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デスイズザヒーロー!-悪の組織の最強怪人、ヒーローに転身する-  作者: 蠱毒成長中
第二章:師走英雄白書編

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46/53

エピソード27:ヒーロー超絶転身-叩き割り、引導を渡せ

 場面は引き続き茶利尾半島の海岸霊園跡地……


「あれなる液体は"モビーディキュール"……

 服用者を含む世の全てに(わざわい)をもたらす、

 まさに悪魔の如き……否、

 悪魔さえ顔を顰める宇宙最悪の劇薬に他ならぬ」


 自棄を起こしたフクロムシスター(カイデン・ヒトトキ)を醜悪なフジツボの化け物に変えた

 謎の赤い液体こと"モビーディキュール"……

 ヤギヌマの"悪魔さえ顔を顰める宇宙最悪の劇薬"って評に違わぬとんでもねえ代物だった。


『宇宙最悪の……』

「劇薬……に、ございますかっ?」

「うむ。嘗てあれの根源(製造元)と戦った我が師は、

 "液状の災厄"、"飲む地獄"と呼んでおられた」

『待てよ、お前さんの師匠つったら確か……』

「うむ。『プラネットフォース』の参謀

 "マダム・アルテミス"ことアマミヤ・パンドラぞ」

『てことは敵も宇宙規模、か。

 ま、そうでなきゃ宇宙最悪なんて言わねえか』

「いかにも。かの劇薬の製造元は、

 "宇宙私掠戦団うちゅうしりゃくせんだんモビーデモンズ"なる愚連隊めいたヴィラン組織でな」

「モビーデモンズ……宇宙史の授業で習ったでございます!

 確か筆頭の"宇宙海賊王ザハーブ"は身の程知らずにも"全宇宙の帝王"を自称するふざけた男で、

 『宇宙は自分の領地だから、シンナイのどんな悪事も許される』などと

 ダイソウ馬鹿げたことをゴンバってたと寝耳にしたことがあるでございます!」

「流石サークルヴァレー傘下のヒーロー候補生だのう。

 如何にもその通りよ。王の許しを得た海賊……故に"私掠船"。

 そして私掠船にて戦闘を行う集団……故に"私掠戦団"と」

『で、そのアホどもが作った劇薬がモビーディキュールってか』

「お恥じらいながら初耳に水でございますね……」

「うむ。

 宇宙怪獣の血に真菌を加え発酵させ蒸留、

 そこに六種類の液体鉱物、

 毒虫十一種の体液、魚介十二種の出汁、魔物九種の肉粉を加え、

 金属十種からなる合金製の容器で寝かせ完成に至る……

 要するに地球の常識では考えられぬ特殊な製法で造られる酒でな。

 摂取すれば比類なき力が手に入るが、一度それを受け入れたが最後……

 増幅した力は副作用により持ち主を蝕み、瞬く間に命を食い潰すのだ。

 後戻りの術はなく、他者が引導を渡すか、さもなくば死を待つか……。

 加えて副作用により命を落とした場合、

 肉体は島一つをも消し飛ばす程の大爆発を引き起こし、

 爆心より半径数十キロ圏内は汚染され、

 平均二世紀は生命の住めぬ死の大地となる。

 加えて肉体を失った魂は呪いにより消滅もできぬまま、

 あらゆる器を転々としながらその"破滅"に立ち会わされ、

 常に絶え間なき苦痛に苛まれ続ける、との調査結果が出ておる」

「お、おそろしや……! まさに悪魔も顔をシカカゲルわけでございますね……!」

『ほんと腐れ外道の酔っ払い害酷塵(がいこくじん)よろしく、

 全方位にひたすら迷惑かけまくった挙句盛大に自滅すんのな』

「うむ、まこと度し難い代物よ。

 ……然し、モビーデモンズ壊滅後に製法が流出したとは聞いとったが、

 よもやあのような小娘でも入手可能なほど乱造されておったとはな……」

『……改めて警告しとくかぁ。

 \食い逃げ犯カイデン・ヒトトキくんに告ぐ~/

 \君は罪を重ね過ぎた結果人生が詰み――

『 う る さ あ あ あ あ あ あ あ い ! 』


 ユウトは"親切心(心折侵)"からフジツボの塊と化したカイデンに警告を試みるが、

 当のカイデン自身は

 ――多分ヤギヌマの発言を聞いてたんだろう――

 それを勢い任せに突っ撥ねる。

 曰く、ヤツが主張するところによれば……


『しるか! しるか! そんな! こと!

