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廃嫡

「ログウェル・オーランドよ、貴様を廃嫡し、第二王子であるヨグウェル・オーランドを王太子に任命する」


 国王であるシグウェル・オーランドがそう宣言すると、パーティー会場は静寂に包まれた。


 今日は国王の在位三十年の記念パーティーで、国内の主要な貴族や大臣が集まっている。

 そんな中で国王の急な廃嫡宣言のせいでパーティー会場は静まり返っている。

 億劫ではあるが、この静寂を破るには仕方ない。


「国王陛下、今の宣言は誠でございますか」


 オーランド王国第一王子であり、王太子でもある私、ログウェル・オーランドは国王であるシグウェル・オーランドへと聞き返した。


「儂がこのような場で嘘偽りを述べるとでも思っているのか」


 状況的に嘘偽りじゃないかと考えたくなるので問いただしいているのだが、シグウェルはそう思わなかったようだ。


「いえ、そのようなことは思っておりません。ただ、私なりに王太子としてふさわしくなろうと励んできました。廃嫡の理由をお聞きすることをお許しいただけますでしょうか」


 言葉の通り、私は幼い頃から国王の長子として、将来の王太子としての教育を施されてきた。

 そして十六歳で正式に王太子となり、政務へ参加するようになってからは民の為、そして国の為にと取り組んできた。

 この四年間、私の政策は成果を上げてきており、特に国内の食糧生産については年々増加している。

 生活の基盤になる食料事情の改善から国民の支持も得ており、自ら言うのも気が引けるがオーランド王国は優秀な跡継ぎに恵まれており次代も安泰との評判が国内国外共に流れている。

 それだけに国王であるシグウェルが私を廃嫡する理由が分からない。


「貴様よりもヨグウェルの方が儂の跡継ぎとして相応しいと判断したまでのことよ。それ以上でもそれ以下でも無いわ」


「……左様でございますか……」


 シグウェルの回答にならない回答に私はどうしたものかと頭を悩ませ始める。

 弟であるヨグウェルはようやく十六歳になったばかりでこれまでに政務に関わったこともなく、また私から見てヨグウェル自身の性格にも難があると思っている。

 長子である私とは違い、ヨグウェルは王太子としての教育は一切受けていない。

 それだけでなく王族としての教育すら、ヨグウェル自身の我儘で本当に最低限というレベルでしか施されていない。

 その上ヨグウェルは自身の欲求に正直で、その欲を満たすために我儘をいい周囲を困らせることが多い。

 私は王族として生まれた以上はその責務として民のために尽くすつもりでいるため、王太子の立場自体にこだわりはない。

 本当に国のためになるのであれば私自身が廃嫡されてヨグウェルが王太子となることにも納得出来る。

 だがヨグウェルが次代の王となることで国に混乱を招き民を困窮させることが目に見えている以上、このまま受け入れるわけにはいかない。


「……王太子に関する事柄ゆえ、私に相談出来ないことだったと思います。ですが国の今後に関する大事、少なくともオルキス宰相にもご相談の上での決定でよろしいですよね」


 パーティー会場の静寂から、私はおそらく今回の廃嫡騒動についてはシグウェルの独断だと当たりをつけた。

 国王であるシグウェルの独断ということならば、貴族や官僚を味方にすることで状況を変えられる可能性が高い。

 その筆頭となり得るオルキス宰相が今回の騒動に関わっていないことが分かれば、他の貴族や官僚達を味方につけやすい。

 私は彼がこの騒動に関与していないことに確信を持ちながらも、パーティーの参加者へ聞かせるためにシグウェルへ尋ねた。


「今回のことは儂自らが貴様のこれまでの実績、そして国の将来のことを踏まえて判断したことである。宰相に相談する必要はなかろう」


 シグウェルは苦々しい表情をしながら答えた。

 在位30年となるシグウェルだが、国王としてこれまで大した実績を残してきたわけではない。

 基本的に事なかれ主義で決断力にかけるシグウェルがここまで国王としてやってこれたのは、オルキス宰相を始めとしたオルキス伯爵家が献身的にオーランド王国に仕えてくれてきたおかげである。

 その中でもシグウェルよりも年上で現在宰相という国を取り仕切る地位にいるジュード・オルキスがいなければ、シグウェルの在位期間はもっと短いものになっていただろう。


「では、この度の私の廃嫡に関する事柄は全て国王陛下自らのお考えということですね」


 やはりシグウェルは宰相や他の重鎮達とは相談せずに私の廃嫡を決めたようだ。

 これで他の貴族や官僚を味方にするのは簡単になった。


「そうだ。アイナと共に儂が考え決定した故、この決定は覆らぬぞ」


 まさかここで側妃であるアイナ・オーランドの名前が出てくるとは思わなかった。

 傲慢で出自により人を判断するような女の名前が出てきたということは、今回の廃嫡騒動は正妃と死別して以降に国王が溺愛している側妃の影響なのは間違いない。


「尚、ログウェルには王太子として行った活動について様々な疑惑が報告されている故、この場で疑惑の容疑者として取り押さえることとする。近衛兵よ、ログウェルを取り押さえよ」


 まさかの展開にパーティー会場が更なる静寂に包まれた。


「……何だと……」


 私と大きくもない驚きもない声がパーティー会場に響いた気がする。

 他の貴族や官僚達、シグウェルから私の取り押さえを命じられた近衛兵達も戸惑っているようだ。


「何をしている! 近衛兵達よ、早くログウェルを取り押さえよ!」


「……仕方があるまい……」


 戸惑いながらも近衛兵達が動き始めたのを視界に捉えた私は、この場から逃げるためにパーティー会場の入り口へ向い走り出した。


「容疑者が逃げるではないか! 早く捕まえぬか!」


「……くそっ、こんなことになるとは……」


 国のためにも民のためにもならない騒動、しかもこのまま捕らえられれば処刑も考えられる状況に走りながらも私は頭を悩ませる。


「仕方ない、今は逃げ延びることを第一に動くしか無いか……」


 シグウェルとアイナによる唐突な騒動なので、城内ですれ違う者達は何事かと私を見ながらも止めるようなことはしなかった。

 私は今後どう動くかを考えながらも、愛馬を預けている厩舎まで辿り着き、番の者には急用が出来たと称して 愛馬に跨り城を後にする。


「覚えていろ、シグウェルにアイナ。私は必ず戻ってくるぞ」 


そうつぶやいた私は、今後の対応を考えながらの逃亡を始めることになった。

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