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デスイズザヒーロー!-悪の組織の最強怪人、ヒーローに転身する-  作者: 蠱毒成長中
第三章:雷霆勇者叛逆編

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エピソード2:死神新春初詣/暗示された未来

 場面は年明けから間もない某所の山中。


(……うん。いい雰囲気だ。

 人混みもねえ。てか人がまずそこまで居ねえ。

 ヴィランどもが潜伏してる可能性だって低かろう)


 自前の航空機"オーディンズウィングス"を駆ること数分……

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()ユウトが辿り着いたのは、

 地元近郊の山中にある神社だった。

 年明け間もない割には(?)賑わいも寂れもせず参拝客はまばら……

 スラングで言うトコの所謂"隠れ家的スポット"ってヤツだろうか。


(……折角だ、賽銭でも入れてくか)


 鳥居前で一礼、参道の端を歩き、

 手水舎で左手、右手、口、柄杓の柄の順に身を清め、

 鈴を鳴らし、賽銭を投入……

 二礼二拍手一礼の後、心の中で神に願いを述べる。


(八百万の神々よ、

 あなた様方にどんな愚物俗物悪党の願いも聞き入れて下さる度量がおありなら、

 どうかこの殺生者の願いもお聞き入れ下さい。

 今の世の中は全く酷い有様です。

 こんな殺生者が世界を救った英雄扱いされて、

 億単位の金が支払われるなんておかしいと思います。

 けどそんな世の中じゃなきゃ自分に居場所なんてないのもわかります。

 こんな酷い有り様の世の中でもなんだかんだ愛着が湧いてて、

 酷い有り様の世の中をこそ楽しめてしまってる自分がいます。

 そんな、本来ならあなた方の前に立つ権利もないような奴ですが、

 その程度の奴があなた方に願い事をしても許されるのでしたら、

 どうかこの世に暮らす人々が一人でも多く本当の意味で救われますように。

 誰もが理不尽な災厄、不当な苦悩、

 乗り越えられず逃げ道もない困難等に遭遇せず、

 かえって確かに強く成長し前に進んでいけますように。

 そしてこんな自分なんかでもせめて、

 そうした方々の為に働いていけますように。

 そのためにもより戦闘者としての高みに至れますように。

 あの時死ぬはずだった所を助けて貰って今まで繋いで来れたこの命で、

 世の為に末永く確実に働き続けられますように。

 謹んでお願い申し上げます……)


 深々と願いを捧げたユウトは、

 そのまま参道の端を通り、

 鳥居に頭を下げ神社を後にした。



「……風情があって雰囲気もいい神社だったな。

 いつかまた来よう」


 山を下りて、街に出るユウト。

 それなりに賑わいこそすれ、決して人混みができる程でもない、

 そんな街の中をしばらく進んで見付けたのは……


「ホウ、"占い"か……。

 正月シーズンだってのに開いてやがる」


 『タロット占い モーベリー』……要するに占い師が客の鑑定をする施設だった。

 ユウト自身、占術なんてもんをそこまで信じてる方じゃない。

 精々日常に彩りを添える程度のモンでしかなく、

 易についちゃ『当たってりゃ楽しいしラッキー』ってぐらいの認識だった。

 だが逆に言えば、だからこそ新年一発目の運試しを軽いノリで試したワケであって……


(もしかしたらこの休暇を上手く楽しむヒントが得られるかもしれねえ。

 占術や易学ってのは存外奥が深くてバカにできねえからな)


