エピソード7:ヒーロー回想録ζ/鑑賞会参乃巻
ユライ「さて、引き続き"ムジョウ"の戦闘記録を見ていきましょう」
【――ヴィラン「クッソがぁぁぁ! この野郎おおおおっ!
なぜ俺たちの邪魔をするうううっ!」――】
【――ヴィラン「僕たちは被害者なんだっ!
あいつらは僕たちを弄んだ挙句裏切った極悪人だぞっ!」――】
【――ヴィラン「自分たちは騙されたのでありますっ!
あの阿婆擦れどもめに制裁を下すのは正当な権利!
世の理に則った正義でありますっ!」――】
【――ヴィラン「あくまで拙者らの行く手を阻むならば、容赦せぬぞっ!」――】
【――ユウト「……くだらねえな。
別にあの娘らは何も悪さなんざしちゃいねぇだろ。
ただ人並みの、有り触れた幸せを掴んだだけのことだ……
そりゃやり口はちっとばかし……
いやかなり無法気味だが、まあともかく……
何にせよ、ともすりゃそんなあの娘たちの決断を認めず暴れ回るてめえらこそ、
他者様の生涯邪魔する極悪人じゃねぇかよ、なぁ?」――】
タイセイ「これって、確か一昨年の……!」
ユカ「『ドバイ結婚式襲撃事件』……!」
カイト「よ〜覚えとるでぇ。
重婚したさで旦那共々ドバイ移住した二人組アイドルの結婚式に、
独占欲と逆恨み拗らしてヴィラン化したドルオタどもがカチコミかけたヤツや」
ユメ「確かCherry♥Loversだっけ?
"処女厨"ならぬ"童貞厨"で通ってて、
初恋の相手とお互いの純血を捧げ合いたいって公言してたとか、
握手会で一目惚れしたファンを楽屋に呼んで二人で告白序でに童貞食い散らかしたとか、
挙句それから数日後にはそいつの住所まで特定して求婚序でにガッツリ食い散らかしたとか、
結婚してもアイドル続けるつもりだから最悪フリーランスになる前提で動いてたとか、
なんかぶっ飛んだ逸話ばっかり有名だけど、
あれで歌、ダンス、芝居、喋りのどれ取っても高水準だし、
NG無しで身体張った企画にもガツガツ挑むし、
作詞作曲からジャケ画の準備にMV作りまで自分達でやっちゃう多芸ぶりとか、
タレントとしては間違いなく優秀な部類で結構好きなのよね~」
ユライ「ええ、正直私もファンでしてね。
容姿どうこう以上に音楽性や人間性で魅せて来られるので」
【――ユウト「来いやドライバー」――】
【――システム音声[列席御礼……♥]――】
【――ユウト「裏にどれほどクズどもの悪意が渦巻こうとも、
相変わらずドバイの海と空は美しい……
こんなにも鮮やかに青いんだ、
リスペクトを示すのが礼儀ってモンだわなァ~
転、身ッ」――】
【――システム音声[ヤタガラスモードっ……♥]】
ユライ「さて、先程アイザワさんが説明して下さった通り、
何の因果か奇しくも同じ男性を愛してしまったお二人は、
制約の多い芸能生活の反動でしょうか、『三人で幸せになればいい』と考え、
日本では重婚が認可されていないためにドバイへの移住と国籍所得を画策……
更にこの報告を受けた所属事務所側はお二人の決断を好意的に捉え、
活動を全面的に支援すると共に、
アラブ首長国連邦向けの事業を展開すべく支部設立を宣言……」
【――ユウト『八咫烏は導きの神……
何かと迷いがちなこの世界を生きる奴らにはお誂え向きだ。
てめえらも見るからに迷走してんだし、
ちっと導いて貰ったらいいんじゃねえか?』――】
【――ヴィラン「なぁにが導きの神だああああっ!
この世に神なぞいるわけないだろうがあああああっっ!」――】
【――ヴィラン「そうだ! この世に神なんていないっ!
居たとしたら人間なんて何とも思ってない冷酷非情なクズだろうさっ!」】
【――ヴィラン「如何にもその通りでありますっ!
信仰など馬鹿と狂人のすること! 宗教など世界の癌! 神など虚構!
