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デスイズザヒーロー!-悪の組織の最強怪人、ヒーローに転身する-  作者: 蠱毒成長中
第二章:師走英雄白書編

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エピソード26:ヒーロー超絶転身-究極完全魔法少女の末路

 場面は引き続き茶利尾半島の海岸霊園跡地。

 フクロムシスター(カイデン・ヒトトキ)屍術(ネクロマンシー)"フクロムシ―ド"で女体化蘇生された、

 "ゾンビ海峡兎族"軍団はタナトスモードに変身したムジョウ(ユウト)の手で全滅……


『どうするね、"究極完全魔法少女フクロムシスター"くん。

 切り札だった増殖ゾンビ軍団はこの通り、

 軒並み残骸と成り果てたワケだが……まだ"やる"かい?』


 絶望のまま力なくへたり込む食い逃げ犯の魔術師に、

 怪物じみたヒーローは淡々と問い掛ける。


「……ぅ……ああ……こん、な、ハズ……ハズ、が……」


 だが切り札を全滅させられた哀れな魔女は、

 土気色の顔でただうわごとのようにぼやくばかり。

 返答らしい返答は返ってこない。


『"返事がねえ"ってんなら必然"抵抗の意思なし"……

 つまり"投降した"と判断させて貰うが、構わんな?』


 ナガシノマグナムを向けるユウト。

 装填されてる弾丸は当然"圧縮捕縛弾"……

 要するにあくまでカイデンを生け捕りにする算段だった。


『ヤギヌマぁ~、警戒と通報頼むわ』

「おう、任せい。――今連絡が来たが、他二人の食い逃げ犯も捕縛に成功したようだぞ」

『ホホウ、そりゃ何より。

 ならあとはこのボケもとッ捕まえてサツんでも引き渡しゃそれで終いだ。

 このボケのやらかしは許せんが、

 さりとて明確にヴィラン判定が下されてねえ中殺すのもマズい』

「うむ、念のため身柄は警視庁の者に引き渡すのがよかろうな。

 よいか~オクトメダリオン候補生。

 このようにな、ヒーローであるからと誰彼構わず始末してはイカンぞ。

 公的な職に就く者には立場に基づく領分や管轄があり、

 それらの中でこそ真価を発揮する。

 今回は例外ゆえ仕方なく我らが出向いたが、

 それもあくまで法的に認可された範囲内での行動に過ぎぬ。

 余程の緊急事態でもなくば、

 己の正義感や衝動より法を優先し冷静な判断の元に行動するのだぞ」

「はい! 畏まりましたでございます!

 自分はどうしてもノリで動きがちでございまして、

 ストレイドの皆様からもよくお叱りをうけてしまいますので、

 鼓膜が痛む話でございます~。

 "ヴィランでない犯罪者は警察に任せる"……

 よく記憶して覚えておいておかなくては!」

『ま、あくまで原則だけどな~。

 ……マジで動いてねえよな? ……そのまま大人しくしとけ~、よッ!』


 フクロムシスターに抵抗する余力がないのを確認した上で、

 ユウトは改めて狙いを定め、食い逃げ犯の捕縛を試みるが……


「……ぬうあ゛っ!」


 どこにそんな力が残ってたのか、

 ヤツは防御魔術を展開し迫りくる圧縮捕縛弾を分子レベルまで破壊しやがったんだ!


『何っ!?』


 度肝を抜かれつつも対処しようとするユウトだったが、

 然しこの予想外過ぎる展開は実際地味に致命的だった!

 というのもこの圧縮捕縛弾、技術的問題から同時に装填可能な数は一発のみ。

 つまり必然連射は不可能、二発目はイチイチ再装填しなきゃならねえ。


『ちっ、寛容に振る舞ってりゃ手間かけさせやがる!

 変身してっから懐へのアクセスが面倒だってのにっ!』


 とは言えそこは曲がりなりにもギネスさえ取った現役ヒーロー。

 大急ぎで二発目を装填しにかかるが……この"隙"がそもそもいけなかった。


「ふっざけんなああああっ!

