エピソード14:ヒーロー回想録ν/鑑賞会終乃巻-後編
【――ユウト『ううっぐうううっっ……
あっがが、あぁぁぁ……』――】
【――メイナ[ユウト……ユウト……♥
大変だったね、ユウト♥
でももう大丈夫だよ♥
私がついてるからね♥]――】
亡きユウトの元恋人クロカミ・メイナ……に化けた黒いゲルは、
そのままユウトへ抱き着くように覆い被さり、
労い慈しむように甘く囁きかけながらユウトへ纏わりつき染み込んでいく。
その様子ときたらそれだけでもうシンプルに悍ましいったらねぇんだが、
クロカミ・メイナって女の"やらかし"を知ってる撃鉄戦隊の面々にとっちゃ、
加えて心底不愉快でもあった。
ユメ「なぁ~にが『もう大丈夫、私がついてる』なのよあのバカ」
ユカ「あんたがホンゴウさん裏切ったクセに……」
カイト「なんなら死因もホンゴウやし、
ほ~んまどの面下げてっちゅう話やでぇ」
わかりやすく顔を顰める三人。
即ちメイナの"やらかし"はそれほどヤバかったワケだが、
ともあれユウトは件のゲルと一体化し……
【――ユウト『……――■■■■■■■■!!!!!』――】
直後、全身真っ黒でヌメっとした、
何の動物かもわからねー化け物に変貌。
さっきまでの不調がウソみてぇに"吼えた"。
【――ユウト『……――■■■■■■■■!!! ◆◆◆◆◆!!!』――】
雄叫びとも咆哮ともつかねえ、
どころか生き物が声帯から発してるのかもわからねえような"音"……
"それ"を立てる度にユウトの身体が脈打って隆起し、
程なくヤツは全身真っ黒で所々が紫色に光ってる、
如何にもな"悪しきドラゴン"っぽい姿に変貌していた。
……いやホントもう、マジでヒト型を逸脱したガチのドラゴンだったんだよ。
推定体高一.五メートル弱、全長凡そ五メートル、
背中の翼を広げりゃ大体三メートル半程にはなるだろうか。
さながら角と翼を生やして腕が伸びたユタラプトルって感じの化け物だった。
タイセイ「ユライさん、あれってまさか……」
ユライ「ええ、そのまさかです。
あれこそ霊魂刈取によるエネルギー過剰摂取の弊害……
その名も"チェルノボグモード"……」
カイト「なんにでも名前があんねんな……」
ユカ「っていうかアレ、
"ムジョウ"のイチ形態って扱いなんですか?
暴走してるのに?」
ユメ「まあ、暴走形態っていうのもしっかり言葉としてあるから……。
それにしてもまさか"ムジョウ"に暴走形態があるとは知らなかったけど」
ユライ「ええ、ラーヴァモードに次ぐ第二の暴走形態と言えるでしょう」
ユメ「……そういえばそっちもあったの忘れてたわ」
暴走形態ってのはその名の通り、
能力の運用ミスやらシステムの不具合やらで、
制御不能な暴走状態に陥っちまった際の形態のことだ。
まあ一口に暴走と言っても見境なく暴れ回るだけだったり、
はたまた機械的に淡々と標的を始末したりと色々あるワケだが……
ともあれ概ね最初っから意図的に設計されたワケじゃないイレギュラーな形態で、
かつ基本的に不吉でロクでもない代物として扱われんのは共通していた。
【――ユウト『◆◆◆◆◆◆!!! ■■■■■■■!!!!』――】
それは当然、チェルノボグモードも同じなワケで……
"ムジョウの暴走形態"といえば実際"不完全形態"のラーヴァモードも該当するが、
あっちとはもう何もかもがかけ離れててまるで別モンって感じ。
だってさぁ、ラーヴァモードは辛うじて自我を保ち人間の言葉を喋ってたのに、
チェルノボグモードは自我らしい自我もなく言葉すら喋らねえんだぜ?