信じるものは足元を"すくわれる"のでありますっ!」――】
【――ヴィラン「最早あの悪女どもに裏切られた我らが信ずは己の大義のみよ!」――】
ユライ「余りに衝撃的なニュースは国内外さえも震撼させ、
法制度の在り方や社会の根幹さえ揺るがしかけましたが……」
カイト「まぁ~当人たちと事務所、
序でに結婚相手くんが結構優秀やってから、やたらすんなり進んだもんなァ」
ユカ「気づいたらいつの間にかドバイで挙式するって発表されてましたよね~」
タイセイ「しかもライブとかトークショーとか色々盛りだくさんの大イベントだもんな~」
ユメ「加えて政府とか王室が全面協力、
希望すればほぼ誰でも無制限に参加できるっていうんだからね~。
……ま、そのせいで逆恨みしたファンクラブの奴らに襲撃されたんだけど」
【――ヴィラン「ムカつくぜえええええっ、遺恨リーパームジョウっ!
お前には分からんだろうなああああっ! 俺達の苦しみなんてっ!」――】
【――ヴィラン「ヒーローで! 顔がよくて!
金があって! 強くて! 顔が良くてっっ!
そんな人生イージーモードの勝ち組強者男性サマに、
僕ら負け組弱者男性の気持ちなんて、
理解できるわけがないんだっっ!」――】
【――ヴィラン「然ァァァ~ッし!
天は我ら弱者男性を見捨てずッ!
今ここに再起と逆襲の機会と力を与えたもうたのでありますッ!」――】
【――ヴィラン「一寸の虫にも五分の魂あり!
篤と見よ、
これぞ貴様が見下し踏みつけた"虫けら"の意地なれば!」】
【――システム音声[KAMADOU-MAXIMUM-FEVER!!]――】
"自称・負け組弱者男性"の一人が謎の装置を起動すると、
奴らは忽ち面影ゼロの化け物に姿を変えた。
と言ってその姿はカマドウマとドルオタを雑に融合させた感じだったが。
……具体的には、
ドルオタの頭がある位置に一抱えほどのカマドウマが丸ごとくっついてて、
しかも後ろ足がやたら頑丈そうで長いって感じ。
【――ユウト『汎用型有機改造体変身デバイスの量産モデル……
察するに裏ルートで手に入れた安価な粗悪品てトコか?
お前ら如き民間人が、
信用できる先進国製の高級品を買えるワケもねえしなァ。
……衝動で逆恨み拗らせた挙句、
金どころか命まで捨てる羽目になるたァいよいよ笑えねえが』――】
【――ヴィラン『黙れええええええっ! 俺達はドルオタだああああああっ!
ドルオタにとって生きるとはああああああ、
推しと共にあることだけだあああああっ!』――】
【――ヴィラン『推しを推せなくなったのならっ!
僕らドルオタに生きてる意味なんてないっ!
推しを推せなくなった僕らは死んだも同然なんだっ!』――】
【――ヴィラン『即ち我々が死のリスクを背負ってまで怪人となったのはッ!
ドルオタとしての大義に殉ずるとの不退転の覚悟故であります!
断じて金がないために安物に手を出したわけではないのでありますっ!』――】
【――ヴィラン『そも我らの変身デバイス、
安物の舶来品とは言え信用に値する国の製品につき!
デバイス本体は良心的価格のベトナム製!
生体改造は賢人揃いで知られるインドの機関に一任!
遠距離武器は英語が通じるフィリピンより入荷!
更にこの装甲はトルコより格安で仕入れたり!
"安かろう悪かろう"が常の中韓悪徳業者に委託せぬ時点で、
我らの勝利は決まったも同――』――】
【――ユウト『ヘイッ、"Sexy ★ Thank you"ゥ~♪』――】
【――ヴィラン『ずェッぶべラッバらっがギャあああアアアアアっ!?』――】
ユライ「と、このように大気や風を操るヤタガラスモードが、
能力の応用で電撃を操れるのは皆さんよくご存知かと思います」
ユカ「確かにそれは私達もよく知ってますけど……」
タイセイ「なんでまた|元SexyZoneの中島健人の真似してるんだぜ……?」
ユメ「二人とも、そこはもう気に留めたら敗けだと思っときなさい」
カイト「せやせや。どうせ理由らしい理由なんてあれへんねやから……」
【――ユウト『要請-"聖鳥の翼、その恩恵に与らん"』――】
【――システム音声[要請受理♥ 供給、ヤタガラカットラス♥]――】
【――ユウト『追加要請-"眷属衆、総員出撃されたし"』――】
【――システム音声[要請受理♥ ヤタガラスドローン、全機出撃♥]】
ユライ「"飛翔群刀ヤタガラカットラス"……
バージョンアップ以後こそ八振まとめての形成が可能になりましたが、
嘗てはヤタガラスモードで形・質量・成分の近しい無生物偶数個を媒体にすることで、
媒体一つにつき一振形成する形式でした」
カイト「なんや、地味に条件厳しめでめんどいなァ」
ユカ「単に棒切れ握ってればいいわけでもないんですね~」
ユメ「普通に戦うだけなら昔の仕様で良かったんだろうけど……」
タイセイ「ドローン飛ばさなきゃいけないってなったら、
二本ずつ作るのが尚面倒なのは想像に難くないぜ。
バージョンアップ後はドローンも自動で変形合体するようになったけど、
それより前は一機ずつ手動でやらなきゃいけなかったんだろ?
