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デスイズザヒーロー!-悪の組織の最強怪人、ヒーローに転身する-  作者: 蠱毒成長中
第二章:師走英雄白書編

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28/53

エピソード9:ヒーロー回想録θ/鑑賞会肆乃巻-後編

ユライ「さて、ここから遂に"遺恨リーパームジョウ"第三の形態……

 その名も"ギルタブリルモード"の登場ですよ」


【――ヴィラン「……あ、あが……が……」――】

【――ユウト「……死んでねえよな?」――】


 さて"記録映像の"場面は引き続き異世界ギャザレクシア!

 後攻第一ターンにして速攻で勝負を片付けたユウトは、

 ギャグ漫画の爆破オチが如くボロボロ、

 折角の美貌も台無しとなった敵幹部フェロモナスの捕縛を試みた。


【――ユウト「惨めなモンだなあ、フェロモナスぅ~。

       まるで実写『ヤッターマン』の藤原紀香(ドロンジョ)が如き……

       いや、滑稽さで言ったら『レッド・ブロンクス』のクリス・ロード(ホワイトタイガー)ってトコか」――】


タイセイ「また微妙に伝わり辛い映画のネタなんだぜ……」

ユメ「そもそも作者、あいつ実写『ヤッターマン』はともかく

『レッド・ブロンクス』なんてしっかり見たことないでしょうがっ」


【――ユウト「ちょうど道で潰れて干乾びたカエルの死骸みてえにぶっ倒れて、

       みっともなく全身スス塗れでケツ丸出しだもんなあ……。

       オマケに髪ァグチャグチャ、ヒールも折れて化粧崩壊……

       『Do-Dai』越えの惨状とあっちゃ、

       性根腐ったクズでもなきゃ海綿体に血も行くめえ」――】


ユカ「うーん、分かり辛い下ネタ……六十九点ですかね」

ユライ「採点が甘くありませんか?」

ユカ「いやあ、下ネタなので~」

ユライ「……なるほど」


【――ユウト「泣く子も首吊る最強闇決闘士(デュエルギャング)

      『渇夢(サーストドリーム)』幹部"七壊神"の一人が、

       よもや異世界人(外来種)(雑魚)如きにこのザマとはなあ……

       全くお笑いだぜ。草どころか藻だって生えやしねえ」――】


カイト「そら刈った傍から除草剤撒いたら何も生えんやろ」


【――ユウト「『男殺しの女王メンズキラー・クイーン』に、

       『甘美悦楽女帝スイートエクスタシー・エンプレス』ってか。

       ……確か組織に入る前は美人局や詐欺、

       殺しなんかで小銭稼ぎしてたんだったか?

       被害総額は大企業複数社の資本金相当、

       被害者の数は億にも届くとか? とんでもねえ話だぁ」――】


 そう、まさにフェロモナスは歴史に名を残す程の極悪人だった。

 ……劇中じゃ概ね情けねー醜態晒してばっかだったけどな。


【――ユウト「……然しそう考えるとよぉ~、

       そこまでの被害を出した"大犯罪者"ともあろうモンが、

       よもや散々食い散らかして来た"男"にボコられ、

       惨めに再起不能の醜態晒すたあ……

       実に滑稽じゃねえかよ、なあ?」――】

【――ヴィラン「……う……あ……」――】


 呻くばかりで微動だにしないフェロモナスに歩み寄ったユウトは、

 弾丸を装填したナガシノマグナムの銃口を向ける。


【――ユウト「なんにせよ、どうやら蜘蛛蜂は俺だったようだなァ」――】


ユメ「あんたみたいな蜘蛛蜂がいるかっ」

ユライ「最早蜘蛛や蜘蛛蜂を通り越してそれらを一律虫として捕食する鳥のような……」

ユカ「いや〜、鳥も食べちゃう猫とかじゃないですか?