加えて言うと戦い方だって、
殴る蹴る投げる引き裂くと格闘中心な前者に対して、
後者はブレスを吐きながら突進するばかりだもんよ。
加えてどうやらこのブレス、フツーの火炎だとかじゃないようで……
ユライ「解析の結果が確かなら、
あのブレスは"霊魂刈取"が形を得たもの……
即ち"触れた瞬間に魂を奪われる"のですよ」
四人「「「「 」」」」
ユライの補足に絶句する四人だったが、
事実ブレスに触れた物体は軒並み魂を奪われ跡形もなく消滅していた。
ユライ「無論あのような形になった以上、
能力行使に伴う消耗は通常時より格段に増えたようですが……
元々霊魂刈取で補充される生命エネルギーも膨大でしたから、
消耗と補充が奇跡的に釣り合ってしまい、
結果、止まることなく動き続ける暴走形態が完成してしまったようです」
カイト「こんなんもうヒーローどころか怪人すら通り越して怪獣やんけ……」
ユライ「元々改造型はある種怪人や怪獣と紙一重ですので……」
タイセイ「しかもなんだろう、
心なしかあの咆哮がユウトさんの悲鳴にも聞こえて来るんだぜ……」
ユカ「そりゃ~あんな姿になって暴れるのなんて、
幾らホンゴウさんだって不本意なんじゃないですか……」
ユメ「……そう考えるとあのバカ女が余計憎らしく思えて来るのは私だけ?」
ユメの一言を皮切りに、
場の空気はクロカミ・メイナって女について語らう流れにシフトしていく。
ユメ「あ〜〜……なんかもう、思い出しただけでもイライラしてくるわ……。
アサガキくん、その肉取ってくれる?」
タイセイ「えっ? まあ、いいけど……」
カイト「おうアイザワ、その肉はアカンてっ」
ユメに促されるまま真っ赤な手羽先揚げを差し出すタイセイ。
なんでか若干慌て気味に止めようとするカイトだったが時既に遅し、
自棄食いせずにいられなかったユメは一心不乱に手羽先へかぶりつき……
ユメ「~~~~~~~!!!?!????!??」
直後、自分の軽率な行動を心底悔いることになった。
なんでかって?
その手羽先ときたらひたすら激辛な味付けがしてあって、
しかもユメのヤツは辛いもんが結構苦手だったからだよ。
タイセイ「ゆ、ユメさん……? 大丈夫なんだぜ……?」
ユメ「だ、大丈夫……じゃ、ないかも……っっ……」
カイト「せゃーから止めたやんか。
それユカやんとター坊向けに唐辛子マシマシで揚げてんから。
並みの味覚で食うたら口腔ン中死ぬちゅうねん」
ユカ「アイザワさん、牛乳飲みます~?」
ユメ「あ、ありがと。助かるわ……」
……辛いモン食った時は牛乳飲むといいって言うよね。知らんけど。
ユカ「ま、アイザワさんが自棄食いしたくなる気持ちも分かりますけどね。
そりゃ私だってクロカミのバカは許せませんもん」
カイト「ホンマやで。こないオッサンのワシが言うたらアレやけど、
あがな奴ァホンゴウにでも拾われんかったら一生独り身確定やったやん?」
ユメ「別に大将が言っても何の問題もないんじゃない?
あの勘違い中二病干物女が元々恋愛適性マイナス拗らせ喪女確定だったのは事実なんだし。
フツーに考えてよ?
対抗馬三人全員に全スペックで惨敗してたのに、
それでも逆転特大番狂わせかまして見事ホンゴウとくっつけたのって、
控え目に言っても奇跡じゃない?」
タイセイ「うーん……
確かにクロカミとユウトさんがくっついたのが奇跡なのはそうだし、
俺も彼女がやったことはそりゃ到底許せないけどさ……
他の三人より劣ってたってのは、
流石にちょっと言い過ぎだと思うんだぜ。
なぁユライさん、そう思わないか?」
ユライ「確かに、
あの四人を相対的に比較し優劣をつける行為自体
私個人としてはどうにも気が進みませんし、
そもそもクロカミ女史には他のお三方より明確に優る点もありますが……
然しそのように評されても仕方がないだろうとも思わずにいられませんね」
タイセイ「そうかなぁ……」
さ、て!
読者諸君としちゃどーにも話についてけねぇだろうから、
この辺から地の文で解説を差し込ませて頂こう!
