エピソード1:それでもカメラは回ってるので多分大丈夫だと思います
場面はとある廃工場……
日時としちゃ概ね前回ラストから暫く経った頃。
「シイエエアアッ!」
『ぐごへえっ!?』
何やかんやで休暇を終え現場復帰したユウトは、
その日も街で発生したヴィラン刈り業務に勤しんでいた。
『なっ、何故だぁ……!
何故ソレガシの剣が通用しないっっ……!』
ユウトにボコられボロボロで倒れ伏すのは、
やたらド派手でサイバネ風味にアレンジされた武士っぽいヴィラン……
パワードスーツじみた装甲やフルフェイスマスクも相俟って
いっそヒーローと見間違いそうになる見た目のそいつは実際剣士のようだが……
どうにも異様な点が一つ。
というのも……
『ソレガシはっ……
真・天決理尻流を極めし剣士だぞっ……!』
そいつの刀は、よりにもよって尻で握られていたんだ。
「……口程にもねえ間抜けが。
"神尻"秘伝の丹臀剣術を剽窃ったにしても、余りに粗末で雑過ぎらァ……」
対するユウトはいつもの私服姿で、
ナガシノマグナムはじめ幾つかの武器を装備しこそすれなんと変身しちゃいねえ。
確かに変身せずとも強いヒーローとてわりといる世の中だが、
それにしたって異様な光景と評さずにいられねえだろう。
「大方、楽して成り上がろうとアレコレ手ぇ出すも軒並み長続きせず、
付け焼刃の技能と聞きかじりの知識でテキトーに暴れて承認欲求満たそうとした、ってトコか。
情けねえなあ。全く情けねぇ。
何をするにしても楽な道はなく、楽をすりゃしただけ"後払い"を強いられる。
楽をしても何の後払いもしてねえように見えるヤツは、
別のとこで何かしら努力してるか、
さもなきゃそうでもしなきゃやってらんねえほどのマイナスを抱えてるモンだ」
『ぐっ、ううっ……
シリもしないクセに、偉そうなこと――
「ふんっ」
――をぐごぉっ!』
言い返そうとしたヴィラン、
その腹の装甲が欠けた部分へ、
ユウトは容赦なく蹴りを叩き込む。
「知る価値ねえだろ、
丹臀剣術の評判を貶めたクズの事情なんて、よッ!」
『ぐうあっ!?』
「てめえにわかるかッ!?」
『がっ! ごっ!』
「丹臀剣術!
四千六百年の! 歴史が!
どんッだけ奥深いか!」
『うご! ぎ! ぐがっ! がぁ! ぐげえっ! ぁ、がぁぁ……!」
「ひいては神尻って世界が……
どんだけ不当に苦しめられてきたかを、よォ~ッ!」
「ぐうえへあがああっ!?」
執拗な追撃……
ダメージの蓄積が深刻なのは、
ヴィランの変身が強制解除された点からも明らかだった。
「う、ぐうう……!」
さて、所謂特撮じみて"変身"するタイプの戦闘者……
その変身が解除となりゃ必然"素顔"が明らかになる。
「さては……」
露わになったのは一見して"どこにでも居そうな"平凡なツラの若い白人男。
ただユウト自身はそいつの顔に見覚えがあったようで……
「やっぱてめえかぁ、コロルミンチー。
5chのヒーロースレで暴れてたレールガンマイスターアンチの英国外道め。
開示請求で賠償請求喰らって借金漬けになったとは聞いたが……
よもや剣豪ごっこで街を荒らす余裕が残ってたとは、ナアッッ!」
「ゴゲガァァッ!?」
ユウトはコロルミンチーを許すつもりなんてなく、
マジで意識を刈り取るつもりで追撃を叩き込もうとしたが……
「ちょぉぉぉ〜〜っと待ってぇぇぇぇんっ!」
「あ?」
ふと響く大声に、蹴りを入れようとしていた足も思わず止まる。
「ちょっと待てっ!
ちょっと待てってホンゴウ!
それは流石に! これ以上は流石に看過できんぞぉっ!」
大急ぎで二者の間に割って入るのは、
ライダースジャケットにジーパンと赤マフラーが印象的なやけに面の濃い壮年の男。
さて、この如何にも何かありそうな男の正体こそは……
「なぁ〜〜んですかセキモトさんっ。
今こっから神尻と丹臀剣術の歴史について
このブリカス野郎に解説する教育的パートを始める予定だったんですがねぇ」
「やっかましいわぁ〜っ!
ホンゴウっ! お前今自分が出てるのがなんて番組なのか。
ひょっとしなくても忘れちまってんじゃないのかっ!?」
「まさか。忘れようハズありませんぜ。
アケボノテレビ系列の全国区で放送予定の
『超最前線! 密着ヒーロー32時』でしょう?」
ユウトのこの発言から概ね察しはつくだろう……
この年齢不相応に熱苦しい壮年男はセキモト・カズト。
色んな意味で入れ替わりの激しい昨今のテレビ業界にあってかなり珍しい
昭和前期から続く老舗大手局『アケボノテレビ』の古株で、
ドラマからバラエティ、ドキュメンタリーに至るまで様々なテレビ番組を手掛けてきた腕利きの大物として知られている。
「そうだっ! 我がアケボノテレビの看板番組『ヒーロー32時』だっ!