 無論ダメで元々でしかなかった。

 本当にただの気晴らしで、

 信用できる結果なんて得られっこない前提だったんだ。


「御免下せえ」


 店内に足を踏み入れる。

 店の規模からして十中八九個人経営だろうが、

 それにしちゃ内装や調度品が凝っていて、

 上品ながらもエキゾチックな雰囲気だ。

 海水魚の水槽まである辺り、かかった予算は相当なもんだろう。


「いらっしゃいませ~。

 『タロット占い モーベリー』へようこそ~」


 店の奥から出て来たのは、

 華奢な体格で愛らしい顔立ちをした、

 異様に若い風貌の女だった。

 他に店員がいない辺り、

 どうやらこの女が経営者……つまり占い師らしい。


「お忙しい中不躾にすみません。

 正月シーズンってことで、今年の運勢を占って頂きたいんです」


 会釈しながら、

 ユウトは財布から万札を三枚取り出し占い師に差し出した。

 店の前にあった料金表では遥かに安かったが、

 易者っつー稼ぎの不安定な(?)仕事で、

 しかも若くして自分の店を切り盛りしながら頑張る占い師の姿を見ていたら、

 高給取りとして多少強引にでも応援してやりたくなったが故の行動だった。


「ぬうえっ!? こ、こんなに沢山っ!?

 あの、失礼ですけどお客様、料金表の方は……」

「見ましたよ。見た上で出しました。

 ……まだまだお若いってのにご自分の店を、

 しかも従業員無しで切り盛りされてるとあっちゃ、

 きっと悩みや苦労も多いことでしょう。

 内装だって拘ってらっしゃる。

 装飾や調度品はどれも見るからに高級そうですし、

 何よりそちらの水槽……

 海水でそのサイズとなりゃただでさえお高いでしょうに、

 加えて中の動物も手間のかかる高級種ばかりときた。

 特にゴールデンソリッドモレイなんて、

 手間がかかる以前に流通するのが稀じゃないですか」


 世間話に花を咲かせつつ、

 どうにか占い師に三万円を受け取らせたユウト。

 かくして二人は向かい合って、いよいよ占いが始まる。


「――ではお客様、三枚選んで頂けますか?」

「わかりました」


 混ぜられたカードを選ぶユウト。

 内心では『死神が逆位置で出たらラッキーだろう』ぐらいに思っていた。

 タロットカードは向きで意味が逆転する……

 つまり本来の絵柄の向き"正位置"では凶を示すカードでも、

 引っ繰り返った"逆位置"ではかえって吉を示すようになりがちなんだ。


 それこそ大アルカナ第十三番"死神"とて例外ではなく、

 正位置だと"停止"、"終末"、"破滅"、"離散"、

 "終局"、"死の予兆"、"終焉"、"消滅"、"死屍累々"、"風前の灯"などを意味し、

 凡そラノベ主人公が新年一発目に引き当てていいカードじゃねえ。

 ただ逆位置の場合は一転して"再スタート"、"新展開"、"上昇"、

 "挫折からの立ち直り"、"再生"、"起死回生"、"覚醒"、"転生"、"輪廻転生"と、

 一転してラノベ主人公だからこそ大事にしたい言葉が並ぶ。


 実際平成期になんかのアニメにもあったよな。

 タロット遊びしてたら死神引いちゃってヘコんでた金持ちの小娘んとこに、

 推定その兄貴か彼氏っぽい奴が寄って来て死神のカードひっくり返すって場面が。


 ……ま、そもそも世の中には

 『死神は正位置でも肯定的に解釈できる』なんて言説もあるワケだが……


 ともあれ、実際引かれたカードはというと……


(……死神は無かったか。

 それにしたって大概ロクでもねぇカードばかりだが)