俺も昔、共闘した時に手伝った事あるけど、
戦いの現場であの変形を手動でやるの、ぶっちゃけ無理だぜ……」
【――ヴィラン『『『『『『『『ヌフハハハハハァ!
効かん! 効かんぞ遺恨リーパー!』』』』』』』』――】
【――ヴィラン『『『『『『『『その程度の攻撃でっ!
僕らの覚悟は壊せないっ!』』』』』』』』――】
【――ヴィラン『『『『『『『『アイドルの生涯とはああああああ!
俺達ドルオタの為にこそあるううううう!』』』』』』』』――】
【――ヴィラン『『『『『『『『その想いを踏み躙りし罪人に加担した時点でェ!
如何なるヒーローにも正義はなくゥ!
我々だけが絶対の正義なのでありますッ!』』』』』』』』――】
【――ユウト『クソっ、半端な攻撃じゃブチ込む度に増えやがるっ!
カマドウマの癖してヒトデやナミウズムシみてえな真似しやがって!』――】
【――システム音声[葬儀開催♥ 鳥葬-ジェノサイドプラン♥]】
【――ユウト『徹底的にやるしかねェッ……!』】
ユウトは"半透明なヤタガラカットラス"を二本手元に追加形成、
その柄に備わるボタンを押しつつ、ドライバーのダイヤルを一回転させ押し込む。
【――ヴィラン『『『『『『『『ぐううわあああああっ!?』』』』』』』』――】
【――ヴィラン『『『『『『『『なんだっ、これえええええっ!?』』』』』』』』――】
【――ヴィラン『『『『『『『『で、電撃に縛り付けられてっっ!』』』』』』』』――】
【――ヴィラン『『『『『『『『身動きが取れぬ……!』』』』』』』』――】
バックル中央部の"青く光る球体に収まる何か"が蠢くのを合図に、
四機のヤタガラスドローンは電撃の帯でカマドウマ怪人どもを縛り付ける。
無論それそのものに拘束以上の効果はねぇワケだが……問題はその次だ。
【――ユウト『偶像崇拝者の風上にも置けねえ面汚しどもがァ……』――】
【――システム音声[フューネラル・ストライク♥]――】
全身に渦巻く風のエネルギーを纏ったユウト。
奴の翼はいつも以上に開き、両脚には鳥の爪っぽい装備が形成される。
【――ユウト『てめえらァもう、
固 体 さ え も や め ち ま え ッ ! 』――】
刀を構えたユウトは両脚に力を込め加速!
背の翼を羽搏かせ高速で飛翔する!
……そっからはもう、いよいよマジでヤバかった。
【――ユウト『恋人が居たから何だ!
結婚したからどうしたっ!』――】
【――ヴィラン『『『『『『『『タイガアアアアッ!?』』』』』』』』――】
超高速で飛行しつつ、すれ違いざまに刀で切りつけ!
【――ユウト『あたかも不祥事で干されたかッ!
さもなきゃ逮捕されたみてえに言いやがって!』――】
【――ヴィラン『『『『『『『『ファイヤアアアッ!?』』』』』』』』――】
斬撃と同時に電撃でその身を焼き!
【――ユウト『別に死んだとか声出なくなったとかでっ!
芸能活動できなくなったんでもねえだろうがっ!』――】
【――ヴィラン『『『『『『『『サイバアアアアッ!?』』』』』』』』――】
両脚から生えた爪で乱雑に破壊!
【――ユウト『寧ろ
「引退も休止もせず芸能界で仕事続ける」
つってんじゃねえかっ!』――】
【――ヴィラン『『『『『『『『ファイバアアアッ!?』』』』』』』』――】
強烈な竜巻はベルトサンダーの如く怪人を削り!
【――ユウト『なら! もう! いいだろっっ!
