エピソード17:ヒーロー再会劇-開戦
「クソ! 一足遅かったか!」
場面はケーキバイキング店『恵Kings』店舗前。
三人組の食い逃げ犯を追って辿り着いた
ユウトら元ヘカトンケイレスの面々だったが、時既に遅し……
恐らく支払いでトラブルになったであろう奴らの姿はそこになく、
目に映るのは大規模な攻撃魔術で無残に破壊された店舗の惨状と、
傷付いた店員や客たちの姿ばかり。
「然し全くひでぇことしやがる……」
「全くだわい。斯様な所業、最早ただの無銭飲食で済むわけはない……」
「なんか見てると心が痛むなぁ。
しょうがねえ、本職ってワケじゃねーがちっと助けてやるか――
『その必要はないぜ、遺恨リーパームジョウ!
いや、この場合はホンゴウ・ユウトって呼ぶべきかな?』
「!
その声、さては……」
唐突に背後から投げ掛けられた声……
舞台役者のごとく通る美声と凛々しい喋りをするその男を、ユウトはよく知っていた。
「やっぱあんたか、トドロキさん……!
久しいな。あの件からもう一年半になるか……」
『ああ、久し振り! 元気そうで安心したぜ!』
いかにも王道のヒーロー然とした風格を醸し出し、
消防士をヒロイックにアレンジしたスーツを身に纏うこの男こそはトドロキ・ミツテル。
主に災害現場での人命救助や護衛、復興支援から火事場泥棒の取締まで幅広くこなす
国営"救命ヒーロー"チーム『レスキューセイヴァー』の一員"ファイアファイター"に変身する新進気鋭の男前だ。
「然し驚いたな。
まさか天下のレスキューセイヴァー様がお出ましとは」
『任務帰りに緊急通報が入ったからな。
現場の様子からしてヴィランの影もちらついてる以上、
オレたちが出ないわけにもいかないんだぜ!』
「……頑張るねぇ。
今や救命ヒーローも肩身が狭い時代だろうによ。
仮設住宅や避難所の設備がショベぇだ、
身体触んな訴えてやるだのと吐かす恩知らずのクズも少なくねえんだろ?」
『……確かにそういう人たちも居なくはない。
けどどんな相手であれ、オレたち救命ヒーローにとっては等しく救うべき命なんだ。
どんな事情があるにせよ、救うべき命を放置なんてできないぜっ』
「言うねえ……」
『それにホンゴウ、あんた達もここにただ偶然居合わせたってわけじゃないんだろ?
察するに、この事態を引き起こして逃げたヴィランを追ってる……違うか?』
「まあそんなトコだ。
動機は極めて個人的なもんだがね」
『だとしても人助けをしたいって想いがあるなら
それはヒーローとして正しい行いだぜ!
世の中にはアンタへの批判意見もあるだろう!
けどだとしてもホンゴウさん、
アンタが助けた人や、
助けられて感謝してる人だって間違いなく存在していて、
アンタにも間違いなくヒーローの心は宿ってる……
一年半前のあの日、一緒に戦ったオレにはわかる!』
「……有り難うよ、トドロキさん。
ならこの場はあんたに任せさせて頂くとするよ」
かくして現場をトドロキらに任せた一行は、
引き続き食い逃げ犯の追尾を再開する!
「ナドリック! 食い逃げ犯の居場所は掴めたか!?」
『勿論それはもウ! バッチリでございますヨ!
これより追跡簡略化のたメ、
座標データを皆様の通信端末に転送させて頂きまス!』
「でかしたありがとう!
