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デスイズザヒーロー!-悪の組織の最強怪人、ヒーローに転身する-  作者: 蠱毒成長中
第二章:師走英雄白書編

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エピソード15:ヒーロー忘年会B-混沌

 さて、かくして混沌を極めた(?)

 『遺恨リーパームジョウについて学ぶ会(仮題)』は無事閉会と相成り、

 その後もバンジョウジ邸での忘年会は続いていくワケだが……


「っていうか結構今更なんだけど、

 あのライホウさんに彼女がいるって結構地味に驚きだよな~」


 ヒーローチーム『撃鉄戦隊マズルフラッシャー』のハンドガンレッドこと、

 アサガキ・タイセイは和気藹々とした雰囲気の中でぽつりと呟いた。


「そらお前、バンバのカシラかて一人の人間やで?」

「しかも名家出身のイケメンで超ハイスペなんですから、

 彼女の一人や二人くらい居ても不思議じゃないですよ~」

「……現代日本で二人以上いるのは若干マズいんじゃないの?

 とは言え、タイセイくんの気持ちも分からないではないけどね~。

 なんかキャプテンって、

 如何にもヒーロー道に殉ずる覚悟の持ち主って感じだし」

「確かに、特定の一個人に愛を偏らせる印象が薄いのは否めませんね」


 その呟きを切っ掛けに、

 話題はライホウの彼女について語らう方向にシフトしていった。

 とは言え、出て来る情報は軒並み断片的かつ曖昧なもんばかり……

 やれ『あのバンバ・ライホウと釣り合うんだから絶世の美女なんだろう』とか、

 はたまた『文武両道を地で行く天才で、

 分野によってはライホウも凌駕する実力の持ち主らしい』だとか、

 その派生形として『普段は諜報スパイ系の敏腕ヒーローとして世界を飛び回ってるそうだ』やら、

 さらには『超古代文明の生み出した生体兵器のクローンと噂されている』だの、

 挙句は『使い方次第で宇宙そのものを消し去ることもできるほどの超能力を持ってる』なり、

『禁断の恋に落ちた伝説のヒーローと最悪のヴィランを先祖とする説がある』だのと、

 信憑性高そうな(如何にもそれっぽい)のから、何とも突拍子もない(どうにもデマ臭い)のまで、

 "バンバ・ライホウの彼女"に関する情報は多岐に渡り、

 果たして実在の特定個人について語らってるとは思い難い方向へと拗れていく。

 だが、それも仕方のねぇことだった。


 何せこの"彼女"、

 "バンバ・ライホウと同年代かつ同格以上の女性ヒーローで、

 彼氏(ライホウ)からは相当敬われ大事にされてて相思相愛"って以外、

 これといったパーソナリティが明らかになってなかったんだ。


 というのも肝心のライホウ曰く『諸事情により彼女については秘匿しなければならない』そうで、

 徹底した情報規制がされてるもんだから民衆や外部のヒーロー・ヴィランは勿論、

 ライホウ以外のセキガハラ構成員さえ最低限以上の些細は知り得ず、

 何ならバンバ家でさえライホウ含む極一つまみの中核しか接触を許されてねえという。


 ただ東亜有数の敏腕ヒーローの恋人がここまで秘匿されてるとなりゃ、

 諸方で俗物やバカが無用な騒ぎを起こさねーワケもなく……

 実際問題『バンバ・ライホウの彼女』についてはネットを中心に様々な議論や喧嘩が巻き起こり、

 その度色んな憶測や妄想が飛び交ってもいた。


 そして必然、挙句の果てには……


「情報出回らなさ過ぎて『彼女なんていない説』を唱えるならまだしも、

 そこから謎に論理飛躍させる奴らまでいるのは正直シンプルに驚いたわよね〜」

「何や、夢創作やったか〜? ワシはよう知らんけど〜。

 ユカやん、なんやその辺詳しかったよな?

 ちっとこのオッチャンにも分かるように教えてくれんか?」

「はい〜、いいですよ〜。 

 夢創作というのはですね〜、

 主に小説、漫画、イラストなどあるんですが〜、

 要するに閲覧者の分身にあたるオリジナルの登場人物を主役に据えた二次創作のことですね〜。

 主に創作のキャラクターや著名人とのラブロマンスが描かれるんですけど〜」

「ヒーローはVtuberや動画配信者などと同じく、

 実在人物でありながら半ばフィクションのキャラクターのように認識されていますからね。

 ネットワークや電子機器が登場する遥か以前から、

 そのような創作ジャンルは存在していたと聞き及んでいます」

「ン成る程なァ〜。

 その上本人にリアルで恋人おらんかも知れんみたいな説まで出たら、

 そらその手のマニアも藁に縋るよーに"恋人ちゅうポスト"に収まろうとしてまうんやろなぁ〜」

「まぁでも、そういう人たちだって悪意があってやってるわけじゃないだろうしさ〜。

 寧ろそこまで熱心に応援してくれるファンがいるなら、

 それはそれで別に悪い気はしないけ――どぅぎいいっ!?」


 何やかんや夢創作に寛容な姿勢を見せ、

 それとなくイイ感じに締め括ろうとしたタイセイだったが……

 その発言は唐突な激痛で中断された。

 具体的に言えば、ヤツの頭髪を掴んで力一杯引っ張ったヤツが居たんだ。


「タ〜イ〜セ〜イ〜?