 ほら、ボブキャットみたいな〜」

カイト「なんならボブキャットも食い殺すニシキヘビって可能性もあるんちゃうか」

タイセイ「ひ、否定できないんだぜ……」


 弾倉に詰まってんのは"圧縮捕縛弾"。

 その名の通りエネルギー体の縄で対象を縛り上げ

 空間ごとミクロサイズに圧縮し銃弾サイズの特殊なカプセルに閉じ込めちまう特殊弾……

 つまり今ユウトが眼前の阿婆擦れ目掛けて引き金を引けば、

 その時点でほぼ奴の仕事は終わる……ワケなんだがっ、


【――ユウト「……あぁ?」――】


 事も在ろうにその"絶妙にいいタイミング"で思いがけねえ邪魔が入っちまう!


【――少年「……っっ!」――】


 しかもその"邪魔してきたヤツ"ってのがまた予想外……

 なんとまあ、味方なハズのテンビ・カケルくんだったんだ。


タイセイ「なんであの子がっ!?」

ユカ「……まさか!」


 ともすりゃ当然、ユウトとて面食らったのも無理はねえ。


【――ユウト「……なんのつもりだい、老師(マスター)テンビ。

       心配しなくたって、別に俺はこいつを殺すつもりァねェ。

       ただあんたの愛したこのゲーム……

       『デュエスト(デュエルストライカー)』を冒涜するような真似してやがったんで、

       暴力じゃなく『デュエスト』でブチのめして再起不能にし(わからせ)てやっただけのことだ。

       『今の俺があるのはデュエストのお陰だ。

        デュエストはみんなで楽しんで笑になるためにあるんだ。

        だからデュエストを悪用してみんなを苦しめ傷付ける

       「渇夢サーストドリーム」の奴らは絶対に許せない。

        デュエストと向き合うあんたには、それを忘れて欲しくない』……

       覚えてるだろう? 老師が俺にくれた言葉だ。

       俺も元来ゲーマーの端くれ、そして老師の指導を受けた身」――】

【――少年「黙れ」――】

【――ユウト「……なんだい老師、

       他人が喋ってるとこに割り込むなんて、

       顔や歳の割に礼儀作法に拘るあんたらしくも」――】

【――少年「黙れってんだっ!

      ()()()()()がこの()()()()を、

      マちゅターなんて呼ぶんじゃないやいっ!」】

【――ユウト「……」――】


 明らかに異常な様子のテンビ少年……

 その変貌ぶりにユウトも思わず押し黙るが、同時にヤツは全てを悟った。


【――ユウト「そうか、そうか。

       つまり君はそういうやつンなったんだな」――】

【――少年「そうだ! 今までの"生かちゅ"なんて、

      ぜんぶじぇんぶ"まやかち"だったんだっ!

      おねーしゃまっ……おねーしゃまっ……!

      "ねちろる"おねーしゃまに"おちゅかえ"しゅるのだけがっ、

      ボクたんのいきがいだったのにっ!

      それを、それを"チミゴトキ"はぁぁっ!」――】


 明らかに正気を欠いた様子の少年……

 最早言う迄も無く"正義のカードゲーマー テンビ・カケル"はそこに居なかった。

 多分、実質的に死んだんだろう――フェロモナスに惨敗した瞬間に、呆気なく――。


【――ユウト「……その悲しみ、理解するぜぇ。

       過ごした時間の長さと絆の強さは必ずしも比例しねえ。

       長く一緒に居たとてどうでもいいヤツはどうでもいいし、

       少しの間しか過ごしてなくても大切なヤツは大切だもんなあ。

       俺も今まさにそういう気持ちだからマジでよくわかるんだよ」――】

【――少年「でゃまりぇええええっ!

      他ならぬおねーしゃまをやったチミゴトキがっ、

      ボクたんにどおぢょーしゅるなああああっ!』――】


 刹那、吼えたテンビ少年は下腹部を中心に白いヘドロの如く溶解……

 あっという間に体高二メートル半ほどもある蜘蛛らしき化け物に姿を変えた。


【――少年だった何か『オマエガ"クモバチ"ダトイウノナラアアアア!

