34話 共闘
「役割分担だけど、俺がオーガの相手をするから君たちはゴブリンの相手をするって事でいいかな?」
「とりあえず了解したわ」
「危なくなったらすぐにフォローに入りますから、お気を付けて」
咆哮を上げて襲ってくる魔物達を前に、彼女たちにそう伝えると、魔物の方へ向かって走り出す。
さて、ここいらでシノビらしいところを見せておこう。
城塞都市から王都までの一週間、歩くだけで何もせずに過ごしたわけではないのだ。シノビの技とダンピールの能力を合わせたこの術をご覧あれ。
俺は目隠しを捲りあげると、持っていたナイフに金縛りの呪印を刻み、オーガの影に向かって投げつけた。普通にオーガへ向かってナイフを投げたのであれば、その隆々とした筋肉に弾かれてなんのダメージも与えられなかったであろうが、俺が目標としたのはその影である。
どういうつもりだと、彼女達からも当のオーガからも疑問のような視線を感じたが、効果は直ぐに現れた。こちらに向かって走っていたオーガが、突然ピタリとその動きを止めたのだ。
ヨシ! 影縫いの術、成功なり。
「オーガの動きが止まった?」
「ちょっと、え、なに、どういう事!?」
「種明かしは後だ。オーガが止まっている間に、君達はゴブリンどもを片付けてくれ」
『……了解!』
突如として発現した俺の不可思議な術に戸惑いつつも、彼女たちはゴブリンどもをメイスで殲滅していく。その威力は凄まじく、ゴブリンが持っている棍棒ごと薙ぎ倒す様は台風のようだ。その可憐な姿からは想像もつかない。
俺も負けていられないなと、影縫いの術で動きを止められたオーガの前に立つ。
オーガは自分の身に起きたことが全く分からず、どうにか四肢を動かそうとしようとしているが指一本動かない。動きが止まっているのであれば、いくら頑強な体を持っていたとしても俺にとっては単なる的である。
俺は右手でもって貫手を作ると、その心臓目掛けて繰り出した。
繰り出した貫き手は、分厚い筋肉を貫き、肋骨を砕いて心臓に到達。脈打つ心臓を破壊して死に至らしめた。
絶命したオーガは最後まで自分に何が起こっているか、分からなかっただろう。
俺の影縫いの術によって未だ立ったままのオーガに対し、地面に突き立っていたナイフを抜いた。それによって、ようやく金縛りから脱したようでオーガは地響きを立てて仰向けに倒れた。
丁度、彼女達もゴブリンどもを倒し尽くしたようである。
俺がオーガを倒した術について興味津々といった感じであるが、まずは討伐部位を切り取ってしまうのが先だ。
ゴブリンやオーガ、それぞれの頭に生えている角を黙々と切り取り、死体はその場に置いて移動した。あれらの死体は野生動物の糧となるだろうから無駄にはならない。
「さて……良ければ、さっきの不思議な技について教えてくれる? オーガがあんなにも簡単に動きを止めるなんて見たことも聞いたこともないわ」
「マナー違反に成らない程度で教えて頂ければ……もし、この先、チームを組むことになればと思うと、知っておきたいのです」
「まあ、あの程度の術であれば隠し立てするつもりもないよ。ナイフと影を利用した瞬間催眠術といったところかな……」
どうやら俺の目は、半吸血鬼となった事で様々な事が出来るようになったようで、地水火風を操る事もできれば、幻術や金縛りといった事も可能だ。
ただし、幻術や金縛りはかなり相手へ近寄る――具体的には1m以内で直接相手の目を見る――必要があり、戦闘では中々使うのが難しい。
そこで、ナイフにその呪印を刻んで投げつける事を思いついた。また、ただ投げつけるだけではナイフを避けられてしまって注目してくれない事が考えられるので、相手の影に投げつければそこに注目する可能性が高い。
可能性としては半々ではあるが、今回は上手く行った。
次からはナイフを赤く塗って注目度を集めたりするのもアリかなとは思うモノの、下手をすれば味方も巻き込んでしまうので、目下使い方を研究中である。
「へぇ、凄いわね。よほど貴方の親は優秀だったんでしょうね。私たちが受け継いだのは怪力と吸血鬼の探知能力だけよ」
「瞳術が使えるダンピールはまず存在しません。うらやましいです」
「そうなのか? 確かに俺の親は凄まじく強い存在らしいから……誰とは言わないけどな」
ここでカーミラの名前を出すと、連れている白猫と関連付けされてしまう懸念があるから、あえて名前をぼかす。
彼女達とは出会ったばかりだし、これくらいの距離感が丁度良い気がする。
「そう。じゃあ、その気になったら教えて頂戴ね」
「その時になったら、ワタクシ達も親の名前をお教えしますわ。そうでなければフェアとは言えませんものね」
「了解だ」
そんな感じで、俺達はこの日、大草原で引き続きオーガやゴブリンを倒して親交を深めたのだったが……夕暮れ時に、その化け物は現れた。
評価等頂ければ幸いです。




