エピソード4:死神決死大航海
さて!
前々回まで年明けムードだったってのに、
全開でいきなりユウトが異次元空間でバケモンと殺し合ってたモンで、
一体ゼンタイ何がどーなってんだと困惑した読者も少なからずいるだろう!
てコトで、そんな読者諸君の為にほんの数百字か千何百字ほど費やして、
"ホンゴウ・ユウトはなぜ異次元空間"レイブラディア"で
殺意マシマシな化け物どもと殺し合う羽目になったか?"
について解説させて頂こう!
事の起こりはその年の三月某日!
"英雄特別安息日間"を終えたユウトは、
同僚のヒーローチーム"二代目マズルフラッシャー"共々、
日々ヴィランとの戦いや人命救助といった業務に励んでいた!
だがある日、ヒーローたちは壁にぶち当たる!
というのもマズルフラッシャーの七人――マリエを含む――は、
何でも無さそうなヴィランに予想外の苦戦を強いられたばかりか、
そのまま惨敗を喫し満身創痍のまま撤退を余儀なくされちまったんだ!
しかも最悪なことに、
他の六人を庇ったライホウが敵に捕まり連れ去られちまう事態も併発!
別件で地球外に居たユウトは、
戻ったと同時同僚の惨敗を知らされ激昂!
強引にヴィラン組織の拠点へのカチコミを敢行する!
向かうは総本山の所在地、異次元空間"レイブラディア"!
攻撃的で殺意塗れのバケモンどもが跳梁跋扈する世界で、
果たしてユウトはライホウを救い出せるのか!?
……とまあ、こんな具合でな。
マズルフラッシャーを惨敗に追い込む辺り
件のヴィランが相当厄介な相手なのは間違いなく、
しかも異次元空間となったら地球からのアクセスも最悪ってことで、
セキガハラはじめ関係各所はライホウ救出に及び腰だった所を、
ユウトは有無言わさず強引に単身で押し切ったってのも、
忘れちゃなんねー特記事項だろう。
そして……
『バックしまーす! バックしまーす!
ハイクラス&ラグジュアリーにバックしまーす!』
〔〔〔〔〔〔ギャアアリッドオオオオオッ!?〕〕〕〕〕〕〕
〔〔〔〔〔〔〔ジィィヅァゴバグウウウッ!?〕〕〕〕〕〕〕
セルケトクロウラーで進むこと暫し、
遂にユウトは敵組織が拠点とする島へ続く海岸に辿り着く!
『"格納"』
停止させたセルケトクロウラーを引っ込めたユウトは、
海を渡る準備に取り掛かる。
『一応、海に落ちた時の事も考えておかねーとな。
……超転身』
[フォルネウスモード♥]
ギルタブリルモードからフォルネウスモードに切り替えたユウトは、
丁度近場にあった大型貨物船の残骸に手を翳す。
『"変成"
"海魔は漁師、或いは海兵をも喰らう"』
ユウトの体内から沸き立つ緑色のエネルギー……
激しい水流めいたそれは相変わらず腕を伝って船の残骸に流れ込み、
緑色をした光の塊に姿を変えて水上に転移する。
『"構築"、"トヨタマ型特殊巡洋艦イソナデ号"』
ユウトの宣言に呼応するが如く光の塊は海面で膨張……
瞬く間にサメを象った軍艦に姿を変える。
セルケトクロウラーをも遥かに上回る、
ともすりゃ旧日本海軍の高雄型重巡洋艦にも匹敵しうる巨体には、
当然と言うべきか無数の武装が搭載されている。
これぞ"トヨタマ型特殊巡洋艦イソナデ号"……
使い所は限られるものの、
その戦闘能力と乗ってる時の安心感は格別の代物だ。
『行くか』
"水都の暗殺鮫"で甲板を経由し艦橋に乗り込んだユウト。
とは言えヤツはすぐに艦を発進はさせず、艦内放送でもって声高に呼び掛ける!
『親愛なる乗組員諸君!