恩に着るぜ!」
かくして食い逃げ犯どもの現在位置と動向は、
リアルタイムで一行へ筒抜けとなったワケだが……
「めんどくせぇな~、
全員バラバラの方向に逃げてやがってらァ」
そう。なんと食い逃げ犯どもは、
追手が来るのを見越してかそれぞれ全く異なる方向へ逃げてやがったんだ。
動き自体はそれほど早くねぇものの距離はかなり離れている。
つまり順番に仕留めるのはどう考えても愚策なわけで……
「しょうがねえ、俺らも三手に別れるぞ。
……いきなりだが、こん中で大型二輪免許持ってるヤツは?」
思わせぶりにユウトが問い掛ければ、名乗り出たのは二人の男女……
モデル体型で目付きの鋭い中性的な別嬪"C-047/血染荊"アキヅキと、
専門店を営むほど二輪車好きな巨漢"A-031/爆炎拳"ロンソンだった。
「丁度二人か、なら都合がいい」
意味深に呟いたユウトは、
何を思ったか近場にあったレンタサイクルを片手で担ぎ上げる。
その場にいた殆どの面々は困惑せずにいられねぇ。
「ホホーゥ、なるほどホンゴウ……アレを使う気かっ」
……ただ一人、小柄で華奢な色黒女"A-011/女司祭"こと
ヤギヌマ・シュカクだけは例外だったが。
「流石だなヤギヌマ、俺のこの動きだけで何をするか見抜くとは」
「ふん、当然であろう。
我は元来亡きタチバナ師の現役時代より貴殿らセキガハラのファンぞ?
特にホンゴウ……否、"ムジョウ"っ。
貴殿はセキガハラでも新参乍ら、
我ら夫婦をどこまでも魅了して已まぬ珠玉の傑物……
或いは最早、
我らヤギヌマ家は親族一同貴殿に魅せられし、
末期のコアファン軍団と言っても過言ではない。
故、貴殿の一挙手一投足の意味を理解出来ぬわけがあるまい?」
「……褒めても特に何も出せねえぞ」
苦笑するユウトは担ぎ上げたレンタサイクルを路面に置き……
「"変成"。
"番犬は千里の間をも瞬時に駆け抜ける"」
そのサドル部分に手を添え、意味深に唱えた。
するとヤツの体内から赤く燃え盛る炎みてぇなオーラが迸っては、
腕を通り道にサドルから自転車へ流れ込んでいく。
そして……
「構築、ライドケルベル」
オーラを注ぎ込まれた自転車は、
瞬く間にイヌ科の猛獣を象ったSFチックな赤い大型二輪車へと変貌を遂げた。
「出たか、ライドケルベル……!
ムジョウシステムに搭載されし異能"霊魂移植"により形成されし武装二輪車……!
間近で見ると迫力が違うのう」
「まぁ〜、なんだかんだ汎用性が高えからな」
「確かにコイツなら速そうだな」
「てか、あのバイクってこうやって出してたのね……」
「なるほどね、理解したわ。
……けど、一台だけ?
敵は三方向に逃げてるし、この場には七人もいるのに?」
「心配いらねえさ。
"機能拡張"、"複製構築"」
ユウトがライドケルベルのシートに手を添えると、
車体左側に蛇の頭を象ったサイドカーが現れる!
更にユウトがシートを撫でるとライドケルベル本体からオーラの塊二つが飛び出し、
着地とともに膨張したそれらは瞬時に赤い大型二輪車へ姿を変えたんだ!
……つまりその場には蛇頭型サイドカー付きのライドケルベルが3台ずつ現れたってワケだな。
「本邦初公開……どうだ、二人乗りすりゃ九人まで行けるぞ」
「なるほど、だからケルベロスっぽい名前がついてたのか……」
「そういうこった。
……ともあれこれで移動手段の問題は解決したろう。
アキヅキ。ロンソン。サイドカー付きの運転はイケるか?
一応引っ込めとく機能も無くはねぇものの、
燃費が上がっちまうからなるべく出しとく方がいいんだが」
「大丈夫、心配しないで。
お婆ちゃんの送り迎えは基本的にサイドカーだから」
「心配御無用だぁ。
荷物積むのにサイドカーよく使うからなぁ」
「絵に描いたような模範解答だな、安心したぜ」
斯くして一同は二輪車に乗り込み
いよいよ食い逃げ犯の追跡が始まる……と、思われたその時!
「ちょっと待ったっっ!
お待ちくださいなので御座いますっ!」
唐突に背後から投げ掛けられた声に、一同は思わず静止する。
果たして声の主の正体とは……?