……分かっているならなんだその言動と行動はっ!?
お前はウチの局を視聴率不振で潰す気か!?」
「何言ってんですかセキモトさん、
今やテレビは視聴率だけの時代じゃないでしょ〜?
法令遵守や広告主が面倒ならサブスク配信や動画サイト用にしちまえばいいじゃないですか〜」
「ぐっ……くっっ……!」
売り言葉に買い言葉……
互いにある種似たタイプだからだろう、
セキモトプロデューサーとユウトの口論は白熱していく。
傍らではヴィランのコロルミンチーが持ち直しつつあったが、
口論に夢中な2人は気付かない。
……果ては撮影クルー達さえ2人の撮影に夢中になってたんだから
最早いよいよどうしようもねぇ。
「バカ言えっ! それは地球内に限った話だろっ!
ウチはグローバルに展開してるんだっ!」
「おのれ……セキガハラのヒーローめ……!
キサマら、どこまでソレガシの邪魔をすればっっ……!」
「特に『ヒーロー32時』は地球上の207ヶ国のみならず
異星や異世界なんかの地球外域でも人気なんだ!
そして地球外域にはテレビがメディアの中心になってる所だって少なくない!」
「そこは自分も存じ上げてますけどもねぇ~」
「許さん……許さんぞっ、カヨウな蛮行っ!
キサマら全員、ソレガシのサバキを受けるがいいっ!」
「そもそもサブスク配信だって審査はあるし、
動画サイトだって収益化が通らなかったら赤字確定なんだぞっ!?」
「……じゃあ審査ゆるいとこ探せばよくないですかね。
てか質問を質問で返すようで恐縮ですけども~、
具体的に自分のどこが問題です?」
「……おいっ! キサマらっ!?
無視か!? ソレガシを無視するのかっ!?」
「どこが問題かだと!? フツー分かるだろっ!
まず何より言葉遣いが悪過ぎる!
日本国内では容認されても、外国や異世界や他の星じゃ放送コードに引っ掛かって
結局規制だらけになるんだよお前の台詞は!」
「なぜソレガシそっちのけで話を進める!?
よもやソレガシがもう負けたと考えているのかキサマらっ!?
ソレガシはこのとおりビンビンしとるわっ! 見クビるなっ!」
「てかお前っ……言葉遣いは百歩譲って許すにしても、変身しろよっ!
変身タイプのヒーローなんだからさァ!
変身ツール動かして武器振り回してっ!
なんか派手なビームとかキックとかの必殺技を使えよっ!
視聴者は大体そういうの見たがってテレビつけるんだから!
なんで変身せずにヴィラン倒しちゃうんだよ!?」
「倒れておらんわ! おい!
まだ戦えるわソレガシ!」
「いや~、ほらなんていうか~
最近また『最近のヒーローは変身システムに依存し過ぎ』とかって~
『ウナギの味はタレの味』みたいな言説が流行り初めて~
だったらもう変身する価値もねえような雑魚程度、
変身せずにボコったろーかと前々から考えてまして~。
しかも丁度良く人気ドキュメンタリー番組の案件も来てるし、
バカどもの鼻っ柱圧し折るには丁度いい機会じゃねえかな、と」
「……なんだと、キサマっ……!?
ソレガシが、弱いとぬかすか~~~っ!?」
散々無視されまくった挙句、
"変身するまでもない雑魚"呼ばわりされたんで、
いよいよコロルミンチーの怒りが爆発する。
……もしかしたらどっかでもう爆発してたかもしれねぇが、
だとしてもこっちの方が火力は高かったんだ。
「ゆ、る、せ、ぬぅぅ~~~~っ!」
[フェミニーナァ〜イト☆レボリュ〜ションッ☆]
追い詰められたコロルミンチーは、
腰だかヘソ辺りのピンを勢い良く抜き去り投げ捨てる。
あたかも手榴弾を起爆するが如き動作だが実際、
直後に"どんっっ!"って感じの鈍い爆発音が響き、
ヤツの身体を起点として中々強烈な衝撃波が起こる!
「のわあああっ!?」
「っっ……!」
衝撃波を至近距離で食らったセキモトは思わずすっ転び、
ユウトも幾らか踏ん張って受け流す程度の対応は強いられる!
……だがこの衝撃波なんてもんは所詮、
こっから始まる惨劇の導入部に過ぎねーワケで……
『キサマらっ! ソレガシをバカにできるのもここまでだぞぉっ!』
まあ要するに、こっからが本番だったんだ。




