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デスイズザヒーロー!-悪の組織の最強怪人、ヒーローに転身する-  作者: 蠱毒成長中
第三章:雷霆勇者叛逆編

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エピソード6:死神特攻大虐殺

 さて、場面は前回から引き続いて

 異次元空間レイブラディアの海に浮かぶとある"島"……


『て、敵襲っ! 敵襲であ~るっ!』

『堂々と真正面から乗り込んで来たぞーっ!』

『そんなバカな!? クローシュバリアを突き破って来たっていうんですの!?』

『ちいっ、面倒なことになりおったな!』


 より厳密には"島"に建てられた建造物……

 もといヴィラン組織『デリシャスパイザー』の基地ん中だが、

 その一室じゃ主要な幹部格らしき、

 恐らくはそれぞれ何かしらの料理を象ったであろう怪人どもが大いに焦り散らかしていた。

 理由は最早語る迄もねえだろう。

 これまで一度も破られたことのない自慢のバリアをブチ破り、

 どっかの無礼者(ユウト)が基地内へ上がり込んだ挙句、

 好き勝手暴れ回ってやがってんだからなァ。

 加えて毎秒シャレにならねえ被害が出てるってんなら、

 そりゃ焦んなきゃおかしいって話で。

 当たり前だが怪人どもの表情は軒並み暗かった。


『十中八九、レールガンマイスター(あの男性)を助けに来たんでしょうね……』

『ヒーローは俺らヴィランより縦横斜めの繋がりが強えからな……!

 大方あのマズルフラッシャーって奴らと仲のいいヤロウだろうぜっ!』


 食用花エディブルフラワー入りサラダめいたドレス姿の女怪人は冷静に分析し、

 唐辛子で象られた猛禽類っぽい中華風の男怪人が便乗する。


『加えて信じ難い事に、相手はたった一人だそうじゃないか。

 よもや我々ですら手を焼くあの怪物たちを退けてきたのか?』

『ちょっと信じられないわァ~。

 空や陸はともかく、海まで越えてくるだなんて~』


 青魚の騎士と生ハムの魔女……

 やけに距離の近い異形の男女が語る所に拠れば、

 どうやら『デリシャスパイザー』の奴らにとっても

 レイブラディアのバケモンどもは脅威って認識らしい。


『……だから言ったんだよ。

「ヒーローの拉致なんて悪手だからやめておけ」ってねぇ~。

 今も現在進行形で大勢の被害者が出ている……

 侵入者が目的を達成(あの彼を救出)するまで、

 死体は増え続けるんじゃないかなぁ~』


 いかにも湿っぽく粘っこい口調で厳しい意見を述べるのは、

 赤ワインのボトルとも回転式拳銃ともつかねえ、

 メカっぽくてミリタリーな見た目の男怪人。

 ヤツの無機質で冷たい目が睨み付けるのは……


『う……! な、何よその目はっ!?

 マリーノが悪いって言いたいワケっ!?』


 バツの悪そうな顔で逆上する小柄な女怪人……

 見た目はさながら揚げたカステラを素体に、

 ホイップクリームや溶けたチーズのドレスを纏い、

 抱き枕みてーなソーセージの尾を生やしたセルロイド人形の化け物ってトコか。


 既に半ば本人の口から出たがこいつの名は"シュガーティンクル"マリーノ。

 今までの面々共々『デリシャスパイザー』の若手幹部格で、

 とある目的から配下の怪人に命じてライホウを拉致させた張本人だった。


『ううー……!

 だってだってだって! しょうがないじゃないっ!

 マリーノだってこんなことになるなんて想定外だったんだもん!

 スイーツインズの賭けに負けたせいで無茶ぶりされて、

 ガマバーガーたちに「なんかテキトーによさげなヒーロー捕まえてきて」ってお願いしたら、

 勝手にあのイケメン捕まえて来ただけだもん!

 マリーノ悪くないもん! マリーノのせいじゃないもん!』


 喚き散らすマリーノ。

 当人としちゃ自己弁護のつもりだろうが、

 最早詭弁としてすら成立してねえのは明白で……

 結局他の幹部連中の誰からも擁護されず、

 落とし前をつけるべく上級戦闘員を連れて現場に向かう羽目になっちまったのさ。


『こんなハズじゃ……こんなハズじゃなかったのに……!

 あいつのせいで……あいつのせいで最悪なんですケドッ……!』


 ま、とは言えマリーノとて曲がりなりにも幹部格のヴィラン。

 戦闘能力は折り紙付き、

 並みのヒーローに苦戦するほどのタマじゃねェ。

 そう、"並みのヒーローには"決して苦戦なんかしねえんだが……


『 イ ヤ サ カ ァ ! 』

『ハクノォーッ!?』


 生憎と襲撃してきた奴は"並みのヒーロー"なんかじゃなかった。

 何せヴィラン殺しでギネスを取り、

 数多の組織から歩く死亡フラグと恐れられた害悪だ。

 そんな奴がしかも、

 トッテオキの強化形態を引っ提げてんだから弱いワケがなく……


『そりゃ"イ「マ」サカ"だろうがぁ……!

