エピソード11:ヒーロー回想録κ/鑑賞会伍乃巻-中編
さて、記録映像は前回からそのままとある地方都市の一角……
【――猿『うおおおおおっらあああああ!』――】
【――ユウト『ズェイイッ!』――】
思いがけない形で勃発した
"遺恨リーパームジョウ"ホンゴウ・ユウト
対
"愚連隊『日本咲き誇り連合』元筆頭"オヤマダ・ヒコテル
の戦いは、両者一歩も譲らぬまま拮抗しつつ継続中だった。
【――猿『うおおおおっらああああ!』――】
【――ユウト『効くかボケッ!』――】
【――猿『ぐぬううおおおおっ!?』――】
……なんて書き方をすると
『ユウトとオヤマダの実力は五分五分で、
つまり実際オヤマダはかなりの実力者なんじゃないか』
ってな具合に誤解されそうなモンだが、
実際問題当人同士での実力差で言えばオヤマダはユウトの足元にも及ばなかった。
【――猿『ぐげへぇえええっ!?』――】
【――ユウト『オラァどうした昭和野郎〜?
軟弱な平成令和に押し負けてんぞオメェ〜?』――】
何せ単純なサイズでは変身前のユウト、
どころか四元素形態でも特に大柄なフォルネウスモードよりもデカいオヤマダは、
確かに関西裏社会を影から牛耳るほどの圧倒的な武力を有してはいた。
武装した武闘派ヤクザやアスリートどころか、
装備整えた警官や自衛官・兵士すら歯牙にもかけねぇ圧倒的身体能力に加え、
東亜妖怪特有の神通力で発火、念力、透視、読心やらの技を使いこなし、
オマケに回復力もアホほど高ぇ。
総じて潜在的なポテンシャルはかなり高く、
順当に鍛えて経験積んでさえいりゃ、
極東でも五指に入る程の強豪戦闘者になっていただろう。
【――猿『うっせぇぞっ、クソガキぃ!
この程度の傷をつけた程度でっ……イキがんじゃねええええっ!』――】
【――ユウト『ちっ、再生しやがったか……ジジイの癖にしぶといじゃねえか』――】
だがそれはあくまで"しっかり鍛えて経験を積んだ場合"の話。
その点オヤマダの精神は人間だった頃、
ひいては何十年と前のバブル全盛期からまるで成長しておらず、
ともすりゃ"万一に備えて鍛錬しておく"なんて発想になど至ろうハズもねえ。
或いは一応、歯向かう連中を一方的にボコる程度の"戦闘経験"ならばあったものの、
例えるならそんなもんはガキがナメクジに塩ぶっかけるのと大差無く、
即ちオヤマダ自身の戦闘能力とて察する迄もねぇ。
【――猿『ガキがっ、
格の違いってのを思い知らせてやらァ!』――】
【――ユウト『おうやってみろよジジイ……
できるもんならなァ~!』――】
然し、ならばどうしたって戦況が拮抗なんてしてたのか?
その理由は単純明快で……
【――猿『オイッ、でくの坊! やっちまえっ!』――】
【――龍『畏まりました、御主人様』――】
【――ユウト『うおおっ!? ここでまたあんたかよっ!?』――】
ユカ「……やっぱりネックなのはあのドラゴンですね~。
オヤマダだけなら大したことないのになぁ」
カイト「せやなぁ。あの威力の冷凍攻撃を遠距離とか流石に強すぎるて。
オヤマダとサシでやり合うだけならホンマすーぐ終わんのにから」
ユメ「ほーんと、もうなんか氷龍だけでいいんじゃない?
ってくらい強いんだもの。何ならオヤマダが足引っ張ってるレベルよ」
ユライ「皆様、流石に悪党相手とは言え辛辣過ぎはしませんかね……。
確かにオヤマダの能力は控え目に言って下の下、
強大な力を持つ配下への指示もお粗末を通り越して雑そのもの、
最早宝の持ち腐れと称するのも躊躇わずにいられませんが」
タイセイ「ユライさんが一番辛辣なんだぜ……。
でも実際反則レベルで強いんだよな~、あのドラゴン」
ひとえに"ヤツが龍を連れてたから"……
そして"龍がメチャクチャ強かったから"……この一点に尽きた。
【――龍『ハァァァァーッ……』――】
【――ユウト『クソッ、ACUOのCMみてぇなノリで冷気ブレス撒き散らすんじゃねぇ!
