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反撃準備

 招待もないまま自身よりも格上である貴族家の当主を貴族家の令嬢が直接訪ねるのは、令嬢が自家の当主の使者として赴いたり、令嬢自身が次期当主である等の場合を除いて礼儀知らずという評判が立ってもおかしくない行為である。

 それが本来であれば既に休んでいても不思議のない夜分の訪問となれば猶更である。

 婚約者であるミュゼのことはログウェルとしても理解しているつもりでいるが、破天荒な部分はあれど貴族として一般的な常識はしっかりと持ち合わせている女性である。

 にも係わらずヨーゼフを直接訪ねてきたという時点で明らかに何かしらのトラブルか面倒ごとを持ってきた可能性が高いといえる。

 いるはずのないログウェルが同席してはより面倒になる可能性が高いと双方ともに考えたので、ログウェルはヨーゼフと会っていた部屋で死角となる場所へ隠れることにした。


 ログウェルが隠れ終わってしばらくして、部屋のドアがノックされる音がした。


 「ご当主様、オルキス伯爵令嬢をお連れ致しました」


 「ご苦労であった。 オルキス伯爵令嬢よ、入って構わんぞ」


 「ありがとうございます、失礼致します」

 

 ミュゼは使用人が開けたドアから堂々と胸を張って部屋へと入ってきた。

 その姿は礼儀知らずな訪問をしているとは思えないくらいである。

 

 「オルキス伯爵令嬢よ、遠方から来てもらったようだがどのような御用かな」


 ヨーゼフとしてはいくら孫であるログウェルの婚約者であるとはいえ、礼儀知らずな訪問である以上は侯爵家当主としての対応を優先する必要がある。

 本来であれば着席を促すべきかもしれないが、今回はそうせずに要件を聞くことにした。

 

 「公爵家当主への無礼な振る舞い、大変申し訳ございません。 ですがそれでも早急にログウェル様の祖父であるヨーゼフ様にお会いしたく……」


「なるほど、公爵家当主としてではなくログウェルの祖父としての儂に会いに来たということだな。 それならログウェルの祖父としてミュゼ殿を歓迎しよう。 まずは椅子にかけるとよい」


「ありがとうございます、ヨーゼフ様。」


 やはりミュゼはログウェルの件でヨーゼフを訪ねてきたようであった。

 ヨーゼフは元々公爵家として国内では大きな力を有していた。

 その上、王族と婚姻により繋がりを持ち王太子として実績を残してきたログウェルの祖父として、今回の廃嫡騒動で動向を注目されている。

 ミュゼとしては婚約者であるログウェルが廃嫡されたとなれば今後の人生に大きな影響が出る以上、今回の騒動による影響を少なくするためにもヨーゼフの協力が欲しいのであろう。


「さて、ミュゼ嬢よ。 改めて話を聞かせてもらおうかな」


「単刀直入に申し上げます。 ログウェル様の廃嫡騒動について、ぜひとも私へのご助力をお願いできないでしょうか」


「ほう、ミュゼ殿への協力とな。 それはミュゼ殿個人としてのお願いということでいいのかな」


「そうですね、これはミュゼ・オルキス個人としてのお願いになります。 お父様はお父様で色々と動くみたいですが、そんなの待っていられませんわ」


 どうやらミュゼは何かしらの思惑がありログウェルの廃嫡を撤回させたいと考えていて、父でありオーランド王国の宰相であるジュード・オルキスも同じ考えでいるようである。

 ただおそらく宰相は自身への相談もなくこのような重要事項を決めるなとか、ログウェルの方が次期国王として向いているとかいった国王への説得を中心に行うつもりなのだろう。

