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廃嫡の余波

 国王の生誕三十周年記念パーティーでの廃嫡騒動の翌日、国王からの布告で第一王子であるログウェルの廃嫡と第二王子であるヨグウェルの立太子が王宮から発表された。

 またログウェルが逃亡していること、様々な疑惑があり身柄を取り押さえる必要があること、見つけた者や通報した者に報奨金を与えることも合わせて告知された。

 

「国王様は何を考えてるんだかな……」


「ログウェル様は我々のことを考えていろんなことしてくれたんだし、疑惑の方が間違いなんじゃないのかね……」


「ヨグウェル様っていかにも俺は偉いんだって感じで無理強いしてくるし、もしこの発表通りになったら色々と大変なことになりそうだな……」


 王宮からの発表に対して、民の反応はどちらかというとログウェルに好意的なものが多かった。

 民の為にという姿勢で国政にかかわり、実際に民が豊かになり始めているという実績があるログウェルを悪く言う民はいなかった。


「国王も耄碌されたものだな。 ログウェル様を廃してヨグウェル様を後継ぎとするとは……」


「ヨグウェル様が王太子になるということは、これまでの取り組みが無駄になる可能性があるな……」


 貴族や官僚であっても、ログウェルに見いだされた者達の中では落胆が広がっていた。

 ログウェルの元で民のためにと懸命に取り組んできた者たちにとって、民のことを歯牙にもかけないヨグウェルが国政の中心になることはこれまでの活動が無駄になる可能性を指し示していた。


「これでようやく安心して領地経営に集中できるのう」


「中央が乱れているとどうにもならんからな。 ヨグウェル様を中心に国政を安定させてもらいたいものだな」


 しかし貴族の中には今回の廃嫡騒動を好意的にみている者たちもいた。

 ログウェルが行ってきた取組の余波で多忙になっていた者や、裏で不正を行っていたような者たちはログウェルが国政から外れることで落ち着くことが出来ると考えていた。

 

 立場により様々な反応ではあったが、どちらかと言えば廃嫡騒動を否定的に見る意見が多かった。

 告知を出した翌日、シグウェルは謁見の間に王太子となったヨグウェルと自身の側妃でありヨグウェルの母であるアイナを今後のことを決めるために呼び出した。


「ようやく王太子になるべきものがその地位についたというのに祝おうともしないとは、民とは本当に愚かなものだな。 誰が統治者であるか知らしめてやるべきか……」


 呼び出されたヨグウェルは開口一番、告知への反応に苛立ち、どうするべきかを考え始めた。

 

「ヨグウェルよ、まだ立太子が告知されてすぐであろう。 皆突然の告知にて混乱しているだけだ。 今暫く様子を見るのも上に立つべきものの務めだぞ」


「ですが父上、このままでは示しがつかぬではないですか! やはり王家の決めたことに対して従わぬ者たちに見せしめが必要では……」


「ヨグウェル、そなたも王太子となり気が急いているのであろう。 暫く自室で落ち着きを取り戻してこい」


「……承知致しました。 では一度失礼致します……」


 ヨグウェルは不承不承ながらもシグウェルの言葉に従い、自室に戻っていった。


「……アイナよ、お主のことを信じてログウェルを廃してヨグウェルを王太子としたが、本当にヨグウェルで大丈夫なのか」


「もちろんですわ、シグウェル様。 今はヨグウェルも王太子となってすぐなので高ぶっているだけでしょう。 しばらくすれば落着きを取り戻すでしょう」


「そうか、そうであればいいが……」


「私が保証しますわ。 ヨグウェルも自室へ戻りましたし、私も今日は失礼しますわ。 ヨグウェルのフォローもお任せくださいませ」


 アイナも今日はこれ以上何も進まないと考えて、ヨグウェルに続き謁見の間から退出していった。


 「……これで良かったのだろうか……」


 シグウェルは二人が退出していった謁見の間で一人つぶやいた。


 「アイナから頼まれたこととはいえ、流石にログウェルの廃嫡はやりすぎだったのではないだろうか……」


 シグウェルは側妃であるアイナを溺愛しており、アイナから頼まれたことを断わるということをしてこなかった。

 してこなかったというよりも、アイナからの頼みを断ることで嫌われることを嫌がっている。

 アイナもシグウェルにどう思われているかを知っているからこそ、今回のような大事であってもシグウェルに頼んで味方につけることが出来たのである。


 「ログウェルに対してもう少し穏やかな対応をした方が無難に収まったのではないだろうか……」


 シグウェルとしてはログウェルを嫌っているわけではなく、またこれまでログウェルが国政において出してきた結果についても理解していた。

 アイナの頼みがなければ時期を見て国王の座を譲り渡しても問題なかろうとも考えていたくらいである。


 「だがアイナからの報告が事実であったなら、儂はアイナに嫌われてしまうかもしれぬし……」


 ヨグウェルは誕生記念パーティーを控えていたある日、アイナから話があると呼び出された。

 話としてはログウェルがアイナの息子であり第二王子であるヨグウェルをよく思っておらず、即位した際に排除することを考えていると伝えられた。

 そして自身の基盤を安定させるために異母兄弟の排除を考えるような者を王太子にすべきではなく、ログウェルを廃嫡してヨグウェルを王太子とすべきであるとも伝えられた。

 アイナの主張を聞いたシグウェルとしては、ログウェルはそのようなことを考えないのではと考えていた。

 しかし一方で、確かにログウェルはヨグウェルに対してあまり良い感情を持っていないということも感じていた。

 実際に国や民を豊かにすることを考え国政にかかわっていたログウェルとしては、民を大事に考えないヨグウェルに対して良い感情を持っているわけではなかった。

 ただログウェルはヨグウェルを害そうとは考えておらず、国政への影響は大きくないとして意識していなかった。

 結果としてログウェルはアイナの企みに気付くことが出来ず、逃走を余儀なくされることになってしまった。


 「ログウェルとヨグウェルが共に支えあいながら国政にかかわってくれればそれで解決なのだが、ままならぬものだな」


 アイナに嫌われたくないがためにログウェルの廃嫡を決断したシグウェルは、もう訪れることのない未来に思いを馳せながら謁見の間に一人佇むのであった。

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