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デスイズザヒーロー!-悪の組織の最強怪人、ヒーローに転身する-  作者: 蠱毒成長中
プロローグ:怪人贖罪編

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プロローグ6:勝利の代償


 さて、改造型ヒーローを志すと決めた弟子ユウトに、

 師匠のタチバナ・ソウキチが"あるもの"を託してから二年が過ぎたある日……


『ギィエッヘッヘッヘェー!

 対惑星決戦兵器"メテオス・ゴーン"を喰らうレンホッ!』

『ムラッター貴様、ふざけた真似を……!』


 場面は地球外……明らかに地球のモンじゃねえ、馬鹿でかい宇宙船の中。


 その日ソウキチが相手取ってたのは、

 地球から三万光年離れたヴァイコックド星雲はミンスットゥ星軍部の

 宇宙侵略部隊こと通称『ジギョシワッケー大隊』……

 まあ要するに、SFもんの悪役に居がちな性悪宇宙人だわな。


『こォレで地球は我らミンスットゥ星人のものだレンホッ!

 無駄なものは全てカットカットカァーット!

 日々資源と時間を無駄にしながら堕落した生活を送る地球人どもに、

 今こそ我らが真に有意義な生き方を教育してやるレンホォッ!』


 概ねお察しだろうが奴らの目的は地球侵略……

 より厳密には植民地化ってヤツだった。

 ともすりゃ当然野放しにはできず、

 日本のセキガハラを含む十三の国と地域から合計二百名余りのヒーローが出撃……

 大隊は丸二日でほぼ壊滅状態に追い込まれたが、

 しぶとく生き残った司令官のカロルス・ムラッターがバカをやらかした。

 土壇場になって切り札の兵器"メテオス・ゴーン"を作動させやがったんだ。


 "メテオス・ゴーン"は言っちまえば超巨大な人造隕石……

 直撃すりゃ地球滅亡は免れねえ。

 しかもよりヤバいのは、作戦に馳せ参じたヒーローの殆どが大隊との戦闘で再起不能……

 問題なく動き回れるのはごく僅か。

 しかもそん中に件の隕石兵器をどうにかできそうなヤツは殆ど居なかった。


 ただ一人の例外……"魂魄狩り"の能力を持つ禍根ハンターを除いては、な。


『よいかァ地球生物ゥ~! ここで吾輩が残酷な事実を教えてやるレンホッ!

 一度起動したメテオス・ゴーンは最早何をしよーと止まらんレンホォ!

 よって地球の下等生物ども、貴様らもこれでお終いだレン、ブボオオオオッ!?』

『……隕石ぶつけて破壊した星をどうやって植民地にするつもりだ、戯けがっ』


 傷だらけでイキり散らかすムラッターをアッサリ始末した禍根ハンターは、

 クソ宇宙人の死体を使って宇宙船の制御システムにアクセス……


(言葉が通じる以上予想はしていたが、絵に描いたような汎用構造……

 これなら講習で習った通りにやれば容易に操縦できる……!)


 ボロボロになった宇宙船のシステムを乗っ取り、

 辛うじて生きてる武装の中から特に"お誂え向きのヤツ"を選び取る。


(この光線照射装置の動力源へ続く回路は……ここかっ!

 とすれば……よし! これで行けるぞっ!)


 禍根ハンターにより細工の施されたバカでけぇ光線照射装置……

 その照準は、今まさに地球へ落っこちてる最中のメテオス・ゴーンに向けられていた!


(この位置ならば、外しはせん……!

 力の限り、注ぎ込むっっ!)


 光線照射装置の起動レバーを握る禍根ハンター……

 瞬間ヤツの全身はどくりと脈打ち、ただならぬ雰囲気に空気が歪む!

 そして……!


『……地球は渡さん……

 滅ぶべきは、貴様らだっっ……!』


 意を決した禍根ハンターは、握り締めたレバーを倒し照射装置を起動!