恐縮だがこの船主に力を貸してくれィ!』
「「「「「YES! OWNER!!」」」」」
ユウトが呼び掛けると、艦内全域から陽気な声が響き、
続け様に通路の壁や甲板なんかが開いては、
"イソナデ号"の乗組員が姿を現した!
「イィィィヤッハアア!」「出航だぁぁぁ!」
「来た来た来た来たァァァ!」
「「ウェェェェミダァァァァァ!」」
「よっしゃああああ!」「行ったらあああ!」
口々に騒ぎながら駆け付ける陽気な"乗組員"ども!
その数は膨大、かつ殆どはヒト型じゃなく……
「エラが熱くなってきたぜぇ!」
「浮袋が滾るわぁ~!」
「触手が粟立つわいっ!」
有り体に言うと、色んな海洋生物の姿をしてた!
それも、聊かクリーチャーっぽいビジュアルの!
『やあ親愛なる乗組員諸君、会えて光栄だ。
こうしてまた共に海に出られるとはな』
「俺らもだよ船主!」
「気分は最高だぜ!」
「獄中で気楽に過ごすのも悪くないけど、
イソナデでしか得られない栄養ってのがあるからねぇ!」
艦橋内。ユウトは集まった乗組員たちと言葉を交わす。
詳しい説明は省かせて貰うが、
乗組員たちとユウトの関係は良好そのものだ。
「して船主殿、此度は如何な要件に御座いますかな?」
『よくぞ聞いてくれたぜ衛生課長。
敵はこっから一万二千キロ先のマク・ラモーフって島ァ仕切ってるふざけた連中だ。
奴ら、俺が敬愛してやまねえ偉大な先輩たちを痛め付けボコった挙句、
そん中でも一番立派な御仁をこともあろうに拉致りやがってな』
「一番立派な御仁ってぇと、まさかレールガンのイケメンくんかぁ!?」
「なんてヤツらなの! 許せないワッ!」
「するってーと船主ぁ、
つまり今回はそのマク・ラモーフ島をぶっ潰して
銀ピカキャノンの兄貴を助け出そうってワケかい!?」
『その通りだ機関士長。
こっから目標の島を目指して海を直線距離で一万五千キロ一気に突っ切る!
言うまでもねーが道中での戦闘は避けられねぇ。
極論、この艦船を煮干し感覚で食うようなバケモンとているだろう。
間違いなく今迄にないほど過酷な船旅になることが予想される。
危ねえと思ったら即座に逃げていいぞ
……勿論、最低限の仕事はしてもらわなきゃ困るがな。
以上、何か発進前に質問なり何なりありゃ受け付けるが』
ユウトは腹をくくって問い掛けるが……
予想に反して質問や意見をしてくる乗組員は居なかった。
『……覚悟はできてるってか。
いい心がけだ……艦長!』
「あいわかった! エナジーバリア解除! イソナデ号、発進である!」
「エナジーバリア解除しました!
イソナデ号、発進致します!」
ユウトの指示を受けた館長の号令を合図に、
巨大艦艇イソナデ号は遂に動き出す。
……勿論、海上に動くもんがあるとなりゃ、
凶悪なレイブラディアの海洋生物どもが逃ハズはねぇ!
〔〔〔〔グギイイイイイ!〕〕〕〕
〔〔ヴオオオエエアアアアア!〕〕
〔〔〔ガッギャギャギャギャギャアアアッ!〕〕〕
事実、イソナデ号の周囲は瞬く間に化け物の群れに取り囲まれる!
例えば……
〔ギョゲエエエエッ!〕
「うおっらああああ! 刺身にしてやらあああ!」
スズキとテッポウエビの混血児に混ぜもんだらけのステロイドをぶち込んだようなのや、
〔ヴルアアアアアアア!〕
「クソッ! このっ! 離しやがれっ!」
口ン中からトゲだらけの触手を何本も繰り出す全長数メートルで目鼻の無いサメ、
〔フウウヒヒヒヒヒヒイイイイッ!〕
「なんか投げて来たぞおおお!」
「撃ち落とすのよぉぉぉぉ!」
カサのあちこちから人間の腕を生やし毒針の詰まった細胞の塊を投げて来るクラゲ、
〔ヌゥゥゥ~~~……ッシ〕
「なっ!? なんだあっ!?」
「触手が、束ねられてっ……槍かありゃあ!?」
「なるほど奴さん接近戦をご所望か!」
「フッ! ならば丁度よいな!
