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『オリエンタルアート』シリーズ。

げえむ談義

『オリエンタルアート』シリーズ。ナンセンス物語です。

行き詰りを感じていたバンデンラ・ゴジジウこと吉岡末吉はその日友人を誘って出掛ける事に決めた。その性格を忌避するかの如く友人と呼べる存在がそれほど多くないバンデンラではあるが、少し年上のフリーランスで独創的な仕事をしている男とは昵懇ともいえる関係を築いている。ただ『類は友を呼ぶ』という言葉通りその人、『松永太郎』もまた奇人変人の一人であった。



バンデンラが待ち合わせたのはとあるファストフード店。日頃は母から口酸っぱく健康には気を付けるようにと言われている末吉ではあるが、友人に会う前にはなるべくジャンキーになるのが彼なりの礼儀だと思っている節がある。と言うのも過去にIT系の会社に携わっていた松永がその関係で投資している会社が経営しているファストフード店の優待券を会うたびに手渡され、暗にそこを利用してくれと言われているように感じるからである。最近店舗数が膨れ過ぎて経常利益が下降線という思わしくないというニュースを何かで見たような気がしたので、相変わらず清潔感の漂う店のカウンターで少し遅めの朝食を摂る事にしたのだ。




「うまい」



現状打破が念頭にあってチョイスにもひと捻りあった食べ物が意外と美味しかったのでまずは安堵の表情を浮かべる吉岡。リスクを避けがちな風習に対して、奇抜な選択で乗り切る事も時には必要と言う持論を掲げる彼の父の教えがここで役に立ったのだろう。ところで彼の父は会社勤めをする至って常識的である人物で、『その教え』にしても別に日頃から奇抜な選択をしている息子に向けたものではなく、会社の雰囲気とか、社会の雰囲気とかそういうものに対して彼なりに持論を述べたに過ぎない。いや、ある意味で「バンデンラ」と「かつらーむき」という非常識な人間に囲まれる中で家庭内で秩序を保つ為に彼自身が欲している言葉を放ったという部分が大きい。バンデンラがそういうコンテキストを理解しているかどうかは非常に怪しまれるところではあるが、少なくともそれを『素直に』受け入れるに事に関して言えば末吉が非難されるべきという事にはならない。





朝食で一つ殻を破ったバンデンラは上機嫌で友人を待った。そしてそこから10分程して、部屋着と見まがうほどの非常にラフな格好で入店する男が居た。彼こそが『松永太郎』である。



「やあ、末ちゃん。元気かい?」



「ああ、今日も元気だよ。そっちはどんな感じ?」



「ぼちぼちかな。最近はゲーム開発に力を入れてるよ」



そう言ってバンデンラの隣に座る松永。そして松永は最近の『仕事』について順を追って報告し始める。そもそも松永は歴史的な概念を用いれば有産階級に近いような生まれで、古い秩序に縛られる事が嫌いで高校時代辺りから権力や財力を用いて色々と暗躍していた。ある人物に目を付けると、中学生並みの発想で法に抵触するような方法での観察していたり、自分なりにその人物を了解して自己満足に浸るような趣味を繰り返していた。ただ、彼にとって興味の対象になるのは『奇人変人』の類で、行為についても悪質なものにはなっていなかった。折しもIT技術の発展期で、テクノロジーの駆使によって半ばハッカーとしての才能がそこで自然に磨かれ、若くしてIT系会社で身を成し、より自由に使える財産なりが手に入ったところで独立し、日夜様々な分野に手を出して製品開発を行うようになっている。独立の前後で、彼の基準で『逸材』バンデンラを見出して、以来友人として付き合いながら時折アーティストとしての彼の意見をうかがうようになっている。




21歳の時、親戚の経営する菓子メーカーに半ば趣味で協力して開発した新しい味のガム、『ビューティフル・メモリーズ』はネーミングこそ話題を呼んだが、やはり際物としての宿命は免れなかったようで今は店頭から姿を消している。それでも時折行われる『復刻版』リクエストの投票で上位にやってきたりするあたり、消費者に残した印象は大きかったようだ。独立後、本格的に『暗躍』し始め現在はスマホのゲーム開発をしているという表の姿とは別の謎の活動をしているが、バンデンラはその辺りの事に気が付くようなタイプではない。実際、松永としてもバンデンラと同じような目線で奇抜な事をやっていた方が平和で楽しいと感じるところもあり、表の仕事での成功にも熱心なのである。




「ふーん、『レトロゲーム』をリスペクトしたスマホゲームか」



バンデンラに開発したゲームの事を説明した太郎。彼なりに市場を読み取って『ゲームの原点回帰』と銘打って、シンプルな中に新しい価値を見出そうという目標で開発し始めたゲームは横スクロールアクションゲームである。



「ちょっとプレイしてみてよ。難易度の調整が必要だなと思っててさ」



「任されよ」




バンデンラがスマホゲームの試作をプレイしている間、松永もカウンターで食べ物を注文する。バンデンラの気遣いとは裏腹にジャンキーなものがそこまで好きではないので、ドリンクとサラダを選んだ。バンデンラは今や時間を忘れてゲームをプレイしている。オーソドックスな操作性のアクションゲームだが、彼は何か猛烈な違和感に気付いた。



『敵の動きが全く読めない…』




難易度の関係なのかはよく分からないがバンデンラの自機はみるみる失われてゆく。普通なら一度ミスしたポイントから相手の軌道を予想して回避なり攻撃なりができる筈なのに、敵が出てくるタイミングや敵が移動する方向などがどうも読めない…。




「あのさ…これ、敵ってランダム?」



席に戻ってきた松永にバンデンラは訊ねる。



「ランダムではないよ」



「???」



「『カオス理論』に従ってるよ」



「ほへ・・・?」



太郎はそこで『カオス理論』について説明する。『初期値鋭敏性』、カオスである『十分条件』など一通り解説してから、敵がランダムではなくて与えられた値を再帰的に代入して生じるカオスに従って動いているという事をかみ砕いて説明する。




「…そっか、だから時々バカげた方向に動くのか…」



このゲームで一番厄介な敵はおそらく地面を這っている敵ではなくて、空を舞っている敵である。そいつらは少なくともプレイヤーにしてみればこちらに飛ぶのかあちらに飛ぶのか分からないので、言ってみれば非常に気持ち悪い動きをしている。




「これダメかな?」




少し不安そうに訊ねる太郎。




「これもある意味…運ゲーでしょ…」



「じゃあさバカげた方向に動く確率を設定して、ある確率で予想不能な方向に動くようにしたらどうかな?」




「…バグと何が違うの?」



「バグではないな。プログラミングされている挙動だから」




その後、何故か本筋を離れて段々とゲーム談義になってゆく二人。楽しそうであった。

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