ケース3:ニカイドウ・ヒナミの献身-前編
場面は前回から引き続きカイザージュピターの客室内。
『――失礼するよ』
謎の乱入者に保護された二代目撃鉄戦隊の面々……
未だ傷も癒えず疑念に囚われる六人の前に姿を現したのは、
"ライホウ以外の誰かが変身したレールガンマイスター"っつー予想外過ぎる人物だった。
「「「な!?」」」
「はぁ?」
「え……!?」
「なんだっ……!」
となりゃヒーローたちが困惑するのも無理からぬこと……
仮装や模倣品かとも思ったが、
精巧な立体映像と感覚器官に組み込まれた対象識別システムがその憶測を否定する。
「なに、これ……!?」
「一体、何が……」
「こりゃ、どないな設定やねん……」
「そんな……キャプテン……?」
「いやユメさん、違うぜ……!」
「この人はバンバさんなんかじゃありませんっ。
さっき響いた声は、間違いなく別の人のそれでしたっ。
何なら、シルエットだって結構別物じゃないですかっ」
そう、事実目の前にいるのは紛れもなく"レールガンマイスター"ではあったんだ。
ただ声と口調、体つきからしてライホウじゃねえのも明ら……
だからこそ余計混乱せずにいられねえワケで……
「よお"姉やん"、ワレ一体何もんやねん?」
意を決したカイトは、警戒心剥き出しで問い掛ける。
カイトとしちゃ、
下手に刺激して状況を悪化させる可能性も加味しての"賭け"だったが……
『……そういえば、自己紹介がまだだったね。
本当に申し訳ない。
急ピッチで作業を進めていたとは言え、
敬うべき相手への最低限の礼節も失念してしまうとは、
社会人にあるまじき失態……反省しなくてはいけないな』
"その女"からの返答は思いの外温和なモンだった。
ともすりゃまして、敵意の類など感じられようハズもねえ。
『決して怪しいものではない……
と、口頭で説明しても信用しては貰えまい。
待っていてくれ、今変身を解除するから……』
言うが早いか、女は少々ぎこちないながらもローレンツバスターを操作……
"レールガンマイスター"への変身を解除して見せる。
『改めて名乗らせて頂こう……。
お初にお目にかかる。
ボクの名は"ニカイドウ・ヒナミ"。
此度、防衛組織「セキガハラ」総司令官
兼
技術開発部門総指揮並び諸々の要職を拝命すると共に、
暫く欠番であった"レールガンマイスター"の三代目を襲名させて頂いた者だ。
以後宜しく頼むよ、現"撃鉄戦隊"の皆様方……』
堅苦しいんだか馴れ馴れしいんだか、
そもそも日本語として適切なのかもよくわからねえ口上で名乗るのは、
吹き替えなら少年役も熟せるだろう美しいハスキーボイスに違わぬ、
中性的かつ端正な顔立ちで灰白色のショートヘアに薄黄色の瞳、
上等なメンズスーツを着こなす所謂"王子様系"の長身女。
紛れもなく洗練された別嬪、性別問わずモテまくるのは間違いなく、
推定"イケメン女子"って括りの完成形と言えるだろうが……
そんなヤツからしかもいきなり情報量の多い台詞が飛び出したもんで、
ヒーローたちは困惑、沈黙せずにいられなかった。
「……なんともはや、
理解が追い付かない状況と言わざるを得ませんね。
よもや貴女様ほどのお方がお出ましとは……」
そんな中、沈黙を破るように言葉を発したのはユライだった。
「……ユライさん、この人知ってるんだぜ?」
「ええ、よく存じ上げておりますとも。
こちらのご婦人……ニカイドウ・ヒナミ様こそは、
英国キングスレー・コーポレーションの現代表取締役社長……
欧州ヒーロー業界の実質的支配者と呼んで差し支えないお方です」
「「なっ!?」」
「はあ?」
「ウッソ……」
「なんやて……」
「えぇー……?」
ユライの言葉に、ヒーローたちは動揺せずにいられねえ。
自分たちがあのしょうもねぇ偽物どもにボコられてる間に、
どうやらセキガハラの本部ではとんでもねえ出来事が起こってたらしい。
『丁寧な解説感謝するよ、バンジョウジCEO……
否、今は"マシンガンブルーのユライくん"と呼ぶべきかな?』
