですねぇ。小賢しいと褒めて差し上げましょう」

「それで? 俺達より少し頭の悪い吸血鬼がなんの用だ? 宣戦布告というなら受けて立つぞ。王都の夜をお前のような小物に跋扈されたら寝つきが悪くなる。今からでも出てきたらどうだ。ちょうど黄昏時だし、これからはアンタの得意時間だろう?」



 俺の挑発に幻影の吸血鬼は目を細めて怒りの意を示した。そして、今までの余裕をかなぐり捨てて口汚く罵って来る。



「こぉんの、ネズミ臭いダンピールが! いいだろう。我が主に代わり、このピエール様が貴様らを直々に縊り殺してくれる! そこから動くんじゃねぇぞ、このどネズミ野郎共が!」



 本性を現した吸血鬼は、如何にもといった化け物面を晒すと、その場の幻影を消し去った。恐らくは本来いる場所からこちらへ向かっているのだろう。



「さぁて、どうするお二人さん。俺はこの場でピエールとか言った吸血鬼を迎え討つつもりだが?」

「あら? 私たちが逃げるとでも思っているの?」

「朝にも申し上げた通り、ダンピールにとって吸血鬼狩りは本分ですし、王都の平和を乱す者が名乗りを上げた以上、放って置く訳にはいきませんわ。貴方こそ、ここはワタクシ達に任せて逃げても良いのですよ?」

「はは、あれだけ啖呵を切っておいて逃げたとあれば沽券に関わる。勿論、戦わせて貰うさ」

「じゃあ、共闘と行きましょう。一応、私たちの方がギルドランクが上だから、私たちの指示に従ってもらうけど、いいわね?」

「了解だ」



 そんな訳で、この場でピエールとやらを待つ事になった。しかし気になるのはヤツの言動だな。ヤツは我が主人と言った。つまりそれは、彼自身の他に上位の吸血鬼が居るということに他ならない。


 可能であればカーミラにその辺の事情を聴きたいところではあるが……。



『なんじゃ? 我にピエール何某の事を聞かれても困るぞ。吸血鬼の魔王とは言っても末端の構成員の事など知るよしもないからな。あの露骨な馬脚の現し方からするに、吸血鬼になって十年もたっておらぬ若造であろうよ。お主であれば瞬殺じゃ、瞬殺』



 確かに、俺の精霊眼を使えば瞬殺できる可能性は高いが、それではヤツの背後にいる上位者を引きずり出すのが難しくなる。ここは、ある程度、相手の好きに戦わせて情報を引き出すのが良策だと思うのだが……。



「ウフフ、久しぶりの吸血鬼狩りね。ミカ、準備は良い?」

「ラファこそ……この前はラファばっかり楽しんじゃって、ワタクシにはお鉢が回って来なかったじゃない。今回の先手はワタクシが取らさせてもらいますわよ」

「えー、それはずるいわ。ああいうのは早い者勝ちって決まっているじゃない。ゲンヤ、まずは私たちが様子を見るから、貴方はピエールが逃げないように見張ってなさいよ」

「……え、うん……了解した」



 どうやら彼女たちは、吸血鬼がやって来る事を理解した時点で狂戦士バーサーカーと化したらしい。手に持ったメイスを片手でグルングルンと振り回す様子はまさしくアマゾネスだ。


 これは、情報を引き出すのは諦めた方が良いかなと半ば諦めていると、いずこからともなくバッサバッサという音が聞こえて来て、俺達の目の前に憤怒の表情の吸血鬼が降り立った。



「見つけたぞ、このドブネズミ共が! 貴様ら全員、ダルガン子爵様の部下である、このピエールが血を吸い尽くして殺してくれるわ!」

「あらあら、それはご丁寧にどうも。でも残念、このミネルバの血族に身を連ねしダンピールのラファ。お前如きに血を吸われるほど耄碌はしてはいない」

「同じくミネルバの血族に身を連ねしダンピールのミカ。ワタクシもアナタ如きにやられるほど愚か者ではありません。返り討ちにして差し上げますわ!」



 えっと……これって、なんだろう。ヤクザ者や渡世人の如く、なになに族の誰々ですって名乗るシーンなのだろうか。さっきから、俺の名乗りをみんな待っているような感じだし……名乗らなけりゃ駄目? 駄目か……。



「えーと、真祖カーミラに血を半端に吸われてダンピールになったゲンヤです。今後ともよろしく?」



 俺がそう名乗ると、ラファとミカは持っていたメイスをぼとりとその場に落とし、ピエール何某は顎が地に着くくらい口を広げて俺を見つめるのだった。


評価等頂ければ幸いです。

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