30話 王都到着
王都を一目見て出た感想は、凄く大きいという単純なモノだった。
なにせ町を囲む城壁が視界の限り続いているし、中央にある城は首の角度をかなり上げないと視界に収まり切れない。
この世界に来た時、中世くらいの文化レベルだと感想を持ったが、少なくとも建築技術は近代に近しいモノを持っているのではないかと思わされる。
さて、図書館で得た知識によれば、この王都は南と東に海が広がっており、西には大草原と更にその西方には大森林が、そして北には俺達が通って来た街道があって多くの城塞都市が築かれている。
いわばこの王都は海の玄関口としての機能も備えている、巨大な貿易都市なのである。
『いつまで見惚れておる気じゃ。昨日は徹夜だった故、早く休んだ方が良かろう。まったく、ダンピールの能力をフルに使えば簡単に踏破出来る距離であったものを、出し惜しみし寄ってからに』
「要らぬ敵を作らぬためですよっと。貴女も家出中の身ですから変に目立たない方が良いと納得されたでしょうに」
『それはそれ、これはこれじゃ。腹も減っておるし、まずは十分な食事を所望するぞ。ほれ、早く入門の手続きをしてしまえ』
俺は白猫に促されて城壁に近づいた。
どうやら正門の他にいくつか門があるらしく、通行人の身分によってどの門を使うかが決められているようである。
例えば一番大きな正門は王族や貴族用、二番目に大きな門は商人や行商人用、そして最も小さい門は旅人やギルド所属員用であるようだった。
俺はギルドの所属員であるため、一番小さな門へと並んだ。
流石に王都だけあってヒトの出入りが激しく、結構な列が出来ていたのにドンドンと人が捌けて行っている。いや、捌けているのが早いのは俺達が並んでいる門だけか。
どうやら旅人は滞在用の税金を払っているが、ギルド所属員はタグを見せるだけで通行を許可されているようである。
最初の城塞都市でギルド所属員になっておいてよかったなと思いつつ、順番が来た俺は自らの『E』という刻印がされたタグを門番に見せた。
「ん、む? お前は初めて見る顔だが、何処かの町から流れて来たギルド所属員か?」
「ええ、そうですが……初めての場合は滞在用の税金が必要だったりします?」
「いや、そんなことはない。ギルドの所属員はその仕事で得た糧から税を天引きされている。『F』ならともかく『E』ランクともなれば一人前だ。十分に税を払っているから、滞在料を払う必要はないぞ」
「そうですか。お教え頂きありがとうございます」
どうやら知らぬ間に源泉徴収されていたらしい。俺は一言門番に礼を言って王都に入った。
外から見ても凄かったが、中に入っても王都は凄かった。
整然と立ち並ぶ街並み。
異臭も無ければ汚物も落ちておらず、恐らくは下水道が完備されているものと思われる。
それどころかごみ一つ落ちておらず、大通りには多くのヒトが行き来をしている。
ただ、門の近くにはあばら家が多く、中央の城がある方向へ向かって家が立派になって行っているのはこれまで通って来た城塞都市と同じか。
それにしても白亜という文字が似合いそうな立派な城だ。恐らくあの城に招かれることなど、一生無いだろうなと思わせられる。
そうやって馬鹿みたいに城を眺めていたら、懐の白猫が胸にチクリと爪を突き立てた。
『何を馬鹿みたいに突っ立っておる。先ほどからスリらしき下賤な者達がお主の財布を狙っておるぞ、用心せい』
「これはご忠告、ありがとうございます。なるほど……街並みは綺麗ですが、住んでいるヒトもそうとは限らないらしい」
俺はそれの場でぐるりと周囲を見渡すと、近寄ってきそうだった男たちがバツの悪い表情となって俺から離れていく。まったく……油断も何もあったものじゃない。
さて、忠告をしてくれたお礼に、まずは食事を摂る事にしよう。
「カーミラ殿、何か食べたいものはありますか?」
『そうさな……おお、丁度良い感じに屋台が出ておるではないか。とにかく腹が減っておるでな、あの屋台で売っているもので構わんぞ』
「承知しました」
いい匂いをさせている屋台に近づいていくと、驚くべきことに、焼きそばに似た麵料理を売っていた。いや、見た目も匂いも掛かっている青のりや紅ショウガも同じもので……これは、俺以外の転移者が広めたものなのかもしれなかった。
「よう目隠しのあんちゃん。王都名物、『焼きそば』だ。一皿400オンスだが、どうだい?」
そう言って愛想笑いをしてくる店の親父さんに、此方も愛想笑いを返しつつ俺は内心驚いていた。どうやら、この異世界。俺以外にも迷い込んだ日本人が本当に多く居るらしい。
そんな事はおくびにも出さず、俺は財布を取り出すと、大銅貨4枚、400オンスを支払って『焼きそば』を頂戴した。
一口食べてみると……うん、少し味は薄いがまごうことなき焼きそばである。これは……レシピを作った人間と接触してみる必要があるな。
『おい、お主だけずるぞ! 我にも食べさせろ』
俺は、はいはいと返事をすると、懐から携帯用の皿を取り出して半分以上を取り分けると白猫に焼きそばを献上するのだった。
評価等頂ければ幸いです。




