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デスイズザヒーロー!-悪の組織の最強怪人、ヒーローに転身する-  作者: 蠱毒成長中
間章:雷霆を継ぐ者、ニカイドウ・ヒナミ!

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ケース6:三代目と死神の談話-前編

 場面は前回から引き続きセキガハラの執務室……


「……失礼、ちょっと席を外すよ」

「ええ」


 ふと何かを思い出したらしいヒナミはおもむろに席を外し、

 早回し映像か曲芸みてえな動きで茶と茶請け(菓子)を用意する。


「お待ちどう」

「……わざわざすみません」

「いやぁ、詫びるべきは僕の方さ。

 折角の来客だってのに、

 無駄話ばかりして茶や菓子も出さないなんて……

 礼儀がなってないったらないよ」


 テーブルの上に出されたのは、

 洋皿に乗った薄平たい半円形のクリーム入り薄焼き煎餅数枚と、

 圧倒的芳香でもって存在を主張する玄米茶入りの急須とマグカップだった。


「……神奈川県鎌倉市は小町通りに建つ

 和菓子店『鎌倉五郎本店』の名物『鎌倉半月』さ。

 抹茶入りの玄米茶と相性が良くてね……ご存知かな?」

「土産もんとかで頂いた事なら何度かありますね。

 甘いモン正直そこまで拘らないクチなんですが、

 半月は結構クセになるウマさだったんでよく覚えてますよ」

「ほう、それは何より」


 二つのマグカップに玄米茶を注ぐヒナミ。

 それぞれ白地にドラゴンと肉食恐竜が描かれていて、

 茶が注がれると同時、温度に反応して絵柄が変わる

 ――ドラゴンはメカに、肉食恐竜は骨格標本に姿を変えた――

 所謂"温感マグカップ"ってヤツだろう。


「……それでだねユウトくん。

 これだけは言っておきたいんだが、

 僕は君らを傀儡にしてやろうなんて思ってないんだよ。

 あくまで仲間として支え合う関係が理想なんだ。

 勿論、互いに最低限のラインを越えず、

 公序良俗や法規・倫理に基づく正しさの範囲内で、だがね」

「素晴らしいお考えかと。

 現役時代のバンバ先輩もそうでしたんでね」


 茶を啜りながらさらりと宣うユウトだが……


「……ウソは良くないなぁ、ユウトくん。

 忖度したつもりかい? 気を使ってくれるのは有り難いが、

 こういう時は素直に思っていることを正直に言ってくれないと。

 職場は違ったが、付き合い自体は長いからね。

 遠慮せず正直に言って欲しいものだ」

「そう仰られましても、

 実際バンバ先輩はほぼトップの模範解答みたいな方でしたよ。

 いつだって全体を把握して、現実を理解した上で理想を諦めず……

 戦略的撤退はしても逃亡はしない、っつーかね」

「だとしても拘りが強く融通が利かない所はあったろう?

