ケース7:三代目と死神の談話-後編
場面は引き続き防衛組織セキガハラの執務室。
「そもそも俺ぁ元々、
女の見てくれどうこうとか、それ程気にするタイプでもなかったんですよ」
「色恋に興味が無かった……所謂無性愛者ってことかい?」
「当たらずとも遠からず、ですかね。
性欲が無かったワケでもないんですが……
ガキだったもんで斜に構えて"色恋なんてガラじゃねえ"とは思ってましたよ。
『どんな女がタイプだ』と聞かれりゃ、
主な性格や趣味趣向、能力なんかの"内面"ばかりを挙げてました」
「つまり、外見は気にしないと?」
「よりかは、ある程度なら妥協・許容できるっつーか、
極論
『行動を共にしながら分かり合ってけば絆は深まる。
絆が深まれば愛着だって沸くだろう』ぐらいに考えてましたよ。
まあ情けねえ話、それでも結局
"なんだかんだ美人の方がいい"ってのも思ってましたがね」
「情けないものかよ。
命や意志のある存在は皆"よりよいもの"を求める。
そして他者に求められ支え合わねば生きられないからこそ、
何者も"よりよく"あろうとする。至極当然の大原則だ。
なら君が美女を求めるのも"命と意志のある存在"たる証だろうさ。
とすると当時は女性のプロポーション……
取り分け" お っ ぱ い "なんかは特に気にしなかったわけだ」
言いつつヒナミは微かに身体を動かす。
精々姿勢の調整ぐらいの、あってないようなモンだったが……
心なしかスーツ越しにも存在を主張する胸元
――推定サイズはユメやマリエと同程度か――が強調されるような恰好になる。
だがそれよりユウトが気になったのは……
「……また随分とストレートな言い回しをされますなァ」
「いけないかな? 別段本来は下品な単語ってわけでもないし構わんと思うがね。
乳とか乳房とかまあ色々言い方はあるだろうが……
結局のところ"コレ"の本質を的確に表し、
かつこの会話の流れにあって最も適する呼称といえば" お っ ぱ い "一択だろう?」
「……気ィ散るんで持ち上げながら強調すんの控えて頂けません?
万一変な気起こしてトラブルんなってもお互いコトでしょうがっ」
「もし仮に君がここで問題行動を起こすような小物だとしたら、
僕も君を態々呼び出して持て成したりはしていなかっただろうが……
まあいいさ。こうしているのも地味に疲れるしな。
それで実際、当時の君は……」
「纏めるなら『乳に貴賤なし。結局そいつがトータルで"いい女"かどうかが重要』って感じですね」
「なるほど。『" お っ ぱ い "に大小のサイズ差はあっても上下の格差なし』といった所か」
「……わざわざ言い換えなくても良くないですかねぇ?
まあ、大体そんな感じでしたよ。大体十五や十七ぐらいん時までは……」
「ふむ、男女共に多感な時期だな。そこがターニングポイントだったわけだ」
「ターニングポイント、って程でもないと思いますが……
当時と言えばサブカルやクリエイターってのも今より遥かに"未熟"じゃないですか」
「まあそうだな。今も残滓として残る"旧時代の醜さ"がより濃かった時代なのは間違いない」
「です。中でも特に俺が腹立ってたのが"胸囲格差"ネタでして……。
乳がねえのは悪だとか、逆に乳がでけえのが悪だとか、
あの低俗なノリが昔からどうにも受け付けなかったんです」
「ああ、わかるよ。僕もあれは唾棄すべき類のものだと思うからね」
「言うてガキん時なら気にも留めてなかったんですが……
十五か十七ほどにもなるといよいよ妙に意識しちまうわけですよ。
で、ある時『巨乳絶滅しろ』だの『女は全員乳無くなれ』とか、
ギャグのつもりかそんなサムいネタぁ頻繁に擦る作家の漫画を引き当てちまいましてね。
しかもその漫画、画力や設定、
真面目なシーンでの台詞回しなんかは最高で作品そのものは名作の域なんですけど、
乳のみならずエロやらの下世話な話でサムいネタやりまくるわ、
そもそも端々の描写からミサンドリー臭さがあるわ、
それが巡り巡って実質ミソジニーにもなっちまってるわで、
結局疲れて読むのやめちまったんですよ」
因みにその漫画はその後複数回のアニメ化やゲーム化を果たし、
これらは何れも"原作越え"と評される程完成度が高かったんだが……
反比例するように原作漫画は零落れていき、
掲載誌の休刊に伴い打ち切りが決定。
作家は再起を誓うも漫画の内容を曲解しヴィラン化したバカに目をつけられ、
呆気なく殺されるっつー末路を辿ってた。
「そっからその時の反動で、
