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26話 緋王眼


『あの日、逆さ十字に惹かれたお主ならわかるだろう。ただただ退屈と言う名の灰色の世界を過ごす日々は、苦痛以外の何物でもないのじゃ。それが……この無為な時間を止められるッ、己が意識を止められる方法が目の前にあるのじゃっ! このような甘美で切実な思い、これまで生きて来て初めてかもしれん』



 カーミラはそう言って、頬を上気させ俺の周りをくるくると踊り回る。


 そんなに死に飢えていたのかと、若干引いた俺ではあるが、少しは彼女の気持ちも分かる。俺だって元の世界であの生活をあともう十年も続けていたら本気で自殺を考えていたかもしれない。


 彼女がどのような生活を送って来たのかは分からないが、例えば魔王?とやらの座で同じことを何百年も続けていれば、飽きもすれば退屈も限界にくるだろう。


 それが今の彼女だとするのであれば、納得は難しいものの理解はできる。



「それで、カーミラ殿。俺の緋王眼とやらを今この場で受けてみますか? 特に制約は無さそうですし、試してみるのもアリだとは思いますが?」

『いや……残念ながら、今はその時ではない。お主の出力はまだまだ弱いし、もし我が突然消えたとなれば、我が統括する組織も混乱するであろう。引継ぎをせねばならんし、お主はお主で力を伸ばす事をしなければならん』

「そうですか……しかし力を伸ばすと言っても俺は一体、何をすればよいのでしょう?」

『やり方としては色々とあるが……まずは、先ほどお主が斃したリビングデッド、その力の結晶を喰らうがよい。その深紅の丸い結晶のことじゃ』



 ああ、昨日、黒猫先輩が食っていたあれか!


 アレは何だと思っていたらリビングデッドの動力源のようなものだったらしい。それを食えばパワーアップするというのも何となく理解ができる。


 俺は、落ちていた五つの紅い結晶を拾い集めると、一瞬、躊躇したのち飲み込んだ。するとどうだろう。体の中を稲妻のような快感が走り廻る。


 これは何だ!?


 酒やタバコをやった時とは比較にならない酩酊感だ。俺は立っていられなくなって膝を突いたがそれでもきつくて、地に両手を突いてしまう。



『フム、初めての時はそんなモノか……まぁ、我の食い残しじゃからな。それなりに力を秘めておるから、そうなるのも当然か。喜べ、それでお主の力はそれなりに上がったぞ。先ほどと同じように岩へ向かって緋王眼を試してみるがいい』



 俺はふらつく体を何とか気力で支え、言われた通り、岩へ向かって『燃えろ』と念じてみる。するとどうだろう。さっきよりも幾分大きな炎が岩を焼いた。


 先ほどは表面が黒く焦げる程度であったのに、今回は少しだけ赤熱しているような?



『クク、ハハハ! ……見事なものよ。これを繰り返せば、お主の力は我に届き得るだろう。配下の者にも死にたがりは沢山おるでな。これで以って彼奴等を倒し、力を取り込み続けるが良い』

「いや、ちょっと待ってください、それってこれから吸血鬼が俺に向かって来るって事ですか!?」

『その通りよ。まぁ中にはお主の事を目障りに思って殺しに掛るヤツも居るかもしれんが……ま、お主の緋王眼があれば大抵の吸血鬼には勝てる。精進せい』

「そんな……」



 冗談じゃないぞ、それって吸血鬼に常時、命を狙われると同義じゃないか!


 せっかくこの世界に来て心休まる日々を過ごせていたと言うのに……下手をすれば、周りに被害が出るかもしれないから、旅から旅への生活をせざるを得ないかもしれなくなる。



「か、カーミラ殿! その、俺の存在を配下の者へ知らせるのは少しだけ待って頂きたい。俺としてはまだこの世界にやって来たばかりで、何もこの世界の事を理解していないんだ。勉強する時間を頂きたい」

『駄目じゃ。お主は一刻も早く我に届き得る力を得て貰わなければならん。ほれ、残りの食べカスも我が使い魔が連れて来てくれたぞ。今日はあやつらを倒すだけで勘弁してやろう。それがせめてもの慈悲だと思え』



 くそっ、やはり思っていた通りの暴君か。


 カーミラはそれだけ言うと、笑ながらその場から飛んで何処かへ行ってしまった。


 残されたのは俺とリビングデッドだけで、黒猫先輩もカーミラについて行ったらしい。


 俺は苛立ちを込めてリビングデッドを視界に収めると、燃えろ!と念じた。すると先ほどまでの炎よりもかなり出力の上がった炎が彼らを包み込んで灰にした。


 そして、その場に残ったのは深紅の丸い結晶だけだった。


 ……これをずっと続けろってことなのか。


 これからリビングデッドとは比較にならないだろう吸血鬼が襲ってくることになる。よもや吸血鬼がリビングデッド……いや、ゴブリンやオーガ程度の強さと言う事はあるまい。


 俺はこれからの事を考えて頭が痛くなるのを何とか堪えながら、その場に残った深紅の丸い結晶を飲み込むのだった。


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