 そ・れ、ど〜ゆ〜意味かしら〜〜〜?」

「っっ、がっ……!

 ま、マリエぇ……!?」


 タイセイの髪、どころか首さえ引き抜かんばかりの勢いで力を込めるのは、

 上質な黒髪を棚引かせた、些か太めの眉毛とユメに匹敵する

 抜群のグラドル体型がトレードマーク(?)の凛々しい別嬪……


 紹介せねばなるめぇ。

 彼女こそはかつて言及のあった"遅れて合流する一人"こと、

 セキガハラ超常技術課の若きエリート研究員"マリエ・アルヴォーン"。

 タイセイより一歳年下にも関わらず

 ウェールズの名門国大を院まで卒業した天才魔術師だ。

 卓越した頭脳と技術力を持つ彼女の主な活動分野は先に述べた通り裏方だが、

 有事には武装しヒーロー"マガジンウィッチ"として戦線に立つ度胸の持ち主でもある。

 要するに"二代目・撃鉄戦隊"の七人目ってワケだ。ちな色は紫な。


 そして何よりの特記事項として……


「ね~ぇタイセイ~? どういう意味なの~?

 何が『悪い気はしない』って~~~?」

「ぐ、ぎいあっ……お、落ち着けよ、マリエッッ……!

 別に、他意はないってっっ……!」


 このマリエ、何を隠そうタイセイの恋人なんだよ。

 概ね出会って五年半、付き合って四年弱。

 二人揃ってのメディア露出も多いもんで、

 その相思相愛な"名バカップル"っぷりは国内外問わず結構有名だった。

 ……とすりゃ、マリエがキレてる理由も概ねわかるだろ?

 そりゃ惚れた男が実質浮気・不倫を肯定するような発言をしたとなりゃ、

 大抵のヤツはキレずにいられねぇだろう。


 特にヒーロー業界に関わってるヤツは業種問わず死と隣り合わせ、

 身の回りの人間への感情が妙に重くなったり、

 独占欲拗れて距離感バグったりなんかも日常茶飯事だ。

 ……一応言っておくと、

 普段のマリエはセキガハラのヒーローどもより断然マトモな方だ。


「おうマリエ(マリやん)

 イチャつくんやったら他所でやらんか~?」

「は、はあっ!? いきなりなんですかトビホシ(大将)さんっ!?

 これのどこがイチャついてるように見えるってんですかっ!?」


 よって……なのかは分からんが、

 外野から冷やかし交じりのツッコミが入ろうもんなら、

 湯気が出そうなほどに顔を赤らめ抗議しにかかる。


「目出度い席でDVなんてやめましょうよみっともない。

 確かに不適切な発言をしたタイセイくんにも非はありますが……」

「でぃっ、DVっっ!?

 何言ってるんですかバンジョウジさん!?

 私たち、まだ結婚してないのにDVなんてそんなっ!」


 "まだ"って何だよ"まだ"って。

 てかそれ以前に『人聞きの悪い言い方はやめろ』とか、

 他にもっと言い方あるだろうが。


「っていうかそこは髪の毛より睾丸(キンタマ)掴む方が良くないですか~?

 折檻序でに愛情表現と玉責めプレイのお誘いもできて合理的ですし~」

「……ユカちゃん、今八宝菜のウズラ卵食べてんだからそういう話やめてよ……」

「〜〜〜〜〜っっっ!?

 なっ! にゃっ! なゃっ!

 にゃにを言い出すんですかタカオカしゃ――ん゛ぎっ!?」


 ……ぶっ飛び過ぎたユカの暴言にマリエの口内は縺れに拗れ、

 いっそ出血しそうな勢いで舌を噛んじまう。

 ガリッ、とかいう明らかにヤバい音がしたもんで場の空気は一瞬凍り付き……


「マリエさん、大丈夫ですか~?」

「……え? いやホント、大丈夫?

 何なら救護班呼ぶけど……」

「……()大丈夫(らいりょおぶ)です(れふ)っ……」

「ぐあはっ……!? はぁぁ〜〜……!」


 すぐさま治癒魔術で口ん中を治療し持ち直す。

 ……この時タイセイの髪の毛からは手を離していて、

 必然的彼はマリエの折檻から逃れる運びとなった。

 で、まあその……


「……何を言い出すんですか、タカオカさんっっ!?

 そそそ、そんなっ!

 きっ、ききっきっ、きんっっ……たま……なんてっっ!

 そんな所っ、引っ張りませんからっっ!」

「へぇ~~~~……

 ほぉ~~~~~……

 そうなんですねぇ~……

 いや~すみませんね~

 なんだか私~誤解してたみたいで~」

「なんなんですかその変な"間"はっ!?

