エピソード28:ヒーロー超絶転身-刈り取れ、その魂
場面は引き続き茶利尾半島の海岸霊園跡地……。
『今年よりまず、てめえが終わっとけっ!』
『 』
ユウト渾身の一撃を喰らったカイデン・ヒトトキは、
殻ごと木っ端微塵に砕け散りその生涯に幕を閉じた……かに見えた。
『フゥゥァハハハハハァァァァッ!』
だが絶命したハズのヤツの死骸から、
薄黄色に光るガスみてーなのが漏れ出し、
やがて空中で凝固し巨大な火の玉へと姿を変えていく。
『……なんだ?』
「えぇっ!? あの瓦礫のケケモノ、
まさかまだアライブしてんでござります!?」
「なんと、まさかっ!
よもや実在したっちゅうんかい!?」
『イーッヒッヒッヒヒヒヒヒッヒヒヒッヒヒヒッハハハアーッ!』
響くカイデンの笑い声……
ともすりゃあのガスひいては火の玉が、
カイデン・ヒトトキの成れの果てなのは想像に難くねえが……
「くっ! 上手く行くか分からんが……"亡霊凝結"!」
光るガスの正体を知ってるらしいヤギヌマは咄嗟に魔術を放つ!
それは幽体状疑似生命体
――要するに所謂"幽霊"の類――を結晶に封じ込めるって代物だったが……
『ハアアアアアッ!』
「なにいっ!? くっ、やはり我如きの霊媒魔術ではどうにもならんかっ!」
なんとカイデンらしき火の玉は、
本来並みの幽霊なら余裕で完封できるヤギヌマの魔術をも跳ね除けちまったんだ!
『おいヤギヌマっ! どうしたっ!?』
「ホンゴウ! 詳しい説明は後回しだっ!
あの火の玉を何としても止めてくれいっ!
我の知識と記憶に誤りがなければ、それは極めて恐るべき悪霊の類!
放置すれば都市一つ程度は簡単に滅ぶ!
或いは対処を誤れば、最悪天の川銀河さえ半壊しかねんぞ!」
「でぇぇぇ~~!? あ、天の川銀河がぁぁぁ!? 半壊ィィィィ!?」
『なんだと……冗談じゃねえぞ』
天の川銀河ってのは要するに地球、
もとい太陽系が属する所謂"銀河系"の別名だ。
それが半壊しかねねーってのはつまり……説明しなくてもわかるよな?
どう考えてもヤバい状況だが……
ここでまさかの助け船が!
[In that case, Mujo, it's exactly your turn. Use the unique weapon of 'Thanatos Mode.']
(和訳:でしたらムジョウ、まさにあなたの出番ですよ。
"タナトスモード"の固有武器を使うのです)
そう、テリテスターターだ!
この謎めいた変身アイテムに曰く、
"タナトスモードの固有武器"とやらが突破口になるそうだが……
『タナトスモードの固有武器、ねえ。
……そう言われても、出し方なんてわからねえぞ?
今までの四つはそりゃ、
元々システムの一部として設計されてたからイケたようなもんであってだなっ』
[Don't worry.
Everything is already prepared.
All that's left is for you to give just a little push.]
(和訳:ご心配なく。
既に準備は整っています。
あとはあなたがほんの切っ掛けを与えるだけでいいのです)
『ほんの切っ掛け、ねぇ……』
言われるままユウトは"意識を傾ける"。
かつて各形態に対応した四つの固有武器
――焼却爪甲、飛翔群刀、
毒撃機銃、深淵剛刃――を形成した時みてぇに。
『ウィーヒハハ! フィーヒヒヒヒハハハハハァァ~!』
食い逃げ犯からフジツボを経て、
遂に銀河も滅ぼす火の玉になったカイデンは狂ったように笑いながら膨張し続けるが、
そんなのはお構いなしに集中していく……。
(……)
すると程なく、ユウトの脳内に情報が幾つか流れ込み……
一つの言葉が出来上がる。
『要請-……"亡き師の影を温ね、己の道を見出さん"……』
[Summon Weapon]
[召喚要請受理♥ 供給、刈魂刀夜女神倅]
出来上がった言葉を口にしながら手首を腹に翳せば、
テリテスターターとクラナドライバーが呼応して連動。
ユウトの手元に禍々しいエネルギーが宿り、
鞘に収まった全長一.八メートル程の長巻が形成される。
これぞまさにタナトスモードの固有武器"刈魂刀夜女神倅"に他ならねえ。
『……長巻か。
高校の戦闘技能発表会……まあ要するに文化祭風の体育祭なんだが、
そこで「戦国スターウォーズ」ってコントやることになって、
「長巻型ライトセーバーって絶対カッコイイから
ジェダイ側で塚原卜伝出そうぜ」って言ったの思い出すぜ。
まあその案は通りこそすれ、俺ァ当時から性悪で通ってたんで
満場一致で豊臣秀吉……要するにシス側の役にされたがね』
「そら貴殿は満場一致でシスであろうよ」
「ムジョウ殿の豊臣秀吉は結構閲覧させて頂いてみたいでございますね~」
ともあれそんな雑談を経ながらユウトは長巻"夜女神倅"を鞘から抜いた。
『とりあえず鞘から抜いてみたが……フツーにあいつを斬ればいいかな』
[Wait, Mujo. You can’t leave it as it is.
