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16話 身バレ


 どうせなら火も点けてしまおう。少し驚かせることになるかもしれないが、俺のこの魔法じみた力が一般的なモノであるかどうかを知る良い機会だ。


 俺は作った焚き木に向けて『火よ灯れ』と念じてみる。が、何故か火が点かない。アレ?と思いながら再度念じても火は点かなかった。


 どういうことだ……アレは俺の妄想だったのか? 


 いや、流石にあの盛大な炎を妄想と断じることは出来ない。もしかして満月の日にしか使えないとか……後、あの時と違う事と言えば……ああ、もしかして目隠しが原因か! 試してみる価値はあるだろう。


 幸い、ハーフエルフ兄妹は肉の切り分けや、味付けに掛りきりになっていてこちらを見ていない。目隠しをずらして視線を確保すると、再度、『火よ灯れ』と念じる。


 すると、今度こそパチパチと音を立てて焚き木に火が点いた。ああなるほど、やはり視線を媒介してこそ、この魔法じみた力は使えるらしい。


 幾分ほっとした気持ちで目隠しを元に戻す。



「あっ、火も点けてくれたんだ。僕たちの魔法で火を点けるつもりだったけど、君も魔法が使えるんだね」

「ああ、いや……俺のこれは魔法と言ってもいいモノか……どうやら生の視線を確保しないと使えない力のようで、コレは一般的なのか?」

「生の視線? ……えっと、それってもしかして目隠しを外さないと、魔法を使えないって事? ふぅん、なんだか変わってるね」

「君らの魔法は違うのか?」

「僕らの魔法は精霊にお願いして行使するものなんだ。だから、そう強力なモノじゃないし、生活でちょっとしたことに使うくらいかな」

「ははぁ、そういうものなのか……」



 どうやら、俺の魔法じみた力と、彼らの精霊魔法?は根本からして違うらしい。これはまた図書館で勉強しないとな。



「けど、視線――魔眼の力で魔法を使うなんて、まるで吸血鬼ヴァンパイア半吸血鬼ダンピールみたいだね」

「ぶふっ!?」



 思わず吹き出してしまった。


 え、なんだ、もしかして正体がバレたのか!? そんなに俺のこの力って特徴的なのか。



「ええと、これはその……」

「ああ、隠さなくてもいいよ。確かにヒトに知れたら不味いかもしれないけど、何せ僕らもヒトの社会からは爪弾きにされる存在だし、似たような存在を仲間外れにするようなことはしないさ。命も救ってもらったしね」

「兄貴は甘いんだよ。陽の光が大丈夫ってことは、お前、半吸血鬼ダンピールだな? もしかして私達の血を狙っているとか?」



 にわかにこの場に緊張が走る。


 しかし、俺にはこの兄妹を害そうする意思はない。元より彼らには現地情報が欲しくて接近した訳だし、正体がバレたのならある程度、ぶちまけてしまおう。それで逃げる事になったら仕方がない。


 俺は敵意の無いことを示すために両手を上げた。



「確かに俺はダンピールだ。けれど俺には吸血衝動は無い、かなり人間よりのダンピールだと思う。少なくとも君らの血を欲しいとは思っていないよ。それは俺の尊厳に誓ってそう言おう」

「そうか……確かに、君からは僕らに対する悪意を感じない。精霊さんも問題ないと言っているしね。アリア、彼を信じてもいいと思うけど?」

「……わかったよ。けど、やっぱりパーティを組む話はナシだな。要らない苦労をしょい込むことになるのは目に見えている。まあ、この飯を食い終わるまでは一緒にいてもいいぜ」



 どうやら完全な決裂は避けられたようで、俺は安堵の溜息を吐いた。まあ、元から仲間に入れるとは思っていなかったし、武器を向けられないだけ有難い。



「さて、じゃあ、食事にしようか。熊の肉はよく火を通さないとお腹を壊すから気を付けてね」



---



 そんな訳で、食事をしながらハーフエルフの兄妹とは色々と話をした。


 中でも人の社会におけるダンピールの迫害状況は死活問題であるので念入りに話を聞いた。


 どうやら、やはり人社会においてダンピールは忌避感が強いようで、見つかったら束縛されるとまではいかないモノの、石を投げられても仕方ない状況らしい。


 やはり目隠しをしていて正解だったなと思う。そして、可能な限り早めにこの町を出るべきだとも思った。


 今はまだ正体がバレてはいないが、この目隠しを不審に思う者は多くいるだろう。そこから俺の正体に辿り着く者は必ず出て来る。そうなったら石つぶてを投げられる前に逃げるしかない。


 まったく……若返りや、言語や文字に関するインストールは随分と助かったが、こうも強い迫害対象に無理やり転生させられるとは迷惑千万だ。


 まあ、それを言ったら本来はあの場で命を落としていたかもしれず、今も見つかったら八つ裂きにされるだろう身だ。旅から旅に身をやつすのは既定路線ということか。


 俺は同情的な視線を向けてくるナイブズに、気にしないでくれと手を振る。


 そ上えば……最後に聞きたい事があったんだ。



「俺は北の森にあるへんてこなモニュメントのある場所で、女吸血鬼に血を吸われて半吸血鬼ダンピールみたいな存在になったんだが、君らはその女吸血鬼について知っていることはあるか?」



 それを聞くと、ナイブズどころか妹のアリアさえも、不思議そうな表情となった。



「へんてこなモニュメント? それって何だい?」

「北の森は魔物や魔獣が住む危険な森だぞ? モニュメントみたいな人工物、あるわけないだろうが」

「え、いや……確かに俺は、あの逆さ十字のある場所で女吸血鬼に会ったんだけど……」

「少なくとも僕たちは心当たりがないかな。その女吸血鬼とやらも、初めて聞いたし……まあ、そこにそんな危険な存在がいるということなら、僕たちは北の森には近づかないことにするよ。情報ありがとう」



 うーむ、件の女吸血鬼について、彼らは何も知らないようだ。まあ、元から期待していなかったわけだし、仕方がないと言えば仕方がない。


 食事を終えた俺達は、残った二角熊の角やら毛皮などを分配して町に戻るのだった。


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