エピソード20:ヒーロー対峙編-接触
「た、立ち入り禁止の封鎖がっ……」
「ふむ、ものの見事に破られておるな」
「ちっ、一足遅かったか」
的確かつ順調な追跡もあり、
ユウトら一行は程なく茶利尾半島の海岸霊園こと
『ムーンライトメモリアルパーク茶利尾』に到着する。
だが惜しいかな、食い逃げ犯は一足先に封鎖をブチ破り園内へ侵入したようだった。
「意図が見えねえな。
海に出て逃げるにしてももっと最適な場所はあるだろうに」
「全くだわい。まあ如何なる意図があるにせよ、
とっ捕まえて店に突き出してやらねば」
「あの、お店より公的機関に突き出した方がよいと思うんでございますが……」
ともあれ一行は霊園に足を踏み入れる。
立ち入り禁止にされたまま手つかずで放置された所為だろう、
必然施設内は雑草やコケに塗れていて荒れ放題だった。
加えて異質な点を挙げるとすりゃ……
(……何故だ?
俺らの到着まで幾らか時間はあったろうに、
逃げずに霊園に留まり続けてやがる……)
このこれだ。
それまで追跡を振り切るように逃げ続けていた食い逃げ犯は、
ムーンライトメモリアルパーク茶利尾に辿り着くや否やピタリと停止。
以後延々とその場に留まり続けてやがったんだ。
察するに霊園そのものに用があったと考えるのが自然だろうが、
ともあれ……
「\『ツェー、ツェー、ツェー』/
\『ハー、ツッスー』/
\『アー、ヤー、ター、カー』/
\『テステス、マイクテスト〜』/
\『了解サンキュ〜〜イエスッ!』/
……よし、異常ナシと」
やることは決まってる。
ユウトはナガシノマグナムを拡声器モードに変形させ、
月明かりに照らされた霊園全域に向かって呼び掛ける。
「……なんというか、独特なマイクテストでございますね」
「素直に癖が強いとか意味不明と言ってよいぞ?
別段ホンゴウはその程度無礼とも思わん奴故にな」
音響機器のテストで『ツェー』って言うのは、
一応わりと有り触れてるんだけどな……。
「\『防衛組織セキガハラ在籍ヒーロー「遺恨リーパームジョウ」より
仮称・服に金掛け過ぎて飲食代も出せない食い逃げ傷害犯くんへ警告』/
\『罪を認め大人しく投降されたし。
そちらは事実上の包囲状態にある。抵抗は無駄と思え』/
\『お互い厄介事は避けたかろう。そちらの迅速かつ的確な判断に期待する』/」
食い逃げ犯の一人が潜んでるであろう場所に向かって、
ユウトは拡声器で語り掛ける。
所謂立て籠もり犯に対する警官のヤツみてーなアレ(?)だ。
まあ、見様見真似なのかガバだらけなのは言う迄もねーが……
「\『繰り返す。食い逃げ傷害犯くん、とっとと罪を認めて投降しなさい』/
\『君らのやらかしは重罪だ。証人も大勢いる。実刑判決は逃れられまい』/
\『だが素直に罪を認めれば或いは、
この国の司法は君らに幾らかの温情もかけて下さるだろう』/
\『大人しく罪を償う意思を見せれば――
刹那、暗闇から光るものが飛来し、
ユウトの顔面を真正面からすり抜けた……直後!
ヤツの顔面、いや首から上が正中線で真っ二つに"裂けた"!
「なっ!? ホンゴウっ!」
「ムジョウ殿ぉぉぉぉっ!?」
明らかに即死待ったなしの重傷!
ともすりゃオクトメダリオン少年はもとより、
ヤギヌマだって動揺せずにいられねえ……が!
<<――不届きモンめがぁ。
"東海の改造型なら五指に入る男前"と名高いこの俺のツラを、
よくもまあ雑に両断しやがって……>>
なんとユウトは生きていた!
変身前とも変身後とも違う"歪んだ声"で軽妙に宣いつつ
ぐわりと伸ばした両手で割れた頭をがし、と掴み……
<<――ぃよっ……と。
手間かけさせンじゃねェ、
たかが食い逃げ犯如きの分際がっ」
そのまま軽々しく、裂けた頭を
――あたかも読み終えた文庫本でも閉じるみてえに――
元通り"くっつけて"見せたんだ。
全くもって非現実的な、ともすりゃギャグじみた展開なのは言う迄もねえ。
「……何よその再生能力、流石にイミフなんだけど……!?」
そんな状況ともなりゃ、
下手人の食い逃げ犯さえ思わず出てこずにいられねぇワケだが……
「だいいちその顔でイケメンとか、
それこそ冗談は顔だけにしてほs――――
「む、ムジョウ殿ぉぉぉぉ!?
