エピソード24:ヒーロー超絶転身-歓喜の弾道【第一楽章】
場面は引き続き茶利尾半島の海峡兎族専用海岸霊園
『ムーンライトメモリアルパーク茶利尾』跡地……
「んぎいいいいいいいっ!
私様の超絶美麗でスーパービューティフルな最強アンデッド魔女軍団が、
こうもあっさりとやられるなんてっ!
どーしてなのよ~っ!? くぅ~やし~っ!
むきいいいいいいいっ! ほぎいいいいいいっ!」
食い逃げ犯の魔術師"究極完全魔法少女フクロムシスター"ことカイデン・ヒトトキは、
平成期のアニメに居そうな所謂"悪役令嬢"じみて激昂・絶叫する。
だがヤツ自身がそうなるのも無理からぬことだったろう。
何せ出しさえすりゃ勝利確定だと信じて疑わなかった、
海峡兎族をベースに作り上げた女体化ゾンビ軍団……
必殺の屍術"フクロムシ―ド"を惜しみなく使って作り上げた"切り札"を、
こともあろうにわけのわからねぇヒーロー如きにあっさり、
しかも異常なまでのハイペースで"滅ぼされ続けて"いたんだからな。
加えてこいつは町議会議副議長の孫、投資家の娘として生まれ、
花よ蝶よと育てられてきたが故に自分の絶対性を信じて疑わねえ。
ともすりゃどうしてキレずにいられようか、って話で。
……なに? 『そんな奴がどうして食い逃げ犯に身を落としてんだ』ってか?
……まあ、色々あってな。
「あのチンピラクソ男……!
ぜ~ったいに、許さないんだから~!」
損失補填とばかりに女体化ゾンビ軍団を増殖させながら、
フクロムシスターは逆襲を誓うが……
その様が絶望的に小物臭かったのは言う迄もねえ。
『要請-"番の聖獣が毒針に、怨敵致命の悲願を込めん"』
[Weapon Upgrade]
[更新要請受理♥ 供給、デミゴッドキラーマスケット♥]
さて一方、そんなフクロムシスターを尻目にユウトは次の武器を形成する。
出てきたのはギルタブリライフルのアレンジ版"デミゴッドキラーマスケット"。
名前通りの先込式滑腔式歩兵銃……
デザイン上のサソリ要素は最低限程度に控えめで、
全体的に紫色でそこあれそれ以外は結構
"フツーの洒落たマスケット銃"と言っても通用しそうなほど上品で落ち着いた造形だ。
『マスケットかぁ……いよいよ完全に未知の領域じゃねーか。
中学の修学旅行で火縄銃試し撃ちした経験ぐらいしかねーぞ』
[Mujo, there's nothing to fear.
You just need to shoot it like a regular rifle.]
(和訳:ムジョウ、恐れることはありません。
普通のライフルと同じ感覚で撃てばよいのです)
『……あんたがそう言うならそうしてみようか』
[One point to be careful about is that it can only be loaded with a single bullet,
and reloading takes approximately several tens of seconds.]
(和訳:ただ用心して頂きたい点として、装填可能な弾丸は一発のみであり、
再装填には凡そ数十秒前後要します)
『は? いや確かにマスケットなら連射はできないだろうとは思ってたけどよ、
それにしたってこの数相手邪キツくね~か?』
[Don't worry, Mujo.
It's true that there is only one bullet.
But on the flip side, it also means that the 'Demigod Killer Musket' only needs one shot.]
(和訳:心配いりませんよ、ムジョウ。
確かに弾丸は一発しかありません。
しかし逆に言えば"デミゴッドキラーマスケット"の狙撃は一発だけでいいのです)
『そのココロは?』
[You should be able to figure it out...
The hint is 'master of the musket'.]
(和訳:あなたでしたら察しがつくでしょう。
……ヒントは"マスケットの達人"です)
『なるほど、大体察した』
[That said, it's not just a matter of shooting.
To imitate 'her,' you need some help with the bullets.
Make sure you don't miss my signal and be careful not to mishear it.]