Right now, that weapon is specialized for attacking tangible beings.
Unless you modify it to have the capability to
affect spiritual entities, you won’t be able to stop it.]
(和訳:お待ちを、ムジョウ。そのままではいけません。
現時点でのその武器は実体ある存在への攻撃に特化した状態です。
霊体へ干渉する機能を持った状態にしなければ、あれを止めることはできません)
『そうか。その"霊体へ干渉する機能を持った状態"に持ってく方法は?』
[It's simple. Press the switch on the handle, then hold the sheath over the blade.]
(和訳:簡単です。柄頭にあるスイッチを押してから、刃部分に鞘を翳してください)
『柄頭のスイッチ……これか。
押しながら鞘を翳す、と……うおっ』
ユウトが夜女神倅の鞘を刃に翳した瞬間……
鈍器として成立しそうなほど頑丈なそれは、
先端から赤い光の破片になっ手刃に吸い込まれていく。
鞘が完全に消滅すると刃は赤く光り、
やがてその光が先端に集まり半透明の刃を形成する。
長さ四十センチ、湾曲した幅広の刃を生やしたその形状は……
『……さながら"長巻型の大鎌"ってトコか』
[With this, interference with the spirit form has become possible.
Fortunately, it is so absorbed in gathering power that it doesn't even try to escape,
and it has no understanding of the situation surrounding it.
This is a rare chance to settle the matter.]
(和訳:これで霊体への干渉が可能になりました。
幸いにもあれは力を蓄えるのに夢中で逃げようとしないばかりか、
自身を取り巻く状況も全く理解できていません。
決着をつけるまたとないチャンスです)
『よしきた』
テリテスターターに言われるまま、
ユウトは肥大化していく火の玉ことカイデンに忍び寄り……
『エエエヘエエエヘハハハハハアアア!
ウオオオエエエエエエアアア――』
『刈アッ!』
『――ヴウエアッ!? ナ、ナニッ!?
ナニガッ! オコッタアッ!?』
肥大化していく火の玉目掛けて赤い刃を振り下ろせば、
もうそりゃ気持ちいいくらいアッサリ深々と突き刺さってくれる。
『ヴウウグエエエエエアアア!?
ナニダコレエ!? ナゼコンナア!
チカラガ、チカラガ、ヌケテイクウ!』
霊体だからだろう、
カイデンは出血こそしなかったがそれでも痛覚はあるのか、
悲鳴を上げながら目に見えて苦しみ悶えて始める。
『アッガアアアアッ!』
叫ぶ度に度にそのサイズは縮んでいき……
『ウソダアアッ!』
喚く度に光は弱まっていく。
あたかも"夜女神倅"の赤い刃に、
もの凄い勢いで"吸われてく"みてぇな有り様だ。
「……それでヤギヌマ殿、結局あれは何なのでございますか?
怪獣や宇宙人の"優待"や、はたまた"優麗"の怪獣ですと、
連合のデータベースにも数多記録的アーカイブスは存在致すでございますが……」
「うむ、まあ実際要するに幽霊の類だわの。
それも、"モビーディキュールを摂取した者の幽霊"でな。
名は確か"ゴージャーフレイム"であったか。
その名の通り己が糧になり得る全てを延々食い荒らしては肥大化していく
空中浮遊する巨大な炎の化け物よ。
言わば人魂やら鬼火、ウィルオウィスプなんぞに近いもんだ。
……とは言え単にあの薬を摂取した上で死んだ者の霊魂が
必ずゴージャーフレイムに転ずるかというとそうでもない」
「と、仰いますと……?」
「霊魂がゴージャーフレイムへ転ずるためには、
幾つもの特殊な条件を満たさねばならぬらしいのよ。
我も詳しくは知らぬが、
その特異性が故かゴージャーフレイムが実際に確認された記録はなく、
モビーデモンズの拠点より押収された研究資料にのみ記載があった故、
ほぼ実在し得ぬものと考えられとったが……
よもや組織壊滅から三十年以上後に実在が確認されるとは思わなんだ」
さて、
そんなワケで実はとんでもねー希少種かつ、
放置しとくと真面目に銀河が崩壊しかねねえゴージャーフレイムだが……
『グゲエエエアアアアアア!
