23話 オーガ
このままオーガ達が退散してくれたら良かったのだが、どうやらそう目論見通りにはいかないようだ。
ゴブリンの1体が鼻をフンフンと鳴らしたかと思うと、俺の方を見上げ……目が合った(正確には俺は目隠しをしているので見つけられたという方が正しい)。
そして俺を見つけたゴブリンは、仲間に俺の存在を知らせるように人差し指を向けてゲシャゲシャと騒ぎ立てる。
……そう言えば獣は臭いで以って獲物を見つけるんだったなと、深く反省した。
しかし、どうしたものか……このまま下に降りて全員と格闘戦をするには少し骨が折れる。かといって、投擲用の武器は先ほど使ってしまって持っていない。
そうなると、木々を飛び移って逃げるのが良い方法だと思えるのだが、それを仲間を殺されたヤツラが許してくれるかどうか……。
俺は何をするのが正解か暫くの間、悩んだ。すると、体格が一際大きいオーガが俺の乗っている木に向かって拳を振り上げ……思い切り叩きつけた。
ずしん、という音を立てて俺の乗っていた太い木が折れ曲がる。
「嘘だろ! 拳の一振りで木を殴り倒すとか、どんな怪力をしているんだ!」
バキバキと音を立てて倒れる木から、別の木へと飛び移り、俺は反射的に目隠しをまくり上げていた。これはまともに戦ってはダメだ。少なくとも取り巻きのゴブリンは先に倒しておかないと。
俺は視界に全てのゴブリンを収めると『燃えろ!』と念じた。
すると、豪!という音を立てて全てのゴブリンが炎に包まれ、阿鼻叫喚の悲鳴を上げる。どうやら、この魔法じみた力は生物にも有効なようで、胸を撫で下ろした。
一方、生き残ったオーガは仲間が突然、炎に焼かれたことで恐れ慄いたのか、その場から逃げようと踵を返した。
いや、それは駄目だろう。
お前には討伐依頼が出ているし、先ほどまで俺を殺そうとしていたんだ。それが形勢不利になったらすぐに逃げようとするとか、そうは問屋が卸さないぞ。
俺はオーガが逃げる経路に視線を向けると、再び燃えろと念じ、炎を放つ事で退路を断った。
振り向くオーガの目には明らかに恐怖の色があったが逃がす訳にはいかない。
俺が戦闘態勢を取ると、オーガもようやく覚悟を決めたようで、持っていた大きな棍棒を振り上げて襲ってきた。
オーガによる棍棒の一撃は強烈無比で、その一撃を紙一重で避けたら、その風切り音だけで眩暈がするほどだった。更にその一撃は大地を深くえぐり、土砂が飛び散る。
やはり、まともに攻撃を受けたら怪我どころではなく致命傷となるだろう。
さて、どう攻めるべきか。やはり視界を潰すのが定石か……?
俺は巻き上げられた土砂をひと掴みすると、オーガの目に向けて放った。その土砂はイイ感じでオーガの目に目に入ったようで、顔に付いた土を払おうと棍棒を落として手を顔に持って行っている。
それは大きな隙だ。下半身ががら空きだぜ。
俺はオーガ背中へ回り込むと、その巨体を支える膝関節へ向けて思い切り足刀蹴りを放った。
ヒトを50mの高さまで跳躍させる脚力は思っていたより凄まじく……オーガの膝から下の足が吹き飛んだ。
その場に倒れて悲痛な悲鳴を上げるオーガに、俺自身も引いてしまった。
……いや、流石にこんな事になるとは思わなかった。もっと耐久力があるものとばかり……。
なんとか残った片足でケンケンして逃げようとするオーガに同情してしまいそうになったが、コイツは人食いの魔物である。
ここで逃がしたら別の人間が餌食になってしまうかもしれない。例えば、あのハーフエルフ兄妹がやられることを想像すると、とても見逃す気にはなれなかった。
俺は隙だらけとなったオーガの背中に忍び寄ると、貫き手を作り、その心臓に向けて放った。
放った貫き手は分厚い皮膚と脂肪層を、そして筋肉と骨を突き破り……心臓に到達。脈打っていた心臓を完膚なきまでに破壊した。
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さて、どうしたものかなと、俺は周囲を見渡した。
ゴブリンの死体が8体と、オーガの死体が1体。討伐部位は確か角でよかった気がするから、全部切り取ってギルドに提出しなければな。
今回の目的は、ダンピールとしての俺の能力把握の為に魔物と戦う事であったが、その副産物が飯のタネになるのでちゃんと回収しないと。
しかし、俺の身体能力の確認は消化不良気味だった。
苦戦すると思っていたオーガとの戦いも、一方的なものになってしまったし、これでは訓練にならない。いっそのこと、カーミラに稽古をつけて貰うかと一瞬頭をよぎったが、間違いなく八つ裂きにされることを思って慌てて頭を横に振った。
どこかに手ごろな魔物はいないモノか……森の奥の方へ行ったら、もっと強い魔物が出て来るか? いや……俺の探知能力を信じる限り、オーガ以上に強力な魔物はこの森には居ないようだ。
一旦、ギルドに戻って情報集めをするのが正解か……返り血に濡れた服も洗わないと取れなくなるだろうし、まずは森から出よう。
俺はゴブリンやオーガの角を切り取って袋に入れると、血で濡れた服を洗うため、近くの小川に向けて歩き出した。
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