 あたし! かつ! なに! あっても!

 あたし! まちがわ! ない!

 あたし! いつも! ただしい!

 あんたら! うそつき!

 あんたら! うそ! ばかり!

 あたし! この! ちから! で!

 しかえし! して! やる!

 しかえし! して! かつ!』


 変異過程で知能まで下がったか、

 無理矢理言葉覚えさせたダチョウみてぇにキレ散らかすカイデン。

 最早聞く耳持たず……

 そもそも身動き取れねぇフジツボの塊がどうやって仕返しするんだって話だが、

 察するにもう具体的にどうするとか考える能力もねぇんだろう。


『……時にヤギヌマぁ、モビーディキュール絡みの情報ってのは……』

「無論公的なデータベースに登録されておるぞ」

『ならああなったヤツが死ぬしかねえってのも』

「当然、公式機関や業界は広く認知しとる。

 ……貴殿の懸念は凡そ察しとるよ。

 『あの喋る岩に自ら引導渡して法に触れんだろうか』であろう?」

『おうよ。……なんでもねえ普段の鉄火場ならともかく、

 若人にルール守れって偉そうに説教垂れ(指導かまし)た手前、

 ヒーローとしての正しい判断ってモンの手本を見せんのが筋だ。

 雑に誤魔化すような真似などどうしてできる』

「ムジョウ殿ぉ……!」

『加えて緊急性の有無やら極限状態での判断なんぞ、

 命預かる業種なら一生背負わされる課題……

 まぁそもそもそんな状況にまず陥らねえよう、

 普段から徹底的に考えて動くのが最適解の大正解なワケだが……

 それはそれとして"最悪の状況での対応"も心得とかなきゃいけねえ。

 となりゃ、あのフジツボを俺が独断で殺していいもんか、

 予めウラ取っとかねえとだろう』

「ふん、通称"日本一の無法者(アウトロー)ヒーロー"とは思えぬ発言だの。

 然しそれでこそまさに貴殿、か……。

 案ずるでない、今の状況ならば間違いなく緊急性が認められよう。

 仮に何かあろうと貴殿はセキガハラの看板戦力……

 バンバ家ひいては世論が味方についとる以上、そう厄介なことにはなるまい」

『……その言葉を聞けて安心したぜ。ありがとうよ、ヤギヌマ。

 やっぱお前は頼りになるなあ』


 ゼータ少年をヤギヌマに託したユウトは、

 改めてフジツボ山と化したカイデンに向き直る。


『ああああああああああああ!

 ちから! が! みちる! しかえし! する!』


 頭の悪そうな言動は相変わらずで、

 何をするつもりなのか所謂"溜め動作"の真っ最中……

 早急に始末しとかねえとヤバいのは間違いなかった。


『……要請-"断ち切る刃は海魔の顎が如く"』

[Weapon Upgrade]

[更新要請受理♥ 供給、ヤヒロワニバルディッシュ♥]


 要請に伴い形成された武器は、

 "フォルネウスハルバード"の強化版こと"ヤヒロワニバルディッシュ"。

 サメっぽいデザインで柄の長い斧なのは相変わらずだが、

 刃の形が若干変わってる他、柄は二回りほど太く、

 柄の先端(刃の反対側)は小さなサメの生首っぽくなっていた。

 あたかも"斧として振り回すだけの武器じゃない"って主張してるみてぇに。


[Mujo, I'll teach you how to use a new axe.

First, hold the axe handle as if holding it towards the enemy.

It will be easier to do it if you point the blade down.]

(和訳:ムジョウ、新しい斧の使い方をお教えします。

    まずは斧の柄を敵に向けて抱え込むように持ってみて下さい。

    刃を下に向けるとやりやすいでしょう)

『ふむ、確かに握りやすい一にグリップっぽいパーツがあって結構やりやすいな。

 ……さては「ベヨネッタ3」のジー・ピラーか、

 はたまた「王様戦隊(キングオージャー)」のガンショベルみてーに、

 柄の先端から弾でも飛ばせるのか?』

[Exactly right. As expected of you, Mujo.