アニメキャラになったらどうしてくれる!?』――】
タイセイ「心配するの絶対そこじゃないんだぜ……」
ユメ「寧ろあんだけ強力な攻撃なのにボケてる余裕がどこにあんのよあのバカ」
中でも特筆すべきは、
この龍が強力な冷凍系攻撃の使い手ってトコだろう。
身に纏う冷気からしてフツーに氷点下一桁度、
その気になれば二桁中盤ほどまで下げることができ、
その時点で防寒策のねぇヤツは接近すらままならねぇ。
だがより凄まじいのは口から吐き出す所謂"ブレス"系の攻撃で、
こっちの温度は平均して氷点下3桁度がデフォ。
少し本腰入れるだけでも液体窒素超えの超低温となり、
ひいては絶対零度にさえ簡単に至っちまう。
加えて広範囲をカバーできる冷凍ガス型と、
着弾と共に炸裂し広範囲を氷漬けにする砲弾型で使い分けできるオマケつき。
ただ、それよりもこの龍が使う技といえば……
【――龍『カッッ!』――】
【――ユウト『うおっと!?』――】
神通力を圧縮・収束させ放つ"冷凍光線ブレス"がぶっちぎりでおっかねぇだろう。
何せ超低温であるのみならず、
どういう原理でかしっかり光線技としての破壊力も有していて……
つまるところ、たとえ氷雪・冷凍系への強固な耐性を身に着けようと、
光線そのものを喰らえば致命傷は免れねえってワケだ。
【――ユウト『クソッ……! なぁ~、その技禁止にしねェ~?
それ実質防御できねェから、
使われっと避けるしかなくて困るんだけど~!?』――】
【――猿『うっせぇ!
だったらてめえもその瞬間移動する技使うのやめろ!
デカくてノロマな癖して跳ね回りやがって、
カエルかてめー! 色も緑だしよぉ!』――】
カイト「確かに見えんこともないなぁ」
ユカ「カエルはカエルでもベルツノガエルでしょうけどね~」
ユメ「アフリカウシガエルかもしれないわよ?」
タイセイ「……カエルの種類はよくわからないんだぜ。
ところでユライさん、さっきオヤマダも言ってたあの瞬間移動って……」
ユライ「無論、フォルネウスモードの固有機能ですよ。
フォルネウスモードの司るエレメントは"水"……
水棲生物型なのもあり水中戦で本領を発揮しますが、
固有能力として周囲の液体を操る他、
装甲や武器に搭載されたノズルからの放水攻撃も可能です」
ユカ「放水攻撃は応用して冷凍ブレスを防御するのに使ってましたね~」
カイト「所謂地対空ミサイルの要領で、
冷凍ブレスを放水で迎撃して被弾前に無力化するヤツな~。
ありゃホンマ目から鱗やったでぇ」
ユメ「『運命の衝突』のブリザード戦でのマン兄さん思い出したわ~」
ユライ「実際ホンゴウくんも意識しているでしょうね……。
さて、フォルネウスモードは水中戦推奨かつ大柄で重量級なために
空気中で動きが鈍る弱点があります。
そこをカバーすべく実装されたのが、あの瞬間移動能力……"水都の暗殺鮫"です」
【――ユウト『ケエエイッ!』――】
【――猿『やれ、でくの坊!』――】
【――龍『カアッ!』――】
【――ユウト『シィィッ!』――】
【――猿『ちっ! ガキが、また消えやがって』――】
【――ユウト『ヴオォッレアアアアッ!』――】
【――猿『ぬおおわあっ!? 背後だとぉっ!?』――】
カイト「"スクアーロ・ディ・ヴェネツィア"……イタリア語やな」
ユメ「察するに『GIOGIO五部』に因んでる?」
ユライ「ええ、間違いないでしょう。
元々"セキガハラ"に限らず、
ヒーロー業界はサブカル好きが多い傾向にありますのでね」
ユカ「要するに液体から液体に瞬間移動する能力ってことですか?」
タイセイ「フォルネウスモードが放水や液体操作をできるって考えると、
本家の方より更に扱いやすそうなんだぜ」
ユライ「実際、汎用性はかなり高いようですね。
ただ、あのスタンドのように転移先へ潜り込んだり、
転移先の面積に合わせて身体の大きさを調整するような機能はないそうですが」
タイセイ「それは……寧ろあったら強すぎるんだぜ……」
【――猿『オイゴラァでくの坊!
何やってやがるそいつをとっとと始末するんだよ!』――】
【――龍『申し訳御座いません御主人様』――】
【――猿『返事ァ要らねえ! 口動かす前に身体動かせこの能無しがあ!』――】
カイト「……しっかし、腹立つ猿やのぉ~」
ユメ「所詮自分一人じゃまともに戦えない癖にね~」
ユカ「いつかの猟師に暴言吐いた旧北海道のバカ町議みたいですよね~」
タイセイ「……とにもかくにも、あのドラゴンをどうにかしないとヤバいんだぜ。
まあ、映像記録だから結局ホンゴウさんは"どうにかした"んだろうけど。
てかそもそも、あのドラゴン何者なんだぜ?」
カイト「せや! そこはワシもずっと気になっててん~」
ユメ「実際なんかやけに強いし、正直オヤマダ如きが操ってちゃダメでしょ」
ユカ「ね~。アーシャがアベンジャーズ仕切ってるようなもんですよ~。
ユライさん、あの龍に関する情報はないんですか?」
ユライ「勿論ございますよ。
"彼女"の名は"カンザキ・セツナ"……
今や希少種族となって久しい日本妖怪"雪女"の数少ない生き残りなのです」
ユライの口から告げられた衝撃の事実に絶句する四人。
だがそれは紛れもない事実だったんだ。




