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21話 魔王


 そして二角熊の解体が終わり、分配も昨日と同じように済ませた。今は熊の肉を頬張りながら世間話をしている所だ。



「しかし、本当に熊の毛皮を貰って良かったのかい? 昨日もそうだけど、逃げ回ってた僕たちが貰う分量としては多すぎる気がするんだけど……」

「なに言っているんだよ兄貴! 私達が居なけりゃコイツは熊を見つける事ができなかった。それに解体だってこっちが殆どやったんだ。毛皮くらい貰う権利は十分にあるぜ!」

「まあ、そういうことだな。二角熊を倒したのは俺だけれども、それに至るまでに苦労した君らの事を考えれば、総取りというわけにはいかない。こうして肉も調理してもらったし、何より嵩張るからなぁ……この後、俺は大森林で小鬼ゴブリンや、大鬼オーガとも戦うつもりだから、角ぐらいしか持てないってのが本当のところだ」



 本当なら角も邪魔なんだけれども、短く切って袋に入れておけばそう邪魔にはならない。これだとインテリアにはならないが、薬の原料としては使えるだろう。昨日よりは買取金額が少なくなるだろうが、大草原を往復して数時間をロスするよりはそちらの方が良い。



「森に入るって!? 本気なのかい、新人のやる仕事じゃないよ?」

「まてまてまて、小鬼ゴブリンや、大鬼オーガって、二角熊とは比較にならないほど凶悪な魔物なんだぞ! いくらアンタだって…………いや、いけるか?」

「まあ、それを確かめる為に森に入ろうと思っているんだ。なにせ、我が主人に面倒な仕事を押し付けられてね……自分の力がどれほどのものか、魔物相手に測っておかなければ、その仕事を仕損じる恐れがある」



 リビングデッドが全て安本さん程度の力しか持っていないのなら、そんな事をする必要はないのだけれども、何事も例外がある事を考えて備えておくのはシノビの心得の一つだ。


 因みに魔獣と魔物の違いであるが、『魔獣』が獣に似た姿形をしている凶悪な野生動物、『魔物』がヒトの姿に近い姿をしている敵性生物である。どちらかというと『魔物』の方が狡猾で腕力もあって、脅威度が高い。



「それにしても、君の主人とは和解したのかい? なんだか昨日はあまりよい関係ではないと聞いていた気がしたんだけど……」

「そうだよ! 血を吸われて無理やり半吸血鬼ダンピールにされたって聞いたぞ。それがいつの間に主従関係にまでなったんだ?」

「うん、まあ……昨日の夜から朝にかけて色々とありましてね……深く聞いて貰わなければ助かる」

「まあ私達も深く立ち入るつもりはないから、話は聞かないことにするけどさ……」



 俺自身、あの場を切り抜けられたのは奇跡だと思っている。


 幾ら他のリビングデッドを倒す役割が出来たとはいえ、それは余禄にしかすぎない。あの場で八つ裂きにされても仕方がないほど彼女は怒っていた。それがなぜ今の状況になったのかは本当に良く分からないのだ。



「そう言えば、聞きたいことがあるんだった。『真祖カーミラ』って名前を聞いたことがあるかい?」



 それを聞くと、ハーフエルフ兄妹は揃って顔を青くした。ついでにその手に持っていた肉を落としてしまう。



「『真祖カーミラ』って、きゅ、吸血鬼の女王の名前じゃないか! え、なに、君の血を吸ってダンピールにした女吸血鬼って、真祖カーミラの事だったのかい!?」

「それって、誰もが聞いたことがある超大物だぞ……何処かの城に住まい、数百単位の吸血鬼の頂上に位置する魔族の王。魔王の一人だって聞いたことがある。そんな吸血鬼にアンタ、血を吸われたのか……!」



 なにやら二人が驚愕している。


 どうやら俺の親である女吸血鬼はとんでもない大物らしい。『魔王』というのなら、あの強烈な覇気も当然だな。



「いやー、ごめん、僕らはとても急ぎの用事があるんだった。この熊の毛皮も早くギルドに渡してしまいたいし、調べ物が沢山残っていてね、ここらで御暇させてもらうことにするよ」

「ああ、そうだった、そうだった。早く町に帰らないとな。兄貴、何をぐずぐずしているんだよ、今日はアレをアレしてアレをしなけりゃいけないのをすっかり忘れていたぜ。じゃあな、もう二度と会う事はないかもしれないけど、達者でな!」



 そう言ってハーフエルフ兄妹は素早く身支度を整えると、愛想笑いをした後、凄い勢いでもって町のある方向へ走り去って行った。


 ……どうやら俺の『事情』によほど関わりたくないらしい。まあ確かに誰だって、魔王とかいう特級危険生物と関りを持ちたくはないわな。


 願わくば、あの二人が俺の事を言い触らさない事を祈るばかりだ。



 さてと……再び二角熊に襲われると言うハプニングはあったが、俺の身体能力を測るにいい機会だった。これより先はあの熊よりも狡猾で危険と言う小鬼ゴブリンや、大鬼オーガを相手に力を試さなくては。


 俺は身体に満ちる活力を噛みしめながら、大森林の中へと入って行った。


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