11話 ギルド登録
その夜。何かが胸に乗っているような感覚を覚えて目が覚めた。
まさか女吸血鬼に見つかったのか! いや、それにしては軽い。これは……何かの小型の動物か?
恐る恐る目を向けると、そこには毛並みのよい黒猫が鎮座していた。月の光に照らされて黒い毛が輝いており、金色の目を細めて優雅にあくびなんぞをしている。
女吸血鬼でなかった事に胸を撫で下ろした反面、この猫が何処から入り込んだのかと訝しむ。
ドアには鍵を掛けてあったはずだし、窓はと見ると……キイキイと音を立てて木窓が開いていた。記憶を探ってみると、木窓に鍵を掛けた覚えがない。恐らく此処から侵入したのだろう。
なんとも間抜けな事だ、シノビが猫に寝ている所を侵入されるなんて。
忸怩たる思いをしつつも、胸から黒猫をどかすべく手を伸ばそうとした。するとその猫はフシャーと威嚇し、猫パンチで俺の手を払いのけた。
あっけに取られる俺に対し、黒猫は満足したのか俺の胸の上でまどろみ始めた。どうやら胸から降りる気は無いようである。まあこれがでっかいムカデとかだったら問答無用で払いのけるところであるが、猫であればそう邪険にすることもない。
頼むから粗相だけはしないでくれよと思いながら、再び意識は闇の中に堕ちて行った。
翌朝起きると、既に胸の上から黒猫は消えていた。どうやら夜のうちに退散したらしい。夢でなかったことは俺の胸の上に残った何本かの毛が教えてくれた。
あの人慣れした感じ。もしかしたら何処かの飼い猫だったのかもな。今日も窓のカギを開けていたら忍び込んで来てくれるかも。
なぜか黒猫の再訪を待ち望む俺が居た。
元の世界にいたときも、この世界に来てからも、特に動物好きというわけではなく、猫なんて気に掛けたこともなかったんだが……半吸血鬼と化した事で、感覚が変わったのかもしれない。
まぁ、俺の感覚の変化はどうでもいい。猫は気まぐれだから、期待半分で待つとにしよう。
さてと……今日は混血の者が集う、ギルドとやらに向かうんだったか。宿の朝食を食ったら即出かけるか。
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ギルドのある場所は昨日図書館で調べ物をした時に覚えた。
昨日得たのはこの世界で生きるのに最低限な知識だけで、本当なら更なる知識を得るため図書館に籠りたいところではあるが、生活費が心乏しい今は並列して仕事もすべきだろう。
それに図書で得た知識と、現実との摺り合わせもしなければ。本に書いてあることが全て事実とは限らないからなぁ……。
宿からしばらく歩いた後、俺はギルドと思わしき建物の門をくぐった。
その建物中は割と喧騒に満ちており、なにやら紙の貼られた掲示板の前で多くのヒトがその紙の取り合いをしている。もしかして求人票、いや、依頼書と言うべきかな? 恐らくは割りのいい仕事を取り合っているんだろう。この辺、元の世界のハロー●ークとは違うなと思った。
それにしても……なるほど、図書館で調べた通り、この場所には色々な混血者が集まっているようだ。
明らかに人類の耳とは異なる長さを持つ者もいれば、毛むくじゃらで獣人?のハーフと思われるものもいる。ずんぐりむっくりした体形のヒトはドワーフとのハーフだろうか……ああいう体形のヒトは人間社会でも普通に見かけるから、何が違うかはよく分からないな。
それと、彼らに交じってなんだか妙に気配が強い者がいる。よく見ると、その人たちはハーフと思わしき者より種族的な特徴がより強く出ており……もしかして、純血的な存在なのかもしれなかった。そういえば、ハーフ以外でも人間社会で他の種族が暮らす場合、ギルドが受け皿になっているとか図書で見たような記憶がある。
うーむ……それにしても凄いな! 本当に異世界って感じだ。ポーカーフェイスを保つのに精いっぱいだぜ。
ああ、あと、なぜか明らかに普通の人間もいる。
此処は人間社会で定職に就けない混血者が集まる場所という認識だったが、もしかしたら定職に就けない者の全てが集まっているのかもしれなかった。
やはり、知識と現実の摺り合わせは大事だなと思いつつ、俺は空いている受付カウンターの方へ歩み寄って行った。
「こんにちは。ギルドへの登録は此処でいいのかな?」
「ええ、大丈夫ですよ。初めての方ですか? それではこの紙に必要事項を書いて再び持って来てください。あと、登録に際して注意事項も裏に書いてありますから、よく読んでくださいね」
そう言って、受付の中年男は俺に紙を挟んだボードを差し出してきた。日々、色々な種族を相手にしているだけあって、俺の目隠し姿に動じる気配もない。
なんだか役所で手続きをするみたいだなと思いつつ、ボードを受け取って近くの開いている椅子に座った。
なになに……書くべき事項は、名前と年齢、特技と何がしたいか、か……ってこれだけか!?
驚くべきことに種族が何であるかは書かなくても良いようだ。いや、これって必須じゃないのかと思いつつも裏に書いてある注意事項を見て納得した。
ギルドは成果主義で、それを成すものが誰であろうと構わないと。ただしそれを成す上で犯罪を犯した者はギルドから追放されて二度と登録できないとある。
つまり、仕事さえちゃんとできれば種族は問わないと言う事だ。
なるほど……そういう趣旨の組織であれば、確かに種族なんて関係ないか。普通の人間もいるのも納得だ。
俺はこの『ギルド』と言う組織の懐の深さに感心しながら、必要事項記載していった。
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