「お久しぶりです、ニカイドウ代表取締役社長……」
『ああ、久しぶり。確か一年半ほど前の交流会以来だったかな。
然しその呼称、適切とは言い難いな』
「と、仰いますのは……」
『文字通りの意味さ。
何を隠そうボクはもう、キングスレーの経営者じゃないんだからね。
さっきも言った通り、これからは君ら「セキガハラ」の新入りさ。
……もっとも君らにとっては、
聊か急すぎて理解が追い付かないだろうが……』
意味深に切り出したニカイドウ・ヒナミは、
そのまま今に至るまでの経緯について語り始める。
『さて、とは言えどこから説明したものか……
そもそも我がニカイドウ家とライホウ君の実家バンバ家は、
共通の祖先から分岐した金持ちの末裔でね。
何かと関わり合う機会も多かったんだ。
ここ最近はめっきり付き合いも減ってしまったがね』
とは言えバンバ家が一部の天才に大多数の凡人が依存しきる姿勢から衰退しつつあったのに対し、
ニカイドウ家は天才も凡人も等しく部を弁え努力するよう徹底してたもんで衰退とは縁遠く……
つまり同じ祖先をもち東亜屈指の名門にまで成り上がった両家はその実、
ある時期を境に真逆の道を辿りつつあったんだ。
『ただ、ライホウ君とボクは個人的に親密な仲でね。
互いの仕事や趣味なんかについても頻繁に語り合っていた。
そして彼は事ある毎にこう言っていた……
「もし自分に何かあったら、
セキガハラとマズルフラッシャーを頼む」とね』
「「「「「「……!」」」」」
ヒーローたちは息を呑んだ。
よもや自分たちのリーダーが不測の事態に備えてそこまで徹底的に暗躍してたなんて、
露ほども知り得なかったからだ。
『また彼は当時から実家と折り合いが悪いようで、
頻繁に「バンバ家の連中には用心しろ」とも言っていたかな。
だからボク自身、いつ何時不測の事態が起こってもいいよう、
水面下であらゆる方面から準備を進めていた。
他の誰にも邪魔されず、確実に誉れ高き友の至宝を守れるようにね。
……とは言え実際はこの通り出鼻を挫かれ、
かなり後手に回らざるを得なくなってしまったわけだが』
そう、当初の想定通りに行けばニカイドウ・ヒナミは迅速に動けていたハズだった。
バンバ家が持ち直しイカリを捻じ込む隙も与えず、
セキガハラの弱体化やユウトの国外追放だって防げたハズだったんだ。
だが事実、計画は思いがけず暗礁に乗り上げちまう。
……とある致命的な想定外に、予想外の苦戦を強いられちまったが為に。
「それってまさか……」
「あの病気のせい、ですか?」
『そうだ。"英雄性心的外傷ストレス症候群"……
通称"ダビデ王症候群"。
ライホウ君があの恐るべき病を患ってしまったのが……
否、彼が"そうなる"可能性を見越せていなかった僕の油断こそが、
君たちを必要以上に苦しめてしまった何よりの原因だろう。
その件に関しては、本当に申し訳なく思っている……
謝罪程度で許されようハズもないのは那由他も承知だが、どうかこの通りだ……』
「おやめ下さい、ニカイドウ"総司令官閣下"っ……!」
「そうですよ!
寧ろお礼を言わなきゃいけないのはこっちなんですから!」
「ホンマ助かりましたよって!
こないことなったんはワシらの落ち度ですさかい頭上げて下さい!」
「感謝してもしきれないのはこっちっ、ていうか!」
「何ならあたし達、指令が助けてくれなかったら今頃死んでましたしっ」
「指令が謝る理由なんて何一つないじゃないですか!
今この場には居ませんけど、ホンゴウさんもきっとそう言いますよ!」
五体投地で首を垂れるニカイドウ・ヒナミ……
その姿からは心からの謝意が伝わって来るが、
だからこそヒーローたちは異議を申し立てる。
絶望的状況を救ってくれた命の恩人を、どうして批判なんてできるだろうか。
『……ありがとう、諸君。
本当に……ライホウ君はいい仲間に恵まれたな……』
ニカイドウ・ヒナミは感動の余り涙を流し、
内心で密かに誓ったんだ……"こいつらは是が非でも自分が守らなきゃいけねえ"ってな。