As you said, this 'Yahiro Wani Bardiche' also functions as a mid- to long-range projectile weapon.

Pressing the trigger on the grip puts it into firing preparation mode.]

(和訳:御名答です。流石ですね、ムジョウ。

    仰る通りこの"ヤヒロワニバルディッシュ"には

    中・遠距離用射撃武器としての機能も搭載されているのですよ。

    グリップ部分の引金を押し込むと砲撃準備に入ります)

『引金だな、わかった』


 言われるままユウトが引金を引くと、

 柄の先端部に備わるサメの生首が大口を開き中から砲口が顔を出す。

 続け様に砲身の先端へ赤いエネルギー球が発生しちゃどんどん肥大化していく。

 要するにこれもよくある"溜め動作"ってヤツだわな。


[Once you press the trigger to start preparing for the artillery fire,

you can safely release your finger.

When a certain amount of energy has accumulated,

pressing the trigger again will execute the artillery fire.]

(和訳:引金を押し込み砲撃準備に入ったら後は指を離して大丈夫ですよ。

    ある程度エネルギーが溜まった所で再度引金を押し込むと砲撃が実行されます)

『なるほどな。相変わらずの丁寧なレクチャー感謝するぜ』


 肥大化するにつれ、エネルギー球の色は変わっていく。

 赤からオレンジ、黄色、青……そして淡い水色って具合に。


『だれも! あたしを! とめられなあああああいっ!』


『……うん、そろそろいいだろう』


 サッカーボール大まで膨れ上がったエネルギー球。

 その色は青みがかった白……頃合いを悟ったユウトは、

 改めてカイデンへ狙いを定め引金を押し込む。


『しかえし! しかえし! かつの! あたし!』


『ちっと黙れクソガキぃ』


 ユウトが引金を押し込むと同時、

 砲口はエネルギー球を一旦吸い込んだのち、瞬時に射出!


『あたし! かつ! しかえし! しかえ――


 テニスボール大にまで圧縮されて撃ち出された青白い光球は、

 そのまま猛スピードでカイデンに直撃。

 直後少しの間周囲の気温が一気に下がり、

 巨大なフジツボの塊は一瞬で凍り付く!


[…In this way, it has the effect of freezing targets

at a distance and immobilizing them.

It’s useful when you want to finish them off

for sure or to nullify defenses and other forms of resistance.

Frozen targets also become weaker, making attacks more effective,

so you can also use this to break through sturdy obstacles.]

(和訳:……と、このように、

    離れた位置にいる標的を凍り付かせ動きを封じる効果があります。

    確実に始末したい場合や、防御などの抵抗を封じるのに便利ですよ。

    凍り付いた標的は強度も下がり確実に攻撃が通るようになりますから、

    頑丈な障害物の破壊などにもご活用頂けます)

『……凍り付いた時点で即死してるケースもありそうだが』

[No, it's certainly not that high-performance.

That frozen energy bullet is primarily meant to

temporarily restrain targets or reduce the durability of

objects to make them easier to destroy.

Therefore, it does not have the capability to instantly kill or destroy a target.]

(和訳:いえ、流石にそこまで高性能ではありません。

    あの冷凍エネルギー弾はあくまで標的を一時的に拘束したり、

    対象物の耐久性を下げ破壊しやすくするためのものです。

    よって対象を即座に死亡させたり、破壊する機能は持ち合わせていません)

『つまり逆に言えば殺したり壊しちゃいけねえ標的の拘束・無力化にも応用できるってか』

[Exactly, that's correct. However,

there is a drawback in that the range of the bullets

and the duration of the freezing effect are easily influenced

by factors like temperature and the surrounding environment,

so one must not be overconfident.]

(和訳:御名答、その通りでございます。

    ただ弾丸の射程距離と凍結の持続時間が

    気温など周囲の環境に左右されやすい欠点がありますので、

    過信は禁物ですがね)

『……ま、凍らせてる以上そこは仕方ねえか。

 さて、こんな寒くても生きてんなら時間は有限だ。

 とっとと始末つけるかァ~』


 ヤヒロワニバルディッシュを持ち替えたユウトは一気に加速!

 力強く跳躍し、カイデン目掛けて腕力に重力を乗せた一撃を叩き込む!