           コノ"オスグモ"ガアミデカラメトリ、

           イキタママクイコロシテクレルウウウ!』――】


 ただその姿は極めていびつ……

 何故か節足(アシ)が九本あるなんてのは序の口で、

 蜘蛛にしちゃやけに首が太長く、袋状の腹部は二又に割れていて……

 見る奴が見れば"卑猥な形をしてる"と評していてもおかしくはねぇってもんで。


ユカ「やっぱり……」

タイセイ「そんな!? なんであの子が!?」

ユメ「……ストックホルム症候群ってやつ?」

カイト「サキュバスの色仕掛けで頭やられっちもうたんちゃうか~?」

タイセイ「だとしてもあの変な化け物の姿になったのは説明がつかないんだぜ!?

 ユライさん!? あれって一体何がどうなってんだぜ!?」

ユライ「……まあなんというか、向こうではよくあることのようで……。

 不思議な世界なんですよ、ギャザレクシアは」

タイセイ「不思議すぎるんだぜ!?」


【――ユウト「なるほど。

       その変異がどういう原理なのかは皆目見当もつかんが、

       どうやら結局ヒーローらしい行動(暴力行為)は避けて通れんらしい。

       ドライバー、来い」――】


ユライ「さあ、ともあれここから漸くギルタブリルモードの初陣ですよ」

タイセイ「長かったんだぜ……」

カイト「見通し甘かったなァ~」

ユライ「……だから最初に忠告したではないですか、

 "ホンゴウくんがムジョウとして戦うのはまだかなり先だ"と」

ユカ「まさか前座があそこまで長いなんて思わなくて……」

ユメ「ついつい見入っちゃったわ……」


【――システム音声[列席御礼……♥]――】

【――ユウト「転身」――】

【――システム音声[ギルタブリルモード……♥]】

【――ユウト『要請-"つがいの聖獣が毒針に、怨敵致命の悲願を込めん"』――】

【――システム音声[要請受理♥ 供給、ギルタブリライフル♥]――】


タイセイ「あれが"ギルタブリルモード"……」

ユカ「射撃特化の形態、でしたっけ」

ユライ「ええ。ですが単に銃器一辺倒の形態かと言われるとそうでもなく……」


【――ユウト『なあ知ってるか、オスグモ。

       豪クイーンズランド大のニクソン女史に曰く』――】

【――オスグモ『ヴエエエエアアアア!