(和訳:とは言えただ撃てばいいわけでもありません。
"彼女"を真似るには弾丸への手助けが必要なのです。
私の合図を聞き逃さず、また聞き間違えないようご注意ください)
『オーケー、心得た……ぜっっ!』
テリテスターターの発言で"戦法"を察したユウトは、改めて力強く跳躍!
『風穴空いとけっ!』
距離を取りながら銃を構え、引金を引く!
『『『ジュブウエエエアア!?』』』
『『『ボッギャアアアッ!?』』』
『『『イ゛ゲナアアアイッッ!?』』』
変身したユウトをして明らかに仰け反る程の反動を伴って発射された弾丸は、
一直線に射線上の女体化ゾンビどもを悉く破壊!
そしてここで、テリテスターターが"指示"を出す!
[Let's sing, Mujou.
Your 'Ode to Heroes' to celebrate the end.]
(和訳:歌いましょう、ムジョウ。
終焉を称えるための、あなたの紡ぐ"英雄頌歌"を)
『……心得た』
指示と共に流れ出す、壮大なクラシック・サウンド!
その激しくも荘厳に美しい旋律が指し示すのは、
我が国で年末の定番として定着した"あの世界的名曲"……
『"「歓喜の歌」"……!』
瞬間、ユウトの脳内は"歌"に満ち、
骨ばった牙だらけの大口、その奥にある声帯から声となってあふれ出す!
『我ェ~らがっ 盟友らよ~♪
今だからこそ~♪
心~穏やかにィ~光を見て~♪
過去尊び未来に~♪ 想い 馳せよう~♪』
普段のユウトはまるで想像もつかねぇ、
穏やかに語り掛けるような歌い出し……
同時、弾丸は美しく孤を描くように曲がり、
無駄なく女体化ゾンビどもを破壊していく!
『英雄に~♪ 賛美を♪
集いし五人の英雄たちは♪
世を脅かす闇を打ち破らん♪
黒鋼の猛者らよ稲妻の如く♪
貨幣の亡者ども消し炭とせり♪
戦場舞う戦士 鉄を纏いて♪
邪教の徒を撃ち滅ぼせり♪』
ユウトは饒舌に歌い上げ、
歌に合わせて弾丸は曲がりくねって飛ぶ。
ともすりゃ女体化ゾンビどもも次々破壊されてくワケで……
『天より至りし来訪者たち♪
星を蝕みし汚泥を清めん♪
太陽の爪牙は研ぎ澄まされて♪
金屑の魔物を 嚙み砕き引き裂かん♪
善なる叡智の眷属たちよ♪
邪知暴虐なる悪知恵絶やすべし♪
熱く燃え盛り爆ぜる炎が♪
驕れる地虫の尾を焼き払う♪
天より 降り注ぐ星 浴びた前進者は♪
停滞する絡繰り 蹂躙せり♪
幻獣の魂 宿す誇り高き 兵士たちよ♪
生ける邪悪なる星を討ち取らん♪
英雄たちを~♪ 称え~よ~♪』
『『『ジュブウエエエアア!?』』』
『『『ボッギャアアアッ!?』』』
『『『イ゛ゲナアアアイッッ!?』』』
「だああああああっ!
あいつさっきから歌って踊ってばっかりなのに、
なんで私様の手勢ばっかりがやられてくのよ~っ!?
きいいい~~~~~~~! くやし~~~~~っっ!」
フクロムシスターが悔しがってる間にも、
女体化ゾンビの残骸は増え続ける!
……もっとも増殖ペースも同じくらいなもんで、
そこまで甚大な被害が出てるってワケでもなかったんだが。
『五つの~♪ 星々~♪ で育ちし~孤児らは♪
命弄ぶ♪ 邪悪の帝王打ち倒さん♪
鍛え上げし~光の♪ 武芸者たちよ~♪
地の底まで照らせ♪ 真昼の如くに♪
獣の力~を♪ 纏いし若人は~♪
悲劇を乗り越え♪ 命を救うっ♪
そし~て♪ 時代は~♪
移~り変~わり往く~♪』
ユウトは歌い、弾丸は飛び続ける……
意気揚々と、眼前の敵を破壊し尽くしながら……!