『今年よりまず、てめえが終わっとけっ!』

『       』


 振り下ろされた斧、

 その衝撃は凍り付き脆くなったフジツボ山の殻を粉砕し、

 最早無防備となった内臓諸共悉く破壊していく!

 結果当然、カイデンだって紛れもなく即死……したんだが、


『フゥゥァハハハハハァァァァッ!』


『……なんだ?』

「あ、あれは! まさかっ!

 よもや実在したっちゅうんかい!?」


 砕け散ったフジツボ山の残骸から、

 薄黄色の光るガスらしき何かが漏れ出し空中へ集束していく!

 そして辺りに響き渡る声は、間違いなくカイデンのそれだった!


「なっ!? あれは一体なんなのでございますだぜ!?」

「くっ! 上手く行くか分からんが……"亡霊凝結スペクター・コンデンセイション"!」


 光るガスの正体を知ってるらしいヤギヌマは咄嗟に魔術を放つ。

 それは幽体状疑似生命体

 ――要するに所謂"幽霊"の類――を結晶に封じ込めるって代物だったが……


『ハアアアアアッ!』

「なにいっ!? くっ、やはり我如きの霊媒魔術ではどうにもならんかっ!」


 なんと光るガスの塊は、

 本来並みの幽霊なら完封できるヤギヌマの魔術をも跳ね除けちまったんだ!


『おいヤギヌマっ! どうしたっ!?』

「ホンゴウ! 詳しい説明は後回しだっ!

 その光を何としても止めてれいっ!

 それは極めて恐るべき悪霊の類!

 放置すれば都市一つ程度簡単に滅ぶ!」

『なんだと……』

[In that case, Mujo, it's exactly your turn. Use the unique weapon of 'Thanatos Mode.']

(和訳:でしたらムジョウ、まさにあなたの出番ですよ。

    "タナトスモード"の固有武器を使うのです)

『タナトスモードの固有武器?

 ……そう言われても、出し方なんてわからねえぞ?

 今までの四つはそりゃ、

 元々システムの一部として設計されてたからイケたようなもんであってだなっ』

[Don't worry.

Everything is already prepared.

All that's left is for you to give just a little push.]

(和訳:ご心配なく。

    既に準備は整っています。

    あとはあなたがほんの切っ掛けを与えるだけでいいのです)

『ほんの切っ掛け、ねぇ……』


 言われるままユウトは意識を傾ける。

 かつて四つの各固有武器

 ――焼却爪甲ガルムガントレット飛翔群刀ヤタガラカットラス

   毒撃機銃ギルタブリライフル深淵剛刃フォルネウスハルバード――を形成した時みてぇに。


『ウィーヒハハ! フィーヒヒヒヒハハハハハァァ~!』


(……)


 すると程なく、ユウトの脳内に情報が幾つか流れ込み……

 一つの言葉が出来上がる。


『要請-……"亡き師の影を訪ね続き茶利尾半島の海岸霊園跡地……


「あれなる液体は"モビーディキュール"……

 服用者を含む世の全てに(わざわい)をもたらす、

 まさに悪魔の如き……否、

 悪魔さえ顔を顰める宇宙最悪の劇薬に他ならぬ」


 自棄を起こしたフクロムシスター(カイデン・ヒトトキ)を醜悪なフジツボの化け物に変えた

 謎の赤い液体こと"モビーディキュール"……

 ヤギヌマの"悪魔さえ顔を顰める宇宙最悪の劇薬"って評に違わぬとんでもねえ代物だった。


『宇宙最悪の……』

「劇薬……に、ございますかっ?」

「うむ。嘗てあれの根源(製造元)と戦った我が師は、

 "液状の災厄"、"飲む地獄"と呼んでおられた」

『待てよ、お前さんの師匠つったら確か……』

「うむ。『プラネットフォース』の参謀

 "マダム・アルテミス"ことアマミヤ・パンドラぞ」

『てことは敵も宇宙規模、か。

 ま、そうでなきゃ宇宙最悪なんて言わねえか』

「いかにも。かの劇薬の製造元は、

 "宇宙私掠戦団うちゅうしりゃくせんだんモビーデモンズ"なる愚連隊めいたヴィラン組織でな」

「モビーデモンズ……宇宙史の授業で習ったでございます!