 このアタシがああああ! 敗けるかあああああ!」


『ちっ! こっちじゃねえっ!

 確かこの辺に二発目が……あった!』


 臓物吐きそうなほどの叫びと共にカイデンが取り出したのは、

 透明なスパウトパウチ容器……

 要するに詰め替え用シャンプーなんかが入ってるアレのことだ。

 ただその中に満たされてんのは、

 毒々しいまでにどぎつく鮮やかな赤色をした謎の液体。

 あたかも家畜の血を薄めたようなそれは、

 どうにも石鹸や洗剤の類とは思い難いが……


「なっ!? あれはっ!」


『ぬえぇぇえいっ!

 指の関節がやけに多いもんで逆に鉄砲が操作し辛えったらねえっ!』


 実際結構ヤバい代物なのは、ヤギヌマの反応を見れば明らかだった。


『っし! 装填完了!

 オラァ二発目だ! 次こそぶち込んだらァッ!』


「おい娘!それをどこで手に入れた!?

 間違ってもその容器を開封するでないぞ!

 そんなもん早う捨てちまえ!

 それに関わった者は揃ってロクな目に遭わんのだ!

 止まれ! その先には何もないぞっ!」


『――だああああっ!? 防御魔術まだ生きてんのかよクソーッ!

 また装填しなきゃじゃねーか! めんどくせーっ!』


 必死で訴えかけるヤギヌマ……

 その顔は真剣そのもので、

 発言だってただ純粋に心底カイデンの身を案じての発言だったが……


『圧縮捕縛弾……あったよな……?

 確か普段から最低でも五発は入れとくようにしてっから……!』


「やっかましいわ、クソガキがっ!

 チビの癖に古風ぶって説教とか、バカじゃないのっ!?

 『ロクな目に遭わない』? 覚悟の上よそんなの!

 『その先には何もない』? 今だって何もないわっっ!」


『てか待てよ……?

 あいつ防御まだ生きてんなら対魔力加工要るくね……?

 ……確か対魔力コーティング剤、持ってきてたハズなんだが……!』


 当のカイデンは聞く耳持たず、

 キャップを引きちぎらんばかりに容器を開封!


「こちとらこのまま惨めに人生終了するなんて真っ平御免なのよ!

 アタシは勝ち組なの! 勝利者なの!

 アタシのやることは何も間違ってない!

 それをこれから、証明してやるっ!

 この"モビーディキュール"でっ!」

「よ、止せーっ! それを飲んではならーんっ!」

「んがーーーっ!」


『よ、よし! あった!

 あったぞコーティング剤!

 これを弾に塗れば……っどわあっ!?

 指が滑ったーっ!』


 声高に叫びながら大口を開けたカイデンは、

 ヤギヌマの制止も意に介さずカッ開かれた口腔内へ赤色の液体……

 もとい"モビーディキュール"を勢いよく流し込み、瞬く間に飲み干しちまう!


「う゛っっ……ぐ……! 効っ、くぅぅ~……!

 ……ふは……ひひっ……ぁはははは……』


『あーもうクソっ、デカい癖に地面に落とすと途端にわからなくなりやがる……!』


 飲み干した直後、カイデンの雰囲気が一変する。

 明らかに正気を欠いたような、

 ともすりゃそれこそ覚醒剤やコカインに代表される

 所謂"アッパー系"の違法薬物(ヤク)でも乱用(キメ)たみてえな様子で……


「ああ、いかん……!

 終わった……終わってしもうた……!

 あれではもう、助からん……!」


『どこ行った~チクショ~

 つかどこで間違えたんだよ~』


 深く絶望し項垂れるヤギヌマ。

 どうやら"モビーディキュール"とは浅からぬ因縁があるらしい。


『うぅ……ぁは、ははは……かん、じる……

 そこしれない、ものすごいぱわーを……!

 これなら、やれるっっ……!』


『よ、よし! あった!