イヤアアアア! チカラガッ! ヌケテイクウウウウ!』
『 だ は は は は は は は は は !
オウ食い逃げ犯! どんな気持ちだコラァ!
何の努力もせずただのマグレだけで掴んだどん底からの逆転フラグを、
俺みてーなただのチンピラに圧し折られて破滅に向かうのはっ!
屈辱的だろうが! 悔しいだろうが! 惨めだろうがあっ!』
……とまあこんな具合に、
ユウトに刺されて今まで溜め込んでた力を悉く吸い尽くされ、
小児用サッカーボールぐれぇのサイズにまで萎んじまっていた。
まさに銀河も崩壊させかねねえ化け物にあるまじき醜態だ。
『タスケテエエエ! イヤアアアア!
チカラガ! チカラガナクナッチャウウウウ!
モウダメエ! イヤアアア!
タスケテ! タスケテエエエ!
モウワルイコトナンテシナイカラッ!
オネガイダカラコロサナイデエッ!』
『うるせぇクソガキ!
この期に及んで命乞いとか判断が遅いどころじゃねえぞ!
こんなとこで命乞いするぐれえなら、
そもそも最初っから投降しとけ!』
『グルジイイイイイ! ダズゲデエエエエエ!』
『苦しいか! 助けて欲しいか!
そりゃそうだなあ!
苦しいだろうよ! 助けて欲しいだろうよ!
だがなあクソガキ!
てめえらが傷付けた大勢は、
てめえらよりよっぽど苦しんでんだよ!
何せ年末だ!
一年間生き抜いた客どもは、
多少ハメ外してでも楽しくやりたかったろう!
店の奴らはそんな客どもの相手して、
いずれ来る休みの為に稼いどこうと必死に働いてたハズだ!
誰も彼も瞬間瞬間を全力で生きていた!
そんな奴らの生涯をてめえらは、
クソくだらねえ理由で台無しにしやがったんだ!
誰も彼もが怪我をした! 死んだヤツとているだろう!
仮に死人が出なかったとして、怪我の痛み、療養の苦しみは消えやしねえ!
店も、食い物も、服や小物も、全部全部灰になった!
てめえらのせいで! てめえらが爆破したせいでだっ!
正直このまま消し去るのも惜しいくらいさ!
できるんならてめえを生き返らせて!
他の奴ら共々身体に「ご自由にどうぞ」って入れ墨入れて!
全裸で被害者連中の前に突き出してやりてえほどだ!
それだけのことをしたんだ、てめえらは!
だからよぉ〜……せめてもの償いとして、
精々苦しみながら消え去りやがれぇっ!』
『ウギイイイアアアアアアア!
イヤアアアアアア!
コンナッ、ハズジャッ、ナカッタノニイイイイ!
アアア ア ア ア ア ア ア ア ア ―――』
いよいよ卓球玉サイズにまで萎んだカイデンは、
情けない悲鳴を上げきる間もなく赤い刃に吸い取られ跡形もなく消滅……
程なく赤い刃は崩れ去り、刀の鞘として刀身に覆い被さる形になった。
『……てめえには地獄すら相応しかねえっっ』
[…Um, well… Mujo, this is very difficult for me to say, but is it alright?]
(和訳:……ええと、その……ムジョウ、大変申し上げ難いのですが、よろしいでしょうか?)
『……おう、どうしたテリテスターター。
俺の戦いに不備でもあったか』
[No, that's not it. On the contrary,
your way of fighting was perfect—well done, Mujo.
What I want to talk about isn't that... it's about that spirit.]
(和訳:いえ、そうではないのです。
寧ろあなたの戦い方は完璧でした、お見事ですムジョウ。
私が申し上げたいのはそこではなく……その霊魂の件でして)
『あのゴミがどうかしたか。
……もう消滅したんだ、流石に終わりだろ』
[Well, um... it's Kaiden's spirit, but actually... it hasn't completely disappeared.]
(和訳:ええ、その……カイデンの霊魂なのですが、実は……消滅まではしていないのです)
『……なんだよそりゃあ。どういうこった』
[…The fault lies with me for skipping the prior explanation, but actually,
'Yajoshinsotsu' isn't a 'sword that erases spirits';
it’s a 'sword that converts spirits into data and seals them in a storage device.']
(和訳:……非は事前の説明を省いてしまった私にありますが、
実は"夜女神倅"とは"霊体を消し去る刀"ではなく、
"霊体をデータに変えて記憶装置に封じ込める刀"なんですよ)
『……要は「ディスクウォーズ:アヴェンジャーズ」のディスクみてぇなもんか』
[That's exactly what it is.