ご、ご無事なのでございましてであらせられますですかっ!?」
「ああ、勿論無事だぞオクトメダリオンくん」
如何にも典型的な"魔法少女"スタイルの食い逃げ犯……
ヤツの台詞は悲鳴にも近いオクトメダリオン少年の声にかき消されちまう。
「……酷なこと言うようだが、
この程度で取り乱してちゃ卵扱いも已む無しだなァ」
「そっ、それは全くもって仰ります通りにございますねっ!
これも"学び"の一つとして、修業に活かさなくてはなりませんでございます!」
「……ねぇちょっと、聞いてるの?
折角出てきてやったんだから、それなりの態度ってもんが――――
「ほ、ホンゴウッッッ! 貴殿ん〜っ!
予てより桁外れにしぶといとは思うとったが……!
よもや致命傷すら意に介さぬ程とは畏れ入ったというか、
何なら聊か引いたぞっっ……!」
「ちょっとそこのチビ!
あんた他人の台詞を遮ってんじゃ――
「全くでございますよムジョウ殿〜〜〜!
正直名だたる強豪怪獣でもさっきの復活劇はそうそうあり得ないでございます!」
「ちょっとそこのアホっぽい喋りの奴も!
私様が話してる途中だってのにあんた――――
「あれを自力でやってしまわれる時点でもう、
大概桁外れのウルトラハイパーゲキヤバ生命力ではございませんですかっ!」
「ねぇ、聞いてよっ! 私様が喋ってるんだかr――
「まァ~改造の影響もあって普段から生命力持て余してっから!
ほら、ヤギヌマは知ってるだろうけど俺ら多肢者チームって、
基本的に他所ほどスペック高くねんだワ。
だから設計段階でしぶとく作ってあるらしくってよ~」
「なによ、シカト!? この私様をシカトするつもり!?
あんたたち風情が何の権限でっ――
「デタラメを言うでな~いっ!
……オクトメダリオン候補生、誤解せぬようにな。
この男はかなりの頻度で虚偽をぬかしよる、
なんでも馬鹿正直に信じ込むととんでもない目に遭うぞ」
「え!? は、はいっ! 了解致しましたでございます!
……地球のヒーローってハイパー難しいぜっ」
「……っっっ!」
必死に呼び掛けても無視され続ける状況……地味ながら的確な精神攻撃。
精神的ダメージの蓄積に痺れを切らした食い逃げ犯はもう限界で……
「このっ……クソボケがーーーーーーっ!」
怒りに任せて杖を振り、
乱雑に攻撃魔法をばら撒く!
「うわああっ!?」
見た目の派手さもあり、一見してそれは脅威!
未熟なオクトメダリオン少年は思わず怯んじまう……が!
「三流風情が、雑な真似しおって」
落ち着き払った様子のヤギヌマがクイ、と指を振りゃ、
撒き散らされた魔力の弾丸は一斉にフゥ、と消え失せる!
「なあっ!? き、消えたっっっ!?
私様の、攻撃魔法がっ! なんでっ!? なんでぇぇっ!?」
ともすりゃ当然、食い逃げ犯は一気に取り乱す。
……読者のみんなはもう確信できたんじゃねーかな、
『あ、この食い逃げ犯やっぱ大したことねーな』って。
「うるせーぞ、落ち着け。
さもなきゃ力づくで黙らされてェか?
自分がどういう立場でどういう状況に置かれてるか、
まさか失念しちゃいるめぇ?」
「じゃあ何? 私様にどうして欲しいっていうのかしぶぎっ!?」
「……質問に質問で返すならせめて一言詫びろボケ」
刹那、ナガシノマグナムの弾丸が食い逃げ犯の顔面を直撃……
美人の域にありこそすれ性格のねじ曲がってそうなその面を真っ赤に染める。
撃ったのは当然ユウトだ。
「なっ!? あっ!? む、ムジョウ殿ぉぉぉぉ!?
幾ら何でもやりすぎでございますでしょう、それはっ!?」
一応殺されかけたとは言え、
それでもたかが食い逃げ犯如きにやり過ぎなのも事実。
さりとてオクトメダリオン少年の反応とて至極当然と言えたが……
「大丈夫、非殺傷モードだ。
ペイント弾じゃ鼻っ柱だって折れやしねぇさ」
「ならば塗料の色はもう少し考えんか。
あれでは血と見間違うても仕方あるまい」
この野郎にも一応、最低限の人心はあるらしい……
「……っ、ぐ……あがっ……なに、これっ……!?」
かと、思いきや……
「め、目にっ……染みっ……! いっだああぃいぃっ!
ふげっ! ほごげっ! ぐっへげえっ! ごぼべえっ!」
突然涙や鼻水を垂れ流しながら苦しみだす食い逃げ犯。
どうやらペイント弾の中身に細工がしてあるらしいが……
「……ホンゴウよ、ペイント弾の中身は本当にただの塗料か?」
「勿論、環境に配慮したエコロジーな塗料さ。催涙剤は混ぜてっけど」
(あ、余りにもオニチクすぎるぜ……)
……やっぱ人の心なんてねぇわこいつ。