 存外早く見つかって良かったぜ……って、なんだあ?』


 一方そんなヤギヌマを尻目に、

 狂喜に悶えるカイデンの肉体が瞬く間に変異し始める。

 あちこち無作為かつ急激に膨張、

 毛が抜け落ち、皮膚は剥がれ、骨さえき出され……

 残った体組織はやけにゴツゴツした、

 穴ぼこだらけの岩めいた何かに変質していく。


『ぁは……いひいっ……

 ぁ ぁ は は は は は は は は は は ぁ ー っ ! 』


『……あー……ダメだありゃもう圧縮捕縛弾でどうこうできるレベルじゃねえわ……』

 

 高笑いを上げるカイデンが変容したのは、

 高さ約三.七メートル少々……

 丁度、秋田県南秋田郡大潟村中央部にある人工山"大潟富士"ぐらいの大きさの、

 歪で醜悪な穴だらけの"山型の何か"だった。


『ちからがみなぎる! みちあふれる!

 これで! このちからで!

 なにもかもこっぱみじんにしてくれる!』


『……なんだありゃあ』


 余りにも原型を逸脱した、ともすりゃメチャクチャな姿。

 変異したのが暗がりなのも相俟って、

 概ね見た者の理解を拒むような造形なのは間違いねえが……


『……なるほどなぁ。

 フクロムシを名乗った奴の成れの果てが、よもやフジツボたあ……

 なんとも皮肉なもんだぜ』


 対面していたユウトは"それが何なのか"を即座に察知した。

 事実、カイデンが変異したのは小山ほどもあるフジツボの塊だったんだ。

 とは言えそれでもヤツそのものが未知の存在なのに変わりはなく……


『……ヤギヌマぁ。お前さんなんか知ってんだろ?

 教えてくれ、ありゃ一体何だ? フツーに倒せる代物か?』

「ううむ……まあ根っこの部分はあくまで生物故、そこまで特殊な対処は必要ないな。

 貴殿ほどの戦闘者であればそこまで苦戦はすまいが……」

『すまいが、どうした?』

「……結論言うと、あの小娘はもう助からん。

 自ら地獄行きの片道特急貨物列車にキセルかましたようなもんだからの」

「そういえばヤギヌマ殿、

 彼女がセンテイ誤飲用なされた液体リキッドについて

 何か周知ご存知でございましたですよね!?

 たしか、モビールデクール? だとかでございましたか……」

「うむ、よう知っておるとも……。

 あれなる液体は"モビーディキュール"……

 服用者を含む世の万物全てに(わざわい)をもたらす、

 まさに悪魔の如き……否、悪魔さえ顔を顰める宇宙最悪の劇薬に他ならぬ」



Q.なんでフクロムシがフジツボになると皮肉なの?

A.簡単に言うとフクロムシとフジツボが近縁種で、

 かつフクロムシの中にはフジツボの天敵になりうる奴らがいるから。

 より詳しく解説すると、

 まずフクロムシはエビ、カニ、シャコなんかの甲殻類に寄生する

 大学デビューでしくじったアホなカシューナッツみたいな形したよくわからん寄生生物で、

 一方のフジツボは……まあフクロムシよりはメジャーだからみんな知ってるんじゃないかな。

 海岸の岩や防波堤のコンクリ、船底や果てはクジラの身体まで、

 海ん中で場所さえあればどこにでも群れで張り付く富士山型の貝みたいな海洋生物だ。

 ……もし知らない奴が居たら、特に集合体恐怖症持ちは画像検索はオススメしないぞ。

Q.もう調べちゃったよ……。

 てか大学デビューでしくじったアホなカシューナッツってどういう例えだよ?

A.他に例えようがねえだろうよ。

 ……さて、

 片や髪型のセンスが死んでるカシューナッツ、

 片や富士山型をした小さな貝の集合体……

 どう見ても近縁には見えないこれら二種の動物は、

 けれど実は揃ってカニやエビ、ダンゴムシなんかに代表される甲殻類に属してる。

Q.えっ、ちょっと待って。

 フジツボはまだわからなくないけどフクロムシも甲殻類なの?

 そんなの、霞のジョーやがんがんじい、

 ヘルブロスやヴァルバラドを仮面ライダー扱いするようなもんじゃない?