 照準通り、極太の光線がメテオス・ゴーンに直撃する!


『……っぐぅぅっっ!

 くうあはっっ……!

 ……これしきの、消耗が、何だというっ……!』


 光線が照射されるにつれ、苦しみ悶える禍根ハンター!

 ……カンのいい読者諸君はもうお察しだろう、

 禍根ハンターは宇宙船の光線を通じて"魂魄狩り"をぶちかまし、

 メテオス・ゴーンを消滅させようって腹積もりだったんだ!


("魂魄狩り"の生命力消耗は、

 対象物の質量や強度、内部構造の複雑さ等に応じて多くなる……!

 そしてまた、機能を奪うより消滅させる方が消耗は激しい……!

 あの隕石は大きく重く、加えて頑丈……

 ともすれば、まさに"死ぬ気で"やらねばなるまいて……!)


 まさに命懸け……実際ガチで死を覚悟するってのはこういうのを言うんだろう。

 ……当然禍根ハンターとて命が惜しくねえワケはねぇ。

 だがさりとて、それでもこの場から退くつもりなど毛頭ねえ。


(私がここで諦めたら、あの隕石が地球に衝突する……!

 そうなったら最後、地球の自然と文明は根底から崩壊し、

 仮に生き残った者達が居たとして宇宙や異界からの侵略には到底耐えられない……!

 そんな状況の地球に帰ったとて何の意味もないなら、

 ここで私一人死んででも地球を守り抜いて見せる……!)


 禍根ハンターの想いが通じたか、

 極太光線は巨大隕石を破壊しつつ"魂魄狩り"の力を浸透させていく!


 そして、遂に……!


『うぅぅぉぉおおおあああああああっ!

 消ィィィィィえェェッ去れェェェェエエエッ!』


 怨嗟にも似た、喉を潰しかねねー雄叫びと共に、

 人造隕石メテオス・ゴーンは完全に消滅!


