20話 試行錯誤
いや、まいった。
いつかは女吸血鬼に見つかる日が来るとは思っていたが、たったの三日ほどで見つかってしまうとは。
これは自分の危機管理能力が悪かったとしか言いようがないが……普段の俺であれば、近くの町に留まろうとせずに、ずっと遠くの町へ遁走していたはずだ。やはり、何かの精神操作を受けていたと考えるのが正しい気がする。
まぁ、ここは、あの女吸血鬼――カーミラと言ったか? 彼女に見つかったのに、殺されなかった事をまずは喜ぶべきか。あの怒り様からして絶対に八つ裂きにされると思っていたからな……。
とにかく、女吸血鬼カーミラに見つかって殺されるという当面の危機が無くなったのは事実。そして、今やるべきは討伐を命じられたリビングデッドに、逆に殺されないように自身の能力を把握することだ。
昨日の経験からしてリビングデッドが出て来るのは夜だろう。
今日は夜までに大草原や大森林で、ずっとほったらかしだった自分の能力検証を済ませるとしよう。
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そんな訳で、俺は宿の朝食を摂った後、北の大森林近くまで移動した。
なお、移動途中に襲ってきた一角兎を倒して数本の角を手に入れたから、今日の食い扶持としては十分だ。(因みに、昨日狩った二角熊の角は一角兎の20倍の値段で売れて脅威の臨時収入となった)
とりあえず、走る速度、跳躍力、握力を試してみる事にする。
実を言うと俺はスマホも時計も持ち合わせていない。なぜなら元の世界で餓死寸前まで追い詰められていたから(泣)。だから時間を測るのは自身の体内時計と言う事になる。なお、距離については丁度10mのロープを持っているから、それで地面に印をつける事を10回繰り返せば100mの距離を測れる。
俺はそうやって100mの距離について開始点と終点に印をつけると、全速力で走った。
その100mを走る事に要した時間は、驚くべきことに2秒。
いや、走ると言うよりは跳んだと言った方が正しいか。たったの二歩で100mを踏破してしまった。
これは……まともな人間の尺で考えるべきではないな……。
因みに縦の跳躍力では軽く50mを超えたし(着地に際して特に痛くは無かった)、その辺に落ちている石を本気で握ったら粉々に砕けた。
んーむ。これは完全に人間を辞めていますね……しかし、こんなのでは今まで習得した体術や武器術が全て無駄になりかねない。なんとか、力の加減を覚えないと。
どうしたモノかと悩んでいたら、何やら遠くから見覚えのある土埃が、此方へ向かってくるのが見えた。
アレは……ナイブズとアリアか?
また、二角熊に追われているようだ。昨日もそうだったがあのハーフエルフ兄妹、熊に好かれるフェロモンでも出しているのではなかろうか?
俺は追われている兄妹に大きく両手を振ると、こっちに来るように誘導する。追われていた兄妹は地獄で仏に会ったような歓喜の表情となって此方の方へ向かってきた。
よし。人相手なら試すことが出来ない技も、体形が人に近い魔獣相手なら試せるだろう。
俺の横をすり抜けて行ったナイブズとアリアを尻目に、二角熊と相対した。
獲物を追うのを邪魔された二角熊は、怒り狂ったように咆哮を上げたが、あの女吸血鬼の覇気を知っている身としては、子犬がきゃんきゃんと吼えているようにしか感じない。
事実、普通の人であれば確実に骨折、いや、腕ごと持っていかれるだろう爪による一撃を、片手で受ける事ができた。
更にはこちらに噛みつこうと大口を開けて襲ってきたが、鼻ずらを抑えてやれば、その牙は俺に届かない。
この辺りでどうやら変な事になっていると気づき始めた二角熊であるが、魔獣としてのプライドが勝ったのか、遮二無二、爪を振り回してくる。
俺はその攻撃を間一髪で避け続け……完全に見切れたという確信が持てたので、此方からも攻撃してみる事にした。
先ずは軽く左フック。
人間が赤ん坊の頃に覚えると言うそれは、単純にして無慈悲な破壊力を持っており、一撃で熊が膝をついた。
その崩れる顎を目掛けて右アッパーを繰り出すと、がこんと言う音を立てて首が縦に半回転する。
最後に、がら空きになったその喉へ向けて足刀蹴りを叩き込んだら、ぽーんと景気よく首が飛んで血が勢いよく噴出した。
うむ。熊殺し、達成なり。
思ったより脆かったなと思ったが、縦に50mを跳躍する筋力で戦えばこんなものなのかもしれない。
「おーい、ナイブズ、アリア、熊は片付けたぞ。昨日みたく、解体してくれるか?」
「た、助かったよゲンヤ」
「アンタ、やっぱり化け物だったんだな……」
「化け物とはひどいな、知っての通り、半吸血鬼ってだけさ」
「それを化け物っていうんだけど……まあいいや、助けてくれてありがとう」
なにやら酷いことを言われているが、彼らから見たらそう言われても仕方が無いかもしれない。
それは敢えて無視し、今日も結構な収入になったなと、倒した二角熊の解体作業を行うのだった。
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