 確か筆頭の"宇宙海賊王ザハーブ"は身の程知らずにも"全宇宙の帝王"を自称するふざけた男で、

 『宇宙は自分の領地だから、シンナイのどんな悪事も許される』などと

 ダイソウ馬鹿げたことをゴンバってたと寝耳にしたことがあるでございます!」

「流石サークルヴァレー傘下のヒーロー候補生だのう。

 如何にもその通りよ。王の許しを得た海賊……故に"私掠船"。

 そして私掠船にて戦闘を行う集団……故に"私掠戦団"と」

『で、そのアホどもが作った劇薬がモビーディキュールってか』

「お恥じらいながら初耳に水でございますね……」

「うむ。

 宇宙怪獣の血に真菌を加え発酵させ蒸留、

 そこに六種類の液体鉱物、

 毒虫十一種の体液、魚介十二種の出汁、魔物九種の肉粉を加え、

 金属十種からなる合金製の容器で寝かせ完成に至る……

 要するに地球の常識では考えられぬ特殊な製法で造られる酒でな。

 摂取すれば比類なき力が手に入るが、一度それを受け入れたが最後……

 増幅した力は副作用により持ち主を蝕み、瞬く間に命を食い潰すのだ。

 後戻りの術はなく、他者が引導を渡すか、さもなくば死を待つか……。

 加えて副作用により命を落とした場合、

 肉体は島一つをも消し飛ばす程の大爆発を引き起こし、

 爆心より半径数十キロ圏内は汚染され、

 平均二世紀は生命の住めぬ死の大地となる。

 加えて肉体を失った魂は呪いにより消滅もできぬまま、

 あらゆる器を転々としながらその"破滅"に立ち会わされ、

 常に絶え間なき苦痛に苛まれ続ける、との調査結果が出ておる」

「お、おそろしや……! まさに悪魔も顔をシカカゲルわけでございますね……!」

『ほんと腐れ外道の酔っ払い害酷塵(がいこくじん)よろしく、

 全方位にひたすら迷惑かけまくった挙句盛大に自滅すんのな』

「うむ、まこと度し難い代物よ。

 ……然し、モビーデモンズ壊滅後に製法が流出したとは聞いとったが、

 よもやあのような小娘でも入手可能なほど乱造されておったとはな……」

『……改めて警告しとくかぁ。

 \食い逃げ犯カイデン・ヒトトキくんに告ぐ~/

 \君は罪を重ね過ぎた結果人生が詰み――

『 う る さ あ あ あ あ あ あ あ い ! 』


 ユウトは"親切心(心折侵)"からフジツボの塊と化したカイデンに警告を試みるが、

 当のカイデン自身は

 ――多分ヤギヌマの発言を聞いてたんだろう――

 それを勢い任せに突っ撥ねる。

 曰く、ヤツが主張するところによれば……


『しるか! しるか! そんな! こと!

 あたし! かつ! なに! あっても!

 あたし! まちがわ! ない!

 あたし! いつも! ただしい!

 あんたら! うそつき!

 あんたら! うそ! ばかり!

 あたし! この! ちから! で!

 しかえし! して! やる!