 それと、非情になりきれなかったり、

 価値観が時代錯誤気味だったりもしたハズだ」

「……ええ、そりゃまあ。

 加えて言えば彼は"時代錯誤気味な価値観"の延長線上でしょうけど、

 女や子供、年寄りや病人怪我人、

 ハンディキャッパーとかのマイノリティやらを無駄に甘やかしがちで。

 どうにもヒーローらしからねえ"甘さ"の目立つ人でした」

「ああ、そうだろうとも。実際彼は結構な"甘ちゃん"だ。

 誰もが岩手の漁民よろしく"じぇじぇじぇ"と驚くだろう逸話にも事欠かない。

 もっと言えば彼はそもそも他人に甘い。

 そして自分に厳しいんだ……余りにも、厳し過ぎる」

「ええそうです。いっそ自分を蔑ろにしがちまである……

 普段は強欲なクセして、

 人助けが絡んだ途端てめえ度外視で突っ走る……

 平気で命まで投げ出しやがるんだ、ありゃ一種の病気ですよ」

「間違いない。ある種の救世主(メサイア)・コンプレックスと言えるかもしれないね」

「しかも劣等感拗らせて救われたさでやってるワケでもねえんだから余計悪質だって話ですよ。

 ……あの時だってそうでした」


 ユウトの言う"あの時"ってのは、

 二代目撃鉄戦隊が『デリシャスパイザー』の怪人に惨敗を喫し、

 ライホウが拉致られた日のことだ。


「ボコられて、死にかけて……結局敵に言われるまま、

 ご自身(てめえ)身柄(ガラ)ぁ躊躇わず差し出して……

 病室で他六人(みんな)がどんな顔してたかなんてきっと想像もせず、

 ……きっと容易く思い浮かぶクセに、

 それでも構わず自己犠牲をキメ散らかしやがった……

 あのお方ほどの頭脳ならっ、ちっとでも冷静になりゃあ

 "全員が都合よく助かる方法"なんて幾らでも思いついたハズなのに……!」

「結局のところ彼は、

 毛細血管一本(すみ)から細胞膜一枚(すみ)まで

 "ヒーロー"だったんだろうさ。良くも悪くもね……。

 事実僕の目にも、嘗ての彼はやたら生き急いでいるように見えた。

 会う度色々言ってみたが、結局展開に大差はなく……

 そうして行き付いた果てが"精神疾患により再起不能につき引退"とは、

 余りにも悲し過ぎる……」

「全くで……」

「……然しだよ、ユウトくん」


 パキ、と半月の端を割りながら、ヒナミは言う。


「結果論に過ぎんが……

 ある意味で彼は最後にヒーロー業界へ大切な教訓を遺してくれたんじゃないかと、

 僕はそう思うんだ」

「『他者を気にかける余り自分を蔑ろにするな』みたいな感じですか?」

「そうだ。故事成語風に言えば『有事が為()を粉にすべからず』

 若しくは『有事の備えは自らの養生にあり』とか

 はたまた『身を粉にせば、救える手もなし』といった所かな。

 他者の為にと働き過ぎる余り不調に陥り、

 いざという時他者の為に働けないなんて本末転倒だからね。

 ごく当たり前のことだが、だからこそ肝に銘じねばならない……。

 イカリ家(どこぞ)ジュンヤ(とっちゃんボウヤ)なんぞは

 ヒーロー学者を自称しちゃ『ヒーローは見返りを求めないものだ』と息巻いていたそうだが……

 全くもって的外れも甚だしい主張と言わざるを得ん。

 まさに夏虫疑氷(かちゅうぎひょう)といった所だろう」


 夏虫疑氷ってのはつまり、

 "夏しか生きねえ虫は冬に氷がある事実を疑う"ってトコから転じて

 "世間知らずなバカはてめえの知識しか信じず見識が狭え"って意味の四字熟語だ。


「ホホウ、確かにあのクソガキにはピッタリですなァ。

 ヤツについては皆口を揃えて『中身もなく騒がしいだけだった』の一点張り……

 とすりゃある意味セミみてえなもんかもしれません」

「言えてるな。勿論、セミには大層失礼だが……」

「ええ、そこは勿論承知の上です。

 そもそも生物学上"夏しか生きねぇ虫"なんてのは居らず、

 広義の"夏しか見ねえ虫"とて実際は何かしらの形で身を隠してるだけ……

 セミの場合は卵と幼虫で延々過酷な環境を過ごし、

 必死で生き抜いた果てに成虫として羽搏くワケですから」

「そこがセミとあの小童の明確な差だな。

 セミは種にもよるが原則年単位の幼虫期を過ごす。

 短くとも二、三年……或いは五年か七年、はたまた十三年やら十七年……

 節足動物としては上位に食い込む長期間を地中で過ごさねばならん。

 加えて地中だから安全なんてこともない。

 捕食者、感染症、飢餓、環境変化……脅威は数知れず」

「しかも卵が木の幹ん中へ産み付けられてっから、

 大抵孵化後地中へ潜る前に死んじまう……