『ぁ……は……や、った、ぞ……

 わた、し……の……勝ち、だあ……』


 やり切った禍根ハンターは、掠れ声で呟きながら意識を失った……

 ま、程なく駆け付けた他ヒーローに救助され無事に地球へ戻れはしたんだがね。


~~~~


 さて、場面は変わって地球の日本某所……

 防衛組織セキガハラ傘下のヒーロー病棟。


「おやっさんっっ……!」


 ひどく慌てた様子で病室へ駈け込んで来たのは、

 改造を間近に控えたユウトだった。

 瀕死のソウキチが病院に担ぎ込まれたと聞いた奴は、

 必然いても立っても居られず大急ぎで病院へ駈け込んだんだ。


「おやっさん……おやっさんっっ……!」


 看護助手に案内されるまま辿り着いた病室のベッド。

 死んだように眠るソウキチに、押し殺したような涙声で語り掛けるユウト。


 本音じゃ叫びたかった。泣き喚かずにいられなかった。

 だが病院は大声厳禁、

 かつ無駄に声を張り上げた所で回復するわけもねえと知っている弟子は、

 ただ師匠の無事を信じ願いながら静かに寄り添う。

 そして……


「……ゆう、と……?」

「お、おやっさん……!?」


 願いが通じたか、はたまた医者の処置が良かったか、

 幸いにもソウキチは程なく目を覚ます。

 だがその声は必然弱々しく、

 ヒーローとしての覇気も、師としての活気も感じられねぇ。


「ユウト……どうして、ここに……

 改造を受けてすらないお前さんが……

 まさか……いや、さては……もう、地球はっっ……!」

「落ち着いて下せえおやっさん。

 ここは地球です。セキガハラ傘下の病院ですっ。

 宇宙船ん中で倒れてらしたのを、

 プラネットフォースの皆さんが助けて下さったんですよ。

 おやっさんのお陰で、地球は救われたんですよっ……!」


 長らく意識を失ってたせいだろう、ソウキチは少々気が動転していたようだが……

 そこは流石師弟ってんだろう、混乱する師匠にユウトは的確な言葉を投げ掛け落ち着かせる。


「そう、か……つまり、あの隕石は……あの時本当に消滅していたんだな……」

「……隕石が消滅? おやっさん、そりゃ一体どういうことです……?」

「……それについては私から説明させて頂戴」

「!? ……マザー・ガイア総司令……!」


 ユウトの背後から語り掛けて来たのは、岩みてぇな肌の厳つい中年女……

 まさにさっきユウト自身の口から名が出たヒーローチーム『プラネットフォース』の重鎮、

 マザー・ガイアこと本名イワオ・トヨその人だった。


「……イワオと呼んで頂けるかしら?

 今はプライベートだから……」

「失礼しました、イワオ総司令っ。

 ……それと……この度は師匠を……

 タチバナ・ソウキチを助けて下さり本当に有り難うございました……!

 皆様は師匠の恩人です……なんとお礼を申し上げたらよいか……」


 ユウトはトヨに勢い良く頭を下げる。

 車椅子に座ったトヨの左脚は膝から下が無かった……此度の戦闘で喪ったことは想像に難くねえ。

 東アジア屈指の頑丈な女性ヒーローと謳われ、

 世間じゃ『不死身のイワオ』『鉄壁女帝』なんて仰々しい二つ名で呼ばれた女傑の負傷は、

 それだけでジギョシワッケー大隊の脅威を物語るに十分過ぎた。

 当然その事実はユウトの心にも深々と突き刺さるが……


「感謝されるべきは我々より彼……

 あなたのお師匠様の方でしょうね。

 事実上地球はソウキチさんが救ってくれたようなものだから……」

「……そいつぁ、どういうことです……?」


 対する当人はてめえの傷など意に介さずといった調子で、

 寧ろソウキチの身をこそ案じていた。

 そしてトヨは、当時まだ公表されてなかった一部始終を語り出す……


「んな、バカなっっ……

 ……何やってんですか、おやっさん……!

 "魂魄狩り"使う時ァ慎重によく考えろってェ、

 組織からもしつこく言われてたじゃないですかっ……!」

「……仕方あるまい、他にやり方が無かったんだ。

 これが"慎重によく考えた結果"だっただけのことだ……

 ……我ながらバカをやったと思っているが……

 さりとて、悔いはない……

 こうしてまた生きて地球に帰還し、

 お前さんと話せてるんだからな……

 それだけで、私にとっては十分過ぎる……」

「……」


 思わず口を噤むユウトは、その実察していた。

師匠おやっさんは文字通り"死ぬ気で"やったんだろう。

 怪人時代から(今までに)犯した罪を清算するために、

 わざと"魂魄狩り"を限界まで使ったんだろう』ってな。


(……けど、納得できねぇよっ……!)


 だが、察しがついても納得はできねぇのが人情ってモンだ。


(何も今死ななくたっていいだろうがよ……。

 せめて、もう少し……