 間違えてンじゃねえッ!』

『うぎゃあっ!?』


 しかもキレ散らかしてるせいで一周回って動きに無駄がない。

 そんな状態のユウトに、たかが

 "並みのヒーローに苦戦しない程度の幹部怪人"が善戦できようハズはなく……


(うぐ、なんで……なんでこんな、

 弱っちそうなやつなんかに……!)


 精々ほんの僅かに手古摺らせる程度の"あってないような"抵抗しかできず、

 殆ど一方的に圧倒されてるも同然のひでぇ有り様だったんだが……


『まだ、終わってない……!

 こんな所で、終わるもんか……!』


 怒りの形相で四つん這いになったマリーノは、

 キレた猫だかサソリみてぇにソーセージ型の尻尾を持ち上げ……


『コビック!』

『アァァ〜ルヤァァ〜〜ン!』


 尻尾はマリーノの呼び掛けに応じて上下に裂け、

 目鼻も鱗もない大蛇じみた化け物に姿を変えた!


『コビック! あいつを殺して!

 バラバラに噛み砕いてやるのよっ!』

『アルヤァァァン!』


 化け物"コビック"は個別の自我を持ってるらしく、

 妙に甲高い変な鳴き声で吼えながらユウトに奇襲を仕掛けたが……


『アァァァッルヤァァァァ――

『遅えっ』

『ヴイアドオッ!?』

『いぎいっ!? うぎゃああっ!?』


 ユウトにしてみりゃそんなもん奇襲の内にも入らねえ。

 迫るコビックを夜女神倅で両断序でに根元から切り落とし、

 更に空中で輪切りにしつつ、マリーノ自身の四肢も切断……


『あ゛っっ!? があああっ!?』


 要した時間、僅か六.二秒。

 余りに斬撃が素早すぎるもんで、

 マリーノは何が起こったんだか理解が追い付かず……


『あっ、ああっ……! なに、これえ……!?』


 次の瞬間目の当たりにしたのは、

 無残に転がるてめえ自身の手足や尻尾の残骸、

 そして傷口から体液代わりに溶け出す肉汁やクリームフィリングで……


『そん、な……!?

 なん、で……? なんでええええええっ!?』


 それらはヤツ自身が最早助からねぇって揺らぎねえ事実を、

 容赦なくありありと見せつけ自覚させるに十分過ぎたんだ。


『……へぇ~。

 食い物みてえな見た目した生物かと思ったら、

 マジで内部構造まで食い物みてぇになってんのかよ。

 YouTubeチャンネルの「クレイジーチョコレート」を思い出すなァ。

 ま、菓子生物あっち腸詰ソーセージは居なかったがよぉ~』


 一方のユウトは怒りが何周か回ったせいだろう、

 いっそ不気味なほどに落ち着き払っていた。


『よぉガキぃ~、

 てめーン組織トコのバカが拉致った俺の同僚、

 連れ戻しに来てやったんだけどよぉ~、

 身柄ガラぁ何処やったか吐け。

 吐かねえならてめえのそのカラダがどーゆー構造ンなってんのか、

 隅々まで丁寧に調べ尽くした上でもし生きてたら殺す。

 加えて態度が気に食わなかった場合、

 俺自身さえ引くような方法で苦しめてやるからそう思え……』

『ひっっ……!』


 途端マリーノは、さっ……と全身の血の気が失せるような感覚を覚えた。

 本能にまで訴えかけてくる根源的恐怖の具現……

 "こいつはやると言ったら絶対やる"ってイヤな説得力に溢れていた。

 ともすりゃどうして反抗的な態度なんて取れるだろうか。


『わ、わかりましたっ!

 言います言います!

 捕まえたヒーローはスイーツインズって奴らに!

 スイーツインズは"マッドハニービー"メリフェラと

 "ポメグラネート"メンテーって女怪人の二人組です!

 奴ら「お楽しみ」とか「今夜は寝かさない」とか言ってて、

 トップのトリデリカシー評議会に有給休暇申請してました!

 まだ有給休暇は続いてるので自分たちの部屋の中に引きこもってるハズです!

 多分お探しのヒーローも同じ場所にいるのではないかと思われますですはい!

 あと奴らの部屋への道順についてですが

 基地内に案内板があるのでそれを参照して下さいますと分かりやすいかとーっ!』


 命惜しさからだろう、

 マリーノはそれまでの小生意気な態度がウソみてえに

 下っ端感全開の超絶早口でもって知ってること全て洗いざらい吐き出した。

 今やこの小娘怪人の心は一つ"生き延びたい"っつー、ただそれだけだ。

 さて、ユウトの反応は……


『……上出来だ。よく吐けたな。

 そのミョーな身体の構造が知れねえのは惜しいが、

 然し基地内に案内板があるってのは盲点だった。

 教えてくれてありがとうよ……』

『いえいえいえいえ! お礼には及びませんので!