 クマゼミなんかだと幼虫の九割八分は孵化後地中に潜らず息絶えると聞きます」

「それは知らなかったな……。

 対してあのイカリ家の恥さらしはどうかと調べてみたが、

 蝶や花すら拒むほどの温室で湯水の如く金を注がれて育ち、 

 ろくな社会経験もないまま酒が飲めるまでに歳ばかり食ったそうだ」

「……それにしちゃ文武両道のハイスペで家事も得意と聞きましたが」

「ああ、その辺りの能力はマジックアイテムのお陰らしい。

 殺した人間の能力を吸い取って別人に移植する"剥奪刀(かさね)"で、

 あちこちから優れた能力の持ち主を攫っては

 秘密裏に金で雇った剣術家に斬殺させていたとか」

「……心底腐り切ったド外道じゃないですか。

 俺が霞むレベルとは大したもんだ」

「僕も心底そう思う。正直君とは比べる迄もないよ。

 そりゃ身勝手に幻想ばかり見て現実を理解せず

 『ヒーローはタダ働きをしろ』だの

 『武器なんて使うな鍛えて勝て』なんて妄言をぬかすワケだよ」


 ヒナミは割った半月の欠片を口に運び、噛み砕きながら茶を啜る。


「……それで言うとライホウくんは実に素晴らしい男だったのが良くわかる」

「ええ、全くです。

 彼は現実を見据え、然し理想も諦めず、

 他者の意見を蔑ろにせず、けれど自分の信念も曲げず……

 ある意味でとても純粋で、そしてそれ以上に強欲な人だったと思います。

 鉄火場での彼から逃げ続けてたのだって、

 多分"そういうとこ"にも拠るのかも、なんて……」

「……それは彼の頑固さが原因だと思うがね」

「頑固なのはお互い様でしたから。

 ……他人の為にてめえの如何なる犠牲を厭わねえってのも、

 "人助けをしたいって欲望"に忠実だったからと考えりゃ違和感はねえってモンです」

「なるほど、そういう解釈もあるのか。

 となると、彼が何より心がけるべきは節制だったろうな。

 理性を以て欲望を制御し、程よい距離感で付き合わねば……

 勿論、ライホウくんの後継たる"三代目"の僕もそれは同じだ。

 彼を目標として見習いつつ、二の轍を踏まないよう注意せねば」

「素晴らしい心意気かと……

 俺で良けりゃお供いたしますよ、ニカイドウさん」

「ほう、心強いな。是非お願いしたいものだ」


 空になった湯飲みに茶を注いだヒナミは、

 どこか思わせぶりに『ところで』と切り出す。


「これは全くの余談なのだけどね、ユウトくん」

「なんです」

「不快にさせてしまったらすまないが……

 君には嘗て恋人がいただろう?

 確か、技術部生体工学課に所属していた研究技官の……」

「クロカミ・メイナ、ですね。

 ええ、確かに彼女とは恋仲でしたよ。

 こっぴどくフラれちまいましたがね」

「……すまない。やはり失礼な詮索だったろうか。

 もし話したくないのなら、話題を変えるけれども……」

「いえ、お構いなく。もう何年も前のことですし、

 組織に弓引いてヴィランになった件こそ許してませんが……

 それでも彼女が嘗て俺を愛してくれてた事実に変わりはありませんし、

 恋人云々以前にヒーロー業やる上での大切な相方でしたんで」

「そうか……」

「とは言えまさか、愛が性癖さえ度外視するとは予想外でしたがねぇ〜」

「……なんだって?」


 ユウトが何気なく発したその一言に、

 然しヒナミはやたら積極的に食い付いてきた。


「ユウトくん、それは一体どういうことかな?」

「と、仰いますのは」

「『愛が性癖さえ度外視する』ってトコさ。

 関係各所の証言によれば、

 嘗て君の心を射止めんと争奪戦を繰り広げた女性は四人……

 その殆どはモデルやグラビアアイドルとしても通用する抜群のプロポーションを誇ったが、

 唯一クロカミ研究技官だけは例外も例外、

 成人して尚子供のような姿だったそうじゃないか。

 だからてっきり、僕は君がそういうタチなのだとばかり……」

「あぁ~……それねぇ、

 付き合ってた当時も結構言われたんですけど、

 ホント勘違いも甚だしい話でして。

 ……この辺り詳しく話すってなると、

 俺のクソどうでもいい性癖遍歴から説明する必要出て来るんで無駄に長引くんですがね……」

「構わんさ。元々他人の話を聞くのは好きな方でね。

 ヴィラン殺害数で三十年ぶりにギネス記録を更新した男の性癖遍歴……実に興味深いっ」

「……そんな大した話でもありませんけど」


 果たしてユウトの"性癖遍歴"とは……

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