エピソード11:死神決着大救出
場面は前回から引き続き、
ヴィラン組織『デリシャスパイザー』基地最上階の一室……
『てめえらのせいでっ! てめえらのせいでっ!
全部全部全部全部てめえらのせいでっ!
てめえらのせいでこうなったんだろうがああっ!
てめえら真剣でっ、逝に亡びて詫びろおおおおおおっ!』
怒り狂ったユウトは幹部怪人"スイーツインズ"の片割れ
妖艶な柘榴怪人"ポメグラネート"メンテーを生きたまま踏み砕き、
木っ端微塵の肉片に変えて殺害した。
……然しまあ、もう死んでる相手に『死に滅びて詫びろ』とは聊か妙な気もするが、
色々な感情が溢れて拗れて絡み合い濃縮された結果、
最終的に出た言葉が"|マジで死に滅びて詫びろ《それ》"だったワケで……
『ひっっ、ひいっ……!
そんな……メンテーさん……!』
「っ……! ぁぁっ……!」
仲間の凄惨極まる最期を目の当たりにしたメリフェラの顔はより恐怖に引きつり、
全身麻痺してロクに言葉を発せねぇライホウも予想外の展開に驚愕しているらしかった。
『……ハアッ! クソがぁ、結局無駄に手間ァ取らせやがって……!
先輩! バンバ先輩! お待ち下さいよ今お助けしますんでねぇ!』
一方のユウトは一通り感情を吐き出しある程度冷静になったようで、
迷わずライホウの救助に向かう。
「ぅ、ぁ……ュゥ、ト……ぉ……!」
『ええそうですバンバ先輩!
あなたの不出来で愚かな後輩ホンゴウ・ユウトが今参りましたとも!
他ならぬあなたを窮地から救いに! あなたを助けんがために!』
ユウトは颯爽と懐からナガシノマグナムを取り出す!
『雑な扱いをお許し下さい。
これが一番手っ取り早いんでね……』
「ぅ、ぁぁ……! ぁぁぁぁっ……!」
『なんてこった、全身が麻痺してやがる……!
さては毒薬でも盛られてんですか? なんて連中だ許せねえっ……!』
装填されてんのはお馴染み"圧縮捕縛弾"……
ギャザレクシアでの戦いや、
年末のカイデン・ヒトトキ戦での"締め括り"に登場したんで
覚えてる読者諸氏も多いだろう。
この弾丸さえあればライホウを安全に助け出せる。
……弾丸を、命中させられさえすれば。
『大丈夫です、大丈夫ですよ先輩……』
『……!』
『じゃあ、撃ちま――』
『くうっ!』
『なあっ!?』
だが直後、ユウトの目論見は失敗に終わった。
ヤツの手にしたナガシノマグナムが、
突如横合いから飛んできた巨大な"針"に貫かれちまったんだ。
それも内部の圧縮捕縛弾ごと完璧に貫通していて、
"針"から染み出る"毒液"みたいなもんで銃も弾も溶けてるとなったら、
幾ら残弾があろうと関係なく、圧縮捕縛弾での救助は諦める他ねえだろう。
(クソッ! こんな馬鹿げたことがっ!)
ユウトは自分の根本的なミスを悔いた。
武器だって器物なんだから実質消耗品……
破損のリスクを考慮して予備を持ち歩いておくべきだったんだ。
(そもそもこの場で使うのなんざ圧縮捕縛弾一択なら!
元より実質黄金時代の海賊が燧石式拳銃をそうしたように、
予め圧縮捕縛弾を装填済みのナガシノマグナムを予備まで複数拵えとくのが妥当!
だってのに俺はなんて真似をしてやがる!)
"殺す"ばかりで"助けた"経験に乏しいのが裏目に出たか。
何がギネス記録保持者の凄腕若手ヒーローだコンチキショウがと自己嫌悪に陥りながら、
然しユウトはあくまで冷静かつ瞬時に"毒針"の発生源を見抜く。
『てめえか、ガキ……!』
『……!』
ナガシノマグナムに毒針を撃ち込んだ人物……
それは誰在ろう他ならぬメリフェラその怪人だった!
曲がりなりにも蜂蜜ひいては蜜蜂の怪人である所のヤツは、
"体内で強力な毒針を作り出し撃ち出す"って能力を隠し持っていたんだ。
『っっ……ふーっ……くっ……!』
……とは言え元々鉄火場に出る前提では設計されてねぇメリフェラだ。
戦闘訓練なんて積んでるハズもなく、
何なら毒針射出能力からして想定外に生じた偶然の産物……
実質ただの飾りモン、まさに無用の長物と呼ぶべき代物に過ぎなかった。
(許せないっ……! あんな真似、許せるわけないっっ!)
なのにそれでもぶっつけ本番で"上手くやれた"のは、
所謂"火事場の馬鹿力"の一種っつーか……
窮地に陥り仲間と死別したショックで覚悟が決まり、
新たな才能に目覚めた……とか、そんな感じか。
まあそれそのものは実際、奇跡に等しい飛躍的な進歩と言えたが……
(……舐めた真似しやがって。
抵抗できるんなら最初っからやりゃあいいだろうに、
それをこんな中途半端なタイミングで……)
斜め上の独白と共に、拳銃へ刺さった毒針に恐る恐る触れるユウト。
どうやら"毒液"はタナトスモードに効かないらしく……
(あーあ、ひっでぇなコレ。
溶けた勢いで銃と弾が混じってんじゃねえか。
これじゃ復元もできねえ、丸ごと交換しなきゃじゃねえか。
ったく、結構気に入ってたモデルだったのによぉ~)
それを知るや否や、器用に毒針を引き抜いてみせる。
『……ま、いいや。
あくまで戦う気があるってんなら、相応の対応をするまでだ。
来いよガキ。仲間の弔い合戦がやりてえなら相手になってやる』
『……!』
毒針をダーツの要領で構えるユウト。
その発言が意味するところは……
『撃てよ、二本目。
俺の方はこの針投げ返すからよ。
お互い対等の条件でぇ……勝負しよ~~ぜッッ!』
『!?!?