        シネエエエエエエエッ!』――】


 変身を終え、武器さえ形成し……

 紛れもなく準備万端な癖に、

 何を思ったかオスグモへ語り掛けようとしたユウト。

 だが必然、返って来た反応は辛辣通り越して苛烈……


 九本の足で強烈に加速し一気に距離を詰めたオスグモは、

 鋼鉄の杭みてえな節足の一本を振り上げユウトを刺し貫こうとする。


タイセイ「ユウトさんっ!」


 瞬間、思わずタイセイは叫んでいた。

 というのも遠距離戦主体の戦闘者ってのは、

 総じて概ね距離を詰められンのにめっぽう弱いってのが定石だ。

 とすると、ギルタブリルモードの装甲とて一溜りもねえ……かと思いきや、


【――オスグモ『グギャアアアアッ!?』――】


 なんとヤツの節足、その先端約ニ十センチほどが、

 あたかも乾麺かチョコ菓子よろしくパキッ、と折れやがったのさ。

 当然先端まで神経が通ってるもんで、

 必然オスグモは情けねえ悲鳴を上げずにいられねえ。


【――ユウト『馬鹿があ。他人様の話聞かねえからそうなる。

       ……かの気高き正義のカードゲーマー、

       テンビ・カケルならそんなヘマはしなかったろうになあ』――】


タイセイ「う、ウソだろっ……!?」

ユカ「射撃形態の装甲が、近接攻撃を防いだ……?」

カイト「ジョーダンきついでオイ~。

 多段変身ヒーロー、

 それも改造系の飛び道具使う形態っちゅうたら、

 距離調整や位置取りあるから機動力上げなアカンわ、

 そもそも隠密や一撃必殺、短期決戦が前提なっとるわで、

 防御力なんぞ二の次三の次んなっとるもんやろ~?」

ユメ「アレじゃない? 近寄った相手の身体を脆くするとか、

 なんかそういう"弱体化(デバフ)"能力が……ねぇ、ユライくん?」

ユライ「……ギルタブリルモードにそんなややこしい能力なんてありませんよ」

ユメ「えっ」

ユライ「あの怪物の攻撃が通らなかった理由は、実に単純明快……

 ただひたすら、ギルタブリルモードの装甲の方が頑丈だったからですよ」


 ユライの口から出たまさかの言葉に、一同は絶句する。


ユライ「確かにトビホシさんの指摘通り、

 遠距離戦に特化した有機改造体(バイオノイド)の防御力は得てして低いものですが……

 ことギルタブリルモードにその原則は当て嵌まらないのです。

 というか何でしたら同形態は

 "遠距離戦が得意"でこそあれ"銃撃戦一辺倒"なんてことはありませんのでね」


【――ユウト『改めて話そう。

       豪州屈指の名門と名高い"クイーンズランド大学"に籍を置く、

       サマンサ・ニクソン研究官に曰く

       「クモとサソリが戦った場合、

        恐らくはクモが勝つだろう」とのことでよ』――】

【――オスグモ『ウッグギイイイアアアアア!

        アッグウウアガアアアアア!』――】

【――ユウト『とすると奇しくもお前はクモで、俺はサソリ……

       単純に考えると俺が負けるって話のようだが……

       さりとてニクソン研究官は

       「双方の体格や体質によっては

        勝敗が引っ繰り返ることだってあるだろう」とも仰った』――】

【――オスグモ『ウッガアアアアッ!

        チガッ! トマラナイイイイイ!

        クッツケッ! クッツケエエッ!』――】

【――ユウト『てことで一つ、勝負しようぜ?

       クモ(お前)サソリ()、どっちが勝つかのよォ~』――】


ユカ「いや、勝負するまでもないじゃん絶対……」

ユメ「そもそも普通サソリは鉄砲使わないから……」

カイト「まずその理屈やと昭和の仮面ライダーは大抵一話で死んどるっちゅうねん」

タイセイ「てかあの形態、サソリだったんだな……」

ユライ「ええ、まあ。形態名のギルタブリルも、

 バビロニア神話に登場するサソリの怪物に因みますのでね」


【――オスグモ『グッギイウアアアアアッ!

        フッグウウオオオオオオアアアア』――】

【――ユウト『他者ひとの話聞けこの蜘蛛チンポ野郎がァ!』――】

【――オスグモ『ウグエエアアアアッ!?』――】


 理不尽にも(?)キレたユウトがブチかましたのは擲弾(グレネード)

 当然真正面から食らったオスグモは吹き飛ばずにいられねえ!

 ……ま、吹き飛んだだけで大した傷は負ってなかったが、

 それはそれとして……


タイセイ「い、言ったぁぁぁぁっ!?」

ユカ「つ、遂に言った……

 確かにあのシルエットはもう"まんまソレ"だけど……

 あんなストレートな言い方するなんて……」

カイト「絶対言わんようにしとったのにから……。

 相対する当人がモロに言いよったで……」

ユメ「……ま、あの形だと厳密にはチンチンとタマタマだけどネ~……

 ほんとも~、酔っ払ったギーガーが描いたのかってぐらいモロだもんネ~……」

ユライ「恐らく、彼の内に秘めた欲望か何かが反映された結果なのでしょうね。

 あくまで憶測に過ぎませんし、真偽など確かめたくもありませんが」


【――ユウト『全くヒデェなあお前ってヤツぁ。

       俺がついさっき死に別れちまった友達……

       高潔で男気溢れるカードゲーマーの鏡、

       テンビ・カケルはそんな真似絶対にしなかったぞ?

