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32話 新たな出会い


 前日は徹夜であったし、王都に着いても食べ巡りや、ギルドへの挨拶をしたこともあって、俺は宿に着くなりぐっすりと眠ってしまった。


 翌朝、白猫カーミラに爪を立てられて起こされたくらい疲れていたようで、大きく欠伸をしながらベッドから降りる。



『随分と疲れていたようだったな下僕。もう昼に近い時間だぞ? 我を抱いて歩きながら徹夜したのだからさもありなんが……我は腹が減った。食事を用意するがよい』

「了解です、我が君。特に好き嫌いがないようでしたら昨日の屋台のモノを適当に買い巡る事をしたいと思いますが……あ、そう言えば猫の体だと味の濃いモノはなるべく避けた方が良いんでしたっけ?」

『馬鹿を言うな。一時的に猫になっているとはいえ、この身は真祖なるぞ。食事どうこうで体を壊す理由なぞない。しかしその心遣いはよいな。下僕から従僕へ格上げしてやっても良いぞ』

「へへー、我が君の慈悲には誠意をもって応えさせて頂きます。具体的には、貴女様が一番気に入られていたであろう、お好み焼きを献上したく思います」

『おお、良いな! 早速出かけようではないかっ』



 そんな三文芝居?をしつつ、俺達は宿のチェックアウトを済ませて大通りに出た。相変わらず人の往来が激しく、色々な人種が入り乱れて歩いている。


 俺はその中で昨日食べたお好み焼きの屋台に向けて歩を進めると、二人分を注文し、焼けるのを待つことにした。


 それにしても、だ。俺には屋台の親父さんに聞きたい事があった。



「この料理はいつから出しているんですか?」

「ん? おお、聞いて驚くなよ。オレで四代目になる。初代から合わせるとなんと50年前からこの料理を出しているんだ」

「へぇ、それはそれは……失礼ながら初代様はご存命で?」

「いや、あの方はもう亡くなっているな。この『お好み焼き』の他にも、焼きそばや焼き鳥、おでんと、次々に斬新な料理を開発した伝説的なヒトだったが、寿命には勝てねぇよ」

「それは……残念ですね。是非、お会いしてみたかったのですが……」

「なぁに、初代が開発した料理の味は俺達が受け継いでいる。あのヒトが生きた証はちゃんと此処にあるから、なにも悲しむことはねえってな。っと、二人前上がったぜ、どうぞ味わって食ってくれ」



 俺は親父さんからお好み焼きを二皿、紙の器で受け取ると、近くの座れる場所へ移動し、白猫カーミラに一皿渡して食い始めた。


 うん。やはり普通に日本のお好み焼きだ。ソースは微妙に異なっているが、具や生地は全く同じである。俺以外の転移者に会えると思ったのだが、もう亡くなっているというのなら仕方がない。


 親父さんが言うように、味はちゃんと受け継がれているのだから、これで以って日本を懐かしめばよいのだ。



『フム。ヒトの作ったものなど長らく口にしていなかったが、コレは中々美味なものよな。このようなものをずっと食い逃していたと言うのは反省すべきじゃの』

「気に入ってくださって何よりです。お腹は満ちましたか? それでは今日はギルドで仕事を請けたく思います。そろそろ路銀が心もとなくなってきておりますので」

『あい分かった。我は現地に着くまでお主の懐で眠っておるでな。着いたら起こすがよい』



 お好み焼きを完食した白猫カーミラはそういうと、ぺろりと自身の口の周りを舐めて、俺の懐に収まった。そして、くーくー寝息を立てて寝入ってしまう。


 なんだか本当に猫のようなぐうたらぶりである。こんなんでよく魔王とやらが務まったものだと思いつつ、俺はギルドの方へ歩いて行った。



 ギルドは昨日と変わらず、ひっきりなしにヒトの出入りがなされていた。


 俺はそのヒトの流れに乗って何とかギルドの中に入ると、依頼票が添付されている掲示板の方へ辿りつく。


 その作りとしては前に居た城塞都市と同じで、清掃、配達、戦闘、護衛、調査、調達、探索、その他諸々の大項目の下に依頼票が添付してある感じだ。


 前職を活かすのであれば、『調査』や『探索』であるが、俺はもうあの神経をすり減らすような仕事の日々を送りたくない。よって今回も、『戦闘』と『調達』をメインに仕事を請けていく事になるだろう。


 どれどれ、戦闘に関する依頼票を見ると……昨日、受付のお姉さんが言っていた通り、大草原に出没するゴブリンやオーガの討伐依頼がある。どうやら常設の依頼らしく、その討伐部位である角を持ってくれば依頼完了となるようだ。これは覚えておこう。


 そして、大きく気になったのが、リビングデッドの討伐というヤツがある。これも大草原や大森林で稀に見つかるようで、常設依頼になっているようだ。



「カーミラ殿、起きてください」

『……なんじゃ? もう仕事場に着いたのか?』

「いえ、その、今はギルドの依頼掲示板の前に居ます。王都の近くでリビングデッドが出るので討伐して欲しいという依頼があるのですが……この辺りで配下の吸血鬼が居たりします?」

『この王都の付近でじゃと? ……いいや、記憶にないな。もしや、はぐれの吸血鬼が獲物を襲い生み出しておるのやもしれぬ』

「はぐれの吸血鬼ですか……」



 とりあえず、半吸血鬼ダンピールの持つ探知能力を使ってみるが、今のところは距離があるらしく、存在を捕えられないようだった。しかし、リビングデッドとくれば、生み出している親がいるのは間違いない。王都での平穏な生活を営むためには、このはぐれ吸血鬼にはご退場して貰わねばなるまい。


 俺が静かに闘志を燃やしていると、肩に手を掛ける者がいた。


 何者かと思って振り向くと俺と同じく目隠しをしている女性が二人……ちょっと話さないかと、指でジェスチャーをしている。


 

「もしかして君たちは……」

「うん。ご想像の通りだと思う。この依頼に興味があるんだろう? ここでは少し人目が多い。お互いの素性も含めて話がしたいんだが、どうかな?」

「貴方様の不利益になる話ではないと思いますわよ。どうやらワタクシ達には共通の敵がいるもよう。その話をさせてくださいな」

「わかった。じゃあ、そこの打ち合わせスペースを利用させて貰って自己紹介と行こうじゃないか」



 俺達はお互いに頷き合うと、それぞれ席に着いた。


評価等頂ければ幸いです。

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