――――くっっ!』
言うが早いか、ユウトは手にした毒針をダーツの要領で投げる。
勢いが強烈なら狙いも正確……紛れもなく殺す気満々な一撃を気取ったメリフェラは、
覚悟を決め二発目の毒針を射出しようとするが……
(――!? なんでっ!?
毒針が、出ないっっ!?)
ここで予想外の展開! なんと二発目が出ねぇ!
(そんなっ!?
どうしてっ!? どうしてっ!?
ついさっきは出せたのにっ!)
……なぜ二発目が出なかったのか?
そこにはメリフェラ自身、
ひいては『デリシャスパイザー』の誰も知り得ない真相が隠されていた。
というのもメリフェラの毒針は本家蜜蜂よろしく
"生涯に一本一発しか撃てねえ"っつー致命的かつ残念過ぎる欠陥を抱えていたんだ。
(そんな……ウソっ! ウソでしょっ!?
あのトゲ、まさか一コしかないのっ!?)
或いは考え方によっては
――飛び道具である点やら金属をも溶かす毒液といった優位性を考慮して尚――
"人間相手じゃなきゃ刺し放題な"蜜蜂以下かもしれねぇが、
ともあれ事実毒針のないメリフェラにユウトへの対抗手段などあろうハズもなく……
『あっ ひっ いっ いやあっ
やめっっっ
ぃぎゃあああああああっ!?』
ユウトの投げた毒針は、
無防備なメリフェラの左眼へ容赦なく深々と突き刺さり……
『 あ あっが
ああっ が ああっ
うぐ あ なん で
こ んな んなな
わった んなああ あが ぐぎいっ――
―― ―― ぇぅ ――― 』
潰れた左眼から血を垂れ流しながら苦しみ悶え、
程なく電池が切れたみてえに動かなくなった。
『……結局てめえもただのつまらねえ死にたがりか。
無駄にカッコつけやがって、かえって余計ダセェってんだよ』
憎々し気に吐き捨てたユウトは、
そのまま部屋奥のベッドに駆け寄りライホウを救出する。
『先輩! 今救助を呼びましたんでね!
暫くかかります、辛抱しといて下さいまし!』
「ぅ……ぁ……ユウ、ト……きみ、は……んて……を……」
『無理なさらんで下さい先輩。
そりゃ作法も何もなってねえ戦いぶりにご立腹なのはわかりますが、
こっちとしても緊急事態でしてねぇ。
ま、そんなのは弁明にもなりませんがっ』
「……っッ……くっっ……ち、が……じゃ……なくっっ……!」
『ああすみません、震えてらっしゃる!
……万一に備えて部屋の制御システムを予めぶっ壊したもんだから、
連動して空調も止まっちまったのか……
ったく、あの連中もひでえ真似しやがるっ』
[Mujo, why don't you check inside the closet?
There might be something that could count as clothing.]
(和訳:ムジョウ、クローゼットの中を探してみては?
何かしら衣類になりうるものがあるかもしれません)
『それだっ! 何故気付かなかったんだ!
感謝するぜテリテスターター!』
テリテスターターの助言通りに部屋内を探索してみれば、
確かにクローゼット内には男物の衣類が幾つも納められていた。
察するにライホウへ着せようと特注で造らせたんだろう。
着せてみりゃライホウにピッタリだった。
さて、そうこうしてるうちに救助は到着し……
『先輩、歩けそう……じゃありませんね。
すみませんが、担がせて頂きますよ』
「ぅぅ……ぁぁ……か、なあ……んな、ず……さんっ……な、いい……!」
麻痺の影響か未だ喋ることもままならねえライホウを、
ユウトは丁寧に担ぎ上げる。
対するライホウは精神的に不安定だろうにユウトの心遣いを無下にもせず、
――意味深に何やら呟きながらでこそあれ――
いたって大人しく身を任せる。
「ホンゴウさん! ご無事ですか!」
『ええなんとか! てか俺よりバンバ先輩を!
敵に何盛られたんだか知りませんが全身が麻痺しちまってる!』
「何ですってそりゃ大変だ!」
「急いで治療しないとっ!」
「ぅぅ……ぁぁぁ……」
かくしてライホウは無事救助され、
ユウト共々無事セキガハラへの帰路に就く。
ともあれこれで全て片付き、
ほぼ壊滅状態に陥った『デリシャスパイザー』の脅威も去った
『 』
……ハズ、だったんだが……
『 …… …………―― 』
無人になったハズの部屋の中
力なく転がるメリフェラの死体……
『……――……――』
目玉を貫いた毒針が脳まで届き絶命したハズの、
その指先が、かすかに動き……
『……ぅ……ぁ……ぁぁ……』
唇からは、声が漏れ……
『……あい、つ……ゆ、るさ、なぃっ……』
新たな惨劇の種は、
誰にも知られず密かに、
けれど確実に芽吹いていたんだ。