 俺が改造を終えてヒーローとして正式にデビューするまで……)


 全く自分本位で甘えた考えだとは、他ならぬユウト自身理解していた。

 だがそれでも、師匠と……

 自分をここまで十二年間育ててくれた恩人と死に別れるなんて、

 そんなの真っ平御免だってのが、この男の紛れもない本心だったんだ。


「……ユウト……すまんな……

 叶うなら、お前さんと一緒に仕事をしたかったが……

 市井に仇なす悪党どもを、師弟でぶちのめしてみたかったんだが……

 こんなザマでは、それも無理のようだ……」

「……俺も同じ気持ちですよ、おやっさん……

 もうそろそろ改造を受けられるとは言え、それでも俺ァまだまだ未熟……

 寧ろ改造受けてからが本番てんなら、

 そっからこそ色々教わんなきゃと思ってて……

 勿論、おやっさんと仕事すんのも夢でした……

 何ならずっと、それ目標に頑張って来たようなもんだってのに……こんな……」

「……嬉しい事を……言ってくれるじゃないか……

 弟子にそこまで言われたともなれば、師匠冥利に尽きるってもんだ……

 ……ユウト……お前さんを弟子に取れて、本当に良かったと思う……

 お前さんこそは、私にとって最初で最後の……最高の、愛弟子だ……」

「身に余る光栄です、おやっさん……」


 ソウキチはユウトに向けて、一言一句丁寧に心を込めて、力の限り言葉を絞り出す。

 師匠の想いは間違いなく弟子に届き、その心に深く染み込み、刻まれていく。


「……ホンゴウ、ユウト……我が愛弟子よ……

 どうか、私の頼みを聞いてくれ……」

「はい……何なりとお申し付け下さい、ソウキチ師匠……」


 ユウトからの返答を聞き入れたソウキチの頼みってのは、つまるところ……


「……無理強いはしない……

 空く迄お前さんが"そうしたい"と願うならでいい……

 ……私の跡を……『禍根ハンター』の座を、継いで欲しいんだ……」


 このこれだ。

 自分の先が長くねえと悟ったソウキチは、

 いつか来る日に向けてセキガハラの学者連中と結託し、

 密かに"次世代型の禍根ハンター"たるヒーローシステムを開発……

 叶うなら弟子のユウトにそのシステムを明け渡そうと考えていたんだ。


「なっ……! 俺が……禍根ハンターを……?」

「そうだ……実は裏で準備を進めていてな……

 つい先日、完成したんだ……

 ……勿論……判断はお前さんに、任せるが……」


 ユウトは頭を抱えた。

 禍根ハンターは間違いなく憧れのヒーローだ。

 いつか肩を並べて戦えればと夢見ていたし、

 ビジュアルから戦い方から何から何まで最高に自分好みだった。


 だがだからこそ、その名が持つ意味と、

 その座に立つ上で伴う責任の重さも知っていた。

 未熟者に過ぎねえ自分が果たして継いでいいのかと、

 疑問に思わずに居られなかったんだ。


(憧憬と理解は対極にある……

 理解しきれてねえのに跡なんて継げるのか……?

 そもそも俺が十八の若さで改造を控えてるのだって、

 純粋な俺自身の実力に拠るもんじゃねえし……)


 ユウトは悩んだ。二者択一の板挟み……

 間違いなく生後十八年で一番悩んだ瞬間だった。

 自分じゃ力不足にしか思えねえが、

 さりとて師匠の意思を無下にもできねえ。

 果たして自分はどう判断すべきなのか。

 必死で思考を巡らせた末……


「……畏まりました。

 このホンゴウ・ユウト、

 謹んで跡継ぎの方、やらせて頂きます……!」


 男は師匠の後を継ぐと決意した。

 どうなろうとやり遂げてみせると、

 何があろうと乗り越えてみせると、

 静かに、けれど確かに断言したんだ。


「……ああ……そう、か……良かっ、た……

 ……これで、もう……大丈夫だ……安心できる……」


 弟子の覚悟を耳にしたソウキチは、安堵の表情を浮かべ……

 そして程なく、眠るように息を引き取った……。


「おやっさん……どうか安らかに……

 あなたの遺志はこの弟子が……ホンゴウ・ユウトが引き継ぎます……」

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― 新着の感想 ―
序盤は宇宙人側のネーミングに「攻めておられるなぁ」と思いながら拝読していましたが、中盤の熱い展開で手に汗握り、終盤の会話には……特撮オタクとしても読書家としても心に刺さるものがありました。蟲毒成長中様…
 出撃したのがヒーローだけってのは突っ込んじゃいけないこのジャンルのお約束なんでしょうけど……、いや、現実だとしても局地戦ということで特殊部隊の派遣で済ませるのかも知れませんけど、それでもこういう事態…
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