A.お前ね、そうやってバカみたいに東映特撮ネタを仕込むんじゃないよ!

 全ての読者様に例外なく東映特撮ネタが伝わると思ってたら大間違いだからな!?

 ただでさえ蠱毒成長中の作品は昔からパロネタが分からないって言われがちなんだから!

 何なら伝わり易さ意識してなろう系作品のネタで固めてもダメだったことすらあるんだぞ!?

 あと霞のジョーはともかくがんがんじいを出すのは違うだろ!

 ……確かにそいつらは仮面ライダーじゃないけどね、

 フクロムシが甲殻類ってのは紛れもない事実なんだから、

 言っちまえば

『レーザーレベル2や最光、ジャッカルバイス、

 キューン辺りをも仮面ライダーとする』ようなもんだろう。

 ……いや本当にマジなんだよ。

 事実フクロムシは甲殻類で、

 それもフジツボと同じ蔓脚類ってグループに分類されてるんだよ。

 んでフクロムシは概ねカニのメスに寄生して繁殖機能をぶっ壊し、

 自分専用の繁殖装置に改造しちまうんだ。

 ただおっかないのはここからで、奴らオスのカニにも寄生するばかりか、

 繁殖装置に改造するためにわざわざメスに強制性転換させやがるんだ。

Q.なるほど確かにそうか……。

 んで男しかいない海峡兎族を女体化させて操ってたのもそういう理由だったのね……。

 そりゃ確かにフクロムシード使いのフクロムシスターって名前になるわけだ。

 ……で、何が皮肉なの?

 あいつのことだしフクロムシスターのフジツボ化って、

「『バイオハザード コード:ベロニカ』のラスボス、

 アクレシア・アシュフォードの最終形態が

 ウイルスの本質の女王アリじゃなく、

 アリのエサにしてたトンボになっててメッチャ皮肉」的なニュアンスだよね?

 だったらカニにするのが正解じゃないの?

 なに、やっぱりカニはあいつの中だとカッコイイ動物枠だから

 扱い悪いポジションにしたくなかったとか、

 尊敬してる実母と過去作の主人公が蟹座生まれだとか、

 そこから転じて過去作の主人公がカニ型の強化形態を手に入れるからとか、

 そういう私情由来な含む感じ?

A.だからそうやって読者置き去りにするようなネタをぶち込むなってお前……。

 確かに皮肉の意味合いはそんなとこだし、

 そういう私情に基づいてカニじゃないってのもあるよ。

 ただ本質的な理由は別にあってね。

 まずフクロムシの寄生対象にはカニやエビだけじゃなくフジツボも含まれるんだ。

 言うてフジツボは雌雄同体だから性転換させる必要はないんだけど。

 ここから転じて「加害者が被害者の同類に転落した皮肉」に加えて

「そもそも自分自身は元来見下していた存在と同程度でしかない皮肉」も含まれる。

 あとフジツボは群れを作るから「中身がないから数を誇るしかない」、

 更にフジツボは幼生の時期に動き回れるけど一度定着した場所からは移動できなくなるから

「かつては自由だったのに選択を間違えたせいで今や零落れてしまい、

 前進も後退ももできず能動的に状況を変えることもできなくなった」、

 かつ同じく動けないタイプの蔓脚類でカメノテってのがいるけど、

 カメノテは一種類だけなのにフジツボは何種類もいるから

「どれだけ自分を特別だと言い張ろうと所詮有り触れた俗物に過ぎない」、

 雌雄同体だから「どっちつかずで中途半端」とか……

 多分他にもあるだろうけどそんな感じだよね。

Q.それをこの解説読まずに察知できる読者が居たら?

A.よっぽどの超人的な天才かあいつの身内か、さもなきゃサトリ妖怪じゃないかな。

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― 新着の感想 ―
 後書きにはなるほどとは思いますけど、普通はそんなマイナス思考をトレースしようとは思いませんって。  まあ、卑屈で自虐的な人間はオリジナルな思考でそれをしますけど。  ──って、それが理解できてしまう…
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