Can you see the cap on the handle?
Try sliding it open.
Inside is the memory device that contains her soul.]
(和訳:まさにそのようなものです。
柄に蓋があるのが見えますか?
そこをスライドさせてみてください。
彼女の霊魂を封じ込めた記憶装置が入っていますから)
言われるまま柄の蓋とやらを空けてみたユウトは驚いた。
確かに柄内部の空洞には"Kaiden Hitotoki"と記名されたUSBフラッシュドライブが入っていたんだ。
『つまりこいつをテキトーなPCやらに読み込ませれば……』
[Of course, it's possible to have a conversation with her as if it were a video call.
It's also possible to have her appear in court. However,
if you do so, I recommend strengthening the security
of your computer and peripheral devices, or keeping them offline.]
(和訳:勿論彼女とテレビ電話感覚での会話が可能ですよ。
法廷に立たせることも可能です。
もっともそうする場合、コンピュータや周辺機器のセキュリティを強化するか
オフラインにしておくことをお勧めしますがね)
『逃げたらやべぇもんな』
[Yes. Once the data has been converted,
they are weakened to the minimum level where they can still exist as a ghost,
but if you intend to make them atone for their sins,
it would be best to prevent them from escaping.]
(和訳:ええ。
データに変えた時点で幽霊として成立しうる
最低限レベルまで弱体化させてはいますが、
罪を償わせるつもりなら脱走を防いでおくに越したことはないでしょう)
『……だそうだ。
てことでヤギヌマぁ、これ警視庁に提出しといてくれ。』
「いや貴殿がやれ。その小娘倒したの貴殿であろうがっ」
「そうでございますよムジョウ殿!
候補生のシュモトになるミツモリでしたら、
やっぱりそういうところはしっかりして頂かないと!」
『そう言われると弱いなぁ~……』
[葬儀閉式♥]
[Death is not the end, but a part of the cycle.]
(和訳:死は終焉ではなく、循環の一工程也)
変身を解除したユウトは、
渋々USBフラッシュドライブを懐に収める。
見れば東の空が若干明るくなっていた。そろそろ夜明けも近いらしい。
「ありがとうよ、テリテスターター。
お前さんの厚意が無きゃ今頃どうなっていたか」
[There's no need to thank me, Mujo.
I was just doing what was natural as 'your Force.'
Besides, this victory is by no means solely because of my presence.
Rather, if it weren't for your exceptional skill as a fighter
and your strong will to never give up on victory,
there would have been terrible damage.]
(和訳:お礼には及びませんよ、ムジョウ。
私は"あなたの力"として当然のことをしただけです。
それに、今回の勝利は決して私の存在だけによるものではありません。
むしろあなたの戦闘者としての高い技量と
勝利を諦めない強い意志がなければ、
恐ろしい被害が出ていたでしょう)
「そういうもんかね……」
「そうだぞホンゴウ。
此度の勝利はタナトスモードの力を得た貴殿であればこそ成し得た偉業。
それを当事者が誇らずして何とする」
「そうでございますよ!
世界的名作映画でアルティメットハイパー最&高なシバキョをされなさったヌシエンの役者様が、
『この映画のヒットは自分のお陰じゃない』なんて言ったら、
七十五パーセント大炎上しちゃうでございます!」
「……ま、そりゃ確かにそうか。
然しテリテスターター、本当に助かったぜ。
改めてお前さんの優秀さを思い知ったっつーか……
できればこれからはもっと親睦を深めたいってのが本音でなあ」
[I'm sorry, Mujo.
I've always thought the same thing...]
(和訳∶申し訳ございません、ムジョウ。
私も常々そのように思っておりますが……)
「まあ、無理強いはしないがね。
お前さんにもなんか表沙汰にできねえ事情があるんだろう?
……また運良く機会があったら、そん時は一緒に戦ってくれや」
[Yes. I would love to join you then.
You are now a first-class fighter.
I'm sure we will meet again soon.
...I hope you find a happy ending, "Grudge Reaper Mujo."]
(和訳:ええ。その時は是非ご一緒させて下さい。
あなたは今や一流の戦闘者です。
遠からず再会の時はやって来るでしょう。
……"遺恨リーパームジョウ"、あなたに幸福な結末がありますように)
冷たい冬空の下、茶利尾半島に夜明けが訪れる。
優しい祈りを捧げたテリテスターターは、
荒れ地を優しく照らす朝日に溶けるように、
黄金色をした光の粒子になって消えていった。
「……ありがとうよ、テリテスターター。
またいずれ鉄火場で会おう」