そこ受け容れて推すか! さもなきゃ別の奴に乗り換えるのがっ!
ファンの度量、推し活の作法ってモンじゃねえのかァ!』――】
【――ヴィラン『『『『『『『『ダイバアアアアッ!?』』』』』』』』――】
傷口から送り込まれる圧縮空気や、
偶発的に生み出された真空は頑強な身体を内側から破裂させる!
【――ユウト『前までのあの娘らは"ファンを思い遣る優秀な未婚アイドル"で!
今日からのあの娘らは"ファンを思い遣る優秀な既婚アイドル"!』――】
【――ヴィラン『『『『『『『『バイバアアアアッ!?』』』』』』』』――】
しかもそんな一見複雑そうな動作を、
然し事実目にも止まらぬ速さでやっちまう!
となりゃ当然、戦闘慣れしてねえドルオタどもに勝ち目なんてあるわけがなく……
【――ユウト『そこに問題視する程の違いなんぞ、
あるわきゃねえだろうがあっ!』――】
【――ヴィラン『『『『『『『『ジャージャアアアアアッ!?』』』』』』』』――】
結婚式場を襲撃したカマドウマの化け物どもは悉く絶命。
亡骸は毛筋一本から血一滴に至るま何もかも、
粉々に崩れ去り吹き抜ける風に溶けるように消滅したんだ。
ユライ「因みに言わずと知れた話ですが、
形態名の八咫烏は、
日本神話に登場する導きの神の名に由来しています」
ユメ「名前の咫は長さの単位……
親指と中指を伸ばした間か、掌の末端から中指までの長さのことで、
数値化すると大体十八センチってのが定説……
つまり八咫は十八センチの八倍で百四十四センチになるわね」
ユカ「だからユメさんなんでそんなに詳しいんですか……」
カイト「今も生き残っとる"空飛ぶ鳥"ン中で一番デカいんは、
翼開長三メートルのアンデスコンドルやから……
まあ八咫烏も有り得んサイズではないやろなァ。
流石にアルゲンタヴィスの五メートルや七メートルには及ばんにしても、
人間と共存しとった飛ぶ鳥で言うたら大概デカい方やでそらァ」
タイセイ「アルゲンタヴィスならオレもARKでよく使ってるけど、
アンデスコンドルは知らなかったな~」
ユメ「大将、確かにそれはそうなんだけどね?
どうやらこの八咫っての、この場合は具体的なサイズっていうより
"とにかく大きい"って意味らしいの」
ユライ「成る程。
"テンガロンハットの容量は実際十ガロンではない"ようなものですか」
補足するとガロンってのはヤード・ポンド法での体積の単位のことで、
一ガロンをリットルに換算すると三.七八五四一一七八四リットル……
まあ概ね約四リットルぐらいのもんだと思っとくのがいいらしい。
……とすると十ガロンは約四十リットルだから、
そりゃ人間用の帽子にそんな量が入るわけもねえんだよなあ。
カイト「つまり実際アンデスコンドルぐらいデカかったかもしれんちゅうことか。
ま、日本神話言うたらヤマタノオロチとかもおるし、
そらァアンデスコンドルや、
下手したらアルゲンタヴィスばりのデカい鳥さえおってもおかしゅうないやろなァ。
なんせ神サンの使いやもんなァ」
ユメ「吉備の穴海の巨大魚悪樓とか、
日本妖怪って括りなら巨人、大蝦蟇、大百足、土蜘蛛とかいるからね~。
そもそも百四十四センチが翼開長だなんて記述もないんだから、
下手するとアンデスコンドルよりも大きかったかもしれないし。
あとよく言われる三本足のカラスって感じの図像は平安時代中期に定着したみたいね」
ユカ「あぁ~だからワールドカップで日本と試合する時の中国韓国って
あんなに態度悪いんですね~。
まあ私サッカー見ないから実際どうなのか知らないんですけど~」
タイセイ「知らないんだったらそういうこと言うのはよくないんだぜ……」
ユライ「八咫烏を三本足とする考え方は、
中国や朝鮮に伝わる"三足烏"と同一視された結果でしたかね。
何の因果かその三足烏は太陽の象徴であり、
八咫烏が太陽と関連付けられる点や、
ひいてはヤタガラスモードに備わる太陽光発電や発光等の機能にも通じるものがありますね」
タイセイ(だ、脱線しそうな所を強引に戻した……流石ユライさんなんだぜ……)
さて、お次はギルタブリルモードの解説だ。