我が受けて立って――」
〔ッラァァァ~~!〕
「のわぁぁぁっ!? 投げて来た~~っ!?」
「野郎卑怯だぞ! 接近戦しろこの野郎!」
「いやまあジャベリンつって投げるのに特化した槍もあるし別に卑怯ではなくね?」
背中に生えた触手を編み合わせて刀剣や槍にして射出するミノウミウシ、
〔フホォォォォォン……〕
〔キュイィィィ……!〕
「へっ! デカい図体で寄って来たぜ!」
「ハチの巣にしてやるわっ!」
〔〔〔〔ンニュゥゥゥ~~!〕〕〕〕
「だああああっ! 弾丸がっ! 通らねえっ!」
「ウソでしょ!? ロケットランチャーでも歯が立たないなんて!」
全長数十メートルのシャチやクジラに纏わりつき鎧に変形する巨大ウズムシの群れ、
〔キィエエエエエエッ!〕
〔クゲエエエエエッ!〕
「なっ!? なんだあ!? 何か落ちて来たぞッ!?」
「えっ、う、ウニぃぃぃぃ!?」
「ぎゃああああ! 爆発しやがったああああ!
なんだありゃあああああ!」
ジェット噴射で空を飛ぶイカや自爆するウニなんかを
"装備"した翼開長八メートル越えの海鳥と、
そいつらをあたかも艦載機の如く使役する空母じみたエイやイカ……
とまあ、こんな具合に大概ヤバい連中が次々襲い掛かって来やがるんだ。
『ちっ! やっぱ海中もヤバいのだらけか!
何なら海中の方が種類も数も多いし戦闘能力とて高えじゃねえかっ!』
艦橋内。座席に腰掛けたユウトは艦外の惨状に顔を顰め、
両手足から不定形な発行体を放っては艦内に巡らせていく。
ユウトの身体を出てあちこちの回路や配管、
支柱なんかを通った発行体は、
やがて乗組員たちの身体に染み込みその疲れや傷を癒していく。
……これは異能"霊魂刈取"と"霊魂移植"を組み合わせたような代物で、
死して肉体を離れたバケモン共の魂を生命力として吸収、
更に体内で治癒・修復作用のあるエネルギーに変換して放出し、
疲弊・負傷した乗組員たちに供給するっつー技だった。
(艦長含めた乗組員の面倒見んのはッ!
船主の務めってヤツだろうがぁぁぁ~~~っ!)
文字通りイソナデ号の中枢たる以上、
原則おいそれと艦橋を離れる訳にもいかねえユウトは、
然し本来前線に出て戦うべき自分が安全圏にいるのがどうにも納得できず、
どうにか乗組員たちの役に立とうと考えた。
その結果即興で考え付いたのがこの"回復技"だったんだが……
(ぐうぉ、っぉぉ……!
なんだこの、季節の変わり目に空調設定ミスって体調崩した時みてえな……!)
当然本来の設計にはない変則的な非正規の技を、
しかも開発したての段階でロクにテストもせず使ってるんだから
実態としちゃフツーにヤバいワケで……
『ぅぅうっ、づぅぁっ……!
ヘバるかっ、この程度でっっ……!』
「うををををゐっっ!?
お、船主どーしたんスかっ!?
なんかアンタぁハイパーやべぇ感じんなってるッスよっ!」
『……気にすんな、船務課長っ。
徹夜でエナドリ片手にスイメドやってた弊害だ、
なんてことはねえっ』
「バレバレの大嘘ついてんじゃないわよっ!
そのモニターみたいになってる顔面に
『バイタル警報発令』って書いてあるじゃない!」
「船主様ぁぁぁ~! 何しとんか知りませんけどご自愛下さいましよ~!」
『やかましいっ……! いいから黙って自分の仕事しろっ……!』
大波乱の中、イソナデ号の航海は続いていくんだ。