 明らかに何か致命的に誤解してますよねっ!?

 ホントに何も変なことはしてませんからねっ!?」

「いや~~~別にねぇ~~~?

 "誤解"なんてしてないですよぉ~?

 ええ、何も誤解なんてそんな~」

「ユカちゃん、もうやめてあげなさいよ。

 っていうかそれ以上は流石にセクハラになりかねないし」

「ユムシをフレンチドレッシングで踊り食いしてるユメさんも大概だと思いますけどね~」

「っっっっ!?」


 ユムシってのは、まあ……各自調べてくれ。


「と、とにかくっ、私とタイセイはそんな変な関係じゃないですからっ!」

「や、そらまぁキミらが変な関係やないのはみんな知っとるから……」

「……ユカさん、流石に食事の席でああいった発言はどうかと思いますよ」

「いやぁすみません、マリエさんはいいリアクションして下さるからつい……」

「だとしても加減ってもんがあるでしょうよ。

 大丈夫マリエちゃん? 本当ごめんなさいね、

 この子昔から変な所で無駄にハッスルしがちだから……」

「い、いえ……大丈夫です。本当に、大丈夫なので……。

 タイセイ、ごめんなさいね……

 私としたことが、つい冷静さを欠いてしまって……」

「いや、いいんだぜ。マリエが謝ることじゃない。

 元はと言えばあんなこと言ったオレが悪かったんだしな」


 やけにすんなり和解したと思うかもしれねーが、

 これもマリエとタイセイの信頼関係と絆の為せる業ってヤツだろう。


「……お詫びにもならないだろうけど、

 この"牡蠣フライ"でも食べてリラックスなさいな。

 あなた好物でしょう?」


 さて、そんな具合にユメが差し出したのは、

 皿に盛られた"やけにバカでかい揚げ物"……

 勧めた当人は"牡蠣フライ"と言うものの、

 形とサイズ感は寧ろ"メンチカツ"とかに近い。

 どうにも怪しさ満点だが……

 

「あぁ、ありがとうございます。頂きます」


 マリエは疑いもせず大口で"牡蠣フライ"を頬張った。

 とは言え、味が変かっつーとそうでもないようで……


「……ん、"濃厚"で旨味が詰まってて、何よりもの凄い"弾力"ですね。

 しかもなんだか"牡蠣らしからぬ食感"……

 味もどことなく"普通のカキじゃない"ような……

 何よりこの"ボリューム"と"独特な形"……

 すみませんバンジョウジさん、

 この"牡蠣"って"どこ産の何て品種"ですか?」

「いえ、それは"牡蠣ではなく"――」

「品種は知らんけど産地は"ロッキー山脈"やで~」


 ユライの"訂正"を遮るカイトからの"補足"。

 多くの"察しが良く博識な読者のみんな"は、

 それだけでもう"揚げ物の正体"を察知したことだろう。

 だが……


「なるほど、好適環境水を使った養殖牡蠣ですか。

 どうりでこんなに美味しいわけですね」


 なんでだろうな、どうあがいてもマリエは気付かねえ。

 どころか盛大な勘違いをしちまってた。


 因みに好適環境水ってのはかの言わずと知れた『岡山理科大学』に籍を置く

 山本俊政准教授によって開発された『海水生物と淡水生物が共存可能な水』で、

 本作世界じゃこいつを用いた"内陸での海産物養殖"が各地で積極的に行われている

 ……のはそうなんだが……


(なんや、オモロイぐらい気付かへんやんけ……)

(よもや彼女、理解した上でボケてらっしゃるのでは……?)

(でもマリエさんってそういうことするタイプじゃないですし~……)

(どうしましょ。指摘した方がいいのかしらねこれ……)


 言う迄も無く件の揚げ物は"ロッキー山脈で養殖した牡蠣"なんかじゃねぇ。

 さりとてタイセイ以外の面々は、

 果たしてマリエに真実を伝えるべきかどうか盛大に迷ってた。

 だが……


「何言ってんだよマリエ~、

 ロッキーマウンテン・オイスターって言ったら、

 "オス牛の睾丸タマ使った料理"のことだぜ?」

「…………え?」

「なんだよ、まさか知らなかったのか?

 この前出たクイズ番組でやってたんだぜ~?」


 ド天然なタイセイのぶちかました"悪気ゼロの暴露"に、場の空気は一変……


「――」


 特大サイズの"揚げ牡牛睾丸フライド・ロッキーマウンテン・オイスター"を大胆に頬張ってたマリエは、

 そのままの姿勢で絶句……凍り付いたみてぇに静止しちまったんだ。

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― 新着の感想 ―
 誰だよ幹事は!ってツッコミを入れたくなるようなゲテモノ料理ばかり。  まあ螠虫の踊り食いをするような面子ならそれもありかも知れないですけど、私なら同席は遠慮したいです……。(笑)
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