 当然のことをしたまでですからハイ!』


 表面上では敬語を使ってたマリーノだが、

 さりとて実際脳内は『さっさとどっか行け』とかそんなフレーズで満ちていた。


(正直高いから使いたくなかったけど、

 こいつが私を助けてくれるとも思えないし……)


 マリーノは体内に隠した自己再生システム『ホショーセイドー』に意識を集中させる。

 例え四肢と尾が無くなろうが、

 頭さえ残ってりゃ『ホショーセイドー』で完璧に肉体を修復し元通りになれる。

 仕込むには給料三ヶ月分の金がかかる上に使い切り、

 しかも仕様上同時に一つしか持っとけねぇんで極力使いたくはなかったが……

 さりとて今は状況が状況だ。背に腹は代えられねえ。


(今使ったらこいつに殺されちゃうし、

 こいつがどっか行ってから『ホショーセイドー』で復活して早く逃げなきゃ……!)


 逃げた後、マリーノは組織を退職するつもりでいた。

 何なら退職届が受理されまいと、無理矢理逃げ出してやろうとさえ考えていた。

 収入や住居が無くなるのは惜しいが、

 さりとて元々組織に愛着らしい愛着なんて無かったし、

 そもそもいつ死んでもおかしくないような現場で働くなんて

 自分の性に合ってないと今回の一件でしっかり理解できたからだ。


(そうよ、こんな組織なんてもうやめてやる!

 ヴィランなんてやめてやる!

 どいつもこいつも事ある毎に責任だのなんだの

 わけわかんないことばっか口うるさく言ってきて、

 もうウンザリだったんだから!

 そうよマリーノ! こういう時はいいことを考えるのよ!)


 そっから先、マリーノの妄想はどんどん飛躍していくが……


(基地を抜け出したらすぐに裏の町に降りて、

 次元渡航屋に金を掴ませてこんなクソみたいな世界だって脱出してやる!

 レイブラディアを脱出したら、

 どこか別の世界でテキトーになんか稼げる仕事に就けばいい!

 誰かに恨まれるなんて御免だし、やっぱりやるならヒーローかしら?

 いいえ、戦ってたら結局誰かに恨まれるし、

 となったらやっぱりアイドルとか!?

 異世界のその辺歩いてたら、スカウトされちゃったりしてー!

 マリーノってば超絶可愛いし、そういう可能性って無きにしも非ずよn――

[葬儀開催♥ 根絶-ベーシックプラン♥]

[Death is always equal and fair.]

(和訳:死は常に平等かつ公平である)


 繰り広げられていた妄想は、

 響くシステム音声らの介入でもって中断される。


『えっ』


 ふと見れば、そこには必殺技の構えを取ったユウトの姿が。

 当然、見逃して貰えると思ってたマリーノは困惑せずにいられねえ。


『な、なんで、あの、

 えっ、待って、なんでっっ!?』

『なにが「なんで」だよ。

 質問を質問で返すようだが、何かおかしいトコでもあるかぁ?

 元々うちの先輩拉致った責任はてめえら全員にあるワケだしよ、

 そりゃ殺すのが筋ってモンだよなぁ~?』

『い、や、そ、そんなっ! そんなあっ!』


 必殺技のコマンドを受け付けたからだろう、

 夜女神倅の刃には邪悪な色の稲妻めいたエネルギーが纏わりついている。


『そりゃエグい目には遭わせねえよ、情報提供してくれたからな。

 だが殺すのはきっちり殺す。

 中途半端に苦しめるなんざリスクヘッジの観点から言って悪手だし、

 何より非人道的で道徳的によろしくねえからなあ』

『いや、ちょっ、待っってっっ――

[フューネラル・ストライク♥]


 容赦なく響くシステム音声……


『痛みはねえ。一瞬でカタぁつけるっ』

『待って、待ってってばっ!

 そんな、どうしt――    ぁ   っっ   』


 振り下ろされた刃はマリーノを両断し、

 邪悪な色のエネルギーがその亡骸を焼き尽くしていく。

 溶けたチーズみてえなドレスや、

 スポンジ生地みてえな体組織から、

 クリームフィリングみてえな内臓まで、

 そのすべてを、容赦なく……


『さあ、案内板ってのを捜すとしよう』

[This young girl is probably a senior officer.

If that's the case, the other executives have likely started moving as well.

Mujo, be careful and prepare for further engagements.]

(和訳:この小娘は恐らく幹部構成員ですね。

    とすれば他の幹部たちも動き始めている頃でしょう。

    ムジョウ、更なる交戦を想定し十分に用心して下さい)

『おう、ありがとうよテリテスターター。

 ……そうだな。できればこんな組織壊滅させてやりてぇが、

 ともあれ先輩助け出すのが最優先か』

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