       彼は礼儀作法を重んじる男だったからなァ~』――】


タイセイ「り、理不尽……な、ハズなのにっ……なんか同情できないんだぜ……」

ユカ「そりゃ同情しちゃダメでしょあんなのに」

カイト「せやぞター坊。あのクモも結局ホンゴウを怒らせたんやから」

ユメ「残念でもなければ至極当然の結末ってヤツ~?」

ユライ「因みにギルタブリルモード、

 サソリ型なだけあって弾丸には概ね何かしらの毒が仕込んであります。

 あの擲弾まで毒入りかはわかりませんが……」


【――ユウト『よぉぉぉ~っし、じゃあ早速勝負と行こうじゃねえか。

       先ずは俺から行かせて貰うぜ!』――】

【――システム音声[葬儀開催♥ 散骨-スペシャルプラン♥]――】


 ユウトはドライバーを操作しながらオスグモに銃口を向け、引き金を引く。

 ギルタブリライフルは自動小銃型の武器ってコトで、

 当然銃口からは無数の毒入り弾丸が発射されるワケだが……


【――オスグモ『ブッビュウウウウウッ!

        ソンナモノガキクカアアアアアッ!』――】


 なんとオスグモは口から吐き出す糸らしき粘液を操り、

 空中に無数の小さな四角形の盾らしきもんを形成。

 降り注ぐ弾雨の悉くを防ぎきりやがったんだ。


【――ユウト『ほう、やるじゃねえか!

       まァ~老師テンビのカード捌きをパクりやがるのは気に食わねえが……

       その気概は評価してやらんでもねぇ!

       ドライバー、敬意を表してプランアップグレードだ!』――】

【――システム音声[アップグレード♥ 散骨-デストロイプラン♥]――】


 気を良くしたユウトがベルトを操作すると、

 なんと全身至る所の装甲が変形し銃口が飛び出した!


タイセイ「なっ!? か、身体から鉄砲がっ!?」

ユカ「ぜっ、全身武器庫〜っ!?」

カイト「あんなんサソリやないっ!

 ええとこ毛虫かラッパウニやないかい!」

ユメ「うーん、流石に殺意"高過ぎ晋助"……」

ユカ「高杉晋助で済むレベルじゃないと思いますけど。

 紅桜に取り込まれて暴走した岡田似蔵っていうか……」

カイト「どっちもカッコエエから何や腹立つなァ。

 もう"長谷川裁判編終盤のハイジ"とかでええんちゃうか?」

タイセイ「せめてなんかの宇宙生物って言おうぜ大将……。

 けど凄いよなギルタブリルモード。

 あれなら確かに銃が弾切れで使えなくなっても戦えるんだぜ」

ユライ「ええ、実際構想段階から継戦能力と安定性を高める方向で、

 他の形態以上に様々な窮地を想定し開発が進められていたようです。

 前後左右四方八方三百六十度ほぼ全方位に攻撃可能なため、

 攻撃・迎撃双方に於いてほぼ死角がなく、

 加えて土砂や岩石を始めとしたあらゆる固形物を取り込み

 弾丸を製造・供給する機能も備えています」

ユカ「つまり実質ほとんど弾が無限……?」

ユライ「ええ、一応全く弾切れしないわけではありませんがね」


 だが驚くべき展開はこれで終わらなかった。

 と い う の も … … 


【――ユウト『ドライバー、折角だ。追加で"サービス"してやろう』――】

【――システム音声[快諾♥ スペシャルサービス、セットアップ♥]】


 追加でベルトを弄ると、

 なんと全身の装甲が"ムジョウ"本体から剥離!