 しかえし! して! かつ!』


 変異過程で知能まで下がったか、

 無理矢理言葉覚えさせたダチョウみてぇにキレ散らかすカイデン。

 最早聞く耳持たず……

 そもそも身動き取れねぇフジツボの塊がどうやって仕返しするんだって話だが、

 察するにもう具体的にどうするとか考える能力もねぇんだろう。


『……時にヤギヌマぁ、モビーディキュール絡みの情報ってのは……』

「無論公的なデータベースに登録されておるぞ」

『ならああなったヤツが死ぬしかねえってのも』

「当然、公式機関や業界は広く認知しとる。

 ……貴殿の懸念は凡そ察しとるよ。

 『あの喋る岩に自ら引導渡して法に触れんだろうか』であろう?」

『おうよ。……なんでもねえ普段の鉄火場ならともかく、

 若人にルール守れって偉そうに説教垂れ(指導かまし)た手前、

 ヒーローとしての正しい判断ってモンの手本を見せんのが筋だ。

 雑に誤魔化すような真似などどうしてできる』

「ムジョウ殿ぉ……!」

『加えて緊急性の有無やら極限状態での判断なんぞ、

 命預かる業種なら一生背負わされる課題……

 まぁそもそもそんな状況にまず陥らねえよう、

 普段から徹底的に考えて動くのが最適解の大正解なワケだが……

 それはそれとして"最悪の状況での対応"も心得とかなきゃいけねえ。

 となりゃ、あのフジツボを俺が独断で殺していいもんか、

 予めウラ取っとかねえとだろう』

「ふん、通称"日本一の無法者(アウトロー)ヒーロー"とは思えぬ発言だの。

 然しそれでこそまさに貴殿、か……。

 案ずるでない、今の状況ならば間違いなく緊急性が認められよう。

 仮に何かあろうと貴殿はセキガハラの看板戦力……

 バンバ家ひいては世論が味方についとる以上、そう厄介なことにはなるまい」

『……その言葉を聞けて安心したぜ。ありがとうよ、ヤギヌマ。

 やっぱお前は頼りになるなあ』


 ゼータ少年をヤギヌマに託したユウトは、

 改めてフジツボ山と化したカイデンに向き直る。


『ああああああああああああ!

 ちから! が! みちる! しかえし! する!』


 頭の悪そうな言動は相変わらずで、

 何をするつもりなのか所謂"溜め動作"の真っ最中……

 早急に始末しとかねえとヤバいのは間違いなかった。


『……要請-"断ち切る刃は海魔の顎が如く"』

[Weapon Upgrade]

[更新要請受理♥ 供給、ヤヒロワニバルディッシュ♥]


 要請に伴い形成された武器は、

 "フォルネウスハルバード"の強化版こと"ヤヒロワニバルディッシュ"。

 サメっぽいデザインで柄の長い斧なのは相変わらずだが、

 刃の形が若干変わってる他、柄は二回りほど太く、

 柄の先端(刃の反対側)は小さなサメの生首っぽくなっていた。

 あたかも"斧として振り回すだけの武器じゃない"って主張してるみてぇに。


[Mujo, I'll teach you how to use a new axe.

First, hold the axe handle as if holding it towards the enemy.

It will be easier to do it if you point the blade down.]

(和訳:ムジョウ、新しい斧の使い方をお教えします。

    まずは斧の柄を敵に向けて抱え込むように持ってみて下さい。

    刃を下に向けるとやりやすいでしょう)

『ふむ、確かに握りやすい一にグリップっぽいパーツがあって結構やりやすいな。

 ……さては「ベヨネッタ3」のジー・ピラーか、

 はたまた「王様戦隊(キングオージャー)」のガンショベルみてーに、

 柄の先端から弾でも飛ばせるのか?』

[Exactly right. As expected of you, Mujo.

As you said, this 'Yahiro Wani Bardiche' also functions as a mid- to long-range projectile weapon.

Pressing the trigger on the grip puts it into firing preparation mode.]

(和訳:御名答です。流石ですね、ムジョウ。

    仰る通りこの"ヤヒロワニバルディッシュ"には

    中・遠距離用射撃武器としての機能も搭載されているのですよ。

    グリップ部分の引金を押し込むと砲撃準備に入ります)

『引金だな、わかった』


 言われるままユウトが引金を引くと、

 柄の先端部に備わるサメの生首が大口を開き中から砲口が顔を出す。

 続け様に砲身の先端へ赤いエネルギー球が発生しちゃどんどん肥大化していく。

 要するにこれもよくある"溜め動作"ってヤツだわな。


[Once you press the trigger to start preparing for the artillery fire,

you can safely release your finger.

When a certain amount of energy has accumulated,

pressing the trigger again will execute the artillery fire.]

(和訳:引金を押し込み砲撃準備に入ったら後は指を離して大丈夫ですよ。

    ある程度エネルギーが溜まった所で再度引金を押し込むと砲撃が実行されます)

『なるほどな。相変わらずの丁寧なレクチャー感謝するぜ』


 肥大化するにつれ、エネルギー球の色は変わっていく。

 赤からオレンジ、黄色、青……そして淡い水色って具合に。


『だれも! あたしを! とめられなあああああいっ!』


『……うん、そろそろいいだろう』


 サッカーボール大まで膨れ上がったエネルギー球。

 その色は青みがかった白……頃合いを悟ったユウトは、

 改めてカイデンへ狙いを定める。

 そして……


『しかえし! しかえし! かつの! あたし!』


『ちっと黙れクソガキ』


 ユウトが引金を押し込むと同時、

 砲口はエネルギー球を一旦吸い込んだのち、瞬時に射出!