諸方に配慮して『乳に貴賤なし』とか言ってたのがバカらしくなりまして。
加えてなんか"胸囲格差"ってのを"経済的貧富格差"が如く流布する奴らの影響で、
乳のあるなし比較する流れを『金持ちを逆恨みし貧乏人をバカにする』ように感じちまったりとか、
架空のみならず現実でさえも"人格の出来具合が乳のサイズに比例する"女とばかり出会うわと、
まあロクなことがなく……」
「それは災難だったな……」
「んであと関連する話ってぇと……
養成校時代の話なんですが、
結構世話んなった先輩に一桁で童貞捨てて以後恋愛経験豊富な方が居まして~
その方からある時
『乳のない女の過半数は
乳度外視で愛した所で結局勝手にコンプレックス拗らせてるからロクなことがねえ。
何なら奴らは「貧乳はステータス」なんて言葉は嘘っぱちだと思い込んでる。
どうしても乳のない女を愛したきゃ内面をよく見極めるべきだ。
特に色恋に関心のないヤツ、女は中身だと思ってる奴ほど逆に気を付けろ』
なんて真顔で言われちまいまして」
「セキガハラの養成校に通っていて女好きな君の先輩というと……
『ロード・オブ・アニマルズ』の二代目"ロアーライオン"ことシシオウ・ショウヘイ氏かな?」
「御名答です。シシオウ先輩には助けられてばかりでしたから……。
で、そんなシシオウ先輩の受け売りに加えて、
担任だったサルトビ・テルアキ先生の
『胸のでかい女を愛するということを、
マザコンの証拠だとか安直だとか言う奴もいるが、
それは決して恥ずべきことではない。
むしろ母性を求め愛に生きる姿勢の現れでもあるのだから、
誇りこそすれ恥ずべきことでは断じてない』
って言葉が決定打んなりまして。
試しに"じゃあもう巨乳好きでいいや"って開き直ってみたら、
これが結構すんなり馴染みまして……
言うて元来抱えてた性癖に馴染むも何もないんですけど」
「そういうことだったのか。
然しだとすると余計、クロカミ研究技官と結ばれたのが分からんな。
如何に"愛が性癖を度外視した"にしても限度があるだろう」
「まァ~それこそ"絆の強さから来る愛着"ってヤツで……
気付いたら乳なんてどうでもよくなってましたわ。
あと他の三人がどーもイマイチ"刺さらなかった"ってのもありますかねぇ。
アオヤマ先生は教員としても技術者としても尊敬できますけど、
だからこそ気安く接したり心を開こうって気にはなれず、
そもそも生命倫理や生体改造型ヒーローに対する考え方も微妙に違ってたんで、
深く付き合えばどっちも不幸になっちまうだろうなと思って距離置きましたわ。
センゴクのヤツは怪人候補時代からの馴染みで気は合いましたが、
とは言えあの女と俺じゃ行きつけの飯屋から好きな映画まで何もかも違い過ぎる。
もっと言うならお互い仕事や命へのスタンスも噛み合ってないんで、
距離は置いとく方が都合いいだろうってお互い話し合って結論出しましてね」
「ジョウジマ・ウズマキに関してはどうだね」
「論外ですね。
まず何考えてんだかサッパリわからねーし、
何ならあんな女の考えなんて理解したくもねえっすわ」
「えらい嫌いようだな。
確かに死後は元より生前から激しく賛否の割れた人物ではあったが」
「そりゃ割れるでしょ。
大人しく会社経営だけやってりゃいいものを、
会社の経営傾かせてまで芸能人ごっこするわ、
挙句政策もロクに決めず政界進出までしようとしやがって。
金持ち憎し美人憎しのルサンチマンどころじゃなく、
嫌われる下地ならしっかり出来上がってたじゃないですか。
そうやって散々調子こいた結果"なんか気付いたら死んでた"なんて末路辿ったんでしょ」
「ああ、確か彼女と言えば
"死んだという事実だけは確かだが、
それ以外の一切合切が不明"なんだったな。
地球は元より異星や異界の如何なる専門家も
"これぞジョウジマ・ウズマキの死因だ"と断言はできなかったとか……」
「ええそうです。
いつどうやって死んだかなんざ皆目見当もつきませんが……
あのド変態メス畜生のことです、
誰かしらに恨まれてひでえ殺され方でもしたんでしょうよ」
「……ともあれ、そんな面々ばかりではクロカミ研究技官と結ばれるのも必然、か。
もっとも、君が消去法や妥協によって彼女を選んだわけじゃないのもわかるがね」
「当然です。
消去法や妥協で選ぶぐらいなら、
そもそも恋仲にまずなってませんよ。
ま、結局メイナとの関係もダメにしちまってちゃ世話ねぇって話ですがね」
「……」
その言葉に、ヒナミはユウトが心に抱えた確かな"闇"を感じずにいられなかった……。