 それでも廃嫡の撤回は出来るかもしれないが、時間がかかることは目に見えている。

 時間をかければかけるほど、この騒動で民や諸外国に政情の不安を露呈することになり、今後の国家運営に大きな支障が出る可能性もある。

 それを理解してなのかは分からないが、ミュゼは父親とは別の方法でログウェルの廃嫡を撤回させるためにヨーゼフに力を借りに来たということなのだろう。

 実際、ミュゼがどのように動くつもりでいるのかはログウェルとしても気になっていた。

 ヨーゼフも同じく気になったよう、ミュゼからは死角に隠れているログウェルへ目配せをしてきた。

 話を続けるつもりのようなので、ログウェルは軽く頷き話を続けてもらうことにした。

 

「ふむ、宰相は宰相で動くつもりでいるのか…… ちなみにミュゼ殿は儂の助力を得てどのように動くつもりかな」

 

「ヨグウェルの奴が次期国王に向いていないのは、誰がどう見ても明らかでしょう。 一部の貴族を除いて国の大半はログウェル様が国王になることを望んでいるでしょう。」


「ふむ…… ログウェルの祖父としてになるが、ヨグウェルが国王としてやっていくのは無理であろうな。 それこそログウェルが補佐にでもつかぬ限り、国を疲弊させる上に諸外国からの脅威にも晒されるであろうな」


 ヨグウェルが国王になった場合は、母親であるアイナの権力が増して民のことを顧みない国政になるだろうとログウェルも感じていた。

 またアイナの実家であるローウェル家も幅を利かせて、一部の者による専横が始まるだろう。

 そうなればオーランド王国は国力か大幅に低下した上、国力低下を好機と考えた諸外国からの侵略も警戒していく必要が出てくるところまでいくだろうとログウェルも想定している。


「同意頂けて何よりですわ。 ログウェル様がここまで懸命に頑張った結果、オーランド王国はより良くなってきたのです。 それは民はもちろん、多くの貴族や官僚達も理解していることでしょう」


「確かに大抵のものはログウェルの味方をするであろうな。 では味方を多く募った上で儂から国王へ陳情するという形で廃嫡の撤回を狙うつもりかな」


 確かに味方を増やした上でヨーゼフから国王へ陳情すれば効果はあると思うが、あくまで国王に対してのみ効果があるといえる。

 仮に国王が廃嫡の撤回をしたとしても、果たしてそれだけでアイナやヨグウェルが諦めるだろうか……


「いえ、私はログウェル様の廃嫡撤回など求めませんよ。」


「……何だと……」


「私が求めるのはログウェル様の即位を前提にしたシグウェル様の退位、それと国を混乱に陥れた反逆者であるヨグウェル・オーランドとアイナ・オーランドの処刑または国外追放ですわ」


 ミュゼの発言を聞き、ログウェルは言葉を失っていた。

 ログウェルも国政に戻る為にも色々と根回しをしていかなければと考えていたし、アイナやヨグウェルへの対策もしなければと考えていた。

 しかしミュゼはログウェルに国王になれ、そしてヨグウェルとアイナを徹底的に叩けと言っているのだ。

 まさかの発言にヨーゼフも言葉を失っているようで、その様子を見ながらミュゼは言葉を続ける。


「実際のところ、私は廃嫡騒動とは別にログウェル様の即位に向けて根回しを進めてきました。 ログウェル様の日頃の行いのおかげで既に根回しは万全ですわ。 ですのでヨーゼフ様には早期にログウェル様を保護して頂き、根回しの最終調整が終わるまで匿って頂きたいのです」


 ログウェルとしてもまさか自分の知らないところで即位に向けた根回しが既に万全と言えるところまで整っているとは思わなかった。

 ヨーゼフが困った顔をこちらに向けてきたため、ログウェルとしてもここまで来たら腹をすえるしかない。

 王太子の立場であろうと、流浪の立場であろうと、国王の立場であろうと、これからも国の為に民の為にと動いていくことに変わりはないのだ。


「ミュゼ、まさかそこまでしてくれてるとは思わなかったよ…… ただそこまで舞台を整えてくれたなら腹を据えたよ。 根回しの最終調整が済んだら王都へ向かおうか」


 驚くミュゼを見ながら私の婚約者は頼りになるなと感じつつ、ログウェルは決意を新たにしていた。

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