既に述べた通り、
嘗てセキガハラの技術部に在籍してた若き研究職のクロカミ・メイナは、
遺恨リーパームジョウことホンゴウ・ユウトの恋人だった。
だが二人がくっつくまでは、波乱万丈ドラマの連続でな
というのも当時、ユウトを狙ってた女は他に三人居たんだ。
内訳としちゃ、
世界的大スターとして知られた不老不死の美女"ジョウジマ・ウズマキ"
ユウトと同じ元ヘカトンケイレス出身で実質幼馴染の"センゴク・コンセイ"
ユウトが通う養成校の養護教諭で生体改造にも造詣の深い"アオヤマ・イザリ"
……とまあこんな感じ。
揃いも揃って超絶ハイスペかつガッツリ別嬪ってのはメイナと共通してた。
何を隠そうメイナは若干十二歳にして英国の名門オックスフォード大を卒業した天才で、
生物学の修士号と工学の博士号を持ってたからな。
お陰で若くしてセキガハラの技術部で働けてたし、
ソウキチを通じてユウトとの縁もできていた。
昔馴染みのコンセイ程じゃねえにせよ、
ウズマキやイザリよりはリードできてたハズだったんだ。
ただ他の奴らとメイナには決定的な差があった。
第一に、その風貌がある。
というのも他の奴らは年相応に成熟しててスタイル抜群だったが、
一方のメイナは前回描写した通り華奢で小柄、
成人しても小学校高学年程度にしか見えねーような風貌だったんだ。
そして第二に、明確かつ致命的な"欠点らしい欠点"として性格が挙げられるだろう。
というのもメイナは聊か性格が屈折しててどうにもメンヘラ気味、
心根は決して邪悪じゃなく何なら正義感に溢れてるものの、
フツーの社会生活には到底向かねえだろうなって感じの性格でな。
そりゃユメが『全てで他三人に劣る』と評し、
ユライがそれに半ば同意しかけるのも無理もねぇって話で……。
ともすりゃ到底、
そんなメイナがユウトと結ばれるなんざ有り得なさそうなモンだが……
さりとてヤツらは実際、運命的な巡り合わせで絆を深め遂に恋仲となった。
……細かな経緯は省かせてくれ。語ると長引いちまうんでな。
さてともかく、晴れて恋仲になったメイナとユウト。
メイナが禍根ハンターやムジョウのシステム開発に深く携わってたのもあり、
二人の関係は公私問わず親密かつ綿密そのもの……
絵に描いたような相思相愛ぶりで若干名を馳せたほどだった。
タイセイ「ほんと凄く仲良かったもんなぁ、ユウトさんとクロカミって」
ユカ「ホンゴウさんもしつこいくらい絶賛してましたからね~」
ユライ「想定外の不具合に見舞われたムジョウシステムに、
開発途中のまま死蔵されていた禍根ハンターの強化形態を流用するアイディアからして、
発案者は彼女だそうですからね」
カイト「それがなんであないな真似やらかしよったんや……。
女心と山の天気っちゅうヤツか?
オッサンにはようわからんでホンマ」
ユメ「安心してよ大将、
女にもあいつの心なんて理解できないし、
そもそも理解したくないから……」
さて、こっからがいよいよ核心部分だ。
確かにメイナとユウトは仲睦まじいお似合いカップルだった。
その証拠と言うべきか、
ムジョウの変身ツール"クラナドライバー"の名はメイナの名に因んで
――ムジョウが死神モチーフなだけに、
"メイナ"の"メイ"を"冥"と変換し、音読みで"クラ"と読ませる形で――名付けられた。
もっと言うと装着者の身体と同化してるこのベルトには、
一部メイナの細胞が部品として組み込まれてもいたからな。
さながらムジョウシステムそのものが、
愛し合う二人の象徴みたいなモンだったワケだ。
だが、ある時とんでもねぇ悲劇が起こった。
というのも何を血迷ったか、メイナの奴が浮気しやがったんだ!
それも、結構ガチめに有害なヴィランの女と!