『あたし! かつ! しかえし! しかえ――


 テニスボール大にまで圧縮されて撃ち出された青白い光球は、

 そのまま猛スピードでカイデンに直撃。

 直後少しの間周囲の気温が一気に下がり、

 巨大なフジツボの塊は一瞬で凍り付く!


[…In this way, it has the effect of freezing targets

at a distance and immobilizing them.

It’s useful when you want to finish them off

for sure or to nullify defenses and other forms of resistance.

Frozen targets also become weaker, making attacks more effective,

so you can also use this to break through sturdy obstacles.]

(和訳:……と、このように、

    離れた位置にいる標的を凍り付かせ動きを封じる効果があります。

    確実に始末したい場合や、防御などの抵抗を封じるのに便利ですよ。

    凍り付いた標的は強度も下がり確実に攻撃が通るようになりますから、

    頑丈な障害物の破壊などにもご活用頂けます)

『……凍り付いた時点で即死してるケースもありそうだが』

[No, it's certainly not that high-performance.

That frozen energy bullet is primarily meant to

temporarily restrain targets or reduce the durability of

objects to make them easier to destroy.

Therefore, it does not have the capability to instantly kill or destroy a target.]

(和訳:いえ、流石にそこまで高性能ではありません。

    あの冷凍エネルギー弾はあくまで標的を一時的に拘束したり、

    対象物の耐久性を下げ破壊しやすくするためのものです。

    よって対象を即座に死亡させたり、破壊する機能は持ち合わせていません)

『つまり逆に言えば殺したり壊しちゃいけねえ標的の拘束・無力化にも応用できるってか』

[Exactly, that's correct. However,

there is a drawback in that the range of the bullets

and the duration of the freezing effect are easily influenced

by factors like temperature and the surrounding environment,

so one must not be overconfident.]

(和訳:御名答、その通りでございます。

    ただ弾丸の射程距離と凍結の持続時間が

    気温など周囲の環境に左右されやすい欠点がありますので、

    過信は禁物ですがね)

『……ま、凍らせてる以上そこは仕方ねえか。

 さて、こんな寒くても生きてんなら時間は有限だ。

 とっとと始末つけるかァ~』


 ヤヒロワニバルディッシュを持ち替えたユウトは一気に加速!

 力強く跳躍し、カイデン目掛けて腕力に重力を乗せた一撃を叩き込む!


『今年よりまず、てめえが終わっとけっ!』

『       』


 振り下ろされた斧、

 その衝撃は凍り付き脆くなったフジツボ山の殻を粉砕し、

 最早無防備となった内臓諸共悉く破壊していく!

 結果当然、カイデンだって紛れもなく即死……したんだが、


『フゥゥァハハハハハァァァァッ!』


 どっこい、まだ終わっちゃいなかったんだ。


『……なんだ?』

「えぇっ!? あの瓦礫のケケモノ、

 まさかまだアライブしてんでござります!?」

「なんと、まさかっ!

 よもや()()()()()()()()()()()!?」


 砕け散ったフジツボ山の残骸から、

 薄黄色の光るガスらしき何かが漏れ出し空中へ集束し火の玉に姿を変えていく!


『イーッヒッヒッヒヒヒヒヒッヒヒヒッヒヒヒッハハハアーッ!』


 そして巨大な火の玉を起点に響き渡る狂ったような笑い声は、

 紛れもなくカイデンのそれ……

 つまり、ヤツはまだ完全に死んじゃいなかったんだ!



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― 新着の感想 ―
 あら? 私の勘違いでしたか。  なんか同じような台詞というか、まるで時間が巻き戻ってやり直しでもしているかのように感じたもので……。  今回の半ばの 「あれなる液体は"モビーディキュール"…… 以降…
 !  まさか時間を逆行させるとは思いませんでした。  いったいどこまでチートなのやら。  ……でいいんですよね?  これは悪霊の仕業か、ヤギヌマの魔術か、それともタナトスモードの能力か?  いずれ…
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