 事実、第十三番"死神"や第十五番"悪魔"なんかの

 "いかにも"なカードこそなかったものの、

 それでも大概ヤバいのが揃ってた。


 一枚目は正位置の第十八番"月"。

 荒野を照らす人面月、雫状の月光、

 二棟の建物と二匹の犬、水中の甲殻類(ザリガニ)……

 一見すると賑やかな絵柄だし、

 特に『美少女戦士(セーラームーン)』ファンの淑女諸氏なんかは

 果たして『月の何が不吉なんだ』とでも思うだろうが、

 こと正位置では

 "不安定"、"幻惑"、"現実逃避"、"潜在する危険"、

 "欺瞞"、"幻滅"、"裏切り"、"洗脳"、"心的外傷(トラウマ)"等、

 軒並みヤバイもんを暗示している。


 二枚目は正位置の第十六番"塔"。

 闇を背景に落雷が直撃し燃え上がる塔、

 そしてその塔から投げ出される哀れな被害者二人。

 絵柄からしてどうしようもないヤバさを感じるが、

 事実一説にはあの"日本人景教徒が概ね中学時代に逆恨みしがち"でお馴染み

 旧約聖書に登場する"バベルの塔"がモデルとされてて、

 全体的なテーマは"破綻"。

 暗示の傾向とて

 "破壊"、"破滅"、"崩壊"、

 "災害"、"悲劇"、"悲惨"、

 "惨事"、"惨劇"、"凄惨"……とまあロクなもんがねえ。

 しかもよりタチが悪いのは逆位置でも凶を暗示してるってトコで、

 要するに"最悪の大アルカナ"と言って差し支えねえだろう。


 三枚目は逆位置の第二十番"審判"。

 青空をバックに天使がラッパを吹き鳴らし、

 それを大勢の地上人たちが好意的に受け止めてる絵柄は賑やかで、

 ともすりゃ希望に満ち溢れてる。

 そんな絵柄から察しはつくだろうがこの"審判"、

 こと正位置での暗示は

 "復活"、"結果"、"改善"、

 "覚醒"、"発展"、"敗者復活"、"転生"と概ね吉ばかりなんだが、

 ユウトが引いた"審判"は逆位置……

 暗示するところは

 "悔恨"、"行き詰まり"、"悪い報せ"、"再起不能"と凶が並ぶ。

 そもそも景教は十戒で殺人を禁じ、また暴力行為もご法度だ。

 ギネス取るほどの暴力的な殺戮者で通ってるユウトが、

 果たして天使から好意的に見られるかっつーと、答えは否だろう。


「ぬぬっ……! こ、これは……かなり、その……

 変化の大きな年になりそうですねぇ~……」


 実際カードを見た占い師の表情は強張っていた。

 恐らく、羽振りのいい客に悪い易をつけちまったのが負い目なんだろう。


「……こいつぁ、用心した方が良さそうですかな」


 ユウトは占い師に問い掛ける。

 ……客商売たる以上客の機嫌を損ねたり不安を煽るような発言はすまいが、

 それでも辛い現実を敢えて率直に伝えながら

 『結局最後に運命を決めるのはあなたです』ぐらいにイイ感じで纏めつつ、

 何をどうすりゃ不幸が回避できるかとかのアドバイスをしてくれそうだ……

 と、そんな風に予想していたワケだが、

 然し実際占い師の反応はっつーと……


「だ、大丈夫ですよ~! 心配ありませんって~!」


 貼り付けたような笑顔で、励ましにくる。

 設定した料金の数倍近い金を払ったユウトに媚びてるのは明らかだった。


「確かにどれも一般的には縁起が悪いカードと言われますけどっ、

 "月" は『インスピレーションが冴える時期』も意味してまして、

 "塔"は『悪いものが壊れて新しいサイクルに入る』からいい兆しともされますし、

 "審判"は『再スタート・再生の時』! つまり素晴らしい転機ってことです!」

「つまり、直観力が冴え渡り、古い流れは崩壊し、新しいチャンスが到来する……と」

「その通りです! ですからきっと、

 今年はあなたにとって素晴らしい一年になることでしょう!」

「……そうですかねぇ。

 なら、あなたの顔に泥塗らねえように頑張らんといけませんなァ」


 爽やかに言い残し店を後にするユウト。

 ただそれでも内心では、

 一連の易とてあくまで占い師個人の私見に過ぎず、

 警戒を怠っていい理由はねえだろうと判断……

 より一層気を引き締め、油断せず努力しなきゃならんと、

 改めて決意を固めたんだ。


(……いざとなったら俺自身が"逆位置の死神"になるだけだ……!)

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― 新着の感想 ―
 多分最悪は愚者、運命、世界の組み合わせかもかも。  新しい運命が開けるという暗示でしょうけど、それはその世界での物事の終わりでもありますし、死亡フラグという解釈も可能なわけで。  異世界転生ものの主…
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