……読者諸君としちゃ
『何を突然わけのわからねーことを』と思うかもしれねーが、
それが事実なんだからしょうがねぇしタチが悪い!
浮気相手は"新生女性至上主義社会革命者ネオフェミニニス党"って組織を率いる
"ドクター・ニーウォン"こと本名タバカリヅキ・ニーウォン。
最早何人だよとツッコみたくなる名前だが、実際地球人じゃないらしい。
組織については名前から概ね察しはつくだろうが、
努力できない不幸な生い立ち等から男性嫌悪を拗らせ、
フェミニズムの名のもとに男を逆恨みして暴れ回るしか能のねえ、
まさしくカスみてぇな女どもの集まりって感じ。
或いは奴らを女と呼ぼうもんなら、
あらゆる生物の雌に失礼なくらいには色々終わってる連中ってトコか。
ただ曲がりなりにもヴィランなだけに能力そのものはわりと高く、
少なくともヒーローが出張らなきゃヤバい連中なのに変わりはねえ。
クロカミ・メイナって女はそんなそんな色々とヤバい連中を取り纏めるニーウォンに、
果たしてどうやって知り合ったんだか知らねえが、
とにかくマジのガチで寝取られちまったってワケだ。
勿論その身は怪人と成り果て、かつて持っていた正義の心も消え失せていた。
しかも尚タチが悪いことに、
メイナはそれを巧みに隠蔽しつつも微かに匂わせ続け、
散々っぱら不安感や罪悪感に苛まれまくったユウト目掛けて、
"ネオフェミニス党"全面協力のもと徹底してド派手に暴露しやがったんだ!
タイセイ「……あの時の記録映像はホントに最悪だったんだぜ」
ユカ「ね~……胸糞悪い所の話じゃありませんよあんなの」
カイト「まあ所謂『スカッと系』の、
クズが調子こいてのさばっとるパートちゅうたらそうやが……」
ユメ「オチが笑えて爽やかかっていうとそうでもないし……
なんなら鬱展開過ぎて余計気分沈むっていうか」
事実、そっからの展開は凄惨ったらなかった。
最愛の相手からこっぴどく裏切られたユウトは深く絶望した。
心はドス黒い闇に染まり、悪意と狂気に囚われたヤツは、
愛した女との日々を拒絶するが如く変身。
ムジョウの各四形態を切り替えながら、
その場に居合わせた"ネオフェミニス党"の構成員共を皆殺しにし……
最後には嘗てこの世の誰より大切にしようと誓ったメイナを、
ガルムモードの発火能力をフル活用した拷問にかけ惨殺。
ヒトでなくなったその身を跡形もなく切り刻み、骨さえも焼き尽くし、
生涯最初で最後の恋に終止符を打ったんだ。
ユライ「因みに現状彼が使う必殺技は、
概ねこの時に原型ができていたそうです」
ユメ「それでなんだっけ、
後々ドライバーにシステム音声を導入しようってなった時、
その音声がどうやってもメイナのになっちゃうっていう
なんか怪奇現象みたいなのに見舞われたんだっけ?」
カイト「おう、せやせや。せやったわ。
ほんで技術部もあの惨劇を要覚えとるから、
どうあがいても修正でけへんなら
もう声無しで行くかっちゅうて話纏まりそうやったのにから、
そこでホンゴウのドアホがなんでか声つけよう言い出して、
メッチャゴネ散らかした挙句強引に押し切ってん」
ユカ「うーん、ちょっと何考えてるのかよくわからないですね~。
普段からホンゴウさんって何考えてるのかわからない人ですけど~」
タイセイ「なんだろう、多分あんな目に遭っても愛してたのは間違いないから、
せめて形見としてキレイな思い出を残しておきたかった、とかじゃないかな。
ユウトさん、ああ見えて結構ロマンチストな所とかあるし……」
カイト「どうやろなぁ、案外カシラにどやされて渋々とかそんなんかもしれんで?」
タイセイ「……否定できないのが地味にキツいんだぜ」
ユメ「確かに、
クラナドライバーにシステム音声つけようって話も、
元々キャプテンに言われたからってのが大きかったみたいだもんねぇ」
ユカ「ほんと拘るんだからなぁ、隊長……」