 そのまま小型のメカサソリに変形したかと思えば、

 ゴキブリ顔負けの素早く気持ち悪い動きでオスグモを取り囲み、

 尻尾へ毒針の如く備わる機銃でもってより苛烈な集中砲火を浴びせていく!

 ……因みに装甲を脱ぎ捨てた"ギルタブリルモード"の姿は、

 メカっぽさ皆無で競泳水着っぽいスーツを着た細マッチョなサソリ怪人って感じで、

 どうにも微妙に不気味でキモいデザインなんだがまあそこはいいだろう。


【――オスグモ『ウギイイエエエアアアアア!?

        タマヲフヤスナアアア!

        ダガシカシ!

        ソレデモタエエエエエル!』】


 無論オスグモは増えた弾丸も"糸の盾"で防いでみせるが……

 ともあれ相当無茶せずにいられねぇんだろう、

 防御はかなり限界ギリギリ、必然隙が生じちまうワケで。


【――ユウト『喰らっとけっ!』――】


 ユウトはガッツリ開いた隙間目掛けて、

 とびっきりの毒入り弾丸を放つ!


【――オスグモ『グウウウエエエッ!?』――】


 通常の弾丸より目に見えてデカいその弾丸は、

 見事オスグモの胴体に命中する……

 が、突き刺さったのは先端部部、弾丸全体の五分の二程度!


【――オスグモ『グウウブッグギギギイイイイッ!

        コレシキノ、弾丸程度ガアアアアアッ!』――】


 事実致命傷にも至ってねえようで、

 オスグモは何本かの節足で弾丸を引き抜こうと躍起になってる。

 然しそれが無駄な抵抗、

 どころかこの状況下じゃ最悪手まである事実を、

 当然オスグモは理解しちゃいねえワケで……


【――ユウト『馬鹿がぁ~、

       抜く暇あったらせめて逃げりゃいいものを……』――】

【――システム音声[フューネラル・ストライク♥]】

【――ユウト『ふんっ!』】


 散り散りになってた装甲を再び身にまとったユウトは、

 力強く踏み込み跳躍!

 空中で突き出された右足の装甲は、

 さながらサソリの毒針みてーに変形する!

 そう、まさに言わずと知れた"ライダーキック"の構えだ!


ユカ「ウッソ!? 射撃形態なのに必殺技が飛び蹴り!?」

カイト「あんだけぶっ放した弾全部、

 敵の気ィ散らす為のデコイやったんかい!?」

タイセイ「まるで北斗百裂拳なんだぜ……」

ユライ「……本来は巨大な弾丸を相手に打ち込むだけの必殺技なのですが、

 ホンゴウくんのアドリブで飛び蹴りが追加される場合が多々あるようでして……」

ユメ「アドリブなの!? あれで!?」


【――ユウト『いい加減その身体で好き勝手してんじゃッ、

       ねェェェェ~ッ!』――】

【――オスグモ『グウエエッ!?』――】


 飛び蹴りは超高速かつ正確無比!

 オスグモの胴体に突き刺さった弾丸をガッツリ体内にねじ込みつつ、

 毒針風の客部装甲もしっかりとその巨体を貫通!


【――オスグモ『アッ、グウアアアッッ……!』――】


 それが致命傷になったからだろう、

 刺さった傷口を起点に奴の身体は徐々に白くなっていく。


カイト「なんや、石になっとるみたいやな……」

ユライ「よくお分かりになりましたね。

 言わずと知れた事実として"ムジョウ"の四元素形態態は

 "エンペドクレス式四大元素説"に名を連ねる各種のエレメントを司り、

 それらに紐付けられた固有の装備・能力を有しますが……

 各形態の攻撃を受け絶命した者の死骸は爆散せず

 "対応するエレメントに準じた残骸"となり崩壊、

 実質的に消滅する特徴があるのですよ」

タイセイ「つまり、ガルムモードは炎だから燃え尽きて灰になって……」

ユメ「ヤタガラスモードは風……吹けば飛ぶ塵になって消えちゃうワケね」

ユカ「で、ギルタブリルモードは土だから、

 死骸そのものが土や岩になっちゃう、ってコトですか?」

ユライ「その通りです。具体的に何になるかは都度違うようですが、

 炭素や珪素など比較的人畜無害な元素の塊になるのは共通しているようですね。

 恐らくあの怪物が変じたのは……

 色からしてカルシウム系の化合物、察するに石灰辺りでしょうか」


【――オスグモ『ゴオッ、オッ……オ、オ……あ……』――】


 ユライの推測は当たっていた。

 事実、ユウトの必殺技を喰らったオスグモの体組織は、

 少しずつだが確実に、石灰の塊になりつつあったんだ。

 そして……

 

【――オスグモ?『う、ぐう……っ……

         ……オ、レはっ……なん、て、真似を……』――】


タイセイ「まさか、自我が戻ってる!?」

ユライ「恐らくは。怪物化に伴う消耗に加え、

 生命活動の停止により、

 フェロモナスの洗脳が効力を失ったのでしょう」


 ユライの推測はまたも的中していた。

 そしてまた、その事実は他ならぬユウト自身察してたワケであって……


【――ユウト『……』――】

【――システム音声[葬儀閉式♥]――】


 二度と叶わねえモンと思ってた友との再会に、

 ユウトは無言で変身を解除する。


【――オスグモ改め少年『……ごめん、な……ホン、ゴウ……

            こんな……ことに……』――】


 石灰石になりかけの声帯から絞り出されたその声は、

 怪物特有の"歪み"こそあれ間違いなく

 "正義のカードゲーマー テンビ・カケル少年"のそれだった。

 さて、対するユウトの返答はというと……


【――ユウト「……気に病むこたあねえよ、老師(マスター)

       こんなのは俺らの間じゃよくあることだろう。

       俺が引導渡(そう)されてた可能性だってあったなら、

       どうしてあんたを悪く言える……」――】

【――少年『そう、だけど……でも、オレは……オレは……』――】

【――ユウト「気にすんじゃねえっつったろう。

       『失敗を前提に生きろ。ミスから学んで強くなれ』ってな」――】

【――少年『……! その、言葉は……!』――】

【――ユウト「あり得ねえプレミしちまった俺に、あんたがかけてくれた言葉だ。

       ヒーロー続けて長えっつーのに、焦って初歩中の初歩を忘れちまってなァ。

       ……そもそも謝るべきは俺の方だろう。

       もう二度と元には戻せねえと思い込んで、

       あんな大技ぶちかましちまってんだからよ。

       ……戦った相手への無慈悲を悔いたのなんて、正直初めてだよ」】

【――少年『……それこそ"気にすんな"だよ……。

      落ちるとこまで零落れたってのに、

      こうやって友達に看取って貰えたんだ。

      身に余る贅沢じゃないか』――】

【――ユウト「言ってくれるじゃねえか……。

       ま、後は任せといてくれや」――】

【――少年『ああ、任せるよ。

      ……先に向こうで待ってるぞ、ホンゴウ。

      いつになるか、わからないけど……お前が来たらその時は……

      あの世でまた……「デュエスト」やろうぜっ……

      やくそく、だ……』――】


 返答を待たず少年の身体は完全に石灰化……

 ひび割れが一気に広がり、跡形もなく崩壊した。


【――ユウト「……会えるワケねぇだろ、行き先違ぇんだから。

       大人しく天国で対戦相手探しとけってんだ」――】

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― 新着の感想 ―
 こういうのってキツいですよね。  されど相手に敬意があるからこその容赦のなさ。  なんともハードボイルドですねぇ。
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